違法年金等担保融資に対する罰則規定の制定を求める意見書

2003年12月20日
日本弁護士連合会


本意見書について

違法年金等担保融資による被害の急増という事態を受けて、次のとおり意見を述べます。


提案の趣旨

  1. 別紙担保禁止法令一覧表記載の法令に定められている各受給権の譲渡、担保設定禁止規定に違反する行為について、その譲受人、担保受領者に対し、罰則規定を制定すること。
  2. 貸金業の規制法等に関する法律に、「印鑑、預貯金通帳、キャッシュカードまたは、別紙担保禁止法令一覧表記載の法令に基づく受給証等の債務者の社会生活上必要な証明書を徴求する行為」、「債務者に給付されるべき年金について、債務者に代わってその年金を銀行等から払い出しあるいは自動引き落としにより事実上直接年金を取得する行為」を禁止する規定を設け、違反行為に対する罰則規定を制定すること。

提案の理由

1 被害の実態


貸金業者が、新聞広告や新聞折り込み広告などで、厚生年金や国民年金等の年金や生活保護等の受給権を事実上担保にとっての貸付行為が激増しています。その中で年金証書やその振込通帳を業者に取り上げられた借主は、日々の生活の命綱とも言うべき年金を業者に奪われているため生活に困窮し、悲惨な状況に置かれているものが少なくありません。被害の深刻さは全国的に広がっています。


業者は、「年金立替」「中高年専門」「中高年歓迎」などの広告をして、融資申込者には、年金からの返済を約束させて、高利の金銭の貸付をしています。


年金担保業者は、債務者からキャッシュカードや預金通帳、印鑑を預けさせ、年金支給日には、債務者の年金受け取り口座から、預金通帳などを使って年金を引き出して返済を受け、あるいは年金担保業者の口座への自動引き落としの手続きにより弁済をさせる営業がなされています。


中には、業者が自分の貸金回収の便宜のために、債務者に無断で債務者の口座から業者の管理する口座への自動引き落としの依頼書を作成したり、債務者名義の口座を別余開設してそこに年金の振込みをするような手続をとり、受給者の知らない口座に入金された年金を業者が取得するという被害も報告されています。


業者は、貸金は年金から返済をするとの口頭などでの約束をさせ、年金を支配、管理をして、高利の融資をしています。


これはまさに年金の譲渡ないし担保の契約です。


2 高齢化、経済不況の中で、年金だけでなく、生活保護手当てや身体障害者手当、被爆者健康管理手当など、税金などをもって生存のための最低公的扶助の資金までも担保にとる営業がなされており、その被害は増加する傾向が認められます。


年金受給者の増加や収入が厳しい社会背景から、違法年金担保営業は減少するどころかますます増加するおそれがあります。


年金を担保に取られたために、生活の収入基盤を高利金融業者に奪い取られて、古くなった投げ売りの食品のみを買い、食事の回数を減らしたり、病気をもちながら病院にも行けず、水光熱費や電話代も支払えず、電気や電話を止められた生活を、長期に渡り余儀なくされる被害者が発生しています。自殺を考える被害者も少なくありません。


生存さえ脅かされる深刻かつ悲惨な被害です。


3 日本国憲法第25条が定めるところの国民の生存権に基づいて恩給法、国民年金法、厚生年金保険法、児童手当法、生活保護法等の社会保障上の制度が作られており、受給権の譲渡、差し押え、担保の設定を禁止しています。


また、貸金業の規制等に関する法律についての、金融庁1998年6月8日事務ガイドラインにおいても「印鑑、預金通帳、キャッシュカード、運転免許証、年金受給証等の債務者の社会生活上必要な証明書等を徴求すること」が禁止されています。


しかし、罰則規制がないことを奇貨として、業者は、上記禁止規定を全く無視し、年金等を譲渡ないし担保として融資を行う、いわゆる年金担保融資が半ば公然と行われ、生活基盤を奪われた債務者が悲惨な状況に追い込まれるといった被害が全国各地に広がっています。


4 日本国憲法第25条が定めるところの国民の生存権を侵害し、このような残酷な被害を発生させる違法な年金担保を排除禁圧するためには、刑罰をもって厳しく取締りをすることが是非とも必要です。