商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案に対する意見書

2001年6月16日
日本弁護士連合会


 

はじめに

20世紀末より21世紀初頭におけるわが国をとりまく経済・社会・法律分野における激動は瞬時もゆるがせにできない状況である。


米国を中心とする国際的競争の激化は、各国間はもとより、国境を越えた地球規模における企業群間の弱肉強食の時代に突入し、各国の企業法制の改正並びに新立法の要請は絶え間なく継続するところである。


かかる状況下において、わが国の企業法の中核である商法は平成時代に入って、2年、5年、6年、9年、11年、12年にそれぞれ必要不可欠な部分的改正がなされてきた。


当連合会は各改正、各新法の立案の段階において意見発表の可能な限り、弁護士会の社会的立場に基づき、慎重な会内合意の下に意見書を提出してきた。


今年4月18日法務省民事局参事官室より、「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」及び同「解説」が公表された(以下それぞれ「中間試案」「解説」という)。


この中間試案は改正前の「法制審議会商法部会当時の平成12年9月6日、企業間の国際的な競争の激化、コンピュータ・ネットワークの普及、IT革命と呼ばれる情報技術の革新、間接金融から直接金融への移行、新規企業の資金調達の需要の増大等、会社を取り巻く社会経済情勢の変化に対応するため、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の実効性の確保、高度情報化社会への対応、企業の資金調達手段の改善、企業活動の国際化への対応という四つの視点から、会社法制の大幅な見直しのための作業」の開始以来、新法制審議会会社法部会において検討を継続した結果の公表である。


この中間試案は全28項目あり、株式関係、機関関係、計算開示関係・その他というように会社法の最重要部分の広範囲に及んでおり、その公表後の意見紹介の締め切り期限が極めて短期間であったため、充分な検討は到底なし得ないところであるが、中間試案第五ストックオプションの改善、同第二十四、第二十五、第二十六の株主総会招集通知の電子化等については本年秋の臨時国会に提出が予定されており、その他の部分については平成14年の通常国会に提出が予定されているため急遽分担検討作業を行った。


本中間試案における商法等の改正に際して基本的に考慮しなければならない事項として次の諸点があると考えられるため、これらを基礎として検討した。


第1は、わが国における1999年7月1日現在の株式会社総数は782,278社(総務省統計局)であり、大・中・小会社があり、公開会社、非公開会社、株式譲渡制限のある閉鎖的会社等の種類があり、これらのすべての会社について適用すべき制度の外に、各会社の種類別にその特殊性に応じて適用すべき制度を詳細に整備する必要があること。


第2は、各会社の特殊性、個性をできる限り尊重し、株主権を侵害しないことを担保した上で各会社自治を容認すること。


第3は、企業統治の面においては、取締役会、監査役(会)(ただし、監査役会の代替として監査委員会もありうる)及び監査法人による監査監督機能を強化すべきであること。


第4は、企業経営の機動性、弾力性、迅速性に対処するために現在法規が存在しないにもかかわらず各企業内に一般的に存在する機関が活動していることに鑑み、これらを適正に制度化する法規を整備する必要があること。


第5は、権限の大小と責任の軽重を明確化するとともに、各機関の権限に応じた責任範囲についての法規を詳細に整備すること。


第6は、株主の国際化に伴い、株主総会手続関係を合理化、簡素化することが必要であるが、これを認めるに際し、株主権を害さないように配慮すること。


第7は、会社の計算関係とその開示については、国際化時代に応じた内容とすべきであるが、わが国の特殊性も考慮すべきであること。


第8は、電子化の要請に応ずるため、株主権の行使、公告等を電子化する必要性を容認しつつ、株主、債権者の権利を害さないように配慮すること。


第9は、外国会社については、その責任の所在を日本の会社とできる限り同様の取り扱いをすること。


以上のとおり、本中間試案は極めて多くの改正内容を含んでいるが、各項目毎に意見とその理由を記載して意見を取り纏めた。


目次

  • 1 目次
    • 株式関係
      • 第一 授権株式数に係る制限の緩和及び新株発行規制の見直し
      • 第二 数種の株式
      • 第三 転換株式
      • 第四 種類株主の取締役の選解任権
      • 第五 新株引受権の発行
      • 第六 株券の不発行制度
      • 第七 株券失効制度の創設
      • 第八 所在不明株主の株式売却制度等の創設
    • 会社の機関関係
      • 第九 株主提案権の行使期限の繰上げ等
      • 第十 株主総会等の特別決議の定足数の緩和
      • 第十一 子会社の株式の譲渡等
      • 第十二 株主総会招集手続の簡素化等
      • 第十三 取締役の報酬規制
      • 第十四 経営委員会制度
      • 第十五 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)上の大会社についての社外取締役の選任義務
      • 第十六 商法特例法上の大会社以外の株式会社における会計監査人による監査
      • 第十七 会計監査人の会社に対する責任についての株主代表訴訟
      • 第十八 商法特例法上の大会社の利益処分案等の確定等
      • 第十九 商法特例法上の大会社による監査委員会、指名委員会及び報酬委員会(以下「各種委員会」という。)制度並びに執行役制度の導入
    • 会社の計算・開示関係
      • 第二十 資産評価等に関する規定の方法
      • 第二十一 商法特例法上の大会社についての連結計算書類の導入
      • 第二十二 貸借対照表等の公開
    • その他
      • 第二十三 現物出資、財産引受及び事後設立の目的たる財産の価格の証明
      • 第二十四 会社関係書類の電子化
      • 第二十五 株式会社の公告の電子化等
      • 第二十六 有限会社の公告の電子化等
      • 第二十七 資本減少手続の合理化
      • 第二十八 外国会社

株式関係

第一 授権株式数に係る制限の緩和及び新株発行規制の見直し

  • 一 譲渡制限会社の授権株式数に係る制限の緩和
    • 1 設立時の制限
      社の設立に際して発行する株式の総数は、会社が発行する株式の総数の四分の一を下ることはできないものとする。ただし、株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある会社においては、この限りでないものとする。
    • 2 定款変更時の制限
      会社が発行する株式の総数は、発行済株式の総数の四倍を超えて増加することはできないものとする。ただし、株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある会社においては、この限りでないものとする。

      注1 授権株式数に関する上限規制(発行済株式総数の四倍)一般については、二の2と併せ、そのあり方について、なお検討する。


  • 二 新株発行規制の見直し
    •  株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある場合において、新株を発行するときは、発行することができる株式の額面無額面の別、種類及び数について、第三百四十三条に定める決議がなければならないものとする。ただし、株主に新株の引受権を与える場合は、この限りでないものとする。
    •  株主以外の者に対して、発行済株式の総数の一定の比率(例えば、五分の一)を超える新株を発行するときは、発行することができる株式の額面無額面の別、種類及び数について、第三百四十三条に定める決議がなければならないものとする。
    •  第二百八十条ノ二第三項及び第四項の規定は、1及び2の場合に準用するものとする

      注2 簡易合併、簡易株式交換等の要件の見直しについては、2と併せて、なお検討する。


1.

<意見>

一 1及び2について、結論としては賛成である。


注1において、授権株式数に関する上限一般については、二の2と併せて、なお検討するとされているが、後記のとおり、二の2については、疑問が提起された。


<理由>

株式の譲渡制限がある、いわゆる閉鎖会社においては、新株の発行(=会社の資金需要に対する株主からの資金調達)に関して、第三者に対する割当に関しては、その有利であると否とに関わらず株主総会の特別決議を要するとされているのであるから(商法第280条ノ5ノ2)、資金調達の機動性を考えれば、授権株式数にかかる規制を緩和することは有効であると解される。短期間に段階を踏んで多額の資金需要が発生する事業を行う、しかし、投資リスクが比較的高い事業を行う設立後間もない時期にある会社においては、事業資金は自己資本に頼らざるを得ず、機動的かつ柔軟な増資を重ねるためには、授権資本による規制を緩和することは有効である。閉鎖会社においては、取締役に対する出資者(株主)によるコントロールも、より直接的になることが考えられるから、また、後記の種類株式の発行による株主の権利の差別化や取締役との関係の緊密化(種類株主による取締役の選任解任権)などが図られること、その前提として、事業計画並びに資金需要及び資金調達方法に関する株主間契約(明示であると黙示的なものであると)などがあることなどに鑑みると、閉鎖会社においては、授権資本と発行株式の問題については専ら株主間の合意に委ねてよいと解される。


しかしながら、株式の譲渡制限がない会社については、一般的には、株主間のこのような合意や結束が期待できないから、特に株式を公開した会社(パブリック=公衆から資金調達を行う会社)においては、取締役と各株主との関係は希薄になるから(半面取締役にはパブリックである株主の利益を実現・確保すべき忠実義務が強く発生すると解されるが)、会社の資金調達の必要性に関する枠を設けるという意味で、授権資本と発行する株式数との関係について、一定の規制を置くことはやむを得ないものと解する。その場合でも、注1で触れられるように、授権株式数の上限を発行済み株式数総数の4倍とするのがよいのか、5倍では何故悪いのかなどということは一概には言い切れない。


しかも、後記のとおり、株式の譲渡制限がない会社については、既存の株主の持株比率の維持がどれほど重要な達成すべき究極命題であるのか疑問であり(有利発行でなければ、一応第三者割当はできる)、二の2のような規制が本当に必要であるかは疑問である。このような考えからすれば、譲渡制限がない会社では、取締役会の増資権限に対するコントロールの要は、「有利発行であるか否か」あるいは「著しく不公正な方法による発行であるか否か」に力点がおかれるべきであって、授権株式数による規制はそれよりは比重が軽いものと解される。授権株式数の上限があると言っても、時価発行で第三者割当でなら増資は容易であるし、業績がよければよいほど授権株式数の範囲内で資金調達は可能性が拡大する。しかし、転換社債や転換株式(第三)の発行、新株引受権の発行(第五)等を機動的かつ柔軟に行おうとする場合には、授権株式数の上限による規制が煩わしいという面があるかもしれない。このような意味において、注1で述べられているように、「授権株式数に関する上限規制」一般については、そのあり方について、規制を緩和する方向で検討の余地があると考えられる。


ただし、後記のとおり、「有利発行の条件」として株主総会の特別決議を経る(現行法第280条ノ2第2項)のではなく、「新株の有利発行について見直しを行い、有利発行の決議要件を普通決議にし、他方、正当な理由がなく不公正な価額で発行された場合について、取締役の賠償責任、連帯責任及び正当理由の立証責任を課することによる責任強化」をはかり、「これを新株発行及び新株引受権について、適用及び準用する。」(中間試案第五の十五注7記載の趣旨に関する解説14頁参照)という形での要件の緩和については反対が強かった。即ち、発行条件が有利である場合には特別決議をなお要する(=新株引受権の場合も同様)とする反対論である。この点については、後記中間試案第五の十五注7に関して、さらに言及する。


2.

<意見>

二の1 賛成である。


二の2 このような規制については疑問がある。


二の3 賛成である。


<理由>

上記二の1は現行法(商法第280条ノ5ノ2)と同旨である(解説3頁)。


二の2の規定は、既存株主の持株比率に関する利益保護を配慮するものであるが、譲渡制限のある株式を発行する会社においては、株主以外の者に割り当てる場合には、必ずのとおり特別決議を要するので、その場で、発行済み株式総数の一定比率を超える株式の発行について、その要否や妥当性を判定すればよいと解される。


これに対し、株式の譲渡制限をしていない会社においては、発行条件が公正妥当である場合について、既存株主の持株比率の維持という要請をどこまで貫くことができるのかということが問題である。「株式の譲渡制限をしていない会社」であっても閉鎖性が高い会社というものは実際にはあると思われるが、「譲渡制限」によって所有と支配の関係を固めているわけで、株主間においてそのような結束性が薄い株式の譲渡制限を定めていない会社については、持株比率の維持という所有と支配の関連性の確保に関する法律的要請が少ないものと考えられる。したがって、「発行条件の公正さ」や「発行方法の不公正」という規制のほかに、発行済み株式数に対する一定比率を超える新株発行に関して、さらに規制を加えるべき必要性があるのかは、疑問である。


しかし、上記一末尾においても言及したように、株式の譲渡に制限を置かない会社において、「有利発行に関する決議要件を特別決議ではなく普通決議にする」という案については(解説14頁参照)、反対論が強かった。



第二 数種の株式

  •  会社は、利益若しくは利息の配当、残余財産の分配、利益をもってする株式の消却又は議決権の有無について内容の異なる数種の株式を発行することができるものとする。
  •  一の場合においては、定款で、各種の株式の内容及び数を定めなければならないものとする。ただし、利益の配当について内容の異なる種類の株式の内容のうち配当すべき額については、その算定の方法のみを定めることで足りるものとする。
  •  一の規定により議決権なき種類の株式を発行する場合においては、定款で、その株主が議決権を有することとなる条件又は特定の事項につき議決権を行使することができる旨を定めることができるものとする。
  •  議決権なき種類の株式の総数は、発行済株式総数の二分の一を超えることはできないものとする。
  •  一の場合においては、本法又は定款の定めにより株主総会又は取締役会において決議すべき事項について、定款で、その決議のほかにある種類の株主の総会の決議を要する事項を定めることができるものとする。ただし、左(下記)の事項については、この限りでないものとする。
    •  第二百三十七条第三項及び第二百三十八条の規定による検査役の選任
    •  取締役の選任及び解任
    •  監査役及び会計監査人の解任
    •  株式の譲渡に関する取締役会の承認
    •  会社の清算に関する事項
  • 株主総会に関する規定は、五の総会に準用するものとする。

