刑法全面「改正」に関する声明

法制審議会が採択した刑法全面「改正」にかんする答申の内容は、国民の基本的人権を侵害し、民主主義の根幹を脅かすものとして、絶対に容認できない。


当日弁護士連合会の意見書がすでに指摘しているように、この刑法「改正」作業は、出発点において、現行憲法を無視し、「旧憲法的な国家主義的色彩と強い治安立法的性格」をもつものであって、国民に対する広く重い処罰を基本としている。それは、強権的な処罰万能の重罰主義であって、国民の広範な権利と自由に対する全般的な抑圧を強化するものにほかならない。


本来、犯罪と刑罰の基本法である刑法の全面改正作業は、あらゆる面において、国民の意思を十分に反映したものでなければならないはずである。


しかし、法制審議会は法務省関係官僚の圧倒的多数のもとに組織運営がなされたおり、したがってその審議は、人権侵害の危険に対する国民各層の批判を終始無視し、弁護士会推薦委員の反対意見についても真剣に検討しようとする姿勢を示さなかったのであって、これらの点においても、厳しく批判されるべきである。


このような答申に基づく刑法全面「改正」は、断じて許されるべきではない。


よって当連合会は、すでに設置した刑法「改正」阻止実行委員会を中心に学界、言論界とも提携してこの「改正」の本質と内容を広く国民に訴え、国民とともに刑法の「改正」を阻止するため努力する決意である。


1974年(昭和49年)5月29日


日本弁護士連合会
会長 堂野達也