新司法試験実施に係る研究調査会 中間報告についての意見

本意見書について

当センターは、2003年5月19日付で「新司法試験の在り方に関する報告書」をとりまとめて新司法試験実施に係る研究調査会に討議資料として提出し、新司法試験の在り方に関する意見をすでに述べているところである。この度、「新司法試験実施に係る研究調査会中間報告」(以下「中間報告」という)がとりまとめられ、パブリックコメントが募集されるに至ったことから、同中間報告に即して意見を述べる。


なお、→別紙「新司法試験の在り方に関する報告書」についても本意見書と一体をなすものであり、パブリックコメントとして取り扱われたい。


1 新司法試験の在り方に関する明確なメッセージを
-「はじめに」関係

司法制度改革審議会意見書(改革審意見書)は、新司法試験について、「法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えるべきである」と述べている。同意見は、新司法試験の基本的な在り方として極めて妥当なものである。したがって、各法科大学院の教育内容が明らかにならない時点で、新司法試験の在り方に関する検討を開始することの妥当性については、当センターとしても疑問を呈していた経過がある。


しかし、実務的な必要性等から司法試験管理委員会の下に新司法試験実施に係る研究調査会が設置され、中間報告が発表されるに至った現在の状況を踏まえるならば、最終報告では、新司法試験の在り方について、法科大学院サイドに対して明確なメッセージを発することが重要と考える。


すなわち、新司法試験は、現在の司法試験について巷間言われているような論点主義的な受験対策によって対応できる試験ではないこと、法科大学院のあるべき理念に沿った教育を適切に履修すれば、受験対策に邁進することなく合格が可能な試験であることについての明確なメッセージを、2004年4月の開校に向けて教育内容の策定を進めつつある法科大学院サイドに対して発することが必要である。


このような観点からみた場合、中間報告の内容は、そのようなメッセージ性が必ずしも充分ではない。最終報告においてはこの点の検討が必要と考える。


2 新司法試験は法科大学院の履修成果を確認する試験に
-「第1 新司法試験を通じて選抜すべき法曹像」関係

改正司法試験法において、新司法試験は、基本的には法科大学院における履修成果を確認する試験であり、同時に司法修習において修習効果をあげることが可能なレベルに到達しているかを試すという役割をも有するものと位置付けられている。このことは、同法が、1条1項で「司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験とする。」としながら、同時に、同条3項で、「司法試験は、第4条第1項第1号に規定する法科大学院課程における教育及び司法修習生の修習との有機的連携の下に行うものとする。」と規定していることから導かれるものである。


そして、この基本的な考え方は、新司法試験実施の当初から貫かれるべきである。すなわち、法科大学院が軌道に乗るまでの間は、法科大学院の履修成果を確認するのではなく司法試験に積極的選抜機能という独自の重い意義を与えようとの考え方も一部に唱えられている。しかし、このような考え方は上記改正司法試験法の趣旨に反するのみならず、法曹養成課程の中核として位置づけられた法科大学院の多様で豊かな発展を阻害する結果をもたらしかねない。


中間報告「第1」において、「○新司法試験は,法科大学院の教育を踏まえたものとし,司法修習を経れば,法曹としての活動を始めることができる程度の能力を備えているかどうかを判定するものとする。」「○新司法試験の実施に当たっては,法科大学院における教育及び司法修習との有機的連携に配慮する必要がある。」「改正司法試験法に定められた試験科目と試験方法では、それらの資質(法曹に必要とされる資質-引用者注)すべてを判定し得るものではないことにも留意すべきである。」などと述べているのも前記新司法試験の役割を示す趣旨と解することができる。しかし、これらの記載では、新司法試験が法科大学院において適切に履修したことを確認する試験であるという趣旨が必ずしも明確ではない。したがって、最終報告においては同趣旨をより明確にすべきである。


3 新司法試験は法科大学院が法曹養成機関であることを踏まえた内容に
-「第1 新司法試験を通じて選抜すべき法曹像」関係

前項で述べた「法科大学院において適切に履修したことを確認する試験」という場合の法科大学院における適切な履修という点については、法科大学院が「法曹養成に特化したプロフェッショナル・スクール」(改革審意見書61頁)であることを充分に踏まえる必要がある。


すなわち、法科大学院の教育は、「実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した教育を行うべきである。」(同意見書66頁)。したがって、新司法試験についても、このような教育の履修が確認される試験とする必要がある。具体的には、法科大学院における教育内容を踏まえ、基礎的な要件事実に関する理解や主張立証責任の分配、事実認定の在り方等をはじめとした実務的な内容についても新司法試験の射程に含まれることを明らかにする必要がある。