注1 無議決権株式については、現行の優先配当を条件とするものではなく、定款で議決権を有することとなる条件を定めることができることとし、現行の第二百四十二条は削除するものとする。


注2 種類株主総会を開催することができない事項について、五の各号列記以外のものがあるかについては、なお検討する。


注3 数種の株式を発行した結果として、会社の運営に著しい支障が生じた場合に、あるいは、このような事態が生じることを回避するために、数種の株式の権利内容を一斉に整理する手段を設けるかどうかについては、多数派株主の濫用の危険性も踏まえて、なお検討する。



<意見>及び<理由>

株式の種類に関し、多種のものの発行を容易にすることは、基本的に賛成である。


ただし、「議決権の有無について」内容の異なる株式を発行できるが、およそ、如何なる場合においても永久に議決権を行使することができない無議決権株式なるものは、発行できないと解される。においては、「定款で、その株主が議決権を有することとなる条件又は特定の事項につき議決権を行使することができる旨を定めることができる。」とされているが、どちらかを定めなければならないというべきである。


なお、株式の譲渡について制限がある会社については、種類株式の発行に反対する株主に対し株式の買取請求権を認めこれを法定すべきだという意見(大阪弁護士会)もあった。


賛成である。


定款で各種の株式の内容を定めるのを妥当とする。利益の配当については、確定額や上限額を定めることも可能であろうが、それだけでは足りないから、結局「配当額の算定方法」=算出方法を定めるとする。


賛成である。


上記に関する付記を参照。


反対論もあったが、やむを得ないと解する。


無議決権株式を大量に発行することは、コーポレートガバナンスの観点から妥当でないとの見地から、その上限を発行済み株式総数の2分の1まで引き上げることについては、反対ないし懸念の声も強かった。しかし、資金調達の手段としては、無議決権株(優先株)は社債権に近似するものであり、種類株式の発行に関しては定款で内容を定める(第二の二及び三を参照)のであるから、種類株式の発行を機動的柔軟に行い、資金調達の便宜を図る趣旨からすれば、しかし、株式会社の所有者である株主に関し、過半数に満たない株主についてのみ議決権なきものとする条件で株式を発行することは、やむを得ない線(上限)であると解される


賛成である。


ただし、ほかに「種類株主の拒否権を認めるべきではない事項」があるかについては、なお検討する(注2と同旨)。


賛成である。


種類株主総会の運営などにつき、通常の株主総会と別異に扱う理由はない。



第三 転換株式

  • 一 転換の効力発生
    •  転換は、その請求をした時にその効力を生じるものとする。
    •  第二百二十四条ノ三第一項の期間内に株式の転換の請求があったときは、議決権については、その期間満了の時に転換があったものとみなすものとする。
    •  会社が総会において議決権を行使すべき株主を定めるため第二百二十四条ノ三第一項の規定により定めた一定の日の後に株式の転換の請求があったときは、議決権については、その総会の終結の時に転換があったものとみなすものとする。

注1 現行の第二百二十二条ノ五第三項は削除するものとする。


注2 基準日以降の転換株式及び転換社債の転換等により発行した株式の議決権に関する規定の要否については、なお検討する。


注3 転換株式について、利益又は利息の配当について転換をしたときの属する営業年度又はその前営業年度の終わりにおいて転換があったものとみなすことについては、発行決議において定めることができるようにするものとする。


<意見>

1~3について賛成。


ただし、注2においては、基準日以降の転換株式及び転換社債の転換等により発行した株式の議決権に関する規定については、なお検討するとしているが、上記の中間試案のとおり、議決権を認めず、基準日現在の転換株式としての議決権のみを認めるものと解する(転換社債については、株式に転換されたものとしての議決権を認めない)。


<理由>

(1)

転換株式の効力発生時は、その請求の時を原則とし、ただし、その議決権については、従来株主名簿閉鎖期間中は転換の請求を不可としていた規定(商法第222条ノ5第3項)を削除するものとし、その期間満了の時に転換があったものとみなす(一の2)としている。また、基準日後に転換請求があったときについても、議決権については、その総会の終結時に転換請求があったものとし、したがって、基準日現在の転換株式の議決権をもって株主総会での決議を認める趣旨(一の3)である。


(2)

種類株式の内容の拡大は、資金調達手段の多様化、機動性をはかる目的で規定の整備が求められているものであり、議決権を伴わない株式については社債権者の地位に近似するものである。種類株式が発行される場合、市場の状況に適合した条件での発行が企図されるものであり、また会社の状況の変化に対応して、他の種類の株式への転換(米国では、しかし、いくつかの州法では、優先株もしくは債務証券に転換できる普通株の発行はできないとされているようである)が認められたほうが好都合であり、資金調達の機動性及び柔軟性に資するところから、転換権が付された種類株式は、有用な資金調達の手段となるものと解される。しかもそれら種類株式間の転換がスムーズに行われ、議決権及び配当金受領権について、株式の権利内容が明確であることが要求される。このことからすれば、転換社債に関するものと併せて、その議決権行使に関する規定を明確にしておく必要がある。


注2で「要否については、なお検討する」とされているが、この点については明確な規定を置くべきである。そして、その場合、解説において言及されているように、転換株式についても、転換社債に関する商法第341条ノ16第1項ないしは新株引受権付社債に関する商法第341条ノ18(による第341条ノ16の準用)と同様に解されるべきである。


なお、株主名簿閉鎖期間中又は基準日以後に新株引受権の行使があった場合に関しては、中間試案第五の十五の3において、商法第341条ノ6を準用し、総会において議決権を有しないことを明らかにしている。


(3)

なお、注3のとおり、利益又は利息の配当については、転換の効力発生時について、現行法下で転換株式及び転換社債については定款で定めるものとし、他方で、新株引受権付社債については取締役会で決めることができるとしているものを、すべての場合について、取締役会で決めるべきものとの改正を行う(解説7頁)ことには、賛成である。そもそも利息の支払ないしは利益配当の画一的処理の便宜に関する問題であり、資金調達の条件=発行条件にかかわるものであるため、市場の状況ないし会社の財務状況等からして、取締役会の都度の決定に委ねてよいと解される。


  • 二 一斉転換条項
    •  会社が数種の株式を発行する場合においては、定款で、ある種類の株式を他の種類の株式に転換する旨を定めることができるものとする。この場合においては、定款で、左の事項を定めなければならないものとする。
      • (一) 転換をすべき事由
      • (二) 転換により発行する株式の内容
      • (三) 転換の条件
      • (四) 利益又は利息の配当については、転換をしたときの属する営業年度又はその前営業年度の終わりにおいて転換があったものとみなすこと
    •  1の場合においては、株式申込証又は新株引受権証書に、他の種類の株式に転換する旨及び1の(一)から(三)までに掲げる事項を掲げなければならないものとする。
    •  第二百二十二条ノ二第三項、第二百二十二条ノ三、第二百二十二条ノ七並びに一の2及び3の規定は、1の規定による定款の定めがある株式に準用するものとする。

<意見>

基本的には賛成である。



第四 種類株主の取締役の選解任権

  •  株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあり、かつ、会社が数種の株式を発行している場合においては、第二百五十四条第一項の規定にかかわらず、定款で、ある種類の株主の総会において一人又は数人の取締役を選任することができる旨を定めることができるものとする。この場合において、二以上の種類の株主が共同してその総会により選任することを定めることを妨げないものとする。
  •  一の場合においては、定款で、取締役の総数及び各種類の株主の総会において選任する取締役の数を定めなければならないものとする。
  •  ある種類の株主の総会において選任された取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、第二百五十七条第一項本文の規定にかかわらず、その種類の株主の総会においてのみ解任することができるものとする。ただし、その種類の株式の全部が消却又は転換された場合は、この限りでないものとする。
  •  ある種類の株主の総会において選任された取締役の職務遂行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があるときは、第二百五十七条第三項の規定にかかわらず、六月前より引き続き発行済株式の総数の百分の三以上に当たる株式を有する株主は、その取締役の解任を裁判所に請求することができるものとする。第八十八条の規定は、この場合に準用するものとする。
  •  会社が、定款を変更して株式の譲渡について取締役会の承認を要しないものとしたときは、一の規定により選任された取締役の任期は、第二百五十六条第一項及び第二項の規定にかかわらず、その時に満了したものとみなす。
  •  株主総会に関する規定及び第二百五十六条ノ二の規定は一の総会に、第二百五十七条第一項ただし書の規定は三の規定により解任した取締役に、株主総会に関する規定及び第三百四十五条第二項の規定は三の総会に準用するものとする。

注1 ある種類の株主の総会で選任された取締役の責任については、一般の取締役の責任と同様のものとし、特段の規定を置かないものとする。


注2 取締役の選解任権についてのみ内容の異なる種類の株式を認めるかどうかについては、なお検討する。


<意見>

規定の創設については、時期尚早であるとの見解もあったが、中間試案に賛成する。


<理由>

(1)

株式の譲渡について制限がある会社については、株主間の合意(定款の定め)により、会社支配のあり方と出資の方法、各クラスの株主の利益代表としての取締役という面を強調してよいと解する。ただし、一旦取締役に選任された以上、会社の事業全般に対し基本的な意思決定を行う取締役会のメンバーとして、会社の最善の利益(The best interest of the corporation)達成のためにその意思決定に参画するとともに、会社の業務執行全般に関し監視・監督の責任があるものと解される。したがって、注1の指摘は正当である。


ただし、株式の譲渡制限がない会社においては、特に株式が公開されている会社においては、取締役は、パブリック・インタレスト(公益)としての株主の利益を実現擁護すべき公的な責任と専門性が要求されていると解されるから、また、そのような会社における数種の株式の発行は、資金調達の便宜の観点が大きく、各個別の株主の会社支配に関するインタレストは相対的に低いと解されるから、特定の取締役の選任を特定のクラスの所有者(株主)に委ねるべき関連性はむしろ少ない。それらの会社では、取締役は特定の種類株主の利益の保全のために行為するという面ではなく、会社ないしグループ企業全体の利益を幅広く考えることが要求されているものと解される。会社がその資金調達の便宜で発行した種類株式について(トラッキングストックであっても)、その内容の実現は、取締役会を構成する取締役全員が責任を負担する。したがって、特定の種類株主の利益が保全されているかを監視するため、監視人的立場の取締役をボードに送り込みたいという特定の種類の株主の「私的な欲求」に関しては、閉鎖会社においては、その実現を図ることは十分理由がある。今回の立法案の方向性は妥当であると考える。


会社に出資の形で資金を提供する株主としては、単に所有者であるばかりでなく、自ら又はその信任する者を取締役として経営に参画させることは、自然な欲求であり、相当程度の出資と引き換えにボードにメンバーを送り込むことを認めることは、出資者間において従来から行われてきたものであり、「資本の閉鎖性」ないしは「資本に結束性」がある会社については、株主間の合意を反映した法規定を設けてこれを認めることは構わないものと解する。


(2)

の解任権であるが、取締役と会社との関係は委任ないしは準委任によるものと解されるから、会社はいつでも理由の如何を問わず取締役を解任することができる。このことからすると、定款に別段の定めがある場合はともかく、ある種類の株主によって選任された取締役であっても、いつでも自由に解任されるのでは、ある種類の株主の選任権は実効性がなくなってしまうおそれがある。そうすると、四所定のように非行がある場合には、他の種類株主の解任権を認めるべきだが、一般的には、選任権者である当該種類株主による解任権のみを認めるべきであると解される。


(3)

注2において、「取締役の選解任権についてのみ内容の異なる種類の株式を認めるかどうかについては、なお検討する。」となっているが、認めてよいのではないかと考える。



第五 新株引受権の発行

注1 「新株引受権」という名称については、なお検討する(例:「株式取得選択権」)。


  • 一 新株引受権の発行の決議
    •  会社は、新株引受権を発行することができるものとする。
    •  1の場合においては、左の事項で定款に定めがないものは、取締役会が定めるものとする。ただし、定款をもって株主総会が決定する旨を定めているときは、この限りでないものとする
      • (一) 新株引受権の総数
      • (二) 各新株引受権の発行価額及び払込期日
      • (三) 新株引受権の目的である株式の額面無額面の別、種類、数及び発行価額
      • (四) 新株引受権を行使することができる期間
      • (五) 新株引受権の行使についての条件
      • (六) 新株引受権の行使によって発行すべき株式の発行価額中、資本に組み入れない額
      • (七) 利益又は利息の配当については、十二の1の規定による払込みをした時の属する営業年度又はその前営業年度の終わりにおいて新株の発行があったものとみなすこと
      • (八) 新株引受権を社債とともに発行する場合において新株引受権のみを譲り渡すことができないときは、その旨
      • (九)  新株引受権を行使しようとする者の請求があるときは、その新株引受権とともに発行された社債の償還に代えてその社債の発行価額をもって十二の1の払込みがあったものとする旨
    •  2の(二)の発行価額は、公正なる価額でなければならないものとする。
    •  4 2の(二)の払込期日は、2の決議の日より三か月を経過した後の日とすることはできないものとする。

注2 代用払込みの制度(2の(九))については、利用実績が認められないことから、存続させる必要性が乏しいと考えるが、どうか。存続させるものとした場合、転換社債の規定を削除することが考えられるが、どうか。


注3 新株引受権附社債に関する規定(第五節第四款)は、削除するものとする。


注4 新株引受権の対価及び転換社債の転換権に相当する対価の計算上の取扱いについては、なお検討する。


<意見>

新株引受権の発行を認めることに賛成する。


発行権限を取締役会に与えることには、やや疑問があるという意見もあったが、前記第一の一及び二の2に関して述べたとおり、授権株式数の制限内で、公正価格・条件による発行であれば、これを取締役会において行うとすることもやむを得ないと解する。


