臓器移植法の見直しに関する意見書

2002年10月8日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

現行法は、わが国において、いまだ脳死を人の死とする社会的合意が形成されていないことを踏まえ、自己決定をなし得る者だけが臓器提供を行い得るとする大前提をとっており、この原則は今後も貫かれるべきである。


したがって、自己決定をなし得ない小児について、脳死段階での臓器摘出・移植を認めるべきではない。現時点において脳死を人の死と考える国民の割合が劇的に増加したという社会的事実がない以上、自己決定という大前提を崩し脳死段階での臓器移植を広く認めようとすることは、生命、自由及び幸福追求権(憲法13条)ないしは思想良心の自由(憲法19条)に反する考えであり、とうてい認められない。


さらに移植医療への信頼を構築するためには情報公開が不可欠であり、事前に情報公開される範囲を家族に説明し、その上で臓器提供の同意を得るべきである。


また、法律が施行されてから5年が経過したが、臓器移植実施例についてはそのつど問題点が指摘されており、脳死判定基準を厳格なものにし、施行規則やガイドラインの遵守を徹底させることが必要である。


第1 「小児に対する脳死判定・臓器移植の可否」部分の要旨

1.現時点では、臓器提供者自身の自己決定がなければ脳死段階での臓器移植を認めないという現行法の立法事実に変化は生じていない。したがって、15歳未満の小児に限り、提供者本人の意思を要求せずに脳死段階での臓器摘出・提供を認めようとすることは許されない。


2.本人が脳死に至る前に臓器提供を拒否する旨意思表示していない場合には、臓器提供の意思があった(自己決定がなされていた)ものとみなして広く臓器摘出・移植を認めようとする意見も存する。しかし、かような意見は「人間は見知らぬ他人に対しても善意を示す資質を持っている存在」であるという理由だけで臓器提供意思を推定するものであり、生命、自由及び幸福追求権・思想良心の自由に反する。


第2 「臓器移植先の指定について」部分の要旨

臓器移植先の指定を定めることは公平性の原則から認められない。


第3 「情報公開と患者のプライバシー保護」部分の要旨

情報公開の時期・範囲は家族等によって決せられるものではなく、あらかじめ確定されるものであり、その時期、範囲を事前に家族に説明し、その上で臓器提供の同意を得るべきである。


第4 「臓器移植に関して今後講じるべき措置」部分の要旨

1.現行法が長年の議論を経て、臓器提供意思に関し、本人の書面による意思と家族の同意を要するとした点を評価すべきである。


2.実施例において脳死判定手続上のミスが続発したことは問題である。
特に無呼吸テストの危険性が軽視されている事態を早急に改めるべきである。脳死の判定基準等については、現行法の定義に合致する厳格な判定基準とすべきである。


3.実施医療機関を厳選するとともにコ-ディネ-タ-の法的位置付けを明確  にし、適正な規制を行うべきである。


4.現行法では自己決定が大前提である以上、ドナ-、レシピエントらの自己決定権が十二分に保障されるよう、医師の説明義務を定めるべきである。


5.中立公正な第三者による検証機関を設けるべきである。