「植物新品種の保護に関する研究会中間とりまとめ」に対する意見書

2004年10月20日
日本弁護士連合会


本意見書について

はじめに

1.農林水産省生産局が本年4月から植物新品種の保護に関する研究会(以下「研究会」という。)を開催し、植物の新品種の保護の強化を図る観点から今後必要と考えられる対策を検討した結果「植物新品種の保護に関する研究会中間とりまとめ」(以下「中間案」という。)が、本年9月に公表され、パブリックコメントを求められている。


2.上記中間案は、研究会において、育成者権の内容、育成者権の戦略的な取得・活用、及びその他の制度について、アンケート調査や諸外国の育成権保護制度の調査研究をも踏まえて今後の施策のあるべき方向が検討された結果である。


3.ここに掲げられた施策のあるべき方向の基本的内容については、概ね基本的に賛成する。しかし、そもそも育成者権を規定している種苗法の法的構成には根本的な問題点が存在すると考えられる。


すなわち、育成者権者は「品種登録を受けている品種及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種(以下両者を合して便宜上「登録品種」という。)を業として利用する権利を専有する」(種苗法20条)ものであり、その「利用」とはその種苗と収穫物とを生産する等同法2条4項一号・二号に定める行為をすることである(同法2条4項)。


したがって、ここで非常に大切な概念であるその(登録)「品種」とは、「重要な形質に係る特性すなわち特性」によってその範囲を画されるものである(同法2条2項)。すなわち、育成者権の及ぶべき植物的範囲は、その登録品種の特性によって画され定まるとされるのである。それは、特許権の及ぶべき技術的範囲が、明細書のクレームの記載によって画され定まるとされていることに対比して理解することができるであろう。


ところで種苗法においては、育成者権者にとって最も重要な関心事であるというべき、この育成者権の及ぶ登録品種の植物的範囲を決する基準、すなわち「重要な形質に係る特性すなわち特性」は、農林水産大臣の公示によって初めて定まるのであると法定されている(同法2条6項)。そしてその公示とは、現実には、平成10年12月11日農林水産省告示第1909号「種苗法の規定に基づき重要な形質を定める件」である。このように、知的財産権の客観的範囲を画すべき要件が、法定されずに行政行為によらなければ定まらないという構成は、そもそも知的財産法にふさわしくないというべきである。


また、その出願は同法5条によるべきものとされるが、その際には、関係者氏名等以外の最も実質的な内容は農林水産省令で別に定められる事項として記載されることが予定され(同法5条1項五号)、また同令で定める説明書及び写真を添付しなければならない(同法5条2項)。すなわち、新品種として登録出願する際の実質的内容の重要部分が何であるかはほとんど行政庁令で定められていて、法には規定されていない。この方式も、特許権その他の知的財産権の出願とは全く趣を異にし、余りに行政に依存しすぎているというべきである。


その結果でもあろうか、現実の登録出願には、極めて微細な多数の事項の記載が要求されるところ(重要な形質は、上記告示の特性表に書き込む方式によるが、その項目だけでも50以上に及ぶものがある。)、現実にその登録品種の植物的範囲を画し定めるときには、これ等の多数の点の異同が細かく問われる傾向となる。その結果、判例などによれば明らかであるとおり、その登録品種の植物的範囲は極めて狭くなることを否定できない。


種苗法においても、これ等の細かな事項やDNA鑑定などは必要に応じて審査基準にとり入れることとし、法上は例えば、2条6項などは削除して、権利成立にあたっての行政の余りにも細かい介入は廃止すべきであると考える。こうした観点なくしては、中間案の施策を通じて真に育成者権の保護が図られうるかという問題が残るところである。


4.そこで、中間案について、それを引用しながら意見を述べることとする。

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