行政訴訟制度の抜本的改革に関する提言

2003年3月13日
日本弁護士連合会


本提案について

当連合会では、機能不全に陥って久しいわが国の行政訴訟制度を抜本的に改革するために、国民にわかりやすく利用しやすいもの、またグローバル時代に相応しく国際的に恥ずかしくないものという観点から新たな行政訴訟制度のあり方を構想し、その具体的な法律案についての検討を重ねてきた。この間、当連合会の構想について、広く専門家や国民の意見を求めると共に、これらを当連合会の構想に反映させた。こうして、今般、当連合会の「行政訴訟法(案)」を策定し、世に問うこととした次第である。


当連合会の案は、上記の視点からの行政訴訟改革案として多くの批判に耐えうるものと信じるが、本法案をもとに多くの国民的議論が行われ、より一層国民の権利救済に役立つ行政訴訟制度が実現することを願うものである。当連合会は、これからも引き続きあるべき行政訴訟改革の実現のために全力を尽す所存である。


「行政訴訟法(案)」の骨子

当連合会の「行政訴訟法(案)」は後出のとおりであるが、その主要な改革点は、次のとおりである。


1.行政訴訟制度の目的を明確にする

日弁連案では、行政訴訟制度が(1)国民の権利利益の救済と(2)行政の適法性の確保という2つの目的を持つことを明らかにするとともに(第1条)、裁判所が法律解釈において、国民の権利を包括的且つ実効的に保障することを求める解釈指針を設けた(第5条)。


2. 民事訴訟も自由に提起できるものとする

新しい行政訴訟制度のもとでは、国民は、原則として、自由に民事訴訟と行政訴訟のいずれをも提起することができるものとする(第3条)。


3. 取消訴訟を是正訴訟に改める

新しい行政訴訟制度では、公定力を前提とする取消訴訟を廃止し、これに代るものとして、行政決定の違法の確認と、その是正を求める訴訟として、是正訴訟を設ける(第7条)。違法な行政決定は無効であるから、その確認と是正を求めるのが是正訴訟の基本である。是正訴訟には訴訟類型はなく、判決類型が存在するだけである(第41条)。救済方法のメニューとして、義務づけ判決、違法確認判決、指令判決、結果除去判決など様々な類型を設けた(第45条乃至第51条)。国民は、請求の趣旨においては、是正を求める行政決定を特定すれば足り、求める判決類型を特定することを要しないものとした(第22条)。これにより、従来の取消訴訟中心主義の弊害は除去される。


4. 行政訴訟の対象を拡大する

新しい行政訴訟制度では、争いの対象は、「行政決定」とする。行政決定とは、行政機関等の行う行政処分(行政処分に対する不服申立てが行われた場合における裁決及び一般処分を含む。)、行政立法、行政計画、行政契約、行政指導、事実行為を含むあらゆる行政作用(不作為を含む。)をいう(第6条)。これまでの限定された訴訟対象を大幅に拡大した。


5. 原告適格を拡大する

新しい行政訴訟制度では、行政決定により現実の利益を侵害され又は侵害されるおそれのある者(団体を含む)は、当該行政決定の違法是正を求める訴えを提起することができるものとする(第14条)。これにより、従来非常に狭いと言われてきた原告適格を拡大し、救済の実効性を高めることができる。


6. 出訴期間を廃止する

出訴期間は原則として廃止される。ただし、行政決定の名あて人に対する利益処分の排除を求める場合や行政立法や行政計画に関する是正訴訟については6箇月の出訴期間を設けた(第19条)。なお、行政処分については、被告適格を有する行政主体及び出訴期間の教示を義務づけることとした(第20条)。


7. 審理方法を改善する

審理においては、原則として被告となる行政側に主張立証責任を負わせるとともに(第34条、第35条)、行政側の費用負担で必要な調査を行う調査命令制度(第38条)日本版ディスカバリー制度としての開示命令制度(第39条)を導入することとした。


8. 仮の救済制度を設ける

是正訴訟においては執行停止原則を採用するとともに(第54条)、仮命令、仮差止その他の仮救済の制度を設けることとした(第55条)。


9. 行政立法等に関する特則を設ける

是正訴訟に訴訟類型はないが、行政立法や行政計画を争う場合には、訴訟係属の公示、管轄、事件の併合、判決効等、必要な範囲において特則を設けた(第2章第5節)。


10. 団体訴訟制度を導入する

客観訴訟としての団体訴訟を、消費者保護、文化財保護及び環境保全の分野で導入することとした(第64条)。


11. 国民訴訟を導入する

住民訴訟の国版として、国レベルの財務会計行為の違法を是正するための客観訴訟を導入することとした(第66条)。


12. 弁護士費用の片面的敗訴者負担制度を導入する

行政訴訟は勝訴率が低く、訴え提起の萎縮効果が大きいため、敗訴者負担制度をそのままの形で導入してはならない。行政訴訟は行政決定の違法を審理するものであり、違法な行政決定の是正は公益に資するものであるから、敗訴した被告行政側に、勝訴原告の弁護士費用を負担させる制度を設けることとした(第71条)。


行政訴訟法(案)