不正競争防止法第2条1項1号ないし3号の改正に関する意見書

2004年11月19日
日本弁護士連合会


本意見書について

第1 総論

1.模倣品対策における水際差止制度が重要であることは一般論として肯定できる。しかし、水際での輸入差止は一時的であっても、権利者側に対し市場において決定的に有利な立場を与える(裁判で言えば、差止めがはじめからなされている状態からスタートできる。)一方、相手方には回復困難な影響を与える場合があるなど社会的・経済的影響は極めて重要である(商品の寿命が極めて短い商品も多く、時機を逸すると壊滅的影響を受ける。)。したがって、水際での差止めは、輸入禁止の対象とする物品の範囲、差止めの条件、認定手続きその他差止めの手続きに係る法的制度を明確に整備して設定することなく、安易に実施されるべきものではない。


模倣品対策は、罰則を強化すればいいというわけではなく、強化されたとしてもそれによって違法行為の減少が必ず達成されるものでもない。税関における現行の差止制度について根本的改善が必要であると思うが、それを行ったとしても、権利の実現は最終的には裁判所の司法判断によることになる。税関と裁判所における連絡体制、並びに両者の意見が異なった場合の法的問題の検討が行なわれるべきであると思われる。また、それにもまして、水際措置の増加を前に、裁判所に対し現行の仮処分手続きの活用を図ることが重要であると考える。


2.関税定率法による水際規制の前提として、不正競争防止法の刑罰化を考えるとするなら、本末転倒というべきである。


第1に、関税定率法第21条1項5号が規制対象としている特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権には、現実に刑罰規定が存在しているが、規制対象とする場合に、保護されるべき権利に関して刑罰規定が存在していることが前提であるという根拠はない。なぜならば、同項や同号の文言はそのような規定振りになっているわけではないし、同項4号も「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」と規定されていて刑法等において刑罰の対象とされる行為と一致しているわけではないからである。


第2に、制度の運用の適正は、法文の形式的整合性によって達成されるのではなく、それぞれの制度の仕組みや運用主体の実態を踏まえたうえで図られるべきものである。刑罰化は、これを担う警察機構を前提としてその適正が目指されるべきであり、水際規制は税関の機能、体制等を抜きにして適正か否かの判断はできない。税関における水際規制については、後述のとおり、それ自体の特性と限界を有するものであるから、不正競争防止法の刑罰化とリンクさせることは方法的に誤りである。


第3に、現実的に考えて、税関はその体制、人員から、判定の複雑な事件を処理するに適していないし、その望むところでもないであろう。無理な運用は、一利はあっても百害を招きかねない(特許権侵害商品に対する水際規制も、外観から明らかな事例で用いられているにすぎず、この辺りは健全な運用がなされているといえる。)。


3.制度の構築を考える場合、典型的で悪質な例のみ念頭において、一方的な規制にかたよるべきではない。殊に、知的財産法や不正競争防止法のような産業的規制の場合、企業は、攻守いずれの立場にも立ち得るのであり、逆の立場になる場合の検討は当然に必要である。この点も含め、制度設計に当たっては、それが攻守いずれの例に立っても妥当な規制といえるのか、あるいは適度の規制によって市場主義経済の根本にある自由競争による社会的・経済的な効率性自身を失わしめることにならないかについて、精細に調査すべきである。

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