第11回国連犯罪防止刑事司法会議日弁連報告書(2005)

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2005年3月17日
日本弁護士連合会


本意見書について

I. 越境的組織犯罪とテロリズム対策のための特別な刑事司法上の措置における人権問題

  1. 国連犯罪防止刑事司法委員会は、国際刑事立法の過程に国連NGOなど各国の市民社会の多様な要素が含まれるよう、配慮しなければならない。
  2. 危機の時にあって、人権保障が確実なものとされるために、法律家には重い責任が課せられており、弁護士や弁護士会は、テロリズム対策のため、人権保障上受け容れがたい措置が提案された場合に、公に自らの意見を公表すべきであり、また、国内レベル、可能なときには国際レベルで、これらの措置に対して国際人権基準に照らして法的な挑戦を、果敢に行うべきである。
  3. 国連は、各国が進めるテロリズム対策の諸措置が国際人権基準を掘り崩すものとならないよう強く勧告する内容を、バンコクにおける最終宣言に盛り込むべきである。
  4. 特別な捜査技術は、無差別の、あるいは恣意的なものであってはならず、国際人権(自由権)規約第17条に保障されたプライバシーの権利に留意して採用されるべきである。
  5. 犯罪組織の団体規制は、その国内法体系の基本原則に従って、また国際法の原則に従い、民族自決権を尊重し、国際人権(自由権)規約第19条、第21条、第22条などに保障された表現・結社の自由に留意して進められるべきである。
  6. マネー・ローンダリングの規制にあたって、刑事被告人が私選弁護人の弁護を受ける権利を侵害しないよう、弁護士報酬の受領をその規制対象から除外すべきである。



II. ゲートキーパー問題

  1. マネー・ローンダリングの根絶を図ることは重要であるが、弁護士が法の支配の維持および民主社会の実現に果たしている役割もまた重要であることが強く認識されるべきである。
  2. マネー・ローンダリングを規制するとの目的の下に、いわゆるゲートキーパー立法によって、弁護士に「疑わしい取引」についての報告義務を課すことは、弁護士が法の支配の維持および民主社会の実現に果たしている役割を著しく損なうものであることが認識されるべきである。
  3. 弁護士に「疑わしい取引」についての報告義務を課すことを内容とする立法を新たに制定することは許されず、また既に制定されている立法は廃止ないしその効力が停止されるべきである。



III. コンピュータ関連犯罪取締りにおける人権保障

コンピュータ関連犯罪の防止および取締りに際しては、世界人権宣言第12条、第19条や国際人権(自由権)規約第17条、第19条が保障する通信の秘密や表現の自由などの人権保障を図り、国連総会決議55/63が述べる個人の自由や個人情報保護への留意の必要性に配慮しつつ、犯罪防止および取締りとの合理的な調和点を見いだすよう努力すべきである。


IV. 被拘禁者の人権

  1. 人権侵害は独立の査察機関のないところでは容易に起きうるものであり、人権侵害の防止のためには、法執行機関から実質的に独立した査察機関に完全な査察権限を与えることが決定的に重要な措置である。
  2. PRIが提案している被拘禁者の基本的権利に関する憲章を強く支持し、コングレスで採択されることを期待する。



V. 人身取引

  1. すべての国が、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性および児童の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書」を批准し、そのために必要な国内法を整備し、かつ国際的な連携・協力体制を構築することが必要である。
  2. すべての国が、人身取引の防止、根絶および被害者の保護・支援の対策を講ずるに際し、UNHCHR(国連人権高等弁務官)のガイドライン「人権および人身取引に関して奨励される原則および指針」(E/2002/68/Add.1)で示された原則・指針を尊重することが必要である。



VI. 少年非行防止における「子どもの権利委員会」の最終見解の活用

少年非行(犯罪)の防止に関する国連基準規則の適用については、子どもの権利条約やリヤドガイドラインが求める子どもの諸権利の全面実施が基本に置かれるべきであり、それには子どもの権利委員会が各国の審査において作成する最終見解の勧告を、実現させることが大切である。


VII. 被害者に対する支援

被害者に対しては、「犯罪および権力濫用の被害者のための正義に関する司法の基本原則宣言」(Declaration of Basic Principals of Justice for Victims of Crime and Abuse of Power)を実現するため、二次被害の防止を含め、精神的・経済的・身体的な被害から、適切かつ早期に回復できるための援助が十分になされる司法システムが導入されるべきである。このため、各国は、国連作成にかかる「被害者のための正義に関するハンドブック」(Handbook on Justice for Victims)および「政策決定者のためのガイド」(Guide for Policy Makers)を活用すべきである。


VIII. 刑事司法における人権教育

  1. 組織犯罪、テロリズム、マネー・ローンダリング、サイバー犯罪、汚職などに対する取締りは、コングレスが50年にわたって設定してきた犯罪防止および刑事司法に関する基準規則とともに、各種人権条約に照らしてレヴューされるべきである。
  2. 国連が設定してきた基準規則や人権条約の実施にあたっては、法執行官や法律家、特に裁判官に対する人権教育の重要性を認識すべきである。



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