中間報告ではこの点が明確ではないことから、最終報告においては同趣旨を明らかにすべきである。


4 短答式試験の「基本的な問題」という趣旨を明確に
-「第4 短答式試験の在り方」の「1 出題の在り方」関係

短答式試験の出題の在り方について、中間報告は、「○短答式試験においては,幅広い分野から基本的な問題を多数出題することにより,専門的な法律知識及び法的な推論の能力を試すものとする。」「・基本的知識が体系的に理解されているかを客観的に判定するために,幅広い分野から基本的な問題を多数出題するものとし,過度に複雑な出題形式とならないように留意する。」と述べている。同記載内容については賛成であるが、その具体的イメージは必ずしも明らかではない。


最終報告段階では短答式試験問題の在り方に関する今後の議論の参考に供するため、いくつかの問題例を例示的に明らかにすることが適当と考えられる。なお、その際、同問題例が上記記載内容に基づく事実上唯一の在り方であると誤解を受けないような配慮が必要であろう。


また、短答式試験の出題については、現在、一部の問題にみられる過度に複雑な問い方をする等の出題の在り方は改められるべきであり、この点についても最終報告では明らかにすべきである。


5 論文式試験の問題は生の事実に近い出題を
-「第5 論文式試験の在り方」の「1 出題の在り方」関係

論文式試験の出題の在り方について、中間報告は、「比較的長文の具体的な事例を出題し,現在の司法試験より長い時間をかけて,法的な分析,構成及び論述の能力を試すことを中心とする。」「多種多様で複合的な事実関係に基づく,比較的長文の事例を出題し,十分な時間をかけて,法的に意味のある事柄を取り出させ,その事実関係にふさわしい解決策等を示させたりする」などと述べている。同記載内容については賛成であるが、その表現はなお抽象的であり、具体的作問の段階になると、「多種多様で複合的な事実関係に基づく、比較的長文の事例」が、現在の論文式試験で出題されている事例問題に比較的近いイメージで理解されかねない危惧もある。新司法試験が、法科大学院における履修成果を確認し、同時に司法修習において修習効果をあげることが可能なレベルに到達しているかを試す試験であることからすれば、そのイメージは現実社会で生起する事件の解決のイメージに近いものであることが求められる。


論文式試験の具体的イメージを明らかにするために、当センター作成にかかる問題例を本意見書に添付したが、同問題例のように、法的に意味のない事実を含んだ事実群を事例として構成して出題するとか、あるいは陳述録取書や契約書といった実務的な資料を出題に用いるなどの方法によって、法的に意味のない事実を含んだ、いわゆる生の事実に近い事実関係の中から法的に意味のある事実をとり出させるというプロセスが解答の過程で必要となる出題形式が適切と考える。最終報告ではその趣旨をより明確にすべきである。


また、短答式試験と同様、今後の議論の参考に供するため、いくつかの具体的問題例を例示的に明らかにすることが適当と考えられる。


6 論文式試験では「紛争予防の在り方」「企画立案の在り方」についても出題を
-「第5 論文式試験の在り方」の「1 出題の在り方」関係

また、上記中間報告部分では、論述の在り方について「解決策等を示させたりする」と述べるにとどまっている。しかし、改革審意見書(72、73頁)では「問題解決・紛争予防の在り方、企画立案の在り方等を論述させる」と、より具体的なイメージが述べられており、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会における「新司法試験の在り方について(意見の整理)」(第10回配布資料)でも、改革審意見書を引用する形で同様のイメージを提示している。「紛争予防の在り方」「企画立案の在り方」を論述させることについては、科目によっては(たとえば刑事系科目など)その性質上困難な場合があることを否定するものではないが、たとえば民事系や公法系科目においてはこれらに関して論述させることも十分に考えられる。最終報告では、科目によっては「紛争予防の在り方」「企画立案の在り方」について論述させることもあり得ることを明らかにすべきである。


7 論文式試験における「実践的な能力」とは実務的能力であることを明確に
-「第5 論文式試験の在り方」の「1 出題の在り方」関係

また、中間報告では論文式試験の出題の在り方に関し「理論的かつ実践的な能力の判定に意を用いる」と述べられているが「実践的な能力」の趣旨が今ひとつ明確でない。しかし、同文言は改正司法試験法3条4項と同一の文言であること、および、研究調査会の在り方グループにおける議論の経過をみるならば、そこでいう「実践的な能力」が理論的能力に対置される実務的な能力を意味するものであることは明らかである。


