滝事件再審無罪判決にあたり

本日、東京地方裁判所が、滝淳之助君に対し、再審無罪の判決を言渡したことは、当然のこととはいえ慶びにたえない。


本件再審は、2回の公判で結審となり、検察官からは異例ともいうべき無罪の論告がなされている。斯くも無実の明らかな事実についてさえ、再審請求審においては棄却決定がなされている事実を見ても、裁判所が冤罪者の人権より判決の確定力を重視していることが窺われ、誠に遺憾である。のみならず同君は、本件強盗事件発生の日時には警視庁上野警察署に身柄拘束中であったことが明らかであった。


捜査当局並びに裁判所が、同君の身柄について、わずかな注意を払っておれば、斯かる誤判はたやすく避けられたはずである。にもかかわらず同君の身柄について、わずかな注意を払っておれば、斯かる誤判はたやすく避けられたはずである。にもかかわらず同君の自白調書が作成され、公判廷でも自白がなされていることは、一旦容疑を受けて逮捕された者が、その無実を主張することはいかに至難であるかを示すものである。


また、同君が無実を主張している他の事実についても、自白の信用性に疑問が生じ、誤判の疑いを濃くするものである。


一般に多数の犯罪の容疑を受けて逮捕された者は、量刑に影響がないとして、みずからおぼえのない事実についても、捜査官に迎合し、または誘導されて虚偽の自白をすることが少なくないといわれている。


本件は、捜査並びに司法関係者の自白の偏重と安易な事件処理に対して厳しい反省を求めるものである。


我々は、今後共同君のために残された事実について冤罪を雪ぐことに全力をあげ、斯かる誤判を絶滅するために更に一層の努力を続けていく所存である。


1981年(昭和56年)3月27日


日本弁護士連合会
会長 谷川八郎