刑法と売春防止法等の一部削除等を求める意見書

 2013年6月21日
 日本弁護士連合会


 

本意見書について

日弁連は、2013年6月21日に「刑法と売春防止等の一部削除等を求める意見書」を取りまとめ、同年6月27日に内閣府特命担当大臣(男女共同参画)、同年7月4日に法務大臣、厚生労働大臣、警察庁長官宛てに提出しました。

 

本意見書の趣旨

日本は、国連・女性差別撤廃委員会から、セクシュアル・リプロダクティブ・ライツ等に関する処罰規定等について、見直し等を迫られている。国連からの勧告後、政府の第3次男女共同参画基本計画が策定され、内閣府男女共同参画会議により条約の履行を監視するための監視専門調査会が設置されたが、これらの事項については処罰規定の撤廃に向けた進展が見られない。

 

とりわけ、人工妊娠中絶を犯罪(堕胎罪)としている規定の存置は、大きな問題である。いうまでもなく、人工妊娠中絶は、胎児と妊娠した女性の双方にとって、極めて不幸なことであり、そのような事態は可能な限り避けられるべきである。しかし、中絶せざるを得ない場面にまで追い込まれた女性の状況や、中絶をした女性自身の身体的及び精神的な傷つきを度外視し、女性にさらなる苦痛を課すものであり、女性に対する人権侵害であり、性差別というべきである。

 

また、買売春を法の明文で禁止すること(売春防止法第3条)によって女性を性的搾取から保護することは必要であるとしても、様々な社会的に不利な状況から売春の勧誘に及ぶことになった人々(圧倒的多数が女性)を、救済の対象とするのではなく、社会の善良な風俗を乱すものとして刑事処分や補導処分の対象とすることは、買売春現場での人権侵害を潜在化させ、性的搾取の被害者の救済を遠ざけるものである。

 

人工妊娠中絶を可能な限り避けること、性的搾取の被害者を救済することという目的達成のために、対象とされている女性を刑事処罰するという手段は相当でなく効果的でもない。刑事処罰は、問題の解決にならないばかりか、むしろ、実態を潜在化させる危険性の方がはるかに高いことに留意すべきである。目的達成のためには、例えば、性教育や家族計画の普及等の充実、暴力的性行為の防止等の他の対策の拡充などの方策がはかられるべきである。

 

本意見書は、以上を前提に、性的自己決定権やセクシュアル・リプロダクティブ・ライツの保障及び性的搾取からの保護のために緊急に必要な事項として、以下の項目について、非処罰化に向けた法改正が実現されるよう提言する。

 

 

  1. 人工妊娠中絶については、以下のとおりである。
    (1) 刑法第212条(堕胎)、第213条(同意堕胎及び同致死傷)及び第214条(業務上堕胎及び同致死傷)を削除すべきである。
    (2) 母体保護法第14条(医師の認定による人工妊娠中絶)第2項を改正し、次の場合にも本人の同意だけで足りるとすべきである。
    ① 配偶者からドメスティック・バイオレンスを受けていたり、別居中の場合など配偶者に同意を求めることが著しく困難な場合
    ② 配偶者間で意見が一致しなかった場合

     

  2. 売春防止法については、以下のとおりである。
    (1) 売春防止法第5条(勧誘等)を削除すべきである。
    (2) 売春防止法第3章(補導処分)を削除すべきである。

(※本文はPDFファイルをご覧ください)