商品先物取引制度改革意見書

2003年11月21日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

産業構造審議会商品取引所分科会は、本年11月11日付「商品先物市場制度の改革について」(中間報告)をとりまとめた。意見募集を経て本年中に報告書をまとめたうえ、次期通常国会での商品取引所法改正が予定されている。


当連合会は、商品先物取引被害の防止及び救済に一貫して取り組んできているが、この際、より抜本的な制度改革が必要と考え、本意見書を提出する。


はじめに

1.当連合会の基本的立場

当連合会は、商品先物取引分野で被害が続発しているところから、委託者保護の立場から活動してきた。すなわち、先物取引被害の実態把握と救済実務のため「先物取引被害救済の手引」(現在六訂版まで)、「先物被害白書2002年度版」などを出版してきたほか、委託者保護の拡充と公正な受託業務の実現を目的に、制度改善の意見書をとりまとめてきた。主なものとしては、1990年2月16日付「商品取引所法改正に関する意見書」、同年9月6日付「改正商品取引所法の政省令等整備に当たっての意見書」、1995年11月16日付「先物取引被害の予防・救済に関する意見書」、1997年3月19日付「商品先物取引制度見直しに関する意見書」及び1998年7月31日付「改正商品取引所法の省令整備に関する意見書」などがある。


当連合会の基本的主張は、終始一貫している。すなわち、委託者保護の規制を強化・拡充し、実効性のある制度と法規制を整備することが必要との認識のもとに、その具体的施策を提言してきたのである。本意見書も、同様の立場から、今必要とされる制度改革の骨子についてとりまとめている。


2.委託者保護と先物行政

これまでの政府の先物行政を委託者保護の関係で考える場合、一連の規制緩和策との関係が重要である。一方において一定の委託者保護の方策がとられていても、他方で業法規制や自主規制が緩和・撤廃が進展する結果、全体としては被害の増加をもたらしてきたと言える。


すなわち、1990年の商品取引所法改正によって法目的に委託者保護が明文化されたものの、その前年の1989年11月には全国商品取引所連合会が受託業務指導基準を改正、取引所指示事項等を見直すなどして規制を緩和している。


1998年の商品取引所法改正では、誠実公正義務の明文化、適合性原則の明文化、自主規制団体の強化などが行われたものの、翌99年には法施行規則では客殺しの常套手段といわれる両建を同一限月・同一枚数のみとして、業者に脱法の口実を与えてしまった。さらに、チェックシステム、MMT(ミニマムモニタリング)を廃止し、新規委託者保護措置も各業者に任されることとなった。その結果、従前の新規委託者保護措置は、実質的には曖昧にされている。


その後2001年の商品取引員の許可更新には、苦情が多発していた商品取引員もすべて許可更新してしまい、翌2002年にそのなかの一業者が破産宣告を受け、被害を拡大させた。


このように、平成に入ってからの2度の法改正によって、委託者保護にある程度の前進はあるものの、それらの前後に行われた上記の取引所指示事項改正、不十分な両建規制、チェックシステム等の廃止、新規委託者保護措置の変更など、委託者保護のために必要な規制までも緩和・撤廃しており、その結果商品先物取引における被害はかえって増加しており、その意味で委託者保護は実質的には後退していると言わなければならない。


3.本意見書について

当連合会は、昨今の先物取引被害の実態及び受託業務の問題点等を「先物被害白書2002年度版」にまとめ、その結果、被害を予防するためには、これまでの我が国の先物取引制度を根本的に見直す必要があるとの認識に達した。そこで、その具体的方策を検討するために、2003年1月と同年6月の2回にわたって米国先物調査団を組織し、米国先物取引の実態調査を行った。その後これらについて主務省、取引所等関係機関等との意見交換などを踏まえ、委託者保護のあり方を中心に商品先物取引の制度改革を検討してきた。


