最高裁判所の機構改革についての声明

最高裁判所の機構改革について、最高裁判所は、自らその所見を公表した。これまで個々の裁判官の現状維持論的意見の発表はあったが、最高裁判所が裁判官会議の議を経て公式にその見解を発表したことは注目に値する。


今その内容を見るに、(1)最高裁判所の裁判官を9名ないし11名に減員し、その審判はすべて全員の会議によること、従って小法廷はこれを廃止すること。(2)最高裁判所においては憲法違反、判例牴触のほか、法令の解釈適用で最高裁判所が自ら重要と認めたものに限りこれを審判すること。(3)一般法令違反を審理するためには、別に上告を取り扱う裁判機関を設けることの3点にあるようである。


これに対して我々は次のごとき理由で到底これを是認することができないと考えるものである。


  1. 最高裁判所のほかに別に上告を取り扱う裁判機関を設けるというが、如何なる裁判機関を設けるのか明らかでない。
    若し東京高等裁判所に上告部を設けるという、従来のいわゆる中2階案に同調するというのなら、それは4審制度を認めることになり、訴訟解決の遅廷を愈々甚しからしめるであろう。これは何故に最高裁判所の機構改革が問題となっているかを反省せざるものである。しかのみならず、高等裁判所の判決をおなじ高等裁判所において審査するということは、たとえ特別の部においてするにしても、上訴の本質に反するものであり、且つ実際にその権威を疑わしめるであろう。さらに判例の統一、しかも速かなる判例の統一によって下級審の裁判を指導し、法律的安定を確保するという見地からもこの制度は全くその目的に反するものである。
    なお、最高裁裁判官の間には、高等裁判所において上告事件のスクリーニングだけをやらせようということが考えられているようであるが、これは上訴の本質上到底許されない。違憲の最終決定を最高裁判所によって行わせようとする憲法の趣旨に反するものである。
  2. 最高裁判所の審判の範囲を憲法違反判例牴触のほか、「法令の解釈で最高裁判所が重要と認めたもの」に限定しようとするのは、最高裁判所の専断を認めるものである。すでに廃止された民事上告の特例法を復活しようという最高裁判所の意見は、国権の最高機関たる国会の決定を無視するものといわなければならない。
    最高裁判所は裁判官を減員し、小法廷を廃止しようとする。これは最高の司法裁判所としての機能を自ら抛棄するものであって憲法の趣旨に反する自己縮小案である。最高裁判所は最高の司法裁判所として、法令の解釈適用を統一し、全司法を指導すべき任務がある。判例の牴触は取り上げるが、法令の解釈適用は自ら重要と認めるものに限るということは、成文法国の最高裁判所のあるべき姿ではないし、同時に最高裁判所は大審院以来続いてきた判例による指導権を喪失し、実際上宙に浮いた存在とならざるを得ないだろう。最高裁判所の裁判官等は最高裁判所の本来の重要使命を失わしめようとしている。
  3. 我々は夙に最高裁判所裁判官の増員によって上告事件の処理を迅速ならしめるとともに、最高裁判所がその機能を最高度に発揮することを要望しているのである。然るに最高裁判所はこれを憲法違反なりと強弁し、自らその機能を縮小し司法制度の体系を紛糾せしめるような中間裁判機構を設けることによって当面を糊塗しようとしている。我々はその何の意なるかを解するに苦しむものである。

右声明する。


1954年(昭和29年)9月20日
日本弁護士連合会


昭29・9・18理事会承認