「中小企業の新たな事業活動の促進に関する基本方針(案)」 に対する意見書

2005年4月22日
日本弁護士連合会


意見の要旨

1 弁護士との積極的な連携の必要性について
  1. 中小企業の経営改革には、積極的に弁護士を関与させるべきである。
  2. 異分野連携を促進するために、弁護士を積極的に活用すべきである。
  3. 知的財産の有効活用に関して、弁護士の助言・協力を容易に得られるような制度を構築すべきである。

2 知的財産活用のための法整備について

中小企業が有する知的財産の適正かつ効率的な保護・活用がより容易に行えるように法制度の整備が行われるべきである。


意見の理由

第1 はじめに

「中小企業の新たな事業活動の促進に関する基本方針(案)」(以下『本基本方針案』という)に先立って、2004年12月に公表された「今後の中小企業支援の在り方について」(以下『支援の在り方』という)には、中小企業による新たな事業活動に対する支援体制においては、法務分野を含む専門的な知見に基づくアドバイス等に関する助成措置が行われるべきであることが指摘されている(『支援の在り方』13ページ)。


さらに、同じく『支援の在り方』には、革新的な事業活動の原動力たる技術開発の促進を図り、効率的・効果的に経営に生かすための方策の一つとして、知的財産権の活用が挙げられている(『支援の在り方』14ページ)。


これらの指摘は、中小企業が、大きく変化する経営環境に果敢に挑戦し、その持てる経営資源を十分に発揮するためには不可欠な施策であると考える。


しかしながら、『支援の在り方』を受けて作成されたはずの本基本方針案は、残念ながら、これらの指摘に対して未だ十分に応えているとは言い難い。


当連合会は、中小企業の新たな事業活動を促進するために、以下の施策が検討されることを要請する。


第2 弁護士との積極的な連携の必要性について
1.中小企業の経営革新における弁護士の活用について
  1. 『本基本方針案』第2・3・「二 外部専門家の活用」において、外部専門家の活用の一例として、中小企業診断士、会計士などが挙げられているが、ここに弁護士も加えるべきである。
    さらに、中小企業経営に弁護士が深く参画し得るよう、弁護士の紹介制度や、それに伴う経済的な負担の軽減措置などの制度が構築されるべきである。
  2. 昨今、企業経営におけるガバナンスの重要性が指摘されているが、中小企業においても適法な企業経営が、企業の恒常的な発展に欠かせないことは言うまでもない。
    法務分野における専門家の知見に基づくアドバイスを受けるための助成は、中小企業にとって不可欠である。
    のみならず、現状において、中小企業は、大企業との間で不公正な契約を締結せざるを得ないなど、不利な立場に置かれている。中小企業が、その現状を打開し、大企業と伍するためには、法律的な裏付けをもった契約交渉を行うことが不可欠であり、単なる相談業務を超えた、弁護士の経営への参画が積極的に行われることが強く望まれるところである。

2.異分野連携における弁護士の活用について
  1. 『本基本方針案』第3・3・「二 経営資源の組合せ」に,弁護士を掲げるべきである。
  2. 『本基本方針案』第3・4・「二 国として行う支援の在り方」において、新連携支援地域戦略会議「戦略会議」の事務局に置かれるプロジェクトマネージャーには、弁護士が積極的に登用されるべきであり、そのための弁護士紹介制度、それに伴う費用の負担軽減措置などの制度が構築されるべきである。
  3. 異分野の企業等が連携して新事業を開拓する際には、多くの契約問題、権利の帰属に関する問題、あるいは予想される損害の危険負担の問題等、危険の分散についての取決めの問題が生じることが予想される。
    これらの問題に適切に対応し、異分野連携事業が円滑かつ効率的に行われるためには、弁護士の積極的な関与を欠くことは出来ないからである。

3.知的財産の有効活用における弁護士の役割について
  1. 『本基本方針案』第5・1・「三 新事業支援機関と中核的支援機関相互の提携又は連絡に関する事項」において、都道府県等に対して、知的財産を有効に活用するための情報提供等に努めるように求めているが、提供すべき情報の中に、知的財産に詳しい弁護士のリストを加えるべきである。
    さらに、弁護士による相談窓口の設置、その際の費用などの支援など、中小企業が弁護士から知的財産に関する助言を得られるような制度を整えるべきである。
  2. 『本基本方針案』でも指摘されているとおり、知的財産は、中小企業の経営資源として重要な位置づけを有しているが、その適正な活用には、知的財産問題に精通した法律家からの助言を得ることが欠かせないからである。
  3. なお、各地域における知的財産問題に精通した弁護士の需要に対する窓口として、2005年4月8日に創設された「弁護士知財ネット」を活用することも検討されたい。

第3 知的財産権活用のための法整備について

『本基本方針案』においても、中小企業が知的財産を積極的に活用することの重要性が指摘されている。


しかしながら、現行の知的財産法制度には、資金・人材ともに限られている中小企業にとって利用し難い点が多く、これが、中小企業が知的財産を有効に活用し得ない一要因となっていると指摘されているところである。


『本基本方針案』には、この点について言及されていないが、中小企業が有する知的財産の活用を促すために、特許出願手続きの簡略化など、中小企業の実情と要請に応じた、知的財産法制度の整備を行うよう検討するべきである。


以上