今後のパートタイム労働対策について(意見)

2002年10月21日
日本弁護士連合会


 

本意見書について

(※ 平成14年10月11日付で厚生労働省において募集されました、「今後のパートタイム労働対策」に関する意見募集に対し、日本弁護士連合会では下記のとおり、意見を提出いたしました。)


論点1、パートタイム労働者と正社員との賃金等処遇の均衡を図るための「均衡処遇ルール」の、(1)内容、対象とする範囲等そのあり方について、(2)社会的に普及推進させていく方策について


意見

労働時間の相違に基づく合理的理由のある場合以外は、賃金をはじめとする労働条件において差別的取扱いを禁止し、均等待遇を図るべきである。


対象とされる労働条件は、賃金のみでなく、賞与、諸手当、退職金、昇給、教育訓練、福利厚生、母性保護など労働条件全般を対象とし、特に賃金等金銭に関わる部分は、同一または類似の業務を行う正社員との待遇の違いが、労働時間の比例によるものに限られるよう、均等待遇の原則を法律で明文化すべきである。


また、「残業、配転、転勤など」を理由とする「拘束性」の違いを格差の合理的理由としないようにすべきであり、厚生労働省の指針でその旨定めるべきである。


理由

(1)パートタイム労働者に対する差別を是正し、パートタイム労働者の権利を確立するため、当連合会は、均等待遇原則を法制化することが必要であるとの意見を繰り返し表明してきた。


パートタイム労働者は、労働時間が正社員より短いというだけで、同じ労働者であることに何ら違いはない。正社員と同一または類似の業務を行うのであれば、労働時間以外の理由から、異なる取扱いを受けることがあってはならない。これは賃金以外の労働条件全般にわたって言えることである。


全体の労働時間が短いからといって、すなわちパートタイムだからといって、同一単位時間における労働の評価が、当然に低くなるというのは、何ら合理的な理由のないことである。業務の内容が違うことや、熟練度が違うことは、賃金格差の理由になりうるが、経験を積んだ能力の高いパートタイム労働者が、新人の正社員よりもずっと低い賃金しか得られないのは、明らかに不当な差別である。そのような社会実態がこれまで放置されていた現状は、早急に改められるべきである。


不当に安い賃金は法的な問題であり、事業主の努力や配慮、または行政指導にのみ委ねられるべきことではなく、法的に処理されるべきであり、少なくとも均等待遇の原則は法制化されるべきである。


また、「残業、配転、転勤など」を理由とする「拘束性」の違いを格差の合理的理由とすべきでない。


このような拘束性の違いは、その事実に対して個々に残業代(その部分に関する割増賃金)や転勤手当などを支払って対応するものである。例えば、残業ができるかどうかで、同一労働への評価(対価)が変わってくるのは、同一労働同一賃金の原則に反しており、合理的とは言えない。


さらに、拘束に対応できる労働者とそれ以外の労働者というように、労働者がグループ分けされると、子供の監護等家族に関する負担を現実に背負っている多くの女性は拘束に対応できないから、結果として、女性労働の価値を不当に低く評価するということにつながりかねない。


(2)社会的な普及推進は、法律で原則を掲げることにより、図られるものと考える。


1993年に制定された現行パートタイム労働法は、事業主の努力に期待したものの、パートタイム労働者と正社員の労働条件格差は縮小していない。それどころか、労働条件の悪いパートタイム労働者が増加し、正社員が減少している。このような現在の社会情勢に鑑みれば、少なくとも均等待遇原則については、法制化すべきである。

論点2、企業、労働者双方のニーズに応じた柔軟な雇用システムを構築するため、(1)正社員とパートタイム労働者との行き来ができる仕組みを社会的に普及させていく上で、「短時間正社員制度」を政策的に広げていくことについて、(2)パートタイム労働者の能力開発、就業支援を図ることについて


正社員とパートタイム労働者との行き来ができる仕組みは必要であるが、「短時間正社員制度」が、正社員の労働条件の引き下げや、パートタイム労働者の労働条件が低いまま固定化されることにつながらないか、慎重に検討する必要がある

 


論点3、パートタイム労働者の就業に影響を及ぼしているその他の問題(税制、社会保険制度など)について


意見

配偶者控除・配偶者特別控除に関して、個人単位の課税制度を創設し、基礎控除額を生活保護基準の水準まで大幅に引き上げること等を前提条件として、廃止に向けての積極的な政策を図るべきである。


理由

なぜなら、両控除制度は夫婦のうち一方配偶者のみが主たる稼ぎ手である世帯を社会の基本として優遇する制度であり、男女の活動に対する中立性に反している。


また現実問題として、パートタイム労働者の37.6%が就労調整をしており、その大多数が年収90万円から100万円の収入帯にあることからすると、配偶者控除・配偶者特別控除による非課税枠の存在がパートタイム労働者の就労に大きな影響を与えていることがわかる。


そして、パートタイム労働者の約77%が女性であることからすれば、これらの制度が有配偶女性の就労を抑制していると言えよう。


しかし単に両制度を廃止するのでは、大幅な増税につながるものであるから、両控除制度の廃止と同時に、現実の担税力に配慮をした基礎控除額の大幅増額をする必要がある。


そもそも基礎控除とは、課税最低限を定めるものであり,基礎控除額以下の所得では租税を負担する能力がないものであるとされる一方で、課税される場合にも最低生活費への課税を回避するという側面をもつ。そうであれば、課税最低限とは、生活保護法にいう生活扶助基準にまで引き上げるべきである。


よって、配偶者控除・配偶者特別控除を廃止し、同時に課税最低限の制度である基礎控除額をこれに見合う形で増額することが求められる。


以上