<理由>

(1)

新株引受権の発行を認めても特に弊害があるとは考えられず、これを認めることが、資金調達の多様化等の企業の要請に応えることとなる。


(2)

新株引受権の発行権限を取締役会に与えることについては、新株引受権をいかに公正価額で発行するとしても、将来の引受権行使によって既存株主の株主権が希釈化されるおそれは否定できないとの観点から、これをやや疑問視する見解もあった。


しかし、現行法においては、分離型新株引受権付社債の発行には株主総会の特別決議を要するのが原則となっているが(商法第341条ノ8第4項本文)、実際には、取締役会決議のみで発行されているようであり(同項但書)、その際には、発行価額の公正性等の規制は存在しない(もっとも、株主以外の第三者に特に有利な内容の新株引受権を付与する場合には、特別決議を要するものとされている。同条5項)。このような観点からすると、新株引受権の発行価額が公正でなければならないことを定めた本規定は、規制を強化したものと言えなくもない。


したがって、前記第一の一及び二の2に関して述べたとおり、授権株式数の制限内で、公正価格・条件による発行であれば、これを取締役会において行うとすることもやむを得ないものと解する。問題は、公正価額や公正な発行条件をどうやって担保していくかであって、特に、公開会社における規制、開示の要件は、十分満たされることが必要である。


その場合、「公正価額」や「公正な発行条件」についての決定方法に関し、考慮すべきファクターを例示する等工夫が必要であるとの意見があった。


閉鎖会社における株主権の希釈の問題に関しては、後記において手当てがなされており、これでよいと解する。


注1について

<意見>

賛成する。


<理由>

新株引受権という名称は、「新株を優先的に引き受けることができる株主の地位」を指す場合と「会社が発行する株式を予め定めた価格で取得することができる権利」を指す場合があるが、両者は法的性格を異にすると考えられるので、名称を別個のものとすることに賛成する。


注2について

<意見>

賛成する。なお、転換社債の規定を削除する方が規定を理解しやすくなるのではないかと考える。


<理由>

代用払込みの制度と転換社債の制度とを併存させておく理由はない。


注3について

<意見>

賛成する。


<理由>

新株引受権の発行を認める以上、新株引受権付社債という形でのみ新株引受権証券(クーポン)が発行されるわけではなく、また、新株引受権付社債であると否とに関わらず、新株引受権については「第五」による規定が適用されるので、新株引受権付社債の規定は削除して構わない。


  • 二 譲渡制限会社における決議要件
    •  株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある場合において、新株引受権を発行するときは、一の2の(一)から(五)までに掲げる事項について、第三百四十三条に定める決議があることを要するものとする。
    •  第二百八十条ノ二第三項及び第四項の規定は、1の場合に準用するものとする。

<意見>

賛成する。


<理由>

中間試案第一の二の1は、譲渡制限会社において新株を発行するときには特別決議を要するものとしており、これとの権衡からして、新株引受権発行についても特別決議を要するものとすべきである。


  • 三 発行条件の均等
    新株引受権の発行価額その他の発行の条件は、発行ごとに均等に定めなければならないものとする。
  • 四 新株引受権の付与事項の公示
    •  会社は、新株引受権を発行するときは、一の2の(一)から(五)までに掲げる事項、新株引受権の発行価額の算定の基準及び募集の方法を公告し、又は株主に通知しなければならないものとする。
    •  会社は、1の公告又は通知の日から二週間を経過した後でなければ、新株引受権の割当てをすることができないものとする。
  • 五 新株引受権の申込み
    •  新株引受権の申込みをしようとする者は、新株引受権申込証に引き受けるべき新株引受権の数及び住所を記載し、署名しなければならないものとする。ただし、一の2の(八)に掲げる事項の定めがある場合は、この限りでないものとする。
    •  新株引受権申込証は、取締役が作り、左(下記)の事項を記載しなければならないものとする。
      • (一) 会社の商号
      • (二) 一の2の(一)から(五)までに掲げる事項
      • (三) 株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨を定めたときは、その旨
      • (四) 七の1の払込みを取り扱うべき銀行又は信託会社及びその取扱いの場所
      • (五) 十二の1の払込みを取り扱うべき銀行又は信託会社及びその取扱いの場所
    •  一の2の(八)に掲げる事項の定めがある場合においては、第三百一条第一項の社債申込証に一の2の(八)及び(九)並びに2の(二)から(五)までに掲げる事項を記載しなければならないものとする。
  • 六 新株引受権申込証作成義務の例外
    五の規定は、契約により新株引受権の総数を引き受ける場合には適用しないものとする。
  • 七 払込み等
    •  新株引受権の引受人は、払込期日に各新株引受権につき、その発行価額の全額の払込みをしなければならないものとする。
    •  第百七十七条第二項、第百七十八条並びに第二百八十条ノ九第二項及び第三項の規定は、1の場合に準用するものとする

<意見>

賛成する。


<理由>

新株発行の場合とほぼ同様の規定であり、妥当と考えられる。


  • 八 新株引受権証券の発行と方式
    •  会社は、新株引受権の払込期日後、遅滞なく新株引受権証券を発行しなければならないものとする。ただし、一の2の(八)に掲げる事項の定めがある新株引受権については、新株引受権証券を発行することができないものとする。
    •  新株引受権証券には左(下記)の事項及び番号を記載し、取締役が署名しなければならないものとする。
      • (一) 新株引受権証券である旨の表示
      • (二) 一の2の(三)から(五)まで及び(九)に掲げる事
      • (三) 五の2の(一)、(三)及び(五)に掲げる事項
    •  一の2の(八)に掲げる事項の定めがある場合においては、第三百六条第一項の債券及び第三百十七条の社債原簿に左の事項を記載しなければならないものとする。
      • (一) 新株引受権付社債であること
      • (二) 一の2の(三)から(五)まで及び(九)に掲げる事項
      • (三) 五の2の(三)及び(五)に掲げる事項
  • 九 新株引受権の譲渡
    •  新株引受権を譲り渡すには、新株引受権証券を交付しなければならないものとする。
    •  第二百五条第二項及び第二百三十条並びに小切手法第二十一条の規定は、新株引受権証券に準用するものとする。

<意見>

賛成する。


ただし、株券の不発行制度を設けるのであれば、新株引受権証券の不発行制度を設けることの可否も検討すべきではないかとの意見があった。


<理由>

新株引受権については、自由譲渡性を認めるべきであり、そのためには、新株引受権証券を発行し、新株引受権証券の交付を要するとすることが妥当である。


この点、株式について株券不発行制度を設けるのであれば、新株引受権についても、株式と同様に、新株引受権証券不発行制度を設けることを検討すべきではないか、その場合には、株式の譲渡制限がない会社においては、株式の不発行制度をとる場合と同様な「振替制度の利用機会の保障」(後記第六の一の注1、3も参照)が必要ではないか、なお、株主数が一定の数(例えば50名)に達しない会社については、株券について「振替制度の利用機会の保障」は不要であるとの考えを前提に、かかる会社については新株引受権証券についても、「振替制度の利用機会の保障」は不要ではないかとの意見があった。


  • 十 正当の理由に基づき特定の者に新株引受権を与える場合の特例
    •  正当の理由に基づいて特定の者に新株引受権を与える場合においては、一の2の規定にかかわらず、一の2の(一)、(二)、(八)及び(九)に掲げる事項については、定めることができないものとする。
    •  1の場合においては、特定の者に与えるべき新株引受権の目的である株式の額面無額面の別、種類及び数について株主総会の決議がなければならないものとする。この場合においては、取締役は、新株引受権の行使の条件の概要、新株引受権の目的である株式の発行価額の決定方法その他の新株引受権の付与の方針及び特定の者に新株引受権を与えることを必要とする理由を開示しなければならないものとする。
    •  株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めがある場合においては、2の決議は、第三百四十三条の規定によらなければすることができないものとする。
    •  2の決議は、決議後一年以内に新株引受権を与えるものについてのみその効力を有するものとする。
    •  2の決議がされた新株引受権は、譲り渡すことができないものとする。
    •  第二百八十条ノ二第三項の規定は、2の場合に準用するものとする。
    •  一の3及び4並びに二から九までの規定は、1の場合には適用しないものとする。

注5 1の「正当の理由」の内容を明確にするために例示を加えることの要否については、なお検討する。


注6 営業報告書には、次の各事項を記載しなければならないものとする。この場合においては、及びの記載は、取締役ごとに区別してしなければならないものとし、新株引受権を行使することができる期間が異なるものがあるときは、その期間の定めごとに区別して記載しなければならないものとする。


  •  その営業年度において、会社が新株引受権(2の決議あるものに限る。)を与えたときは、与えた者の数並びに与えた新株引受権の目的である株式の種類ごとの総数、発行価額の平均額及び与えた時点におけるその権利の価額の合計額
  •  会社が与えた新株引受権であって未だ行使されていないものの目的となる株式の種類ごとの総数及び発行価額の平均額

意見

賛否両論の意見が出されたが、賛成論者の中でも、「正当の理由」をより明確にし、限定すべきだとする意見、新株引受権の授与できる相手方の範囲をより明確にし、限定すべきだとする意見が強かった。反対論者の中からは、ストック・オプションの付与は、株主総会の特別決議によるべきだとの意見も出された。


また、新株引受権の内容(とりわけ、新株の発行価額)いかんによっては、新株引受権の発行が第三者に対する有利発行と同様の効果がもたらす場合があり、かかる場合には当然株主総会の特別決議を要するという点についてはほぼ異論をみなかったところ、その点を明確にすべきだとの意見が出された。


<理由>

本規定によると、新株引受権の付与(=ストック・オプションの付与)は無償で行われることとなる(解説13頁、九1参照)。また、現行法においては、ストック・オプションの行使期間が10年間と定められているのに対し(第280条ノ19第4項)、そのような期間制限も設けられていない。さらに、現行法では、取締役・従業員に対するストック・オプションに対する付与には株主総会の特別決議を要するとされているところ(同条2項)、本規定においては、普通決議で足りるものとされている。


この点、ストック・オプションを経営者に与えることは、業績連動型の報酬体系にて経営業績を評価するシステムを構築し、それによって、株主価値をより多く創造した経営者に対してはそれに見合う報酬を与えるということであり、これを投資家に投資コストとして負担させることには合理性がある、問題は、「業績に連動した報酬として適正なストック・オプションが与えられているか」、すなわち、業績とその評価及びこれと連動した報酬の決定を適正に行うためのシステムが正しく構築されているかということであり、このように考えると、「正当の理由」の開示に際して、会社の業績と付与されるストック・オプション(行使価格、時期などの条件)との連関性(報酬委員会における決定プロセスの開示などを含めて)、とりわけ、一定数量以上のストック・オプションを賦与される取締役及び従業員等についてはその内訳や業績の開示がなされることを前提に、また、連結決算・連結財務諸表における会計監査の強化及び取締役及び監査役の責任の強化・明確化等と、いわばワンセットとなることを条件に、本規定の立場に基本的に賛成するとの意見があった。


他方、経営者・従業員は、当該企業のインサイダーであるため同社の業績や成長性ないしは業界の動向に関する情報をいち早く得ることができ、株式市場(資本市場)を通じて当該株式を取引する投資家との間の情報の格差は歴然としており、ストック・オプションの付与を通じてインサイダー取引や株価の人為的形成が図られるおそれがある、また、ストック・オプションを会社支配の手段(持株比率の変更)とすることもできるのであるから、かかる点についての手当がなされない限り、本規定には反対するとの意見があった。


なお、本規定は、ストック・オプションの付与の要件として「正当の理由」があることをあげているが、賛成論者の中でも、この「正当の理由」の中身につき、例示を加えるなど適宜の方法によって、明確にし、限定を加えるべきであるという意見が強かった。また、本規定は、取締役・従業員以外にもストック・オプションの付与を認めるものであるが、賛成論者の中でも、いかなる範囲の者に付与できるのかについて、「正当の理由」と同様、明確にし、限定を加えるべきであるとの意見が強かった。


また、本規定がストック・オプションの付与を株主総会の特別決議ではなく通常決議で足りるとしている点については、上記の賛成論の論拠に加え、株式の譲渡制限がない会社における既存株主の持株比率維持の要請は不可侵のものではないこと、ストック・オプションの付与は取締役ないしは従業員に対する一種の「報酬ないしは賞与の付与」(現物支給)という面があること、いわゆる自己株方式によるストック・オプションについては株主総会の特別決議が不要とされていること(商法第210条ノ2)などを理由にこれに賛成する意見と、上記の反対論の立場から、なお特別決議を要求すべきだとの反対意見の両論があった。


なお、本規定に関し、付与される新株引受権の内容(とりわけ、新株の発行価額)いかんによっては、新株引受権の発行が第三者に対する有利発行と同様の効果がもたらす場合がある、例えば、取引所の相場のある株式につき、時価の70パーセントで即時引き受けることができるという内容の新株引受権を付与した場合には、それは、実質的に時価の70パーセントで新株を発行したのと同様の効果を有し、第三者に対する有利発行と同視できるのであるから、かかる場合には、株主総会の通常決議ではなくて特別決議を必要とするという点については、ほぼ異論をみなかったが、この点を規定上明確にすべきだとの意見が出された。


また、ストック・オプションの付与対象者の氏名等の決議を不要とする代わりに、行使の概要等を開示すべきこととした点は、かねて問題があるとされていた点を改正するものであり、賛成する意見が多数を占めたが、一定数量以上のストック・オプションを付与される取締役や従業員などについては、なお、氏名や明細について明らかにしたうえで決議を得るべきだとの意見も出された。


