地球温暖化問題に関する理事会決議

第1 基本理念

  1. 日本弁護士連合会は、地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであることを認識し、全会員及び職員とともに、持続可能な社会の形成に向けて、環境負荷の少ない組織づくりに取り組む。
  2. 日本弁護士連合会は、環境問題について、啓発、意見表明、研修等さまざまな活動を通じ、市民の方々とともに考え、よりよい地球環境づくりのため実践を行う。

第2 方針

日本弁護士連合会は、総ての活動の環境影響を低減するために次の方針に基づき、環境マネジメント活動を推進して地球環境との調和を目指す。


  1. 当連合会の活動に関わる環境影響を常に認識し、環境汚染の予防を推進するとともに、環境マネジメント活動の継続的改善を図る。
  2. 当連合会の活動に関わる環境関連の法的及びその他の要求事項を順守する。
  3. 当連合会の活動に関わる環境影響項目のうち、以下の項目を環境管理重点テーマとして取り組む。
    (1)環境政策に関する提言・提案活動
    (2)電力使用量の削減
    (3)事務用紙使用量の削減
    (4)グリーン調達の促進
  4. ひとりひとりが環境負荷低減活動を積極的に実践できるように、この決議を全会員・職員に配布して周知徹底するとともに、当連合会の広報誌、ホームページその他の広報手段を通じ、多くの人に伝える。

上記方針達成のために、目標を設定し、定期的に見直し、環境マネジメントシステムを推進する。


2008年(平成20年)3月13日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛


提案理由

第1 地球規模での環境問題

1 地球環境の現状

20世紀において、人類は、科学技術を飛躍的に発展させ、大量生産により物質的な豊かさをもたらしたが、他方において各種資源の大量消費及び大量廃棄を引き起こした。そうした中で、深刻な公害被害が発生し、また、多くのかけがいのない自然環境が破壊されてきた。
大気中への温室効果ガスの大量排出による地球温暖化、フロンガスによるオゾン層破壊、広範な化学物質による環境汚染など、環境破壊は地球規模で進行している。


2 地球温暖化の問題

とりわけ、地球温暖化の問題は、これまで人類が経験したことのない、全世界的な環境問題であり、それによる環境破壊は危機的な状況に向かおうとしている。
産業革命以降、化石燃料が世界のいたるところで燃やされ続け、大気中に大量の二酸化炭素が放出されるようになった。その一方で、それを吸収する役目のあった森林などが乱開発により減少し続けた。その結果、バランスが崩れ、大量の二酸化炭素が地球上に留まり続けるという現象が発生し、まるで地球全体が温室の中に入っているような状態になって温室効果が進み、地球が温暖化している。
二酸化炭素などの温室効果ガスの増加は、単に地球の気温を上昇させるだけでなく、地球の気候全体を変化させる可能性がある。さまざまな気候の変化によって局地的な大雨や干ばつが起こったり、極端な猛暑や寒波が襲ってくるなどの影響が起こる。そして、衛生的な水を確保できないなど水資源への影響、干ばつの増加で農作物生産が減少するなど農林業への影響、生態系の破壊、海面上昇による沿岸地域の被害、異常気象による経済損失、マラリア熱など伝染病の流行、南北格差の拡大、破壊的な気候変化の可能性がある。
このような地球温暖化を食い止めないと、人類と地球上の生物が深刻な影響を受けることは必至の状況にある。そして、社会的弱者ほど、より早くより重大な影響を受ける。その意味では、地球温暖化問題は、人権問題そのものでもある。


3 地球環境問題への国際的対応

1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催された。この会議は、約180か国が参加するという大規模な環境開発会議であり、まさに地球サミットであった。ここで採択された「リオ宣言」では、地球環境問題が人類共通の課題として位置付けられ、持続可能な社会を構築する必要性が確認されている。そして、この地球サミットにおいて、数々の地球環境に関する条約の一つとして、気候変動枠組条約(地球温暖化防止条約)が締結されている。気候変動枠組条約の内容を具体化し、その発展を促すため、1995年からほぼ年1回のペースで気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)が開催されている。
気候変動枠組条約の目標を実現するために、努力目標から法的義務へと高める取組みがなされたのが、1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において採択された京都議定書である。京都議定書では、過去の排出に責任の大きい先進国に対し、2008年から2012年(第1約束期間)の目標期間に先進国全体の温室効果ガスの削減を1990年比で約5.2%と義務づけ、日本6%、アメリカ7%、欧州連合8%といった削減が割り当てられた。その後、アメリカは京都議定書を離脱したままであるが、州レベルでは独自の温暖化政策導入が進んでいる。途上国は京都議定書の削減義務はないが、省エネ技術や自然エネルギーの導入等が進められている。京都議定書における削減数値目標とその達成はそれだけでは危険な気候変動を防止していくための小さな一歩にすぎないが、2013年以降の京都議定書第2約束期間とその後のステップにさらに大きな削減に取り組んでいくための、最初の一歩としての意義は大きい。


