公益通報者保護法日弁連改正試案

2015年9月11日
日本弁護士連合会


 

本試案について

当連合会は、2015年9月11日の理事会で公益通報者保護法改正試案を取りまとめ、同年9月25日に内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)、消費者庁長官、内閣府消費者委員会委員長宛てに提出いたしました。

 

「公益通報者保護法日弁連改正試案」の提言に当たって

1990年代に、企業や行政機関内部からの公益通報が企業等の違法行為等の是正及びその事前抑止のために有用かつ必要であることが世界的に認識されるようになり、公益通報者保護制度が導入されてきた。我が国においてもリコール隠しや食品偽装事件等を契機として2004年に公益通報者保護法(以下「本法」という。)が制定され、2006年4月1日に施行された。


しかし、本法は、その法案審議の当初から、通報者や通報対象事実の範囲が限定され、通報対象先の定義規定が複雑で、通報先ごとの通報者保護の要件が厳格に過ぎ、公益通報を促すものとはいえず、かえって抑止するものとの批判もあった。本法第6条の解釈規定が盛り込まれたことにも示されているように、もともと限定的な公益通報者保護制度として法制化され、同法附則第2条において、「法施行後5年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」とされていたものである。 


2009年に消費者庁及び消費者委員会が設置され、本法附則に定める検討のために消費者委員会に公益通報者保護制度専門調査会(以下「調査会」という。)が置かれ、2011年2月に同調査会の取りまとめがなされたが、法改正については先送りされた。


公益通報者に対する保護を法律で定めることにより内部告発に対するマイナスのイメージを払拭し、公益通報が国民生活の安全や環境保全、公正な社会の実現に有益で不可欠なツールとして広く認知され、事業者の法令遵守を促進させることが期待されたが、近年においても事業者の法令遵守に対する認識を疑わざるを得ない事件が相次いでいる。


例えば、日本を代表する企業である株式会社東芝において、巨額の利益の水増しという粉飾決済が発覚したが、この事件の第三者委員会報告書は、「上司の意向に逆らうことができない企業風土が存在していた。」と指摘している。


また、東洋ゴム工業株式会社による免震偽装事件における社外調査チームの最終調査報告書は、出荷済みの免震ゴムの回収や公表を検討した際に、公表しない場合に内部通報されることをデメリットとして捉え、内部通報を行うおそれのある関係者のリストを作成したとのことであり、内部通報を抑制する対策が検討されていたことを指摘している。


このように、公益通報者保護の趣旨や考え方が社会に浸透し、定着しているとはいえず、本法がそのために機能するものとなっていないことが明らかになってきている。


こうした経緯に対し、当連合会は2011年2月18日付け「公益通報者保護法の見直しに関する意見書」及び2013年11月21日付け「公益通報者保護制度に関する意見書」において、具体的な改正内容を含む提言を行ってきた。今般、消費者庁に「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」が設置され、公益通報者保護制度の課題及び論点を整理の上、本年12月に取りまとめが予定されていることから、本法改正試案を提案する。


なお、公益通報の必要性は、広く事業者及び行政機関の活動全体についていえることであるが、本改正試案は、今般の消費者庁における検討状況を踏まえ、本法の制定の基盤である個人の生命、身体、財産の保護、消費者利益の擁護及び環境の保全や公正な競争の確保など広く消費者政策実現の観点から、公益通報者保護制度の実効性を高めようとするものである。

 

 

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