注5について

<意見>

賛成する。


<理由>

上記のとおり、本規定によってストック・オプションを付与できる場合を明確にすべきである。


注6について

<意見>

賛成する。


<理由>

ストック・オプションの付与が株主に与える影響を考慮すると、この程度のディスクロージャーは必要であると考える。


  • 十一 新株引受権の登記
    •  新株引受権を発行するときは、七の払込みのあった日から、本店の所在地においては二週間、支店の所在地においては三週間内に新株引受権の登記をしなければならないものとする。
    •  1の登記にあっては、左(下記)の事項を登記しなければならないものとする。
      • (一) 新株引受権であること
      • (二) 新株引受権の総数
      • (三) 一の2の(三)から(五)までに掲げる事項
    •  十の2の決議ある新株引受権の場合においては、1に定める期間は十の2の決議の日から起算するものとする。この場合においては、2の規定にかかわらず、十の2の決議ある新株引受権であること並びにその新株引受権の目的である株式の額面無額面の別、種類及び数を登記しなければならないものとする。
    •  第六十七条及び第三百四十一条ノ四第四項の規定は、1の登記に準用するものとする。
  • 十二 新株引受権の行使
    •  新株引受権を行使する者は、請求書を会社に提出し、かつ、新株の発行価額の全額の払込みをしなければならないものとする。請求書を提出する場合において、新株引受権証券を発行しているときは新株引受権証券を添付し、一の2の(八に掲げる事項の定めがあるときは新株引受権とともに発行した社債に係る債券を呈示しなければならないものとする。
    •  1の払込みは、会社が払込みを取り扱うべきものとして定めた銀行又は信託会社においてしなければならないものとする。
    •  第百七十五条第一項の規定は1の請求書に、第百七十八条及び第百八十九条の規定は2の払込みを取り扱う銀行又は信託会社に準用するものとする
  • 十三 新株引受権を行使した者が株主となる時期
    十二の1の規定により新株引受権を行使した者は、十二の1の払込みの時に株主となるものとする。
  • 十四 自己株式の交付
    十二の1の払込みを受けた会社は、新株引受権の行使による新株の発行に代えて、その有する自己の株式を新株の引受権を行使した者に移転することができるものとする。
  • 十五 転換株式等の規定の準用
    •  第二百二十二条ノ二第三項の規定は、新株引受権の場合に準用するものとする。
    •  第二百八十条ノ十及び第二百八十条ノ十一の規定は、新株引受権の発行の場合に準用するものとする。
    •  第二百八条、第二百二十二条ノ七及び第三百四十一条ノ六の規定は、新株引受権の行使があった場合に準用するものとする。

注7 正当の理由なく、新株引受権を付与し又は不公正な価格で新株引受権を発行した場合における取締役及び新株引受権の引受人等の責任については、新株を不公正な価額で発行した場合における取締役等の責任と併せて、なお検討する。


<意見>

賛成する。


注7について

<意見>

正当な理由がなく不公正な価額で新株または新株引受権が発行がされた場合には、取締役に発行価額と公正な価額との差額についての取締役及び引受人の賠償責任を認めるべきであり、かかる方向での検討がなされるべきである。


<理由>

現行法のもとでの損害賠償請求は困難であり、新株または新株引受権発行規制の実質を確保するためには、かかる方向での検討を行うことが必要である。



第六 株券の不発行制度

  • 一 株券の不発行の定め
    •  会社は、定款で、株券を発行しない旨を定めることができるものとする。
    •  1の定めをするために定款の変更の決議をした場合においては、会社は、株券を発行しない旨の定款の定めをした旨並びに一定の日までに株券を会社に提出すべき旨及びその一定の日において株券は無効となる旨をその一定の日の一か月前に公告し、かつ、株主及び株主名簿に記載のある質権者に各別に通知しなければならないものとする。
    •  1の定めの設定は、2の一定の日において効力を生ずるものとする。
    •  第二百十六条の規定は、2の場合に準用するものとする。この場合において、同条第一項中「新株券ヲ交付スルコト」とあるのは、「其ノ旧株券ヲ提出スルコト能ハザル者ノ氏名及住所ヲ株主名簿ニ記載スルコト」とするものとする。

    注1 株式の譲渡について取締役会の承認を要しない会社は、その株主に対し、振替制度の利用の機会を保障するのでなければ、1の定めをすることはできないものとする。


    注2 会社が数種の株式を発行している場合において、一部の種類の株式に係る株券についてのみ1の定めができることとするかどうかについては、その必要性も含めて、なお検討する。


    注3 新株引受権証書及び新株引受権証券の不発行制度を設けるかどうかについては、なお検討する。


  • 二 株式の譲渡方法及び名義書換
    •  株式を譲渡するには、株券を交付しなければならないものとする。ただし、一の1の定めがある会社の株式については、この限りでないものとする。
    •  一の1の定めがある会社の株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株主名簿に記載しなければ、会社のほか、その他の第三者にも対抗することができないものとする。
    •  一の1の定めがある会社の株式についての株主名簿の名義の書換は、次のいずれかの場合でなければ、することができないものとする。
      • (一) 株主名簿に株主として記載された者と取得者が共同して請求したとき。
      • (二) 取得者が、株主名簿に株主として記載された者からの当該株式の取得を証する判決、判決と同一の効力を有するもの又は公正証書を添付して請求したとき。
      • (三) 当該株式の取得原因が相続である場合において、取得者が、相続を証する市町村長若しくは区長の書面又はこれを証するに足るべき書面を添付して請求したとき。
      • (四) 当該株式の取得原因が合併である場合において、取得者が当該事実を証する登記簿の謄本又は抄本を添付して請求したとき。
    •  第二百二十四条の規定は、一の1の定めがある会社の株式については、3の規定により株主名簿の名義の書換をした場合に限り、適用するものとする。

    注4 株券がなくても、振替制度の利用を可能にし、また、同制度からの離脱を可能とするため、所要の立法措置を講ずるものとする。


  • 三 株券不発行の場合の売渡請求等の特例
    •  一の1の定めをした会社の株主が、二百四条ノ三第一項の請求を受けたときは同条第四項の規定にかかわらず、一週間以内に同条第一項の請求をした者に譲渡する旨をその者及び会社に通知しなければならないものとする。この場合における同条第五項の規定の適用については、同項中「前項ノ供託ガ同項ノ期間内ニ」とあるのは、「三の1の通知が三の1の期間内に」とする。
    •  会社が1の通知を受けたときは、二の3の規定にかかわらず、第二百四条ノ三第一項の請求をした者の氏名及び住所を記載しなければならない。
  • 四 株券の不発行の定めに伴う所要の手当
    • 1 株券発行前の株式の譲渡
      株券の発行前にした株式の譲渡は会社に対しその効力を生じないものとする。ただし、一の1の定めをした会社の株式については、この限りでないものとする。
    • 2 登録質
      第二百九条第一項の質権者は、会社に対し第二百八条の株主の受けるべき株券の引渡しを請求することができる。ただし、一の1の定めをした会社の株式については、この限りでないものとする。
    • 3 転換株式の転換請求
      一の1の定めをした会社の株式の転換を請求する場合においては、株券を添付することを要しないものとする。
    • 4 名簿閉鎖期間の設定
      一の1の定めをした会社は、第二百二十四条ノ三第一項の期間を定めることはできないものとする。
    • 5 反対株主の買取請求
      一の1の定めをしていない会社の株式の代金の支払は、株券と引換えにしなければならないものとする。株式の移転は代金の支払の時にその効力を生じるものとする。
      • 各種公告制度の適用除外等
        • (一) 一の1の定めをした会社は、株式併合の際の公告(第二百十五条第一項)及び完全子会社となる場合の公告(第三百五十九条、第三百六十八条)をすることを要しないものとする。
        • (二) 一の1の定めをした会社は、株式分割の際の公告(第二百十九条第一項)株主割当の際の公告(第二百八十条ノ四第二項(第三百四十一条ノ二ノ四第二項及び第三百四十一条ノ十八において準用する場合を含む。))及び会社分割の株券提出不要時の公告(第三百七十四条ノ七第一項(第三百七十四条ノ三十一第五項において準用する場合を含む。))をすることを要しないものとする。
        • (三) 一の1の定めをした会社は、新株引受権及び転換社債で未行使のものがないときは、株主への通知をもって基準日の公告(第二百二十四条ノ三第四項)に代えることができるものとする。

    注5 株券不発行の場合の登録質の設定方法については、株式の譲渡方法と同様のものとする方向で、なお検討する。


    注6 全会社について名簿閉鎖期間の制度を廃止するかどうかについては、なお検討する。


<意見>

賛成。


<理由>

改正案は株式会社に選択的に株券不発行の制度を導入しようとするものである。現実に株券を発行していない会社も相当数あると考えられ、株券を発行することによるメリットと、発行した場合の費用と手数、保管上の問題、紛失した場合の再発行の手続などのデメリットを比較した場合に、必ず発行しなければならないとする現行制度(商法第226条1項)を維持する必要はない。


実務において上場会社の株券等(株券等の保管及び振替に関する法律第2条)については、株券保管振替制度を利用して株式の移転が行われており、株券の現実の交付の必要はない(同法第26条1項)。株券の所有者から寄託を受けた証券会社等は、その株券を「財団法人証券保管振替機構」にまとめて寄託していて、保護預りとして証券会社等が現実に株券を保管している場合は、株式所有者が株券の所持にこだわりを持つ株主に限られている。


現行の振替制度は、株券の発行を前提として構成されているので、「株式の譲渡について取締役会の承認を要する会社」は別としてそれ以外の会社においては、株券を不発行とした場合に株式を所有する者が振替制度を利用することを妨げないものとすることが必要である。この点については今後商法及び「株券等の保管及び振替に関する法律」において、さらに調整する必要がある。


定款変更に伴う手続規定についてはこのとおりでよいと考えられる。



第七 株券失効制度の創設

  • 一 株券喪失登録の申出
    •  株券を喪失した者は、会社(名義書換代理人を置いているときは、名義書換代理人)に対し、書面により喪失登録の申出をすることができるものとする。
    •  1の申出書には、申出をした者(以下「申出人」という。)の住所及び株券の番号を記載し、申出人は署名しなければならないものとする。この場合において、申出人が株主名簿上の株主でないときは、その者の印鑑証明書を添付しなければならないものとする。
  • 二 喪失株券登録簿
    •  会社は、喪失登録の申出を受けたときは、遅滞なく、喪失株券登録簿に左(下記)の事項を記載しなければならないものとする。
      • (一) 株券の番号
      • (二) 申出人の氏名及び住所
      • (三) 株主名簿上の株主の氏名及び住所
      • (四) 喪失登録の日
    •  喪失登録の効力は、喪失株券登録簿に喪失登録がされた日の翌日から生ずるものとする。
    •  株主名簿上の株主以外の者による申出に基づく喪失登録の効力が生じたときは、会社は、その株券の株主名簿上の株主に対して、喪失登録の効力が生じた旨及びその株券が失効すべき日を通知しなければならないものとする。
  • 三 喪失株券登録簿の備置き等
    •  会社は、喪失株券登録簿を本店に備え置かなければならないものとする。ただし、名義書換代理人を置いているときは、喪失株券登録簿は、名義書換代理人の営業所に備え置くものとする。
    •  何人も、営業時間内は、1の喪失株券登録簿の閲覧又は謄写を求めることができるものとする。
  • 四 喪失登録株券に係る通知義務
    喪失登録の効力が生じた場合において、会社又は株券の売買(その媒介取次ぎ又は代理を含む。)を業とする者が喪失登録のされた株券の呈示を受けたときは、その者は、呈示をした者に対し、その株券につき喪失登録がされている旨を通知しなければならないものとする。
  • 五 喪失登録株券に係る権利の届出
    •  喪失登録がされている株券が呈示されて権利の届出がされたときは、喪失登録は、その効力を失うものとする。この場合において、喪失登録の申出人又はその株券の株主名簿上の株主以外の者が届出をするには、その者の印鑑証明書を添付しなければならないものとする。
    •  1の届出がされたときは、会社は、喪失登録を抹消し、かつ、喪失登録の申出人に対し、権利の届出により喪失登録が効力を失った旨並びに権利の届出人の氏名及び住所を通知しなければならないものとする。
  • 六 喪失登録株券の失効
    •  喪失登録されている株券は、五の2の場合を除き、喪失登録の効力が生じた日から二年を経過した日に、失効するものとする。この場合において、会社は喪失登録簿にその株券が失効した旨を記載しなければならないものとする。
    •  1の規定により株券が失効した後でなければ、喪失登録の申出人は、株券の再発行を請求することができないものとする。

注1 株券失効制度の創設に併せて、第二百十六条(提出不能株券を有する株主への新株券の交付)及び第二百三十条(除権判決)の制度は、廃止することとすることでよいと考えるが、どうか。


