人種差別撤廃条約に関する第1・2回日本政府報告書に対する日弁連レポート

本意見書について

第1部 総論

1. 人種差別禁止のための国内法制度

(1) 差別禁止法の不存在

結論


人種差別を禁止するための法律が日本に存在せず、また、法律を補うような体系的な人種差別禁止政策が存在しない日本の現状は、条約2条1項に違反する。

(2) 「合理的差別」論による差別禁止の潜脱

結論


憲法の差別禁止に対して、裁判所や政府は「合理的差別」は禁止されていないとの解釈論を持っているが、内容や基準の不明確な「合理的差別」論を条約における人種差別禁止に適用することは、条約1条1項、2条1項、5条及び6条に違反する。

(3) 私人間差別の効果的救済措置の不存在

結論


私人間の差別行為に対しては、そのような差別行為を捜査し、処罰し、被害者を救済するための法律を整備すべきである。
2. 人種差別禁止条約の保護対象となる集団

(1) 被差別部落

結論


日本に存在する「部落出身者」に対する差別は、条約1条1項に言う「世系」に基づく差別であり、かかる差別に関する日本政府の条約上の義務の履行条項が審査さはれるべきである。

(2) その他の報告されていない少数者に対する差別

結論


日本政府報告において報告されていない、在日台湾人、中国からの帰国者、中南米から帰国した日系外国人などの少数者に対する差別に関する日本政府の条約上の義務の履行条項が審査されるべきである。
3. 人種差別的表現、煽動、暴力の規制

(1) 人種差別的暴力行為に対する処罰の必要性

結論


日本政府は、条約第4条の留保のもとでも、憲法の保障する表現の自由及び集会・結社の自由を侵害しない限度で、人種差別的暴力行為を処罰するための立法を行うなど、条約4条の義務を履行するべきである。

(2) 公務員の差別的表現への規制や処罰制度の不存在

結論


条約2条1(a)及び4条の義務を履行するため、日本政府は、公務員がその職務に関連してまたは公務員たる資格において行う、人種差別的表現、人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布、人種差別の煽動、その他あらゆる人種差別行為を禁止し、処罰するための法律の必要性につき、今後検討が必要である。
4. 人権侵害の救済措置

(1) 司法機関における救済措置

結論


私人間における人種差別の被害者が、司法機関を通じて効果的かつ確実に救済を受けることを可能にするために、あらゆる人種差別行為は無効なものとして排除されること、ならびに人種差別行為は不法行為に該当し損害賠償の対象となることを確認する立法措置を取るべきである。

(2) 人種差別に対する調査、救済、教育を行う国内人権機関の必要性

結論


人種差別に対する調査、救済、教育を通じて、人種差別に対する効果的な防止と救済とを実施するための国内人権機関が設置されるべきである。
5. 人権教育

(1) 学校教育

結論


日本政府は、人権教育を系統だったやり方で学校カリキュラムに導入するための迅速かつ効果的な措置をとっていない。これは、条約第7条に違反する。


(2) 特定職業従事者に対する人権教育

結論


  1. 日本政府は、人権の実現に影響を与える特別な地位にある人々(特定職業従事者)、特に、裁判官、検察官、行政官及び法執行官に対する人権教育を実施していない。これは、条約第7条及び一般的勧告XIIIに違反する。
  2. 日本政府は、条約第7条及び一般的勧告XIIIのもとでの義務を果たすため、国連人権高等弁務官事務所が作成した「プロフェッショナル・トレーニング・マニュアル」の使用等、利用可能な手段を最大限に用いて、特定職業従事者に対する人権教育の「迅速かつ効果的な」実施のための行動をとるべきである。

(3) 人権教育に関する「国内行動計画」と「人権擁護推進審議会」の答申

結論


国連の「人権教育のための国連10年行動計画」に基づき日本政府が発表した「国内行動計画」や人権擁護推進審議会の「答申」においては、条約第7条を具現する「迅速かつ効果的な措置」が具体的に規定されていない。日本政府は、学校カリキュラムや特定職業従事者に対する研修をはじめとする人権教育のプログラムの策定及び実施の措置を早急に取るべきである。

