「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療および観察等に関する法律に基づく指定医療機関等に関する省令の一部を改正する省令(案)等」に関する意見書

2008年7月25日
日本弁護士連合会


本要望書について

2008年7月18日、厚生労働省は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った医療及び観察等に関する法律に基づく指定医療機関に関する省令の一部を改正する省令(案)等」を公示し、これについて意見公募を行いました。
日弁連は、この省令等改正案について意見をとりまとめ、2008年7月25日に厚生労働省へ意見書を提出いたしました。


要旨

当連合会は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者」についても、一般精神科医療の改善・充実を図るべきであることを主張して「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療および観察等に関する法律」に反対の意見を述べ、また、同法施行時においても、指定医療機関の整備状況が不完全であり、対象者への適切な医療の提供が保障されていないことから、2005年6月17日付意見書により施行延期を求めてきた。

2008年6月13日付共同通信社の報道によると、「厚生労働省は13日、殺人や放火などの重大事件で、心神喪失や耗弱のため刑罰を科されなかった「触法精神障害者」を治療する国指定の入院施設が今年3月以降、不足状態に陥り、指定外の病院を利用していると明らかにした」とのことである。


今般の省令等改正案に関するパブリックコメント実施要項によれば、「特に指定入院医療機関の病床整備が進んでいないことから、病床が不足し、入院医療が必要と決定されたものへの適切な処遇の確保に支障を来たしかねない状況となっています。このため、将来的に病床に不足が生じた場合における臨時応急的な対応に・・」等とされる一方で、パブリックコメント募集としては異例ともいえる1週間という短期間での募集となっている。このことから、厚生労働省が省令等改正を急ぎ進めようとしていることは明らかであり、病床不足による問題点が既に現実化しており、上記報道にかかる事態が事実であることを裏付 けているものと考えられる。


病床不足という事態に適切に対応するためには、まず、その事態の原因と、その事態により生ずる問題点を、医療観察法の目的を踏まえて検討・分析することが必須とされることが当然である。


したがって、本来必要とされるべきは、精神科医療水準の全般的引き上げによる医療観察法の抜本的見直しであり、当面は本法の処遇が身体の処遇の制約を含む強制医療という重大な人権制約を内容とすることに鑑みた厳格な運用である。


ところが、今般の省令等改正案は、上記の観点からの検討が欠落しており、法制度の建前から予想・許容されない病床不足という事態に対して、法の趣旨に反する安易な代替措置によって対応しようとするものであって、当連合会としては、これを許容することはできない。


よって、厚生労働省に慎重かつ適切な対応を求めるため、意見を提出する次第である。


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