注2 株券の失効までの期間及びその公告の要否については、なお検討する(第二百十六条第一項参照)。


<意見>

賛成とする意見と反対とする意見があった。


<理由>

今回の商法改正における株券不発行の制度は、選択的なものであるから、今後においても株券を喪失した場合の処理の必要はある。


基本的な考え方としては、株券の失効の確定を、従前のように公示催告・除権判決という公権力による判断の形式をとるか、会社自治の範囲内で処理させるかという点にある。従来の公示催告・除権判決の制度は万全なものではなく公示催告手続中に善意取得者が生ずることがあり得るし、その場合においても、除権判決によって株券の効力が失われるので当事者間における損失補償の問題にしかならない。また公示催告の方法として裁判所における掲示、官報等の公告は形式的に手続を取るだけのことであり、実際にこれにより自分が所持している株券が公示催告中であることを知ることは、極めて稀であろう。公示催告手続と喪失株券による権利行使(名義書換要求)とが別個の手続でなされ、喪失されたとする株券を呈示したうえ名義書換がされ株券の存在が明らかになっても、当然には公示催告及び除権判決手続は停止されないという不都合もあるし、そのため、その株券についての除権判決がされてしまう(株券が失効する)という結果も生ずるという問題点が指摘されていたところである。したがって、株券の喪失申出とその登録及び(喪失登録)株券の呈示等の手続、さらには、2年間という期間をおいて失効させるなどを、一元的に管理するという今回の改正案は妥当である。


以上が賛成意見である。


これに対し、会社が喪失株券登録簿に必要事項を記載しこれを公示するという保証がない、喪失登録株券に関する通知義務を会社や証券会社など株券の売買を業とする業者に負担させるのは極めて事務の煩雑を招く、裁判所の関与を取りやめる必要があるというのであれば、株券を喪失したものに官報に公告する手続をさせて会社にその旨届けるということでよい、株券の失効まで2年もかかる制度では現行制度(6か月程度の期間)に比べて長すぎる等の理由から、反対するものがいくつかあった。


さらに、


  1. 株券の公示催告制度が利用される場合として、相続の場合が極めて多いと解されるから、株券失効制度を創設する場合でも、その申出人が株主名簿上の株主の相続人である場合について、提出書類に関する規定を設けるべきだ。
  2. 株主名簿上の株主に対する通知が返送された場合の措置に関する規定が必要である。
  3. 株券失効制度を創設した場合には、株券喪失登録簿を閲覧謄写できる者を「利害関係人」のみとし、弊害を防止すべきだ。
  4. 喪失登録された株券が呈示された場合、会社がこれを受理しない場合も考えられるので、株券の呈示日時を確定する法律上の定めも必要である。
  5. 上記のとおり、株券の失効まで2年もかかるのは長すぎる。

等々の意見、疑問点の指摘があった。



第八 所在不明株主の株式売却制度等の創設

  •  会社は、取締役会の決議により、第二百二十四条ノ二第一項の規定により通知及び催告を要しない株主の株式を競売することができるものとする。この場合においては、その代金を従前の株主に交付しなければならないものとする。
  •  会社は、一の株式を競売する日の三か月前に、競売する株式についての第二百二十三条第一号から第三号までに掲げる事項及び競売する日を公告しなければならないものとする。
  •  会社は、一の競売に代えて、市場価格ある株式についてはその価格をもって売却し、又は買受け、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができるものとする。
  •  三の場合において、売買価格が第二百四条ノ三ノ二第五項の規定により算定した額を超えるときは、会社はその株式を買い受けることはできないものとする。

注1 五年間通知が到達しない株主の株式について株券が発行されているときは、会社は、その株主に代わって、第七の一の1の喪失登録の申出を行うことができるものとする。この場合には、株券失効の効力が生じた後でなければ、一による競売等をすることができないものとする。


<意見>

賛成。


<理由>

会社の株主に対する通知又は催告は、株主名簿に記載した株主の住所又はその者が会社に通知した住所に宛てて、行えば足りる(商法第224条)。その通知又は催告が継続して5年間到達しなかった場合は、通知又は催告の義務を免れるが、依然として株主名簿上株主として取扱われることには変わりはない(商法第224条ノ2)。


そこでこの種の株主の株式を整理しようとするものであり、実務上その必要性があると認められる。通知や催告が届かない場合であっても、配当を振込で受領することで満足している株主や登録質権者がいないとも限らないから、その株式を競売してしまうことには問題が生じる余地があるとして懸念を示す意見もあったが、結論としては、上記のとおり賛成する。


第九 株主提案権の行使期限の繰上げ等

  • 一 株主の議題等提案権
    •  六か月前から引き続き発行済株式の総数の百分の一以上に当たる株式又は三百株以上の株式を有する株主は、取締役に対し、会日より八週間前に、書面をもって、一定の事項を総会の会議の目的とすべきことを請求することができるものとする。
    •  1の株主は、取締役に対し、会日より八週間前に、書面をもって、会議の目的たる事項につき、その株主の提出すべき議案の要領を第二百三十二条に定める通知に記載することを請求することができるものとする。
  • 二 少数株主の招集権
    第二百三十七条第一項の請求があった後遅滞なく総会招集の手続がされなかったときは、請求をした株主は、裁判所の許可を得て、その招集をすることができるものとする。その請求があった日から八週間内の日を会日とする総会の招集の通知が発せられなかったときも、同じものとする。

<意見>

賛成。


<理由>

多数の株主に対し株主総会の2週間前までに招集通知を発送しなければならない大会社にとって、招集通知の印刷等に要する期間を考慮して、株主の議題等提案権の行使期限を総会の8週間前とする必要性が認められる。少数株主の招集権についても、会社は株主総会の2週間前までに招集通知を発送しなければならないから、請求のあった日から4週間で招集通知の印刷等の発送準備を終える必要があるが、会社の事務処理のため期間的余裕がないことから、改正の必要性は理解できる。


株主の議題等提案権の行使期限を総会の8週間前とすることは、総会の会日を正確に予測することができない株主側からみれば権利行使の制限につながるものであることから、一層株主総会を形骸化する方向とならないかという問題もあり、改正には慎重を要する。


上記のような改正理由は、多数の株主がある大会社に限られるのであって、対象会社を限定すべきではないかとの意見もあった。


第十 株主総会等の特別決議の定足数の緩和

  • 一 株主総会の決議
    •  第三百四十二条第一項の決議は、発行済株式の総数の過半数に当たる株式を有する株主が出席し、その議決権の三分の二以上に当たる多数をもってこれを行うものとする。
    •  一の決議については、総会に出席を要する株主の有すべき株式の数は、定款をもって、別段の定めをすることを妨げないものとする。ただし、これを発行済株式の総数の三分の一未満に下げることはできないものとする
  • 二 社債権者集会の決議
    社債権者集会の決議は、出席した社債権者の議決権の過半数をもって行うものとする。ただし、第三百九条ノ二第一項、第三百十九条、第三百二十九条第一項、第三百三十条第一項ただし書及び第三百三十三条に規定する社債権者集会の目的たる事項の決議については、社債総額の三分の一以上に当たる社債を有する社債権者が出席し、その議決権の三分の二以上の多数をもって行うものとする。

<意見>

賛成。


ただし、中間試案の定足数の緩和により、発行済株式総数の9分の2以上の株主の賛成で会社の重要事項が決議される結果となることから、反対意見もあった。


<理由>

外国人株主の増加、株式持合いの解消により個人株主の増加により、株主総会の特別決議などで定足数を確保できない可能性があり、定足数の緩和の必要性が認められる。この問題は会社の事情ごとに自主的経営判断に従って判断すべきである。


第十一 子会社の株式の譲渡等

  •  会社は、その有する重要な子会社の株式の全部を譲渡し、又は他の株式会社の株式全部を譲り受ける場合には、会社の株主総会の特別決議を得なければならないものとする。
  •  一の株式の譲渡又は譲受けに反対の株主には、株式買取請求権を認めるものとする。

注1 親会社がその有する重要な子会社の株式の一部を譲渡する場合の取扱いについては、なお検討する。


注2 簡易の営業全部譲受け(第二百四十五条ノ五)に相当する規定を置くこととする。


<意見>

賛成。


「重要な子会社」の定義を明確化すべきである。


注1 重要な子会社の株式の一部の譲渡については、慎重に検討すべきであり、この場合にも株主総会の特別決議を要するとする見解があった。


<理由>

経済的実態として子会社は親会社の営業の一部と同視できるのであって、とくに持ち株会社による重要な子会社の株式の全部を譲渡することを想定した場合は、株主にとって投資対象が取締役の一存で変更されることは問題である。したがって、営業譲渡に関する規制との均衡から、重要な子会社の株式の全部を譲渡することは株主総会の特別決議事項とすべきである。


注1 重要な子会社の株式の一部の譲渡については、これにより容易に当該子会社の支配権を手放すことができ、また、これを繰り返し行うことで中間試案の趣旨が容易に脱法できる可能性があることから、慎重に検討すべきであり、この場合にも株主総会の特別決議を要するとする見解があった。


第十二 株主総会招集手続の簡素化等

  • 一 株主総会招集手続の簡素化
    総会は、総株主の同意があるときは、招集の手続を経ずに開くことができるものとする。
  • 二 株主総会招集通知の発出期間の短縮
    総会を招集するには、会日より二週間前に各株主に対してその通知を発しなければならないものとする。ただし、その期間は、定款をもって、一週間まで短縮することを妨げないものとする。

    注1 対象会社の範囲をどうするか、定款変更の要件につき総株主の同意を要するものとすべきかどうかについては、なお検討する。


  • 三 書面による株主総会決議
    総会の決議をすべき場合において、総株主の同意があるときは、書面による決議をすることができるものとする。

    注2 第二十六の四との関連で、電磁的方法による決議も認める方向で、なお検討する。


  • 四 書面による取締役会決議
    株式会社は、定款をもって、取締役会の決議をすべき場合において、各取締役及び各監査役の同意があるときは、書面による決議をすることができることを定めることができるものとする。

    注3 定款変更の要件につき総株主の同意を要するものとすべきかどうか、決議の効力要件として例えば取締役全員の賛成を要するとすべきかどうか、登記事項とすべきかどうか、監査役会決議についても同様の取扱いを認めることとすべきかどうかについては、なお検討する。


<意見>

1. 賛成。


2. 反対。


株主総会招集通知の発出期間の短縮の対象会社については、閉鎖会社に限定すべきである。


3. 賛成。


総株主の同意を得る前提としての議案の説明方法、議案の賛否、議案の修正の可否、決議の成立時期など検討する必要がある。


4. 反対。


実際上多数の取締役が一堂に会することが困難である点は、テレビ会議システムの利用などを検討すべきである。


対象会社を1人会社または閉鎖会社に限定するか、総株主が同意する場合などの要件をつけて限定すべきである。


注3 監査役会に書面決議を導入することには、反対。


<理由>

1. 総株主の同意があるときまで、招集の手続を要求すべき理由が乏しい。


2. 株主総会招集通知の発出期間の短縮を認めるときは、株主が取締役への質問討議の準備、議案への賛否等の検討などについての準備期間を短くし、しかも開催の予想ができない臨時総会では株主が出席すらできなくなるなど、株主の議決権行使が制約される可能性がある。


3. 昭和56年改正で議決権行使書が導入されており、総株主が同意する場合にまで書面決議を否定する理論的根拠はなくなっている。したがって、この問題についても株主の自主的判断を尊重すべきである。


4. 取締役会の書面決議を全ての会社を対象として法制化するときは、大会社、公開会社の殆どが定款を変更して取締役会を書面化する可能性があり、会社の意思決定過程の中核となる取締役会が形骸化して、一層代表取締役の権限が事実上強化され独断専行を許すことになる。その結果、取締役会による監視機能の低下により、会社株主の利益を害する危険性がある。


したがって、全ての会社につき、その経営を決定する取締役会が書面決議で足りるかは疑問である。


アメリカの一部州法では、1人会社に取締役会の書面決議を認める例があり、わが国でも対象会社を限定して、1人会社または閉鎖会社とするほか、総株主が同意する場合などの要件をつけるべきである。


注3 監査を実効あらしめるためには、監査役が直接意見や情報を交換することが不可欠であり、また監査役会の決定には迅速性より慎重さが要請されるのであって、監査役会については書面決議を導入するべきではない。


第十三 取締役の報酬規制

取締役の報酬として、第五の十の2の決議のある新株引受権又は株式の時価、利益の額その他の数値に基づいて算定される額に相当する金銭その他の財産を取得できることとなる権利を与えるべき場合においては、第二百六十九条の規定にかかわらず、株主総会においてその内容を定めることをもって足りるものとする。この場合においては、その報酬を相当とする理由を開示しなければならないものとする。


注1 決議事項の規定の仕方については、なお検討する。


注2 参考書類の内容として、「報酬案作成の方針」を含めるものとする(参考書類規則第三条第一項の改正)。


<意見>

賛成。


株主に開示される「報酬を相当とする理由」については、参考書類に「報酬案作成の方針」を含めるとされているが、株主が報酬金額をより具体的に把握できるよう配慮すべきである。


<理由>

第五の十の2(正当の理由に基づき特定の者に新株引受権を与える場合の特例・ストック・オプション)の決議のある新株引受権又は株式の時価、利益の額その他の数値に基づいて算定される額に相当する金銭その他の財産を取得できることとなる権利を付与する総会決議と、取締役の報酬としての総会決議とを重ねてする必要はない。


ストック・オプション等の金銭以外の業績連動型の報酬では従来からの取締役の報酬規制との関係では、株主総会の決議時点において確定的な金額を定めることが困難であることから、報酬の内容を定めることとし、かつ、その報酬を相当とする理由を開示することで足りるとすることには理由がある。


第十四 経営委員会制度

  • 一 設置
    株式会社は、定款の定め又は取締役会の決議により、経営委員会を置くことができるものとする。
  • 二 構成
    経営委員会は、取締役の一部をもって組織し、これを組織する取締役は、取締役会の決議によって定めるものとする。
  • 三 権限
    経営委員会は、法令又は定款に別段の定めがある場合にはその定めによるほか、一定の事項について、取締役会の委託により、株式会社の業務執行を決定するものとする。
  • 四 運営
    •  経営委員会が決定した事項は、取締役会に報告しなければならないものとする。
    •  経営委員会の議事録については、取締役及び監査役は、これを閲覧することができるものとする。
    •  第二百五十九条から第二百五十九条ノ三まで及び第二百六十条ノ二から第二百六十条ノ四までの規定は、経営委員会に準用するものとする。

