「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」についての意見書

2012年4月13日
日本弁護士連合会


 

意見書について

日弁連は、2012年4月13日付けで「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」についての意見書を取りまとめ、同日付けで、文部科学大臣、東京電力株式会社取締役社長及び原子力損害賠償紛争審査会委員に提出しました。


 

意見書の趣旨

1 原子力損害賠償紛争審査会が本年3月16日に決定した「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補」は、中間指針等に明記されていない損害についても、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害として認められることがあり得ることを明記し、個別の事例又は類型毎に指針の趣旨を踏まえ、かつ、当該損害の内容に応じて賠償の対象とするよう、改めて東京電力に求めたことは、評価できる。



2 居住制限区域・帰還困難区域からの避難者の精神的損害については、1人月額10万円を目安に、概ね2年分としてまとめて1人240万円、帰還困難区域に設定された地域については1人600万円の賠償金の請求を認めたが、将来分の一括請求を認めたことは評価できるものの、そもそも1人月額10万円という算定基礎額は被害実態に比して低額にすぎ適切な増額がされるべきである。また、実際に帰還が可能になる時期が長期化した場合には、これらの目安を超える賠償が認められるべきことは当然である。



なお、本件事故によって避難者が故郷を失い土地や生計の手段を奪われ、新たに生活を回復し地域社会を再建することを余儀なくされたことに基づく損害については、別途賠償の対象とされることはいうまでもない。



3 第二次追補が、旧緊急時避難準備区域からの避難者に対する損害賠償の終期を、一方的に定めたことは極めて遺憾である。旧緊急時避難準備区域からの避難者の避難費用及び精神的損害については、少なくとも、同区域の求人状況を含む生活環境の整備が、現実のものとして確認されるまでは、医療・介護が必要な者や子ども等以外の者についても、2012年(平成24年)8月末以降の賠償が広く認められて当然であり、第二次追補の解釈・運用に当たっても、そのように行われるべきである。



また、旧緊急時避難準備区域からの避難者としての賠償の対象から外れた場合においても、自主的避難等に係る賠償の対象者として損害賠償がされるべき場合が存在することに留意する必要がある。



4 特定避難勧奨地点については、当面の間、避難費用及び精神的損害の賠償の終期を示すべきでなく、審査会は、速やかに第二次追補を見直すべきであり、また、第二次追補の解釈・運用上も3か月後を賠償の終期としないとされるべきである。



5 営業損害・就労不能等に伴う損害の終期については、本件事故の特殊性に鑑み、少なくとも一律に賠償を打ち切る基準としての終期は、当面の間到来しないものとされるべきである。



また、本件事故後、終期に至るまでの営業や就労による利益や給与等については、原則として「特別な努力」に該当するものとして、損害額から控除しない扱いとすべきである。



6 財物価値の喪失又は減少について、審査会は、以下の点を明確にすべきである。



(1) 帰還困難区域の不動産に係る財産価値だけでなく、帰還困難区域、居住制限区域及び避難指示解除準備区域の建物内に残置された動産類及び居住制限区域及び避難指示解除準備区域の建物についても、被害者が望む場合には、原則として全損として扱うべきである。



(2) 被害者は、転居あるいは新規移転先での開業に当たり、建物の建築コストには新しい建物の取得に要する費用の支出を強いられることに鑑み、原則として経年減価を考慮しない再取得価格を基本とした賠償がなされるべきであり、同等の配慮は、中古市場が存在しないか、あっても中古品の調達が困難な事業用の設備機器についてもなされるべきである。



(3) 居住用建物内に残された家財については、従来の裁判例や損害保険の算定基準を参照した、世帯の人員数・世帯構成などから一定額を算定する方法も取られるべきである。



7 避難指示区域外からの避難(自主的避難)については、賠償の基準を根本的に改め、少なくとも3月当たり1.3mSv(年間5.2mSv、毎時約0.6μSv)を超える放射線が検出された地域については、全ての者について対象とすべきであり、また追加線量が年間1mSvを超える放射線量が検出されている地域についても、少なくとも子ども・妊婦とその家族については対象とすべきである。



また、損害賠償額についても、実際に避難した場合の損害額について、精神的損害と避難費用と合わせた額としては全体に低廉すぎ、特に子ども・妊婦以外の合計8万円という原則は著しく低廉で適切さを欠くので、特に、子ども・妊婦以外の精神的損害については、避難期間に応じた月額ベースの精神的損害賠償が行われるべきである。

 

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