「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱中間試案」に対する意見書

2004年3月19日
日本弁護士連合会司法制度調査会


 

本意見書について

はじめに

今までの過度に不動産担保と個人補償に偏った企業の資金調達の手法は、昨今の経済情勢、ことに不動産価格の下落傾向によって限界を示している。


そのため、特に中小企業や新規事業者に、今まで十分に活用できなかった債権や動産を担保とする資金調達手法への要請がある。今まではこれらの事業者は、銀行金利程度の低金利の不動産担保による資金が調達できなければ、高金利の商工ローン等で資金を得なければならなかったからである。


他方、金融機関や商社などの与信側にとっても、多様な資金供給の仕組みは望まれているところである。


ところで、実務で行われてきた動産の譲渡担保は、占有改定の方法で第三者に対する対抗要件を具備することが多く、占有改定の公示力はないに等しいため不安が残る担保となっていた。


そこで、動産譲渡担保の公示制度を整備し、動産譲渡担保をより利用しやすく、かつ安定性・実効性を高めたものにすることにより、資金調達・資金供給手法が多様な発達を遂げていくことが期待されるから、登記という公示方法を設ける事に一定の評価をすることができる。


しかし、動産の特定方法如何にもよるが、企業の全ての動産が債権の担保となる事態が生じる可能性もあり、これが、要綱中間試案第2のように債務者が特定していない将来債権の譲渡についてまで登記を具備できるようにすると、ほとんど全ての財産が債権の担保になっていることにもなりかねない。


また、この制度が新たな与信を生じさせることなく、既存債務の補強や事業者が過剰担保を強いられる場面で使われると、本来の意図とは異なる制度となってしまう。


そうなると、企業の労働者の労働債権や一般債権の引き当てとなる財産は何もなくなってしまう。ことに、倒産時における労働債権や個別動産売買の先取特権者には、不公平さが際立つことになる。さらに、再建型の倒産処理も、破産手続も十分に機能しなくなる可能性さえある。


中小企業については、担保に供することのできる財産の範囲が広がり、資金調達が円滑になるので、倒産自体を回避できる場面もないわけではないが、かえって全ての財産を担保に供した後に倒産に至る企業が続出する事態も考えられる。


そこで、要綱中間試案のような動産・債権譲渡に係る公示法制の整備を行うのであれば、これと同時に、譲渡人や譲受人の属性や存続期間を制限するとか動産の特定方法などを工夫することによって、全ての動産を包括的に担保にすることができないような制度にするか、又は、労働再建や動産売買の先取特権者について何らかの措置をとらなければ、非常に不公平な結果をもたらすことを指摘しておきたい。


なお、当連合会には次のような意見が寄せられている。


当連合会労働法制委員会は、企業倒産時における労働再建の確保及び企業を再建するための財源確保の見地から、要綱中間試案に賛成できないという意見である(添付資料1)。


また、当連合会倒産法制検討委員会は、動産譲渡に係る登記制度の創設については、資金調達の円滑化と新たな資金調達・融資手法の発達に疑問を呈した上、むしろ動産譲渡取引の円滑化を阻害し、倒産処理の際は適正公平な清算や再建の支障となるおそれがあるとして、債権譲渡に係る登記制度の見直しについては、債務者不特定の将来債権の譲渡の有効性について実体法上の解釈が確立しているとは言い難いとし、これが有効としても登記によって与えられる対抗力の範囲・内容が十分に検討されていないとして、いずれもにわかに賛成し難いとの意見である(添付資料2)。


さらに、各弁護士会は、動産譲渡に係る登記制度の創設や登記の効力等についての意見はまちまちであり、債権譲渡に係る登記制度の見直しについては、反対又は賛成し難いとの意見が大方である(添付資料3~9)。


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