注1 商法特例法上の大会社に限定すべきかどうかについては、なお検討する。


注2 取締役の数が一定数(例えば十人)以上の株式会社に限定すべきかどうかについては、なお検討する。


注3 経営委員会に委託することができる「一定の事項」の範囲、代表取締役との関係(再委託の可否、可能である場合の範囲、報告義務の有無、取締役会への報告義務との関係等)については、なお検討する。


注4 経営委員会を設置したこと及び経営委員会への委託事項については、登記事項とするものとする。


<意見>

賛成。


※ ただし、経営委員会を導入した場合、現状の常務会等と同様の事実上取締役会の上位に位置する機関となる可能性があり、単なる常務会等の追認となることを理由に反対する見解があった。


※ 経営委員会の委員につき、取締役会が解任権限を有すること、解任理由の要否等を明記すべきであるとの見解があった。


注1 会社経営の意思決定の過程に関する組織は基本的に会社内部の問題であり、その会社の自主的経営判断を尊重するのが建前であり、対象会社を限定する必要はない。


注2 経営委員会を導入する会社の取締役の員数を法律で一律に限定する必要はない。ただし、取締役会による迅速な意思決定に支障を生じているという趣旨からみて取締役の員数による制限をすべきであるとする見解もあった。


注3 取締役会の権限を明確化する意味で、経営委員会に委託することのできる事項は明確化することが望ましい。


<理由>

わが国の会社の多くで、常務会、(最高)経営会議ほかの名称による法定外の会議体で、事実上の会社経営の意思決定がなされ、取締役会は常務会ほかで事実上決定された事項を追認する機関となっているうえ、そこに監査役、株主のコントロールの全く及ばないことが指摘されている。


この改正により、わが国の会社の多くで採用してきた常務会、(最高)経営会議ほかの法定外の会議体を「経営委員会」の名称で取り込んで、これに法規制を加えることは評価できる。


しかし、取締役会との関係で、経営委員会の権限が明確に限定されないときは、取締役会の形骸化をもたらすことになることから、慎重に規定すべきである。


第十五 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)上の大会社についての社外取締役の選任義務

  •  取締役のうち一人以上は、その就任の前大会社又はその子会社の業務を執行する取締役若しくは支配人その他の使用人でなかった者でなければならないものとする。
  •  一に規定する者は、大会社又はその子会社の業務を執行する取締役若しくは支配人その他の使用人を兼ねることができないものとする。
  •  一に規定する者については、第二百六十六条第二項及び第三項の規定は、適用しないものとする。

<意見>

1. 社外取締役の義務化に賛成する。


ただし、対象会社を全ての商法特例法上の大会社ではなく、より限定すべきである。


反対意見として、会社の実態を把握しない社外取締役が適切に会社業務執行の意思決定をなすことができるのか疑問であるとの見解も強かった。


2. 社外取締役の要件(資格)については、賛成。


3. 商法第266条第2項及び第3項の適用排除については、社外取締役の責任を軽減すべきであるという趣旨には賛成するという意見が多数を占めた。


社外取締役の責任を軽減する規定の方法については、第266条第2項及び第3項の適用を排除すべきかについて見解が分かれた。


<理由>

1. 社外取締役制度は、平成5年の改正の際に、日米構造協議を受けて検討されたが、社外監査役制度を導入することで、見送られた経緯がある。


わが国でも近年の利益供与または違法・不正取引による損害発生、大型倒産の増加により、コーポレート・ガバナンスのあり方について強い関心がもたれるようになっている。


ここで注目されているのが社外取締役の導入であり、ALI(アメリカ法律協会)は大公開会社の取締役会は社外取締役であるべきであると勧告し、外国機関投資家などがわが国の会社のコーポレート・ガバナンスのあり方として社外取締役の選任を求めている。わが国にも日本コーポレート・ガバナンス・フォーラムなどによって社外取締役の重要性が指摘されている。


このような状況下で、実際にも平成元年以後社外取締役を選任する会社が次第に増加している。


このように会社の適正な経営を確保し株主の利益を確保する観点から社外取締役の必要性は高いというべきである。


ただし、商法特例法上の大会社とはいえ、その会社ごとに規模、経営の状況、公開非公開の別(株主数の違い、同族性)などの事情に違いがあり、社外取締役を義務付ける対象会社を全ての商法特例法上の大会社とするのでは負担が大きく、対象会社の範囲が広きに過ぎるのではないかとの意見があり、対象会社をより限定すべきであると考えられる。


2. 社外取締役が大会社又はその子会社の業務を執行する取締役若しくは支配人その他の使用人を兼ねることができないとするもので、社外取締役の独立性を確保するうえで最低限の規制であり、賛成。


3. 社外取締役の責任軽減(商法第266条第2項及び第3項の規定排除)


商法第266条第2項及び第3項の適用排除については、社外取締役の責任を軽減すべきであるという中間試案の趣旨には賛成するという意見が多数を占めたが、他方で、商法第266条第2項及び第3項の規定排除についてはコーポレート・ガバナンスの観点から問題が大きく、社外取締役の果たすべき機能も十分に発揮されない可能性が高いとする見解もあった。


責任軽減の方法として、同規定の適用を排除すべきか、同規定の適用を排除すれば責任制限として十分か、さらに取締役一般の責任規定の改正(取締役責任につき過失責任の明確化、責任免除要件の緩和など)のほか、社外取締役の限定された職務による責任範囲を明確化すべきであるとの見解があった。


第十六 商法特例法上の大会社以外の株式会社における会計監査人による監査

  •  大会社以外の株式会社で資本の額が一億円を超えるものは、定款で、商法特例法第二条第一項の書類について、会計監査人の監査を受ける旨を定めることができるものとする。
  •  商法特例法第三条から第二十条まで並びに第十五、第十七から第十九まで及び第二十一の規定は、一の規定により会計監査人の監査を受ける旨を定めた株式会社について準用するものとする。

<意見>

1. 賛成。


2. 商法特例法第18条及び第19条、並びに第十五、第二十一の準用は反対する。


<理由>

1. 従来から商法特例法上の大会社以外の株式会社にあっても、合弁企業や株式公開準備のために任意に公認会計士または監査法人による会計監査を受けることが見受けられる。このような会計監査を行うことが、会社の透明性を高め株主の利益確保に繋がることは明白である。


このような任意の公認会計士または監査法人による会計監査の監査業務について法的な根拠付けを与えること、および任意の会計監査人の地位、監査業務の方法等を法的に明確化することも必要である。


その意味で、商法特例法上の大会社の貸借対照表、損益計算書の確定の規定の準用は、任意の会計監査を広げることに繋がり、賛成である。


2. しかし、このような任意の会計監査を行う会社が商法特例法上の大会社に該当しない規模の会社であることも考慮に入れるべきであり、これに過剰な規制を加えることは、かえって任意の会計監査の採用につき消極的とならざるを得ないという結果を招来する可能性が高い。


その意味で、(1)監査役3名以上からなる監査役会の設置を強制する監査特例法第18条、19条、(2)社外取締役の選任義務(中間試案第十五)、(3)連結貸借対照表及び連結損益計算書作成(中間試案第二十一)の準用については、会社にとり負担が大きいので、反対である。


第十七 会計監査人の会社に対する責任についての株主代表訴訟

第二百六十六条第五項及び第二百六十七条から第二百六十八条ノ三までの規定は、商法特例法第九条の会計監査人の責任に準用するものとする。


<意見>

賛成。


<理由>

会計監査人制度が監査の適正と充実を図るために導入されたにもかかわらず、会計監査人に対する代表訴訟制度がなかったのは制度としては不備であった。


会計監査人となる監査法人は、一方で会社の会計監査を行いながら、他方で同一の会社からコンサルタント等の業務を受託している場合が多く(別法人による場合と同一法人による場合がある)、会社との間で、会計監査業務の遂行に当たって、独立性の欠如の問題が生じる可能性がある。


なお、あわせて一言、付言すれば、会社の財務計算書類を監査する立場にある公認会計士制度については、より自律性のある独立性を担保されたものに制度設計する必要があるのではないかと考えられる。この点の検討を要望したい。


第十八 商法特例法上の大会社の利益処分案等の確定等

  • 一 大会社における利益処分案の確定
    •  各会計監査人の監査報告書に商法特例法第十三条第二項の規定による第二百八十一条ノ三第二項第三号に掲げる事項の記載及び同項第七号に掲げる事項につき議案が法令及び定款に適合する旨の記載があり、かつ、監査役会の監査報告書にこれらの事項についての会計監査人の監査の結果を相当でないと認めた旨及び商法特例法第十四条第三項の規定による第二百八十一条ノ三第二項第八号に掲げる事項につき議案が著しく不当である旨の記載(各監査役の意見の付記を含む。)がないときは、第二百八十三条第一項及び第二百九十三条ノ二の規定にかかわらず、取締役は、第二百八十一条第一項第一号及び第二号に掲げる書類については定時総会の承認を求めることを要せず、同項第四号に掲げる書類についてはその承認を得たものとみなすものとする。この場合においては、取締役は、定時総会に確定したこれらの書類を提出し、その内容(同項第四号の書類については、その内容のほか、利益の配当を行うに当たっての方針、損失回復についての見込みその他法務省令で定める事項を含む。)を報告しなければならないものとする。
    •  取締役は、第二百八十三条第一項の承認を得たとき又は1の前段に規定するときは、遅滞なく、確定した第二百八十一条第一項第一号、第二号及び第四号に掲げる書類の内容又はその要旨を公告しなければならないものとする。
  • 二 大会社における取締役の任期
    大会社の取締役の任期は、就任後最初の決算期に関する定時総会の終結の日までとする。

注1 役員賞与の取扱いについては、なお検討する。


注2 損失処理案の取扱いについても、利益処分案と同列に扱うものとする。


<意見>

1.

大会社における利益処分案の確定については、賛否両論があったので両論を併記する。


(1)

賛成意見


ただ、役員賞与については、なお総会の承認を要すべきである。


<理由>


従来のように株主総会において利益処分案を承認決議をするとしても、時価会計の導入など大会社の会計処理が複雑化、専門化するなかで、日常会社経営に関わることがなく情報の乏しい一般株主に実質的議論を望むことは困難である。


また、利益処分の確定に係る取締役、監査役、会計監査人の責任を明確化し、会計監査人に対する株主代表訴訟を規定するほか、取締役の任期を短縮すべきである。監査役会ないし監査委員会による監査権限が強化され会計監査が十分機能することを前提とするという意見があった。


なお、「お手盛り防止」の観点から、役員賞与については、なお総会の承認を要すべきである。


注2 損失処理案の取扱いについても、利益処分案と同列に扱うことに賛成する


(2)

反対意見


<理由>


米国の制度に倣ったものであり、株主総会の権限を縮小し、利益処分案を取締役会に委ねようとするものであるが、会社の配当政策など利益処分は株主にとって重大な関心事である。利益処分案の承認は株主の利益に直接関係し、計算書類の確定とは本質的に別の事項である。


大会社において利益処分案につき株主総会を経ずして確定させる実際上の要請があるとは考えにくく、改正の必要性が乏しい。


しかも役員賞与を総会事項とせずに、取締役会に委ねる趣旨であれば、問題がある


2.

