ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)~企業・投資家・金融機関の協働・対話に向けて~

2018年8月23日
   日本弁護士連合会

本ガイダンスについて

この度日本弁護士連合会は、ESG(環境・社会・ガバナンス)課題のリスク面である人権侵害や環境破壊などへの対応が、企業および企業に対し投融資を行う投資家・金融機関において求められていることを背景として、日本の企業・投資家・金融機関がESG関連リスクへの対応に向けて協働・対話を行うためのガイダンス(手引)を公表しました。


 

本ガイダンスの背景・意義

国連が、2006年に、投資家が取るべき行動として、責任投資原則(PRI) を発表し、ESGに配慮した投資を提唱したことなどを契機として、企業・投資家・金融機関をはじめとする利害関係者において、ESG課題への企業の対応の在り方に対する関心が高まっています。


近年、企業活動を通じて、ESG課題のリスク面として、人権侵害・環境破壊などの負の影響が生じていることも認識されており、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」、「気候変動に関するパリ協定」、「持続可能な開発目標(SDGs)」などの採択を契機とした国内外のルール形成も加速化しています。その結果、企業の経営トップが重要なリスク管理としてESG課題を認識し、対処することが求められています。また、投資家・金融機関も、投融資先企業のESG関連リスクへの対応状況を把握し、エンゲージメント(対話)を行うことが期待されています。


そこで、当連合会は、特にESG課題のリスク面に焦点を当てて、企業・投資家・金融機関及びこれらの組織に対し法的助言を行う弁護士を対象として、ESGに関連するリスクへの対応に向けた協働・対話のためのガイダンス(手引)を提示するものです。


 

本ガイダンスの構成

本ガイダンスは、①企業向けのガイダンス(第1章)、②機関投資家向けのガイダンス(第2章)、③金融機関向けのガイダンス(第3章)の3部により構成されています。ESG関連リスクへの対応のためには、企業・投資家・金融機関の協働やエンゲージメント(対話)が不可欠であることから、各ガイダンスの内容は相互に密接関連しています。


① 第1章 企業の非財務情報開示
主に上場企業を対象に、コーポレートガバナンス・コードや経済産業省「価値協創ガイダンス」を補完する形で、ESG関連リスクへの対応のための体制整備の方法、非財務情報の開示項目の例、開示の方法・媒体に関する実務的指針を提供しています。


② 第2章 機関投資家のESG投資におけるエンゲージメント(対話)
特に中長期の株式保有を通じたパッシブ運用を行う機関投資家を対象として、スチュワードシップ・コード及び価値協創ガイダンスを補完する形で、ESG関連リスクが顕在化した企業不祥事発生時の際の対話の在り方、及び、企業不祥事発生を防止するための平時の際の対話の在り方についての実務的な指針を提供しています。
日本取引所自主規制法人が「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」を発表していることを踏まえ、機関投資家が投資先企業に対し不祥事の対応・予防に向けていかなるエンゲージメント(対話)を行うべきかに関する共通理解を明確化し、対話の方法に関する選択肢を提示したものとなっています。


③ 第3章 金融機関のESG融資における審査~ESGモデル条項の提示
赤道原則や21世紀金融行動原則の趣旨を踏まえつつ、融資取引からの反社会的勢力の排除に関する金融庁の監督指針を発展する形で、融資金融機関に対し、ESGに配慮した融資審査や融資先企業との対話・支援の在り方を示しています。
また、融資契約に盛り込むことを検討すべきESGモデル条項も提示し、その解説を行うと共に、条項運用における留意点も示しています。さらに、中小企業への融資の際における留意点も規定しています。


 

ガイダンスの性質

本ガイダンスは、現時点のESG関連リスクへの対応の在り方に関するグッド・プラクティスを取りまとめたものであり、企業等を拘束するものではなく、むしろリソース(人材・資本・情報)を十分に有していない企業が効果的な対応を行うための補助となることを目的としています。


ESG課題への対応については、企業等の規模、事業の内容、投融資の内容等の特性にもより異なるところであり、プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)が妥当します。企業等は、本ガイダンスに基づき対応を行わない場合にはその合理的な理由を説明することが期待されるという意味で、コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、そうでなければ従わない理由を説明するか)の手法の活用も有用であると考えます。


なお、本ガイダンスは、ESG関連リスクへの対応のために推奨する取組を「すべき」と表記した上で規定していますが、物的・人的・経済的環境に応じて推奨するにとどまる取組に関しては「望ましい」と表記しています。



 

(※本文はPDFファイルをご覧下さい)