したがって、最終報告では上記趣旨が明確になるよう、表現を工夫すべきである。


8 点数積み上げ方式の弊害を取り除く採点方法に
-「第5 論文式試験の在り方」「3 論文式試験の成績評価の在り方」関係

論文式試験の採点方法について中間報告は言及していない。これは、従来通りの点数積み上げ方式によるのか、あるいは具体的な点数をつけない、いわゆる段階評価方式によるのかという点について、最終報告までの検討課題とされたことによるものである(なお、点数積み上げ方式を前提としていないにもかかわらず、「第5 論文式試験の在り方」「2 配点、問題数、試験時間等」の枠囲み部分において、公法系科目、民事系科目及び刑事系科目間の配点比率を2:3:2と定めている部分は問題である)。


当センターは、その具体的な在り方についてはなお検討が必要であるものの、基本的にいわゆる段階評価方式が妥当と考える。なぜなら、【1】新司法試験においてはその趣旨に即した新しい採点方法が検討されるべきであり、また、点数積み上げ方式の採点方法については、【2】現行司法試験において指摘されている、いわゆる論点主義の弊害の原因になっているとの疑いを払拭できない、【3】点数の高い者から順に必要な人数を合格させることに親和的な採点方法であり、合格者を政策的に制限することにつながりかねないなどの問題点が存在するからである。いずれにせよ、論文式試験の採点方法の問題は、新司法試験の在り方を左右しかねない大きな論点であり、最終報告までの間に充分な検討が必要である。


なお、現行司法試験における点数積み上げ方式の採点方法が、いわゆる論点主義の弊害を生じさせているのかどうかについて議論を深めるためには、現行司法試験で具体的にどのような採点方法がとられているかが研究調査会の場で明らかにされることが不可欠である。この点の開示なしにはおよそ実証的な議論が不可能だからである。当センターは、今後の研究調査会において現行司法試験の採点方法が開示されるよう、強く求めるものである。


9 多数の「採点担当委員」による採点負担の軽減を
-「第6 短答式試験と論文式試験の総合評価の在り方」「3 その他」関係

論文式試験の答案の採点体制について中間報告は「○ 考査委員を十分に確保するなど,適正な答案審査体制の確保に配意する。」と述べるにとどまっている。しかし、現行司法試験のように考査委員が出題から採点まで試験実施のすべてに関与するという体制では、考査委員の増員をはかるとしても、自ずと限界が生じざるを得ないのではないかと思われる。したがって、考査委員の中で、出題等には関与せず、試験の採点のみを担当する委員を設けるという工夫によって、考査委員の採点の負担軽減を図ることを検討すべきであり、その趣旨を最終報告に盛り込むべきである。


10 試験情報の広範な公開を
-「第7 その他新司法試験の在り方に関連する事項」関係

従前、司法試験に関する情報公開は極めて不十分であり、そのことが現行司法試験に対する不信を一部で生じさせていたことは否定できない。この点、近年の司法試験において試験情報を積極的に公開していこうという姿勢がみられることは高く評価できる。


新司法試験においても、試験情報を積極的に公開していくことが新司法試験の信頼性を高めるという基本スタンスに立って、具体的な公開の在り方を検討すべきであり、その趣旨を最終報告において明らかにすべきである。


11 試験の運用状況に関する継続的な検証を
-「第7 その他新司法試験の在り方に関連する事項」関係

新司法試験が「法科大学院の教育を踏まえたものとし,司法修習を経れば,法曹としての活動を始めることができる程度の能力を備えているかどうかを判定するものとする。」(中間報告「第1」)という改正司法試験法の趣旨を踏まえたものとして運用されるためには、新司法試験の運用状況を継続的に検討、検証していくことが必要である。


具体的には、法科大学院の教育内容を踏まえた出題となるよう、法科大学院の教育状況を把握し、試験問題の素材等を収集して作題のノウハウを蓄積するとともに問題の在り方、採点方法の適切さについて検証すること、および、法科大学院における成績と新司法試験の成績、司法修習の成績、法曹資格取得後の活動状況等との相関関係を検証することなどを任務とする機関を設け、これら検証結果に基づいて司法試験委員会において試験の在り方に関する不断の改善を図っていくことが必要である。なお、「法科大学院における教育内容等を踏まえ、適切な時期に新委員会で検討する」(法曹養成検討会とりまとめ)とされている法曹倫理ないし専門職責任を試験科目とするかどうかという問題についても、同機関において検討することが適切であろう。


現行司法試験においてはそのような実証的な検証が必ずしも充分になされていなかったことの反省に立ち、このような機関を来年1月に発足する司法試験委員会の下に設けるべきことを最終報告に明記すべきである。


以上


日弁連法科大学院設立・運営協力センターが考える新司法試験・論文式問題(案)