個人情報の保護に関する法律案の修正案に対する意見書

2003年1月31日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

第1 意見の趣旨

今国会で提案が予定されている、個人情報の保護に関する法律案についての与党3党修正案は、これらの法案の持つ問題点をなんら解消するものではなく、日弁連の求める法案の抜本的修正には程遠いものであって、日弁連としてはこの修正案にも反対である。


第2 意見の理由

1 個人情報の保護に関する法律案についての与党3党修正案は、次のようなものである。


  1. 法案第4条から8条の基本原則を削除する
  2. 第40条において、報道機関等への情報提供者に対し、主務大臣は関与しないことを明記する。
  3. 第55条において、報道の定義を明記する
  4. 第55条において、第5章の適用除外となる報道機関に個人を含むことを明記する。
  5. 第55条において著述を業として行う者を第5章の適用除外とすることを明記する。

2 日弁連の→「個人情報の保護に関する法律案に対する意見書」(2001年5月9日)(「個人情報保護法意見書」)の要点は次のようなものであった。(詳しくは同意見書を参照されたい。)


  1. この法案は公的部門の規制を先送りし、反面、すべての民間部門を規制対象として厳格な構成要件によらずに両罰規定を含む罰則をおいているもので、個人情報保護の名のもとに民間の情報を国家がコントロールする民間規制法というべききわめて危険性の高い法案であり、抜本的修正がされない限り、これに反対する。
  2. 弁護士、弁護士法人、弁護士会および日弁連も個人情報取扱事業者として、主務大臣(法務大臣)の監督下におかれるが、弁護士に対してはもともと所管の大臣というものはないし、弁護士自治の観点からも容認しがたい。報道機関、学術研究機関、宗教団体、および政治団体と同様、個人情報取扱事業者の適用除外とするか、主務大臣に関する規定の適用外とすべきである。
  3. 公的部門を対象とする法整備が先行すべきで,それ以前に住基ネットが施行されるべきではない。かつ、民間部門については、個人信用情報、医療、電気通信事業、教育等個人情報保護の必要性の高い分野についてその特質に配慮した個別法が制定される必要がある。
    現時点では、公的部門について、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案が提案されているが、その内容が不十分であることは同法案に対する→日弁連の意見書(2002年4月20日)ですでに述べたとおりである。そして、同法律案についても与党3党修正案が示されているが、かかる修正案もなんら日弁連の批判に答えるものになっていない。この点は、日弁連が別途策定した→「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案の修正案に対する意見書」(2003年1月31日)(「行政機関意見書」)に述べたとおりなので、ここでは同意見書に譲る。

3 与党3党修正案は、マスコミや報道関係者からの批判をかわすためにこれらのものへの規制を解除しようとするものであるが、法案全体が弁護士を含むあらゆる事業者に対する情報規制法であるという本質はなんら変わっていない。このように、今般の与党修正案も個人情報保護のための法制としてはきわめて不十分であり、反対せざるを得ない。


4 主務大臣が個人情報の保護の目的名下で個人情報取扱事業者を監督する結果、国家による事業者に対する情報規制法としての性質を持つ事は否定し難く、かかる性質を変えるためには個人情報保護法意見書ですでに述べたとおり、法案において主務大臣が行うこととされている認定個人情報保護団体の認可・監督等の権限を、個人情報保護のために設立された独立行政委員会に行使させることが少なくとも必要である。行政機関意見書において日弁連が提案している第三者機関(「個人情報保護委員会」)が、そのような独立行政委員会として権限を行使するのが適切である。


5 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)については、日弁連は繰り返しその問題性を指摘してきた。同時に進められている行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案についての与党3党修正案とともに、仮に本法案が成立しても、住基ネット施行の前提である「個人情報保護に万全を尽くすための所要の措置」が講じられたとは到底いえない。


よって、今日の状況にふさわしい個人情報保護制度を改めて検討して、提案すべきであり、それまでの間、住基ネットの稼働は停止すべきである。


以上