第2部 定住外国人に関する諸問題

1. 在日韓国・朝鮮人の外国人登録上の国籍欄の表示

結論


日本政府は、在日韓国・朝鮮人の外国人登録上の国籍欄の表示を、現在の「韓国」と「朝鮮」に分けて記載することを廃止し、統一表示にすべきである。
2. 国及び地方の公の当局及び機関による差別の禁止

結論


条約第2条1項(a)及び4条(c)の義務を履行するため、日本政府は、公務員による、人種差別的表現、人種的優越または憎悪に基づくあらゆる思想の流布、人種差別の扇動、その他あらゆる人種差別行為を禁止し、処罰するための法律を制定すべきである。
3. 朝鮮人学校女子学生に対する差別言辞・言動・暴行

「第9部 女性に対する複合差別の問題」において、言及する。


4. 参政権

結論


日本政府は、在日韓国・朝鮮人に対して、その地域住民としての実体から、少なくとも地方参政権(地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権並びに被選挙権)を行使するための地位を付与すべきである。
5. 公務就業権

結論


日本政府は、公務員の任用につき、当該公務が公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わるものかどうかという曖昧な基準によって在日韓国・朝鮮人の公務就任を排斥する取扱いを直ちに廃止する措置をとるべきである。
6. 外国人登録証の常時携帯義務

結論


永住外国人である在日韓国・朝鮮人に対して外国人登録証明書の常時携帯を義務づけること及びこの違反に行政罰を科すことは、第5条(d)(i)(移動の自由)に反する。日本政府は直ちにこの制度を廃止すべきである。
7. 再入国許可制度の問題点(第5条(d)(ii))

結論


出入国管理及び難民認定法26条による再入国許可制度の運用にあたり、永住資格を持つ在日韓国・朝鮮人の出国の自由及び自国に戻る権利を侵害してはならない。
8. 国籍についての権利

結論


在日韓国・朝鮮人等の旧植民地出身者は、サンフランシスコ講和条約の発効と同時に日本国籍を喪失した扱いとなっているが、日本政府は、彼らについて日本国籍選択の機会を与えることは検討すべき課題である。
9. 朝鮮学校の資格問題(第5条(e)(v))

結論


日本政府は、朝鮮学校の在学生・卒業生に対し、これに相応する日本の小中高校、大学の在学・卒業資格を認めていないが、これは条約5条(e)(ⅴ)に違反する差別であり、かかる差別的取扱いは直ちに是正されるべきである。
10. 朝鮮学校に対する財政援助の問題

結論


日本政府は、民族教育を実施する朝鮮学校に対しても財政的援助を行う措置をとるべきである。
11. 公立学校における民族学級の制度的・組織的取組

結論


日本政府は、在日韓国・朝鮮人を対象とした公立学校における民族学級の設置・維持について制度的・組織的に取組み、かつ民族教育を施す教師の身分保障を明確にする措置を講ずるべきである。
12. 国民年金制度

結論


在日韓国・朝鮮人高齢者(1926年1月1日以前に生まれた人達)及び同障害者(1982年1月1日時点で障害のあった20歳以上の人達)が国民年金に加入できず、老齢福祉年金・障害基礎年金(の障害福祉年金引継ぎ給付分)支給対象とならないことは、条約第5条(e)(iv)に反し憲法にも抵触するおそれがあるので、日本政府は上記の者にも上記年金が支給されるよう、国民年金法に関する昭和56年法律第86号附則5項及び昭和60年法律第34号附則25条1項、32条1項等の改正等を実施する措置をとるべきである。
13. 私人間における差別の禁止

結論


私人間の差別行為に対しては、その差別行為を捜査し、処罰し、被害者を救済するための法律を整備すべきである。具体的には、条約の規定に沿ってあらゆる私的差別行為を法律で禁止するとともに、違反者に対しては、是正勧告、命令、罰金などの制裁措置を適用し、また、アファーマティブアクションの必要性を認めた条約2条2項にならって、結果としての平等を実現するための積極的措置を設けることも必要である。
14. 在日台湾人問題

