外国弁護士問題について

昭和57年3月ころから、日米両国政府による貿易摩擦問題に関する協議において、米国の弁護士がわが国に事務所を開設して、国際的法律業務に従事することができるように米国側から要請されている。


いうまでもなく弁護士の制度は、一国の文化的、社会的所産であり、司法制度の重要な柱をなすものであり、その国の弁護士の健全な発展は国民にとって欠くべからざる課題であるから、経済問題としての側面だけをとりあげ、軽々に制度の変更を論ずべき性質の問題ではない。


また、わが国は高度の弁護士自治の制度を採用しており、いやしくも弁護士法にかかわる問題については、全国弁護士の総意に基づいて方向を決定すべきものと考えている。


われわれは、最近におけるわが国の国際社会での経済的、文化的交流の増大と、今後ますますその傾向が進展してゆくものと予測される情勢にかんがみ、これに伴って発生する国際的法律業務に対応する体制を整備してゆくことは、法曹としての社会に対する当然の責務であると考える。そして、その基本的な方向が、わが国の文化、社会および法律制度ならびに国際的法律業務に精通したわが国弁護士の要員の増強と能力の向上によって、内外の需要に応じてゆくことにあることはいうまでもない。


しかし、このような基本的方向を前提としつつも、現実にわが国の弁護士だけでは満たしえない需要があるとすれば、これを補完する他の方策についても十分検討すべきであろう。


外国弁護士問題は、このような観点から前向きに検討するに値するものであるが、その採否については検討すべき多くの問題がある。例えば、弁護士法および入国管理法との整合、調和、外国弁護士に許容すべき業務の範囲、適格性の審査および監督と規律の維持、業務の規制に関する実効性ある手段、わが国弁護士と外国弁護士間の雇用、提携関係、わが国の弁理士、税理士などの法律職との関係、相互主義などの諸問題である。


外国弁護士問題は、単に米国だけの問題ではなく、EC諸国、アジア諸国をはじめ、わが国と関係のあるすべての諸国との問題である。また、旧弁護士法第6条および削除された弁護士法第7条のような、わが国の弁護士資格付与の特例を設ける問題ではなく、一定の規制のもとにわが国における外国弁護士の活動を認めるかどうかの問題である。


日弁連は、このような国際的認識の上に立って、過去2年間にわたって国内企業の需要および渉外事務所の実態の調査ならびに欧州における実情の調査等精力的に問題を検討してきたが、会内に反対意見があり、現時点においてはなお結論を得るにいたっていない。


しかしながら日弁連は、今後さらに検討を深め、会内意見の調整をはかりつつ、可能なかぎり早期に国内的にも国際的にも妥当とされる結論を得るよう一層努めるものである。


1984年(昭和59年)3月30日


日本弁護士連合会
会長 山本忠義