「文化審議会著作権分科会報告書(案)」に対する意見書

2003年12月18日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

はじめに

最近の著作権を含む「知的財産権」に関する政策の動きに呼応して,文化審議会著作権分科会において,著作権をめぐる様々な制度の整備等について検討が行なわれている点は,評価すべきであるが,その際忘れてはならないことは,次の点である。


著作権法制度は,情報流通のコントロールに関わるものであり,憲法上の「表現の自由」,「知る権利」と密接に関連し,文化の根幹に関わる制度である。よって,情報の受け手である国民の利用とのバランスを考えずに経済的,産業的観点にのみ偏しては政策判断を誤る危険性がある。


したがって,権利者等の産業団体の意見のみ重視するのは適切でなく,団体として声になりにくい一般消費者や国民の意見を十分に聴取,忖度して制度設計を考えるべきである。


また,どの個別法も全法体系における調和を考えねばならない。著作権法も,一国の全制度の中に位置づけられるのであり,前述の憲法,物の所有権制度,他の知的財産権,独占禁止法との調和を考慮に入れることは必須である。


以上を踏まえ,当連合会は,下記のとおり意見を表明する。


第1章. II. 1.(1)「書籍・雑誌等の貸与」に係る暫定措置の廃止について

1996年WIPO著作権条約においても,貸与権が付与される著作物は,プログラム,映画,レコードに限られている。また,例えばアメリカ著作権法でも,商業的貸与が認められているのは,録音物とプログラム(ゲームソフトを除く)だけである(106条(3),109条)。日本法において,書籍に関し貸与権が及ばないとすることは特異なことではない。


コミックレンタルは,CDやビデオのレンタルとは異なり,無断複製の問題は発生していない。また,レンタルは返しに行くのが面倒であり,購入との価格差が大きくないとなかなか市場拡大しない。また,主要客層は若年層であって可処分所得が少なく,レンタルを禁止しても直ちに購入に移行するとは考えにくく,そのような層から多種多様な作品に触れる機会を奪うことの弊害が大きいとも言える。さらに,新規レンタル業者は,経営を合理化しただけであって営業形態として従来の貸本屋と原理的に異なることをしているわけではない。


上記観測も踏まえ,実態調査をした上,適切な報酬請求にとどめるといった解決も含め,その功罪を慎重に検討すべきである。


第1章. II. 1.(2)「日本販売禁止レコード」の還流防止措置について

何故に「邦楽」レコードのみ保護され,外国のレコードと差別的に扱うのか合理的理由がない。また,この差別を解消するために「洋楽」の輸入盤も輸入権の対象とするなら,現在でも日本の消費者が享受している国際価格を放棄し,日本の消費者のみ高いレコードを買わされることに帰結する。


平成11年の著作権法改正で26の2が創設され,その2項4号で国際的消尽が明定された。レコード輸入権は,その後の格別の事情の変化もないのにこの法改正を無視することになるのであって制度としての安定性を害すること著しい。また,レコードのみ例外的扱いをする合理的理由もない。


輸入権創設は,日本の消費者のみ高い代金を払わされるということに帰するのであり,日本の消費者に対する文化の伝播を抑制する結果を招来することになりかねないものである。また,日本の著作物を世界的に普及させ,またそれによって同時に外貨を獲得することにもならない。


世界的標準からも,消費者の立場を一気に弱めるものであり容認できないと言わざるを得ない。


なお,海賊版対策は別途の方策でなされるべきである。


第1章. II. 2.(2)「アクセス権」の創設又は実質的保護について

アクセスコントロール回避行為に対し刑事罰を創設すべきかに否かについては,それが表現の自由や知る権利等に直接影響を及ぼすだけに,平成11年の不正競争防止法と著作権法によって立法的手当がなされた以降の規制効果の検証なくしては,刑罰の謙抑性の観点からもその立法化の是非は慎重に議論がなされるべきである。


第1章. II. 3.「保護期間」について

米国における保護期間の延長は,それ自体問題の多いところであるが,日本においては,知的財産権を調整するものとしての独占禁止法が弱く,また,アメリカ著作権法107条のような一般的フェアユースの規定を持たないので,権利そのものが強いというべきであり,映画以外の著作物についての保護期間の延長はより慎重になされることが必要であろう。


第4章. II. 1.「大学における著作権教育の在り方について」及び3.「企業等における著作権教育の在り方について」

  1. 創作者に対する著作権教育等を推進するべきである。
  2. 創作者の中には,侵害行為と問議されることを恐れるあまり,既存のコンテンツを発展させた新たな優れた創作物の制作までも回避している場合があるため,創作者に対し,コンテンツの法的保護に関する基礎的知識の教育・啓蒙活動を行い,新たな優れた創作物の制作意欲の向上に結びつけるべきである。具体的には,

  3. 一、芸術系を中心とした大学等の教育の場におけるコンテンツの法的保護に関する基礎的知識の教育・啓蒙活動,講座開設の支援

    二、コンテンツ創作者団体やコンテンツビジネス業界において,コンテンツの法的保護に関する基礎的知識や契約などの実務を教育・啓蒙する講座開設の支援

    が挙げられる。

    以上