高齢者世帯向け賃貸住宅制度と終身借家契約に関する意見

2001年2月2日
日本弁護士連合会


 

1. 終身建物賃貸借契約について


(1) 終身建物賃貸借制度創設について


都道府県知事の事業許可を受けた高齢者向け賃貸住宅に限って、借家権の相続性を否定する終身建物賃貸借契約の締結を認めることは、圧倒的に少ない高齢者世帯向けのバリアフリー化された民間賃貸住宅の供給促進にも、高齢者側の同じ場所に住み続けたいという居住の安定の要求にも合致するものである。


現在、在宅介護を基本とする介護保険制度が発足し、介護しやすい住宅の必要性はますます増加してもいる。そのために、事業者に対し建築費等の補助や家賃助成などの供給促進のための誘導策をとるのも有効な政策である。


反面、公的な援助を受けた高齢者世帯向け賃貸住宅であるからこそ、それを必要とする高齢者世帯のみが入居できるように、例外的に借家権の相続を認めないことにも、一般の理解が得られやすい。


(2) 家賃を一括前払いする場合の清算について


終身契約なので、家賃を一括前払いする例が想定されるが、予想外の短期間で借家人が死亡してしまった場合や中途解約により賃貸借関係が終了するときには、一括払いの家賃を清算する必要があるのではなかろうか。家賃の清算を要する場合のルール化及び清算金返還の担保となるものがのぞまれる。


(3) 中途解約について


借家人側からは、借地借家法第38条5項と同様の要件の下に中途解約を認めるべきである。これは期間付死亡時終了建物賃貸借においても同様である。


問題は、認可事業者(賃貸人)の中途解約をどのように定めるかである。


法律案要綱によれば、「許可住宅の老朽等の事由により、当該許可住宅を適切な規模、構造及び設備を有する賃貸住宅として維持し、又は当該賃貸住宅に回復するのに過分の費用を要するに至ったとき等の場合に限り」都道府県知事の承認を受けて許可事業者は解約の申し入れができることになっている。これは、知事の承認により、普通建物賃貸借契約では解約申し入れに要求される正当事由のようなものを排除する意味を有すると理解されるが、これらが妥当であるか否かは検討されなければならない。ことに「老朽等の事由により・・適切な規模、構造及び設備を有する賃貸住宅として維持し・・」などは、適正な維持管理によってかなりの部分が防げるものであり、事業認可にあたって注意を払われるべき事項であって、安易な解約は高齢者に予測外の不安を生じかねない。


終身建物賃貸借契約を、賃貸人側から解約申し入れするのであるから、それは普通建物賃貸借契約の正当事由よりもっと限定された事由でなければならないと考える。確かに、密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律や公営住宅法には、普通建物賃貸借契約について特定の場合に、建設大臣などの承認等を要件として、更新拒絶や解約申し入れに正当事由を不要としている例がないわけではない。しかしこれらには、事業の公益的意義があるばかりでなく、借家人に対する通知や説明会、明渡猶予期間、仮住居の手配、再入居の保証、移転料、新家賃に対する軽減措置などのさまざまの借家人保護の規定を用意している。終身建物賃貸借契約においても、同様の借家人保護の規定は必要ではなかろうか。


(4) 同居配偶者等の使用承継について


賃借人と同居していた配偶者については、高齢者でなくても使用承継できるとすることは、評価できる。同居していた親族について60歳以上の高齢者に限定することも、公的援助を受けた高齢者向け賃貸住宅であるから理解できるが、同居者が使用承継できない場合には、十分な明け渡し猶予期間を設けるべきであろう。


また、使用承継ができる場合についても、賃借人の死亡を知った後1月以内に居住の継続を申出なければならないというのは余りに短期間すぎるのではなかろうか。借地借家法第36条は、居住の用に供する建物の賃借人が相続人なくして死亡した場合、事実上の夫婦等と同様の関係にあった同居者が、賃借人が相続人なしに死亡したことを知った後1月以内に反対の意志を表示しない限り、その同居者が賃借人の権利義務を承継するとあり、1月とする例がないわけではない。しかし、「相続人なしに死亡したことを知ること」と「死亡したことを知ること」とは決定的に異なる。相続人の存否を調査するには、数か月を要することもままあるのであり、同じように知ったときから1月以内といっても、同居者の猶予期間には相当な違いがあるのである。もっとこの期間を延長するか、借地借家法36条のように、同居者が、反対の意思を表示しない限り、承継するとしてはどうであろうか。


また、既婚者が終身建物賃貸借契約を締結する場合には、夫婦が共同して賃借人となることを原則とするような工夫も必要である。


2. 期間付死亡時終了建物賃貸借契約の締結も認めることについて


このような契約類型のニーズが、賃貸人にとってどのくらい存在するかは、疑問がないわけではないが、高齢者の居住の安定確保も目的とするのであれば、最低期間の設定が必要なのではなかろうか。このように高齢者向け賃貸住宅に、数種の借家の類型を認めるのであるならば、その前提として借家人が明確に理解できる説明なり、契約書の工夫なりが必要となろう。


3.高齢者の居住の安定を図るためには、福祉との連携が必要不可欠である。これを充実しない限り、せっかくの終身建物賃貸借制度の創設も、高齢者や賃貸人の安心につながらず、バリアフリー化された民間借家の増加に役立たないおそれがある。また同時に、低所得高齢者世帯も良質な高齢者向け借家に入居できるような諸施策の検討も望まれる。


以上