第2 持続可能な社会の実現

1 持続可能な社会の意義

持続可能な社会とは、限られた資源や環境を使い、再生を繰り返しながら、人間、環境、経済、社会のバランスが保たれ、環境に負荷が少ない形で社会生活を継続していくことである。
健全で恵み豊かな環境は、地球の悠久の歴史の中で多種多様な生物とそれを取り巻く環境との相互作用を通して育まれてきたものであって、その恵沢は、現在世代が消費し尽くすのではなく、将来世代に継承し、世代間で共有すべきものである。
しかしながら、人間活動から生ずる環境負荷が世界規模にまで拡大した結果、環境の容量を超え、地球生態系のこれまでの精妙な均衡が崩れつつある。さらに、途上国での人口増と経済成長を背景に、環境への負荷が一層増大していくおそれがある。


2 持続可能な社会構築の必要性

このような地球環境の危機は、年を追うごとに深刻さを増している。2007年度のノーベル平和賞は、映画「不都合な真実」などを通じて地球温暖化に警鐘を鳴らしてきたアル・ゴア前米副大統領と気候変動の科学的分析に携わる国連組織「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に贈られたが、この事実は、地球環境問題がいかに深刻な状況に至っているかを端的に示すものに他ならない。
われわれは、この危機に正面から対応し、その解決を図ることによって人間社会の発展と繁栄を確保しなければならない。このためには、健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域まで保全されるとともに、それらを通じて世界各国の人々が幸せを実感出来る社会を享受でき、将来世代にも検証することができる社会、すなわち、持続可能な社会を構築する必要がある。


第3 地球温暖化に関する日弁連の取組み

1 地球温暖化問題に関する当連合会のこれまでの取組み

当連合会は、社会正義の実現・人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会の団体として、今日まで、悲惨な公害を根絶するために活動し、また、良好な自然環境を保全・再生するための取組みを積極的に行ってきた。
地球温暖化問題について、当連合会は、まず、1997年8月地球温暖化問題に関する政策提言書をまとめ、さらに、2006年11月27日にはその強化に向けた提言書を発表した。また、2005年11月4日、「チーム・マイナス6%」に参加登録をし、クールビズの実施等の活動を実践してきた。
当連合会は、2007年11月2日、浜松市における人権擁護大会において、持続可能な都市をめざして都市法制の抜本的な改革を求める決議をしたが、この決議は、憲法第13条、第25条によって保障された環境権の一側面を具体化するものとして、誰もが良好な環境のもと、快適で心豊かに住み続ける権利を有するとの確認の上に立って持続可能な社会の実現をめざすものであった。


2 当連合会の今後の取組みについての検討

世界が共通して「環境の世紀」とする21世紀において、地球環境問題が深刻化し、一層国際的な連携が要請される中、当連合会は、改めて法律家団体としての立場から、地球規模で進行する環境問題に対するこれまでの活動を、会内外に向けて一層強力に推進し、さらに発展させていかねばならない。
当連合会においては、前記のとおり、この問題についての対外的な取組みは活発に行われてきたが、会内における環境負荷の低減に向けた取組みは、必ずしも十分とはいえないものであった。
そこで、当連合会は、2007年7月13日、会内の公害対策・環境保全委員会に全会的に地球温暖化問題に取り組むための方策について諮問をし、同年10月1日、同委員会から下記のような答申がなされた。



→提言1 環境宣言の制定
日弁連、弁護士会、弁護士それぞれが環境マネジメントについて明確な理念を持ち、環境宣言として具体化すること。


→提言2 環境マネジメントシステム導入に当たっては、(1)温室効果ガスその他の環境負荷の低減、(2)グリーン調達の推進、(3)情報の公開、(4)弁護士への啓発などが環境方針として考慮されるべきであること。


→提言3 環境マネジメントシステムの構築
日弁連が環境マネジメントシステムを導入するとともに、弁護士会・法律事務所における環境マネジメントシステムの実施モデル、その導入のためのプログラムを作成すること。


→提言4 環境マネジメント導入への啓発活動
環境マネジメントが組織の最優先事項の一つであると認識し、日弁連会長などトップマネジメントによる強い決意の表明、行動が行われるとともに、日弁連内に環境マネジメントシステム導入のための組織を設置し、あわせて弁護士会、弁護士に向けた啓発活動を実施すること。


→提言5 専門家によるアドバイス


3 環境マネジメントシステム導入の必要性

当連合会には、引き続き地球温暖化防止に向けた政策提言や啓発活動を広く積極的に行っていくことが求められるが、同時に、当連合会自身が、またその構成員である弁護士会・弁護士がこの分野でも先進的な取組みを行うことが求められる。
そのためには、環境マネジメントシステムを導入することが必要である。「環境マネジメント」とは、当連合会が自主的に環境保全に関する取組みを進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくことであり、このための当連合会内の体制・手続等を「環境マネジメントシステム」という。