結論


日本政府は、在日台湾人についてまったく報告していないが、日本政府報告書の外国人登録者数の推移の項の「中国27万人」(1998年)の中には日本の旧植民地であった台湾出身者およそ13万人が従前から在留しており、これらの人達は、在日韓国・朝鮮人と同じ問題状況下にある。

第3部 来日外国人(New Comer)問題

1. 在日外国人一般

(1) 2条

(ア) 在日外国人の人権総論

結論


外国人の基本的人権を原則として保障すべきであり、日本政府は、外国人に対して、人権の行使と認められる行為を理由にした不利益を、課してはならない。

(イ) 刑事手続き上の差別

結論


刑事手続上、在日米軍関係者とその他の異民族とを差別せず、被疑者の母語で記載した調書を作成することを認めるべきである。仮に通訳の確保等の理由により被疑者の母語による調書の作成ができない場合は、被疑者が「誤りがない」と確認した内容を録音その他で残すべきである。

(2) 私人間における差別の禁止(2条1項d)

結論


子どもの教育について、児童の父母、児童の文化的同一性、言語および価値観、児童の居住国および出身国の国民的価値ならびに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること、またすべての人民の間の、種族間、国民的および宗教的集団の間の並びに先住民である者の間の理解、平和、寛容、両性の平等および友好の精神に従い、自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させ、母語、民族的価値観の尊重など外国人のアイデンティティを教育の場において保障し、少数者と多数者の共存のための教育を保障するべきである。


政府は、民間不動産仲介業者に対し、入居差別の禁止について業者および業者団体に対し指導教育を行うべきである。また政府・地方公共団体は、公社が外国人入居者の保証人となる制度を主とする、入居支援制度を設けるべきである。


その他、政府・地方公共団体は、和人による外国人排斥感情および入店差別・入居差別・学校でのいじめなどの差別を撤廃して人種間の理解を促進する政策を、あらゆる適切な手段により遂行するべきである。

(3) 4条

結論


警察庁などの政府機関、東京都知事・小樽市他の地方公共団体機関は、外国人による犯罪の急増やその凶悪性を強調し、日本人が外国人を危険視する意識を不必要に煽り、人種差別を助長しまたは扇動する発表をやめるべきである。

(4) 5条

A. 法律扶助

結論


警察庁などの政府機関、東京都知事・小樽市他の地方公共団体機関は、外国人による犯罪の急増やその凶悪性を強調し、日本人が外国人を危険視する意識を不必要に煽り、人種差別を助長しまたは扇動する発表をやめるべきである。

B. 刑事手続の通訳保障

結論


国選弁護制度の通訳費用の減額を元に戻し、刑事弁護通訳の保障を後退させてはならない。

C. 行政不服審査手続

結論


行政庁は、国籍に関わらず、行政不服審査法に基づく不服申し立て資格があることを認め、それに沿った運用をするべきである。

D. 住宅についての権利(5条eiii)

結論


住宅金融公庫は、国籍による制限を撤廃するべきである。

E. 社会保障についての権利(5条eiv)

結論


政府・公共団体は、社会保障について、国籍に関わらず享受を認めるべきである。

F. 災害時の安全

結論


地方公共団体特に東京都は、災害時の救助・保護活動において、不法滞在・不法入国外国人も含めて、人種・民族・国籍による差別をしてはならない。

第4部 難民

1. 2条

(1) 出身国によって、難民の認定において差別を行っている疑い

結論


難民について、出身国による差別なく、公正に認定を行うべきであり、認定過程の公正さを担保するために、認定処分および認定をしない処分について、判断理由の詳細な開示をするべきである。

(2) 出身国による、定住促進施策上の差別

結論


難民について、出身国の如何に関わらず、日本がインドシナ難民に対して行っているのと同水準の定住促進策を施すべきである。

(3) 入居差別など

結論


政府・地方公共団体は、和人による、難民を含む外国人排斥感情および入店差別・入居差別・学校でのいじめなどの差別を撤廃して人種間の理解を促進する政策を、あらゆる適切な手段により遂行するべきである。

