司法制度改革における証拠収集手続の拡充のための弁護士法第23条の2の改正に関する意見書

2002年11月22日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

意見の趣意

司法制度改革では、司法制度改革審議会意見書において、「民事裁判の充実・迅速化」として、訴えの提起前の時期を含め当事者が早期に証拠を収集するための手段を拡充すべきであるとされ、また、「刑事裁判の充実・迅速化」では、第1回公判期日の前から、十分な争点整理を行ない、明確な審理の計画を立てられるよう、裁判所の主宰による新たな準備手続を創設すべきとされ、充実した争点整理が行なわれるには、証拠開示の拡充が必要であるとされている。よって、裁判所の真実の発見と公正な判断に寄与することが社会的使命である弁護士が、当事者の代理人、あるいは、被疑者・被告人の弁護人として、その職務を遂行する上で、早期に且つ、十分な証拠を収集するための手段としての現行の弁護士法第23条の2の弁護士会照会制度の機能を拡充強化すべきである。


意見の理由

  1. 司法制度改革のなかの「民事裁判の充実・迅速化」「刑事裁判の充実・迅速化」の実現には、弁護士が当事者の代理人あるいは被疑者・被告人の弁護人として、その職務を遂行する上で事実調査及び証拠収集の能力を十分に発揮して、裁判所が行なう真実の発見と公正な判断に寄与することが重要である。このためには、弁護士、弁護士会に与えられた弁護士法第23条の2の弁護士会照会制度の機能を拡充、強化することで、早期に且つ、十分な証拠を収集することができるよう、同制度を実効性ある制度とすることが必要不可欠である。
  2. 弁護士会照会制度は、全国で年間に約6万件と極めて多く利用されており、弁護士の証拠収集方法として一定の役割を果たしてきた事実はあるが、近年、名誉・プライバシーの保護や個人情報保護や企業秘密などを理由に照会に対し、回答しない事例が多く、所得税相続税等の税務申告内容、預貯金の履歴内容、簡保・生保・損保の契約内容、電気・ガス・水道契約者の特定の問題、市区町村の印鑑登録申請等や土地家屋名寄帳の内容、消防署の火災報告書の内容、労働基準監督署の労災事故報告書の内容、原付自転車の登録者名簿の内容などについて、照会に応じない事例は枚挙にいとまがない実情がある。この現状を放置すれば、弁護士及び弁護士会の事実調査能力、証拠収集能力に対する国民の不信は増大し、ひいては基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士、弁護士会に対する信用が失墜する事態を招くことになりかねないし、前記司法制度改革の実現にも、重大な支障が生ずるものと思われる。
  3. 現行の弁護士法第23条の2の弁護士会照会制度では、判例上、照会先には法律上の回答義務があるとされながら、法文上では「弁護士会は(中略)公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。」としか定められておらず、又、照会に応じなくても何らの強制方法がなく、不利益な取扱いもなされないことから、いたずらにこの弁護士会照会制度が無視され、あるいは回答を不当に拒絶する事例が漸増している実情である。ついては、別紙弁護士法第23条の2の改正条文および改正理由のとおり、同条文を改正して弁護士会照会制度の機能を拡充、強化されたく、意見を述べる。

以上

別紙 弁護士法23条の2の改正条文および改正理由