徳島事件について

昭和58年3月14日


申入書

日本弁護士連合会 会長 山本忠義


最高検察庁 検事総長 安原美穂殿


高松高等裁判所は、一昨日原審徳島地方裁判所が昭和55年12月下した亡冨士茂子さんに対する再審開始決定を再び支持し、検察官の即時抗告を却けました。原審徳島地方裁判所は審理を尽し、多様な新証拠と一、二審判決が目をふさいでいた多数の旧証拠を総合して、確定判決の事実認定に根本的疑問を投げかけたのです。


高松高等裁判所は、右判断を基本的に是認するとともに、検察官からその後提出された証拠や数々の主張をも十二分、かつ詳細に検討し、開始決定を一層不動のものとしました。この棄却決定に示された事実と証拠の評価、再審のあり方に関する考え方は、法律家のみならず多くの国民の支持と共感を得るものと思われます。


検察官は、5年余にわたる審理の経過と2度にわたる裁判所の判断の重みを深刻に受けとめ、また特別抗告を断念した松山事件の例にも鑑み、いたずらに抗争することなく、すみやかに再審公判に臨むべきです。そうすることが、本件において公益の代表者としての検察官の公正さを現す唯一の道であると思料します。


よって、われわれは、今回の高松高等裁判所の決定によって亡冨士茂子さんに対する再審請求手続に終止符をうち、1日も早く再審公判が開かれるよう検察の良識を期待して、ここに特別抗告をすることのないよう重ねて申し入れるものであります。