大会社における取締役の任期についても、の見解と関連して賛否両論があった。


(1)

賛成意見


大会社につき利益処分案の確定に定時総会の承認を求めることを要しないとする中間試案に賛成する立場から、取締役の任期の短縮に賛成する。


<理由>


大会社につき利益処分案等の確定に定時総会の承認を求めることを要しないとしたうえで、取締役の任期を2年とすると、株主が株主総会を通じて会社経営に接する機会が少なくなる。したがって利益処分案を取締役会に委ねようとする以上、株主による会社経営に対する監視機能を働かせる機会が必要であり、取締役の任期の短縮が必要である。


コーポレート・ガバナンスの強化の観点から取締役の選任決議を通じて取締役を監視する機会を増加させることが望ましい。


(2)

反対意見


<理由>


利益処分案を取締役会に委ねることに反対する立場からは、改正の必要性がない。


取締役の任期を1年とするときは、取締役が短期的成果のみを重視する経営を志向する懸念がある。また、取締役の任期の短縮は、取締役の地位の不安定化をもたらし実質的に人事を決定している代表取締役等の地位を強化する結果となるおそれがある。また、毎年取締役選任決議を行うのは煩雑である。


第十九 商法特例法上の大会社による監査委員会、指名委員会及び報酬委員会(以下各種委員会」という。)制度並びに執行役制度の導入

  • 一  各種委員会制度及び執行役制度の採用
    •  大会社は、定款をもって、各種委員会及び執行役を置くことを定めることができるものとする(以下、この定款の定めをした大会社を第十九において「会社」という。)。
    •  1の場合においては、会社は、監査役を置くことを要しないものとする。
    •  1の場合においては、左の事項を登記しなければならないものとする。
      • (一) 各種委員会及び執行役を置くことを定めたときは、その規定
      • (二) 各種委員会を組織する取締役の氏名

注1 会社については、各種委員会及び執行役を置くことを定めることとしたことが第三者にも分かるような商号を付することとするかどうかについては、なお検討する。


注2 定款変更によって会社でない株式会社が会社になるとき(又はその逆のときは、定時総会の終結の時を基準時とすることとするが、その規定ぶりについては、なお検討する。


注3 各種委員会制度及び執行役制度については、選択制ではなく、大会社すべてに適用すべきとする意見があるが、どうか。


注4 各種委員会及び執行役制度を採用した会社についての取締役会(第二百六十条関係)の権限等については、取締役会は、会社の業務執行を決し、取締役及び執行役の職務の執行を監督するものとし、取締役会は、その会社の基本的な経営事項(経営上のリスク管理システムの構築、中長期の資金調達計画等)及び本法において別段の定めがある事項を除くほか、執行役に業務執行を決定させることができるものとし、執行役は、三か月に一回以上、業務執行の状況を取締役会に報告することを要するものとする。


<意見>

 各種委員会制度及び執行役制度の採用については、選択制である限り賛成。


中間試案は、各種委員会制度及び執行役制度を一体のものとして導入するようであるが、そのことについても賛成。


なお、各種委員会制度及び執行役制度の趣旨である取締役会の形骸化等の事情は、必ずしも大会社に限られないことから、対象会社を一般の会社に拡大すべきであるとの見解があった。


注1 この制度を採用した会社を識別する商号、呼称が必要とまではいえない。


注3 各種委員会制度及び執行役制度を大会社に強制すべきではなく、選択制とすべきである。


<理由>

1. わが国の株式会社では、取締役会の形骸化の問題に加え、いわゆる平取締役(使用人兼務取締役)は会社経営の意思決定過程に実質的に参画していないうえ、取締役が代表取締役の支配下にあり、業務執行に対する監視義務も果たしていないとされている。


 その意味で、社外取締役を中心に構成される各種委員会を設置して取締役会の監督機能を強化し、執行役に業務執行を決定させることで、業務の効率性を高めること等の理由は相当である。


2. 各種委員会制度及び執行役制度の導入は会社内部の問題であり、その会社の自主的経営判断を尊重するのが建前であるというべきである。


したがって各種委員会制度及び執行役制度を導入するとしても、全ての商法特例法上の大会社に適用する必要はなく、選択制であることが望ましい。


3. 各種委員会制度及び執行役制度は、現在の取締役会制度の改善を一体的に実現しようとするものである。例えば中間試案中の各種委員会だけを採用して監査役制度を廃止したにとどまる場合は、執行役への権限委譲による業務執行の効率化が図られないだけでなく、従来の監査役会が取締役会の内部組織とされるだけで終わってしまい、現状の会社の監督機能を低下させることになる。


  • 二 各種委員会制度及び執行役制度の内容
    •  各種委員会制度
      • (一) 各種委員会の設置
        • (1) 会社は、取締役会の決議をもって、各種委員会を組織する取締役を定めなければならないものとする。
        • (2) 各種委員会を組織する取締役は、三人以上で、そのうち過半数は、その就任の前会社若しくはその子会社の執行役若しくは支配人その他の使用人又はその子会社の業務を執行する取締役でなかった者(以下「社外取締役」という。)でなければならないものとする。
        • (3) 社外取締役及び監査委員会を組織する取締役であって社外取締役でない者は、会社若しくはその子会社の執行役若しくは支配人その他の使用人又はその子会社の業務を執行する取締役を兼ねることができないものとする。

注5 現行法下での常勤監査役の存在にかんがみ、監査委員会については、常勤の取締役を一人以上置かなければならないこととすべきかどうかについては、なお検討する。


注6 社外取締役の要件につき、「親会社の執行役でないこと」や「執行役と一定の身分関係がないこと」等の独立性をも要求するかどうかについては、なお検討する


注7 社外取締役の割合が過半数でよいかどうかについては、各委員会ごと(特に監査委員会)に、なお検討する。


<意見>

二1(一) 各種委員会の構成(3人以上で、社外取締役を過半数とすること)については、賛成。


注5 監査委員会には、常勤の取締役を置くべきである。


注6 社外取締役の要件につき、「親会社の執行役でないこと」や「執行役と一定の身分関係がないこと」等の独立性をも要求するかどうかについては、不要。


<理由>

1. 取締役会の独立性を高め、執行と監督の分離を図る観点から、過半数を社外取締役でなければならないとすることが望ましい。


2. 監査委員会には、常勤取締役を置かなければならないかという点については、会社の業務監査には会社業務の内容についての知識が必要である。監査委員会の過半数が社外取締役であることからみて、従来からの常勤監査役に相当し、その会社の業務を理解する者が監査する必要性は否定できない。


3. 社外取締役の要件につき、注6のような独立性をも要求するとすれば、社外取締役の人材確保が難しくなり、そのために各種委員会制度及び執行役制度の採用が回避される可能性がある。


  • (二) 各種委員会の権限

    注8 各種委員会の権限につき、以下に掲げる法定事項のほか、定款、株主総会決議又は取締役会決議により、権限を付与することができることとするかどうかについては、その権限の内容を含めて、なお検討する。


    • (1) 監査委員会
      •  監査委員会は、執行役の職務の執行を監査するものとする。
      •  会社が執行役に対し、又は執行役が会社に対し訴えを提起する場合においては、その訴えについては、監査委員会を組織する取締役が会社を代表するものとする。会社が二の2の(一)の(5)において準用する第二百六十七条第一項の請求を受けるについても、同様とするものとする。

      注9 監査委員会、指名委員会及び報酬委員会のほかに新たに訴訟委員会を設けることとするか、設けることとした場合の権限等については、なお検討する。


    • (2) 指名委員会
      名委員会は、取締役の選任に関する議案の内容を決定するものとする。

      注10 決定権限ではなく、推薦の権限に止めるべきであるとの考えもあるが、どうか。


      注11 執行役(特に代表執行役)の選任に関する議案についても同様に取り扱うべきものとするかどうかについては、なお検討する。


    • (3) 報酬委員会
      報酬委員会は、左(下記)の事項を決定するものとする。
      •  取締役又は執行役が受ける報酬に関する方針
      •  各取締役又は各執行役が受ける報酬(ウに掲げるものを除く。)の額
      •  取締役又は執行役の報酬として、第五の十の2の決議のある新株引受権又は株式の時価、利益の額その他の数値に基づいて算定される額に相当する金銭その他の財産を取得できることとなる権利を与えるべき場合においては、各取締役又は各執行役についてその内容

      注12 報酬の方針、内容等の開示のあり方については、なお検討する。


  • (三) 各種委員会の運営
    • (1) 各種委員会は、その職務遂行の状況を取締役会に随時報告しなければならないものとする。
    • (2) 取締役は、各種委員会の求めに応じ、各種委員会に出席し、意見を述べることができるものとする。

      注13 報酬委員会に関して、執行役に出席及び意見陳述権を付与すべきかどうかについては、なお検討する。


    • (3) 第二百五十九条から第二百五十九条ノ三まで、第二百六十条ノ二及び第二百六十条ノ四の規定は、各種委員会に準用するものとする。

二1(二) 各種委員会の権限

<意見>

※ 各種委員会の権限につき、法令定款のほか株主総会の決議による権限の付与を検討すべきであるとの見解があった。


(1) 監査委員会の権限については、賛成。


(2) 指名委員会の権限については、賛成。


(3) 報酬委員会の権限については、賛成。


注9 訴訟委員会を設けることは、各種委員会制度が十分期待された機能を果たすものであることが前提であり、時期尚早である。


注10 指名委員会の権限としては、「推薦」の権限にとどめ取締役会が決定すればよいとの見解については反対。


注11 指名委員会が、執行役(特に代表執行役)の選任の議案についても指名権限を有するとすべきかについては、反対。


注13 執行役の報酬は報酬委員会に決定権があるが、執行役に意見陳述権を与えるべきである。


<理由>

(1) 監査委員会の権限については、事実上、監査役が会計監査を会計監査人に委ねることができる現状においては、制度上、業務監査権限を監査役に残す必要があるとは思えない。また、業務監査権限を監査委員会に委譲してはならないとすべき結論にはならない。


社外取締役を過半数として監査委員会の独立性を高めた場合、現行の監査役の監査権限を監査委員会に委ねてもよいと考える。


(2) 指名委員会の権限については、いずれも会社の経営の透明性を高め、形骸化した総会の機能の一部を代替するもので、能力主義的に被選任者を選ぶ体制ができる。


(3) 報酬委員会の権限については、取締役・執行役の報酬は、在任期間に重きを置くことなく、会社に対する功労に応じて支払われるべきものであるので、その評価がより適正になされうると考えられる。


注10 指名委員会の権限としては、「推薦」の権限にとどめるべきかについては、各種委員会が過半数の社外取締役で構成されることとしたのは、社内の取締役の意見からの拘束を少なくして、独立した判断を求めるもので、参考意見的な「推薦」意見では意味をなさず、それでは指名委員会が期待された機能を果たすことはできないと考えられる。


注11 執行役は、取締役会の経営判断において選任されるべきであり、会社の実際の業務執行を決定する執行役の選任についてまで過半数の社外取締役からなる指名委員会が指名することは、取締役会の権限を著しく弱める結果となる。


指名委員会は、代表執行役を含め執行役の選任の議案についても指名権限を有しないとすべきである。


注13 執行役が実際の会社の業務執行の多くの決定を行うようになると、会社の業務が執行役の段階で決定実施されることになるため、執行役の業務が会社経営状況に及ぼす影響は大きくなる。その結果として、将来は執行役の報酬も相当高額となってくることが予想される。


ところが、執行役の業務の評価は、多くは非常勤であり社内事情に精通しない社外取締役が過半数で構成される報酬委員会に任せ、執行役に意見陳述の機会を与えないとすることは問題が残る。


二1(三) 各種委員会の運営

<意見>

賛成


  • 2 執行役制度
    • (一) 執行役
      • (1) 執行役は、取締役会において、選任するものとする。
      • (2) 執行役は、取締役会が委託した会社の業務執行を決定するものとする。

        注14 取締役会に権限を残すべき個別事項は、計算書類の承認、株主総会の招集の決定、取締役会を招集すべき取締役の決定、競業行為の承認、利益相反取引の承認中間配当の決定及び譲渡制限株式の譲渡承認とし、それ以外のもの(新株発行、社債募集、額面・無額面株式の転換、株式分割の決定、第二百六十条第二項の個別事項等については執行役に決定させることができるものとすべきと考えるが、どうか。


        注15 執行役を兼任しない「業務担当取締役」は、認めない趣旨である。


        注16 取締役と執行役との兼任については、業務執行と監督との分離を徹底すべきとの観点から、禁止すべきとの意見があるが、どうか。


      • (3) 執行役は、いつでも、取締役会の決議をもって、解任することができるものとする。ただし、任期の定めがある場合において、正当の事由なくして、その任期の満了前にこれを解任したときは、その執行役は、会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものとする。
      • (4) 執行役がその任務を怠ったことにより会社に損害を生じさせたときは、その執行役は、会社に対し連帯して損害賠償の責めに任ずるものとする。
        執行役が第二百九十四条ノ二第一項の規定に違反して財産上の利益を供与したときは、その執行役は、会社に対し供与した利益の価額を賠償する責めに任ずるものとする。
        これらの執行役の責任は、総株主の同意がなければ免除することができないものとする。

        注17 現行二百六十六条第一項に規定する取締役についての損害額の法定等を執行役の場合にも規定すること等については、なお検討する。


        注18 取締役の会社に対する責任についても、第二百六十六条の規定の適用を排除し、同様の規定を置くこととする方向で、なお検討する。


        注19 二の1の(二)の(1)のイの規定は、取締役に準用するものとし、この訴えの当事者である取締役がその代表者となるべき者であるときは、その訴えについては、株主総会の定める者が会社を代表するものとする。


      • (5) 第二百五十四条第二項及び第三項、第二百五十四条ノ二、第二百五十四条ノ三、第二百五十六条第一項、第二百六十四条、第二百六十五条、第二百六十六条ノ三第一項、第二百六十七条から第二百六十八条ノ三まで、第二百七十一条並びに第二百七十四条ノ二の規定は、執行役に準用するものとする。
    • (二) 代表執行役
      • (1) 会社は、取締役会の決議をもって、会社を代表すべき執行役を定めなければならないものとする。
      • (2) (1)の場合においては、数人の代表執行役が共同して会社を代表すべきことを定めることができるものとする。
      • (3) 第三十九条第二項、第七十八条及び第二百五十八条の規定は、代表執行役に準用するものとする。
      • (4) 社長、副社長、その他会社を代表する権限を有するものと認めるべき名称を付した執行役のした行為については、会社は、その者が代表権を有しない場合であっても、善意の第三者に対して責めに任ずるものとする。

注20 本文の一及び二の制度と並列的な制度として、代表取締役を存置したままで、現行法下の業務担当取締役若しくは使用人兼務取締役に相当する会社役員又は現在の実務で採用されている執行役員を、すべての株式会社を適用対象として、法律上の制度として規律すべきとする意見があるが、どうか。


2(一) 執行役制度

<意見>

1. 執行役の選任については、賛成。


2. 執行役の権限については、その会社の実情に対応できる選択肢を与えるという意味で、賛成である。


3. 執行役の解任については賛成。


4. 執行役の損害賠償義務については、賛成。


5. 取締役の規定の準用については、賛成。


注14 基本的には賛成であるが、執行役は、取締役会の委託により会社の業務執行を決定するものであり、中間試案では執行役に対し広範囲の委託が認められ、逆に取締役会の権限は極めて限られてくることとして反対する意見も強くあった。


