刑法(収賄罪)の一部改正に関する声明

政府は、この度、ロッキード事件再発防止のために、収賄罪の法定刑引き上げを内容とする刑法の一部改正案を今国会に提出する方針と伝えられている。


しかしながら、ロッキード事件にみられる「構造汚職」の再発を真剣に防止しようとするならば、政治に巨額の金が動く積年の弊風に根本的な検討を加え、政治腐敗の実体と原因を徹底的に究明することが、先決問題である。


もちろん、収賄は、公務員の職権乱用などとともに、厳しく処断されるべき公務員の犯罪であるが、このような状況のもとにおける、このような刑法の一部改正のみを先行させるということは、本来転倒というべきである。そのことは、かえって、国民の期待する金権政治、構造汚職の徹底究明から眼をそらし、ロッキード隠しにつながるおそれさえあるものといわなければならない。


しかも、この刑法一部改正は「改正刑法草案」による刑法全面「改正」の一部を先取りする側面をももっているのであって、刑法全面「改正」の目指す「重罰化」の布石にもなりかねない危険があるのである。各犯罪に対する法定刑は、夫々均衡の上に定められていること、裁判の実情は、法定刑の上限による科刑の例が殆んど見当らないことなどを思えば、ロッキード事件再発防止策として収賄罪の法定刑引き上げのみを安易、早急に先行させる合理的理由は存しない。


今回の刑法一部改正案のあり方は、抜本的に再検討を要するものであり、右の意味において政府の反省を深く求めるものである。


1977年(昭和52年)3月14日


日本弁護士連合会
会長 柏木博