今回の産構審商品取引所分科会中間報告は、1998年法改正の積み残し、とりわけ来る2004年12月末の手数料自由化の完全実施への環境整備、商品取引員の破綻等にそなえる委託者債権保全制度の整備等の、当面の制度改革という性格が強い。しかし、当連合会としては、商品先物取引被害をこれ以上続発させる事態は許されないという観点から、消費者被害防止のため、より抜本的な先物制度改革を求めるものである。


意見の趣旨

先物取引被害の予防救済、委託者保護の拡充、公正な先物市場形成のために、次の10項目について実効性ある法規制、先物取引制度改革を行うべきである。


1.不招請勧誘、広告の禁止

消費者に対して、事前の承諾無く、電話、訪問、ファックス、Eメールなどの方法で先物取引を勧誘または広告することを禁止すること。


2.適合性原則の徹底
  1. 知識、経験、資力等が不十分な者に対する勧誘及び受託を禁止すること。
  2. 適合性原則について、実効性を確保するための制度の検討・実現を図ること。


3. 説明義務の法定化
  1. 業者の説明義務を法律上規定し、委託者の十分な理解を得るまで説明すべきことを明記すること。
  2. 説明すべき内容は、現行の法136条の19、施行規則47条に定められている受託契約締結前に交付すべき書面の記載事項の他、一般委託者の大半が損で終わっていること、誠実公正義務を負う業者自身も先物取引を行っていることなども含めるべきである。


4.取引禁止期間、習熟期間等新規委託者保護措置の強化
  1. 先物取引委託契約締結後14日間を経過しないで取引の受託をしてはならない。
  2. 新規委託者に対しては、習熟するまでの3ヶ月間は20枚を越える建玉を受託してはならない。


5.両建、向玉等の客殺しの禁止

両建(同一枚数、同一限月に限定しないこと)の勧誘、向玉(差玉向含む)、無敷、薄敷、ころがし、仕切拒否・回避等いわゆる客殺し手法を法律で禁止すること。


6.バイカイ付け出しの禁止、完全ザラバの実施
  1. 取引所における売買は、全て場に晒し、バイカイ付け出しを一切禁止すること。
  2. 取引所の取引は、板寄せを廃止し、完全なザラバにすること。


7.完全分離保管等委託者債権保全措置の強化
  1. 委託者が預託した金員・有価証券等及び先物取引による清算金等は、業者の資産とは完全に分離して業者以外の取引所等が保管し、委託者が業者のデフォルトリスクを負うことのないような制度とすべきである。
  2. 現行の受託業務保証金、受託債務補償基金に対する委託者の補償債権は、委託者の業者に対する損害賠償債権も含まれる旨明示すべきであり、それらの支払手続きが公正に行われるよう、速やかに改善すべきである。
  3. 分離保管違反には、抑止力として厳しい罰則と許可取消等の行政処分を課すべきである。


8.監督機関の一元化及び監督権限強化等
  1. 商品先物取引に関する監督機関を一元化し、米国のCFTC(商品先物取引委員会)のような組織を設置し、その権限を強化すること。
  2. 監督機関は、一般委託者の損益の割合、受託業務の実態等を調査し、これを毎年公開すること。
  3. 監督機関による紛議解決制度を設けること。


9.実効性ある法規制
  1. 委託者保護に関する規制違反には、実効性ある効果が伴う必要がある。それらを担保するために、委託者に無効の主張あるいは取消を認めるべきである。
    また、罰則規定を設けること及び厳しい行政処分を課すなど、抑止力のある制度にする必要がある。
  2. 委託者から請求があった委託者勘定元帳、証拠金現在高帳等の提出義務を認めること。
  3. 業者の違法行為に対する損害賠償請求訴訟等においては、原則として過失相殺を認めないことを明確にすること。
  4. 民事訴訟で、違法性が認定された場合、これに呼応し、行政処分を行うこと。
  5. 行政処分を行った場合、その理由を詳しくインターネット等で3年間公表すること。


10.自主規制機関の強化
  1. 先物取引に関する自主規制機関の組織拡充、権限強化をすること。
  2. 商品取引員及びその役員、外務員、取引所及びその役員等先物取引受託に関与する者を自主規制機関に強制加入させ登録させるものとし、その監督下におくこと。

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