死刑執行の停止について(要請)

2007年8月3日


法務大臣  長勢 甚遠 殿


日本弁護士連合会
会長 平山 正剛


 死刑執行の停止について(要請)


第1 要請の趣旨

死刑確定者106名(2007年8月2日現在)に対し、死刑を執行されないよう要請する。


第2 要請の理由

1 我が国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、また、2007年4月には、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件で死刑を求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。死刑事件にも誤判があり、誤った訴追がなされることが明らかとなっていながら、このような過誤を生じるに至った制度上、運用上の問題点について、抜本的な改善が図られておらず、誤まった死刑の危険性は依然存在する。また、死刑と無期の量刑につき、裁判所によって判断の分かれる事例が相次いで出され、死刑についての明確な基準が存在しないことも明らかとなっている。
我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した違法状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願をはじめとする権利行使の大きな妨げとなってきた。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の施行により、実務の改善が期待されていたものの、いまだに死刑確定者と再審弁護人との接見に立会いが付されるなど、その権利行使が十全に保障されてきたとは言いがたく、このような状況で直ちに死刑が執行されることには問題がある。
他方、国際社会においては、死刑制度が既に全面的に廃止された欧州地域をはじめとして、死刑廃止国が130か国に対して死刑存置国は67か国(2007年7月31日現在)と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。


2 こうした国際社会と国内状況との乖離を踏まえ、日本においても、死刑制度を存置するか廃止するかについて、早急に広範な議論を行う必要がある。こうした見地から、当連合会は、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑の執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱しているものである。
しかし、当連合会の度重なる要請にもかかわらず、死刑の執行は繰り返され、2007年4月27日には、異例の国会開会中の死刑執行が敢行された。
既にこの8か月間の執行数は7名に上り、死刑確定者数が100名を超える事態を迎え、死刑制度をめぐる様々な問題点を十分に検討しないまま、死刑執行が急がれているとの印象は免れない。


3 2007年5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。参議院選挙を終えて、今また、新たな死刑執行が危惧されるが、死刑の執行は、我が国が批准した条約を尊重しないことを国際社会に宣言する行為に等しい。


4 このような状況を踏まえ、当連合会は、法務大臣に対し、死刑確定者106名(2007年8月2日現在)に死刑を執行されないよう強く要請するものである。


以 上