第5部 部落問題

結論


日本における部落問題は、我が国における典型的、深刻なマイノリティに対する差別問題であり、放置することはできない。部落出身者に対する差別問題が依然解消しているとは言えない現状に照らし、日本政府は、差別解消のための努力に引続き取組むべきである。

第6部 アイヌ問題

結論


アイヌ民族は、日本における先住民族であり、日本における民族的マイノリティであるので、日本政府は、明確にアイヌ民族の先住権を認めたうえで、その権利保護のために必要かつ適切な措置を講ずるべきである。

第7部 アメラジアン問題

1. 国籍取得の問題

結論


アメラジアンの子らの日本国籍取得手続の運用を改め、国籍法に定める国籍留保届出期間経過後の救済措置の運用にあたっては、親権者一方の届出による国籍取得を認めるべきである。
2. 子の養育費の問題

結論


日本政府は、扶養義務を負う米国人父が本国に在住しているアメラジアンの子の養育費の取立てを容易にするため、米国との間で二国間協定を締結すべきである。
3. 教育を受ける権利の問題

結論

日本政府は、アメラジアンの子どもたちに対して、自己の両親いずれの文化をも享有できるような多文化教育を、学校教育の中で保障する措置をとるべきである。

第8部 刑事施設等における問題

結論


施設職員と外国人受刑者の意思疎通が困難な状況下においては、相互誤解から感情的対立、相互不信、人種的偏見が表に出やすい状態である。にもかかわらず、刑事施設の職員に対する人種差別撤廃条約第7条による教育は組織的には一切行われておらず、また人種差別的言動を行った職員に対する行政処分、行政罰、刑事罰を課した事例は全く知られておらず、全く処分が行われていない可能性が大である。これらの状況は、条約第7条に違反し、又同第4条(c)に違反しているおそれがある。

第9部 女性に対する複合差別の問題

1. 朝鮮人学校女子生徒に対する差別

結論


朝鮮人学校生徒に対する嫌がらせ事件の例が示すように、わが国においては、ともすると民族差別意識に女性に対する差別意識が複合的に付加され、とりわけ女性が差別意識に基づく攻撃・人権侵害の対象となりやすい。日本政府は、このような点に格別の配慮を払い、日頃から、民族差別をなくすための啓発・教育活動に取組むとともに、併せて、男女差別意識をなくすための啓発・教育活動にも重点的に取組むべきである。 <
2. 国際結婚の外国人配偶者女性

結論


日本政府及び地方公共団体は、斡旋の主体が行政であるか民間であるかを問わず、日本人男性と主にアジア人女性との間の国際結婚が、「人身売買」に等しいとの批判にもかかわらず、わが国における一つの結婚の形態として定着し、現にこのような結婚による外国人配偶者女性がわが国で多数生活している実態を踏まえ、既に日本人と結婚して来日し、日本で生活している外国人配偶者女性に対し、最上地域が実践しているような支援のための活動、とりわけ日本語教育、異文化の相互理解のための活動、外国人配偶者女性の法的地位・権利に関する情報提供活動を推進すべきである。
3. 国際的人身売買の外国人女性被害者の問題

結論


日本政府は、国際的人身売買の外国人女性被害者の置かれた実態に照らし、早急に以下のとおりの措置を取るべきである。


(1) 国内関係官庁(警察、入国管理局、厚生省、都道府県)は人身売買、売買春、強姦等の人権侵害を受ける可能性のある外国人女性のために、十分な緊急避難施設を設け、その国の自国語で、その施設の連絡先を知らせること。

(2) 警察、入国管理局等の摘発官庁は背景の暴力団やブローカー等の組織の解明・摘発に力を注ぐこと。

(3) NGOとの協力を行い、これに対する財政援助をすること。

(4) 国際的人身売買の被害者を含む非定住外国人の緊急医療について生活保護法に基づく医療費の支給扶助を実現すること。