成年後見制度の市町村長申立の活性化と成年後見人等報酬助成の速やかな実施を求める意見書

2003(平成15)年8月22日
日本弁護士連合会


本意見書について

第1 意見の主旨

  1. 各市町村は、成年後見等開始審判の市町村長申立を円滑に実施すべく、速やかに実施要綱等を設置の上、担当部局を明確にし、必要な予算措置を講じるべきである。また、国及び都道府県は、各市町村に対し、これらに関する必要な助言、指導を緊急に行うべきである。
  2. 各市町村は、資力の乏しい者も必要な成年後見制度の利用ができるよう、速やかに成年後見制度利用支援事業を実施するのをはじめとして、成年後見人等報酬の助成制度を創設すべきである。また、国及び都道府県は、各市町村に対し、これらに関する必要な助言、指導を緊急に行うべきである。

第2 意見の理由

2000(平成12)年4月から施行されている成年後見制度は、判断能力が不十分となった痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等が、自己決定の尊重や残存能力の活用との調和の中で、本人の財産管理や身上監護における必要な保護を図るため、これを必要とする国民に広く活用されることを期待されています。


しかしながら、施行から3年間を経過した時点における各地の実施状況を見ると、成年後見等開始審判の市町村長申立制度及び「成年後見制度利用支援事業」における成年後見人等の報酬助成制度が、限られた一部の市町村以外ではほとんど実施されていないという状況にあります。


最高裁判所のまとめによれば、全国における市町村長による申立件数は、2000(平成12)年度23件(全申立の0.5%)、2001(平成13)年度115件(全申立の1.1%)、2002(平成14)年度258件(全申立の1.9%)であり、徐々に増加の傾向を見せてはいるものの、いまだ全申立件数の2%足らずにすぎません。


また、厚生労働省のまとめによれば、成年後見制度利用支援事業を実施している市町村数は、2001(平成13)年4月1日現在で179市町村(全市町村の5.5%)、2002(平成14)年4月1日現在では343市町村(全市町村の10.6%)にすぎず、9割もの市町村が本事業を実施していないという現状です。


他方、福祉・医療の現場では、判断能力の十分でない高齢者・障害者につき、本人への福祉・医療サービスの提供をはじめとした生活支援や権利擁護のため、成年後見制度の利用を必要とするものの、本人に身寄りがない、あるいは親族からの虐待や放置を受けている等のため親族の協力が得られない、あるいは本人に後見人報酬を担える資力がないといった事情から、成年後見制度の利用ができないといった実態が、施設職員や在宅介護支援センター等をはじめとした福祉関係者から数多く寄せられています。しかし、上記のような市町村長申立に関する各自治体の体制整備の遅れや成年後見制度利用支援事業の未実施などから、これらの事態が改善されていないのが現状です。


2002(平成14)年2月に実施した日本社会福祉士会の調査によれば、市町村申立の実績のある市町村は、回答した市町村の6%にすぎず、成年後見制度のニーズについても41%が「あまりない」と認識の低さを示しています。また、成年後見制度利用支援事業について「聞いたことがない」とか「聞いたことがあるがよくわからない」との回答が合計で66%にも昇り、2002(平成14)年度に実施する予定もない市町村が47%にも昇っています。


また、2002(平成14)年9月に実施した日本司法書士会連合会の調査によれば、910市町村の回答の結果、市町村長申立の体制を全く準備していないが545市町村(60%)にもなり、申立要綱を作成している自治体は、さらに145市町村(16%)にすぎず、成年後見利用支援事業の後見人等報酬助成については、584市町村(64%)が制度化する予定がないと回答している状況です。


このような調査結果に明らかなように、各市町村の状況は、担当者の成年後見制度の必要性についての認識不足もあいまって、市町村長申立の実施要綱及び成年後見人等の報酬助成の実施要綱を定めておらず、担当部局など申立体制が準備されておらず、申立費用や後見人報酬助成の予算化がされていないところが大半であるという実態です。


しかしながら、社会福祉基礎構造改革のもと、福祉サービスの利用についても、利用者本人とサービス提供事業者との契約方式による利用制度の転換が図られた以上、契約能力に援助を必要とする痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者など判断能力にハンディ・キャップのある方への成年後見制度の利用は、不可欠な社会サービスとして、その利用が保障されなければなりません。1971(昭和46)年の国連総会で決議された「知的障害者の権利宣言」には、「自己の個人的福祉及び利益を保護するために必要とされる場合は、知的障害者は資格を有する後見人を与えられる権利を有する」ことが明記されています。


また、社会福祉法に謳われている地域福祉の推進のために市町村の果たすべき役割に鑑みれば、在宅生活を送る上での高齢者・障害者の権利擁護を担う成年後見人の役割は、益々その重要性を増しています。そのための基盤整備は、公的な責任に基づいて行われるべきことは、当連合会が第44回人権擁護大会(2001年11月)において、「高齢者・障害者の権利の確立とその保障を求める決議」でも明らかにしたところです。


特に、市町村長申立を必要とするような利用者、経済的能力により成年後見人を利用できない利用者こそ、公的責任において、必要な成年後見人等を確保し、福祉・医療サービスをはじめとした必要な生活支援を受ける権利を保障することが求められています。


さらに、本年4月から支援費制度が導入され、今後精神障害者の福祉サービスの拡充も本格化する中で、成年後見制度の活用における上記のような実態を改善することは喫緊の課題です。地方公共団体並びに国は、本意見書の趣旨の実現に向け、速やかな対策を講じるべきです。


なお、当連合会は、各市町村における市町村長申立及び成年後見人等報酬助成の各要綱の速やかな策定に資するため、「モデル要綱」及びその運用のための注釈(後掲別紙1、2)を、日本社会福祉士会との共同検討の結果作成したので、積極的に活用されることを求めます。


また、市町村長申立事案の支援及び成年後見人等への就任並びに職務執行のため、当連合会は、各弁護士会に設置されている高齢者・障害者支援センターにおいて、各地の社会福祉士会(ぱあとなあ)や司法書士会(リーガルサポート)とともに、各市町村と協力・連携するなど、高齢者・障害者の権利実現に向け積極的に行動する決意です。


以上