(1)周知のとおり、産業界では、自らが環境に与えている負荷を低減するために、企業の自主的な取組みの枠組みをつくる方法として、環境管理に関する国際標準規格ISO14001が生まれた。これは、環境負荷の低減を目的として、計画をたて(Plan)、実施し(Do)、結果を検証し(Check)、再び計画を立て直す(Action)といった一連のマネジメントを実施するシステムのことである。
現在では、さまざまな活動分野において環境に配慮することが社会的責務であるとの認識が広まり、大企業のみならず中小企業も数多く環境マネジメントシステムを導入することにより、自主的な環境負荷低減活動を実践している。
2004年に制定された「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律」(環境配慮促進法)第4条では、「事業者はその事業活動に関し、環境情報の提供を行うように努めるとともに、他の事業者に対し、投資その他の行動をするに当たっては、当該他の事業者の環境情報を勘案してこれを行うよう努めるものとする。」とされている。さらに、同法により、国、自治体、国立大学等の独立行政法人は、環境報告書の作成が義務付けられている。このため、現在では、全ての国立大学や独立行政法人など、公益性の高い団体が、環境マネジメントシステムを導入し、これによって達成した環境負荷低減活動の状況を公表している。


(2)当連合会の活動は、年々拡大し続けており、これに伴い、自らの組織、活動のあり方について、環境負荷の視点からも見直すべき時期にきているといわざるをえない。
例えば、現在、当連合会でもっとも環境に負荷を与える要因と考えられるのが大量に使用されているコピー用紙の量である。ここ数年、年間2800万枚もの紙が消費され、今後もこうした状況が続く可能性がある。
一般社会においては、ペーパーレス化が確実に進行している。当連合会としても、紙の使用量削減に向けた一連のマネジメントを、計画的・組織的に実施する必要がある。
かかる紙の削減策は、業務のIT化の推進と相俟って事務を合理化するものであり、当連合会職員の事務量をも軽減する効果をもつものである。

(3)環境負荷低減に向けた当連合会の取組みとしては、紙の削減のみならず、電気その他の環境負荷の要因をも洗い出して必要なマネジメントを実施するとともに、併せて、当連合会はもとより当連合会の会員に対しても、グリーン購入(環境配慮型商品の購入)その他、個々の法律事務所における環境負荷低減についてのノウハウの提供なども積極的に行っていく必要がある。

(4)当連合会が導入する環境マネジメントシステムとしてISO14001が一つの基準として考えられるところである。しかし、ISO14001はグローバルスタンダードであり、その認証を取得するための経済的負担や当連合会の活動の実態等を考慮するとき、まずはよりシンプルな環境マネジメントシステムであるKES環境機構(NPO法人)の環境マネジメントシステムを導入し、中長期の目標としてISO14001の導入を検討するのが相当である。
地球温暖化防止京都会議・COP3が京都市で開催されたことがきっかけで、市民、事業者、京都市が協力して、環境と共生した持続可能なまち・京都を作ろうとして立ち上げたパートナーシップ組織が「京のアジェンダ21フォーラム」であり、そのフォーラムで考案され、その後独立したNPO法人において運営されているものがKES(KES・環境マネジメントシステム・スタンダード)である。当初は、京都府を中心としてスタートしたが、その後全国各地に普及し、現在約2000件の審査登録組織となっている。
そこで、当連合会は、2008年3月1日からKES環境機構の環境マネジメントシステムを導入したところであるが、環境に配慮した組織や業務のあり方についての検討を、今後、継続的・計画的・実効的に行っていくことが重要である。
そのためにも、まず、当連合会として、環境保全に向けた基本理念及び方針を環境宣言として具体化し、同時に、環境マネジメントを実行していく体制整備が必要である。


4 国際的視野に立った活動の必要性

前記のとおり、地球温暖化やオゾン層の破壊、化学物質の汚染等、地球規模の環境破壊に対し、国際的な取組みが多様に展開されつつある。
そして、これらの成果であるフロンガス等の規制に関するモントリオール議定書、温室効果ガスの削減に関する京都議定書等、環境に関する国際的な法制度は、国内法制度にも大きな影響力を持つに至っている。
これらの取組みの中で、非政府組織である環境NGOが活発に活動し、国際的会議の場でさまざまな運動を繰り広げ、重要な地位を占めつつある。
当連合会、弁護士会も、非政府組織としてNGOの一翼を担っている立場から、環境NGOや世界の弁護士・弁護士会との連携をも強め、国際的な視野に立って幅広く活動を行っていくことが求められる。


第4 結論

21世紀を真の環境の世紀とするために、当連合会は、改めて当連合会並びに弁護士・弁護士会の社会的使命を自覚し、深刻化する地球温暖化問題に対する基本理念及び方針を定めるこの理事会決議をし、内外に宣言することに重要な意義があるものと判断し、本決議を提案するものである。