介護保険制度見直しに関する意見書

2005年2月17日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

1997年12月に成立し、2000年4月に施行された介護保険法は、その附則第2条において、施行後5年を目途に必要な見直しをするものとされており、今国会において介護保険制度の見直しが議論されることになった。見直しの基本的視点は、


  1. 制度の「持続可能性」
  2. 「明るく活力ある超高齢社会」の構築
  3. 居住用定期借家契約に関して強行規定となっている借主からの解約権の廃止の是非を含めた検討

の3点である。


日本弁護士連合会は、法案の成立に先立ち、高齢者の権利擁護の視点を欠いた現行制度の問題点を指摘するとともに、限られた財政の中でのサービスのあり方の議論に偏る介護保険制度の見直しに関して、法律家の立場から意見を述べるものである。


1 情報開示の徹底と開示情報の標準化

介護保険制度は、利用者と事業者間との契約によって提供されるが、利用者は、情報・交渉力の非対称性ゆえに、対等な立場で契約することが困難である。 事業者に対して情報開示を徹底するとともに、客観的中立的な立場で行われる第三者評価の情報提供や、劣悪なサービスを抑止するための事後ルールの徹底が望まれる。


2 判断能力が欠如ないし不十分な人の権利擁護

  1. 判断能力が欠如ないし不足する人の意思能力を補完する制度として、成年後見制度が設けられている。成年後見制度の利用を徹底するとともに、この制度を利用しやすくするための検討が必要である。
  2. 社会福祉法82条は、事業者に苦情解決に関する努力規定を置いているが、その実効性は明らかではない。弱い立場にある利用者が苦情を申し出しやすくする仕組みがさらに必要である。


3 地域包括支援センターの仕組みと役割

地域における総合的なケアマネジメントを担う中核として地域包括支援センターを整備するとされており、その機能のひとつとして、総合的な相談窓口機能が挙げられている。そうだとすれば、高齢者虐待への対応等が求められ、専門的知識・技能を持った職員が必要である。また、地域間格差が生じないよう、質・量の確保を図る必要がある。


4 ケアマネジメント体制の見直し

  1. 現行制度はケアマネージャーの独立性・中立性の確保に問題があるため、いくつかの改善提案がされているが、さらに、ケアマネージャーとしての専門性を深めること及び監督を徹底することが求められる。
  2. いずれ介護保険制度と障害者の支援費制度は統合されることになると思われるが、障害者ついても高齢者と同様のケアマネジメントのシステムが取られるべきである。


5 給付の効率化とサービスの質・量の確保について

現行介護保険では、施設入所者に費用がかかるため、地域で生活する高齢者に対する給付との間に格差が生じている。費用負担の均衡を図るため、在宅高齢者については新予防給付、施設入所者についてはホテルコストや食費の負担等が検討されているが、家事援助を必要とする軽度の痴呆性高齢者や低所得者の切り捨てにつながらないよう具体的な配慮がなされるべきである。


6 支援費制度との統合について

国の予想を遙かに上回る支援費によるサービス利用がされたため、多額の予算不足が生じその打開策として介護保険との統合が検討されることになった。 今後、障害者に対する福祉サービスはさらに増加することが見込まれるところから、介護保険との統合はひとつの有効な考え方である。しかしながら、統合によって、障害者がこれまで受けてきたサービスの低下が懸念される。


人として生きていくために不可欠な支援は、財政事情に左右されることなく絶対的に確保されなければならない。介護保険との統合については、今後とも慎重に議論されなければならない。


7 障害者施策の問題点

平成16年10月発表された「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」を受けて、「障害者自立支援給付法」が今国会に提出されるといわれている。これまで最も遅れていた精神障害者に対する施策の充実が望まれる。


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