「公正取引委員会の審査及び審判に関する規則」改正案(原案)等に関する意見書

2001(平成13)年11月20日
日本弁護士連合会


当連合会は公益的視点に立って、平成13年9月26日付公表に係る「公正取引委員会の審査及び審判に関する規則」改正案(「原案」)等を検討し、以下の通り意見を提出する。


1. 検討の視点

政府の目標である市場主義経済、自己責任原則、事後チェック型行政への転換を意識しつつ、本年6月の司法制度改革審議会の答申において議論された視座を反映し、独占禁止法違反行為についての審理・審判手続の改善を行おうとすると、可能な限り当事者主義(職権主義の反対概念としての)、准司法手続としての公正性・透明性の確保、法律の遵守(コンプライアンス)等を重視した制度づくりがなされるべきである。


なお、「准司法手続」としての審判手続という捉え方自体に対して議論があるようであるが、法第85条による東京高等裁判所の専属管轄権を考慮すると、公正取引委員会の審判は事実上の第一審手続として機能しており、法第80条・第81条は委員会の審決に事実認定の実質的な最終決定権限を付与していることからしても、審判手続は可能な限り准司法手続として捉えられるべきである。以下各論を述べる。


2. 規則の改正案(原案)についての各論

(1) 第15条第4項 留置調書の写しの交付について

法46条第1項の処分は強制処分であり、また犯罪捜査の為ではない(同条4項)ことも考慮すると、15条4項の規定は、所有者・差出人の請求がなくても、留置物の目録の写しを交付する旨の規定に改めるべきである。実務では法46条第1項4号の立入・検査の際、その場で同3号の提出命令を出しているようであるが、その場合の当事者間では留置物の目録は明らかであろう。しかし本規定は全ての状況に適用されるルールである以上、目録の写しは当然に交付することが基本であるべきである。


(2) 第19条第1項 審査官の処分に対する異議の申立てについて

異議の申立を文書に限定することなく、口頭又は文書で、とすべきである。関係者が大企業等の場合には、文書による異議に限定することも是認できる。しかしほとんどの市民は文書化することに極めて不慣れである。規則や法律をつくる時の視座として、どのレベルに合わせるかは大きな価値判断を伴う問題であるが、私有財産への侵害としての強制処分である以上、原状回復の為の手続はできる限り市民にとって簡易であるべきである。


(3) 第19条第2項 処分の撤回等の通知及び3項の申立の却下について

処分の撤回等には理由を付すべきである。私有財産への侵害としての強制処分をしておいて、撤回等するのに理由を付さないのは妥当でない。19条3項の異議の申立を却下したときの通知にも理由を付すべきである。


なお、実務におけるこの種の異議申立事案の少なさは、理由を付すべきとの基本ルールを崩す理由とはならない。また、理由の内容も市民が読んで理解できる程度の記載とすべきである。


(4) 第23条第1項2号 課徴金納付命令についての意見等提出期限について

意見等の提出期限として最低30日の期限を規則上明文で与えるべきである。実務の運用で妥当に処理できるという反論があろうが、手続の透明化や運用の明文化を図る観点から、規則で期限を明文化すべきである。


実務は2週間で運用されているようであるが、関係者や弁護士等との協議の必要性、起案や調査の時間を考えると2週間では不十分である。


(5) 第33条第2項及び第78条 職員の独立性について

審判の事務を行う職員には、可能な限り、裁判所法60条第5項の書記官の独立性に匹敵するような保証を与え、記録の正確性についての責任を持たせるべきである。手続の正確性・厳格性を保つ為には、審判という准司法手続に関する限り、職員の審判官からの独立性を確保する必要がある。


(6) 第44条 釈明権・発問権について

1項の審判期日外に発問し立証を促すことは優れた手続である。ドイツ民事訴訟実務では多用されており、これが早い裁判の要因となっている。


審判官の心証形成は、審判期日に出された証拠によるのが基本である。しかし審判期日を充実あらしめる為、期日外で発問し、立証を促すことは集中審理の観点からして望ましい。


4項の通知であるが、全ての発問とこれに基づくやりとりは、その内容を対立当事者に全て通知する制度にすべきであり、「攻撃または防御の方法に重要な変更を生じ得る事項」という限定はすべきではない。また、審判官が当事者と面会する場合にも、両当事者立会いのもとでのみ面会を許すべきである。従って、釈明権・発問権の規定の中に、かかる面会についてのルールも規定すべきである。


(7) 第76条 参考人等の取調べ方法について

糾問的色彩を残す現行規則をより当事者主義に近づけた点(2項)は正しい方向と評価できる。


(8) 第78条~第80条 審判調書等について

技術革新によって生まれた機器を多用することによって、審判過程の正確な記録保存をすべきである。テープやCDがその手段として考えられる。いつでも過去のやりとりを正確に再現できるという環境がつくりだす当事者の意識は、審判過程の一層の緊張感を生み、手続を促進する。また、透明性の確保にとっても重要である。第78条はこれらについての工夫は見られない。例えば全ての審判過程をテープやCDに録音し、職員がこれを保存し、当事者の申立があればいつでも一部又は全部を調書化又は複製して渡すことが考えられる(複製の場合、費用はほとんどかからない)。また、このことは審判官が交替する場合などに従前の審理を実質的に無駄にしない機能も持つ。なお、これは準備手続(第45条)においても一層重要である。準備手続では簡略化されたやりとりの中、心証形成され得る証拠が非公式という名の下に事実上提出されることもあるからである。


審判期日や準備手続期日で行われた審判官と当事者代理人間のやりとりは、争点の絞り込み、請求や主張の釈明、証拠準備日程の約束、事実関係の明確化、法律調査の必要性等々審判に携わる者の間に醸成される信義に基づいて進行するものであるが、要旨のみで微妙なやりとりが再現不能であるとなると、期日を重ねる毎に、審判手続過程で事実上または明瞭に約束された当事者の審判手続の将来に向けての信義は無視されがちになる。また、審理の長期化にもつながる。実務では全てテープ録音されているようであるが、これを制度化し、双方が当然にいつでも利用できるようにすべきである。


(9) 第82条 審決案の作成について

審決案は、審判手続終結後30日以内に作成されることとすべきである(現行規則どおりでよいと考える)。期間延長が必要な場合は、委員会の許可を得て延期できる、との規定を置けば十分である。審判は市民を不安な状態に置くことであり、速やかに結論を出すべきである。


内部的規律として30日を目途としているようであるが、国と国民の間のルールとして現行規則どおり明文化しておくべきである。


3. 景品表示法第10条第6項に規定する審判手続に関する規則改正案(原案)の各論

第15条で準用する審査・審判規則改正案(原案)の第4章第2節ないし第5節の限度で、二で述べたところを参照されたい。


以上