注16 取締役と執行役の兼任は禁止すべきではない。


※ 併せて執行役制度を導入した場合、会社との契約関係(法律的地位)について委任契約関係か雇用契約関係かの問題が残り、労働法規の適用関係についても明文で規定すべきであるとの意見があった。


<理由>

1. 執行役の制度について。執行役の制度は機動的な経営に資するものであるが、執行役の独断をコントロールする必要があることからみて、その選任、解任については取締役会の権限とし、取締役会の監視機能を強化することが、コーポレート・ガバナンスの観点から必要である。


2. 執行役の権限について。各種委員会及び執行役制度を導入した場合に、どの範囲で執行役に業務執行の決定を任せるかについては、その会社ごとの実情に併せて決定すべきものであり、立法としてはそれを必要とする会社側のニーズに対応できるという選択肢を与えるという意味で、賛成である。


3. 執行役の解任、(4)執行役の損害賠償義務、(5)取締役の規定の準用については、執行役の権限から当然である。


注16 執行役の業務執行の決定につき取締役との連携は必要であり、監督機関と執行機関の分離を徹底させる趣旨は理解できるが、社外取締役を過半数とする各種委員会により取締役会の監督権限を強化しており、取締役と執行役の兼任を禁止するのは行き過ぎである


2(二) 代表執行役

<意見>

代表執行役、共同代表、表見代表執行役等の規定の整備については、賛成。


注20 代表取締役を存置したまま、現行法制度の上で、業務担当取締役、執行役員につき、すべての株式会社を対象として、法律上の制度とすることには反対。


<理由>

代表執行役、共同代表、表見代表執行役等の規定の整備は、執行役制度の導入に伴い、その業務執行権限に相応して当然に整備されるべき事項であり、賛成する。


注20 代表取締役を存置したまま、現行法制度の上で、業務担当取締役、執行役員を独立の制度として採用した場合、執行役制度との関係で取引上混乱が生じるおそれがある。


現行制度下で肥大化した取締役会を縮小し、業務執行を執行役員に委ねてきた会社は、各種委員会・執行役制度か、現行の制度に経営委員会を加えた制度を採用すれば足りる。


現在、商法の制度外で実施されている執行役員については、業務の決定権限を委ねられる執行役制度が採用されるべきであり、現行の制度に付け加えるべきではない。


むしろ執行役制度が導入された場合、執行役員制度は廃止されるべき方向で検討すべきであるとの見解があった。


  • 三 個別規定の整備
    • 1 適用の排除
      会社については、第二百六十条第二項、第二百六十条ノ三、第二百六十一条、第二百六十二条、第二百六十六条、第二百六十六条ノ二、第二百六十九条、第二 百七十三条、第二百七十四条第一項、第二百七十五条、第二百七十五条ノ三から第二百七十九条まで及び第二百八十条第一項並びに商法特例法第十四条第一項、第十六条第二項、第十八条から第十八条の三まで、第十八条の四第一項及び第十九条第一項の規定は、適用しないものとする。
    • 2 読替えによる適用
      • (一) 「取締役」とある規定については、代表取締役を意味するものは「執行役と、取締役全員をも意味するものは「取締役」に加えて「執行役」と読み替えて適用するものとする。
      • (二) 「監査役」又は「監査役会」とある規定については、「監査委員会」と読み替えて適用するものとする。。
      • (三) 商法特例法において「各監査役」とある規定については、「監査委員会を組織する取締役」と読み替えて適用するものとする。

注21 計算書類の取締役会の承認(第二百八十一条第一項)は、会計監査人及び監査委員会による監査の後に受けるべきものとし、「執行役は、監査委員会から監査報告書を受領した場合には、遅滞なく、第二百八十一条第一項の承認を求めなければならない。」との規定を新たに置いた上で、第十八の一の2中「1の前段に規定するとき」とあるのは「第二百八十一条第一項の承認を得たとき」と読み替えるものとする。


会社の計算・開示関係

第二十 資産評価等に関する規定の方法

  • 一 会計帳簿における財産の価額の記載方法
    株式会社の会計帳簿に記載すべき財産の価額については、第三十四条の規定は、適用しないものとし、財産、繰延資産及び引当金の額並びに記載の方法は、法務省令で定めるものとする。
  • 二 配当限度額の算定
    第二百九十条第一項第四号から第六号までの規定を削除し、法務省令で定める額を貸借対照表上の純資産額から控除するものとする。
  • 三 中間配当限度額の算定
    第二百九十三条ノ五第三項第三号から第五号までの規定を削除し、法務省令で定める額を最終の貸借対照表上の純資産額から控除するものとする。

注1 第二百八十五条ノ二から第二百八十七条ノ二までの規定を削除するものとする。


注2 証券取引法第二十四条の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出すべき株式会社は、財務諸表等規則の定めに従い、貸借対照表及び損益計算書を作成しなければならないものとすることが適当であるとする考えがあるが、どうか。


注3 営業報告書の記載事項並びに附属明細書の種類の簡素化及び合理化については、なお検討する。


1. 法務省令への委任について

<意見>

反対。


<理由>

商法第34条の規定が国際的な会計基準と乖離していること、したがって速やかにこれを是正すべきことは中間試案が指摘するとおりである。したがって、株式会社については同条を適用しないものとすることについては賛成である。


しかしながら、上記の乖離を是正する方策として、商法第285条ノ2ないし第287条ノ2の規定を削除したうえで、法務省令に具体的な定めをおくことには反対である。


なぜなら、会計基準について法務省令への委任を行うことに伴い、配当限度額及び中間配当限度額の各算定についてまで法務省令によって定められることとなってしまっているが、根本的な株主権の一つである利益配当の内容について商法本則から導きえない結果となることは大きな問題であると考えるからである。


したがって、会計基準及び利益配当額限度額の算定については、いずれもあくまで商法本則において規定されるべきであり、現状是正あるいは今後の国際情勢等の変化に対応する方策としては時期に応じた商法改正をもって行うべきものと考える。


2. 財務諸表等規則の規定に従った貸借対照表及び損益計算書の作成について(注2)

<意見及び理由>

財務諸表等規則が上場会社等による投資家に対するディスクローズの見地から貸借対照表等の記載方法を定めていること、及び国際的会計基準や経済状況の変化に応じてより効果的なディスクローズを追求して改正されてきたことは疑う余地がない。


本中間試案も、かかる財務諸表等規則に従って作成される貸借対照表等の長所を承認して、商法上の計算書類もこれと同一ないしこれに近づけようとしているものと推察されるが、この点については賛成である。


したがって、有価証券報告書の提出義務を負う株式会社について、商法上も財務諸表等規則の規定に従った貸借対照表等を作成すべきものとすることについても賛成である。


しかし、翻って考えるに、財務諸表等規則が規定する内容に基づいて貸借対照表等を作成すべき株式会社を有価証券報告書提出会社に限定すべきではなく、広く全株式会社にこれを行わしめることが理想的な姿であると思われる。法人格を利用した不正事件や、不正に至らない場合であっても倒産事案等において、商法上の計算書類からは企業の状況の詳細な把握が不可能ないし著しく困難な事案が少なからず存在しており、より充実した計算書類の作成の要請は、上場会社等の有価証券報告書提出会社に限ったものではない。


もちろん、現実問題としては一定の経過措置が必要であろうが、近い将来においては大会社及び中会社、最終的には広く株式会社全てについて、財務諸表等規則が規定する内容を商法上も取り入れ、これに基づく貸借対照表等を作成せしむるべきものと考える。


第二十一 商法特例法上の大会社についての連結計算書類の導入

  • 一 連結貸借対照表及び連結損益計算書の作成
    大会社は、毎決算期に連結貸借対照表及び連結損益計算書を作り、取締役会の承認を得なければならないものとする。

注1 連結の範囲を商法特例法で規定することの要否については、なお検討する。


注2 連結計算書類を作成すべき大会社の範囲については、当分の間、証券取引法第二十四条第一項により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出すべき大会社に限るのが適当と考えるが、どうか。


注3 連結貸借対照表及び連結損益計算書の作成の方法は、法務省令で定めるものとし、連結財務諸表規則の規定を適宜引用するものとする。


注4 注記事項に関する規定をどの程度引用するかについては、なお検討する。


<意見及び理由>

一 大会社に連結貸借対照表及び連結損益計算書の作成義務を負わせることについて

賛成。


前記第二十における意見2で述べたところと同趣旨で、最終的には全ての株式会社についてこれら連結計算書類を作成させるべきものと考える。したがって、注2のような有価証券報告書提出会社に限るとの考えには反対。


注1 連結の範囲を商法特例法で規定することの要否について

必要と考える。有価証券取引法上の連結財務諸表と内容的に等しいものを商法上の連結計算書類として取り入れるとしても、両法律の目的が必ずしも同一とは言い切れない以上、商法本体、少なくとも商法特例法にその規定が置かれなければならないものと考える。


注3 連結計算書類の作成方法につき法務省令において連結財務諸表規則の規定を適宜引用して定めることについて

現状の連結財務情報の開示が一定の成果を果たしている以上、商法と証取法とで異にする必要性は感じられず、実質的に連結財務諸表規則と同一の規定を行う方針については賛成。


ただし、技術的な問題として旧大蔵省令である連結財務諸表規則の規定を法務省令で引用する場合において、改正等の手続上問題がないのか明らかにされたい。


注4 注記事項に関する連結財務諸表規則の規定の引用の程度について

連結財務諸表規則において規定されている注記事項が一定の成果を上げているという現状において「詳細」であるがゆえに限定するという考えには賛成できない。ディスクローズの充実という見地からは、積極的に同一化を図るべきである。


  • 二 監査役及び会計監査人の監査
    •  監査役及び会計監査人の監査
      一の書類は、監査役及び会計監査人の監査を受けなければならないものとする。

<意見>

賛成。


  • 2 監査役及び会計監査人の調査権
    大会社の監査役及び会計監査人は、その職務を行うために必要があるときは、一の書類に係る連結の範囲に含まれる子会社等に対して営業の報告(会計監査人の場合は会計に関する報告)を求め、又はその子会社等の業務及び財産の状況を調査することができるものとする。この場合において、その子会社等は、正当の理由があるときは報告又は調査を拒否することができるものとする。

注5 監査役の兼任を禁止すべき範囲(第二百七十六条)及び監査役の社外性の要件(商法特例法第十八条第一項)の見直しの要否については、なお検討する。


注6 会計監査人の欠格事由(商法特例法第四条第二項第二号)及び会計監査人が使用し得る者の欠格事由(商法特例法第七条第五項)の見直しの要否については、なお検討する。


<意見及び理由>

2 監査役等の連結の範囲に含まれる子会社等への報告請求権・調査権及び子会社等の拒否権について

賛成。ただし、適正監査の重要性に鑑みれば、子会社等が拒否し得る場合の正当理由については、例示するなどして一定の解釈基準を示す必要性があるものと考える(この点については現行の商法第274条ノ3第2項についても同じ)。


注5 監査役の兼任禁止の範囲及び社外性の要件の見直しについて

兼任禁止や社外性の要件を緩和する方向での見直しは行うべきではなく、例えば「5年内」という要件も撤廃するなどして、より厳格な要件とすべきものと考える。


注6 会計監査人の欠格事由等の見直しについて

おそらく、証券取引法第193条ノ2を念頭に置いて、これと平仄をとるべきかの検討と思われる。計算書類の内容の真実性等を強く担保するという趣旨からすれば、より厳密な証取法の規定に合わせる方向での検討が積極的になされるべきと考える。


  • 3 取締役の監査役会及び会計監査人への一の書類の提出期限
    取締役が一の書類を監査役会及び会計監査人に提出すべき期限は、定時総会の八週間前までとするものとする。ただし、監査役会及び会計監査人の同意を得た場合には、その期限を延長することができるものとする。

<意見>

本文につき賛成。ただし書については反対。


<理由>

監査役及び会計監査人の選任のイニシアチブが経営陣に存在するという事実を直視すれば、同意によっても提出期限を延長し得ないこととして、監査に必要な期間を確保し、連結計算書類の適正監査を強く担保すべきであると考える。


  • 4 会計監査人の監査報告書
    会計監査人が2の規定により一の書類に係る連結の範囲に含まれる子会社等に対して会計に関する報告を求め、又はその子会社等の業務及び財産の状況を調査したときは、その方法及び結果(会計に関する部分に限る。)を監査報告書の記載事項とするものとする。

注7 他の記載事項については、単体の計算書類に関するものと同様の規定をするものとする。


注8 監査報告書の記載事項に関する規定を法務省令に委任することも考えられるが、どうか。


<意見及び理由>

1. 子会社等への報告請求・調査の実施方法・結果に関する監査報告書の記載について

賛成。


監査結果のみならず、結論に至る経過に関する情報も、連結計算書類の信用性の内容の判断に資するものと考える。


2. 監査報告書の記載事項に関する規定を法務省令に委任することについて(注8)

反対。


計算書類の作成義務を法律で定めて充実したディスクローズを目指す以上、その情報の真実性を担保するための規定も法律においてなされるべきであると考える。


計算書類の記載事項を法務省令で定めることとされていることに起因して、監査報告書の記載事項に関する規定についても法務省令への委任によってしか解決し得ないという立法技術上の問題が真に生じるのであれば、むしろ計算書類の記載事項を法務省令で定めることとする前提自体を見直すべきものと考える。


  • 5 会計監査人の監査報告書の提出期限
    会計監査人は、商法特例法第十三条第一項の規定にかかわらず、監査役会及び取締役の同意を得て、監査報告書の提出の期限を延長することができるものとする。

<意見>

反対。


<理由>

二3に関する意見において述べたところの裏返しとして、監査報告書の提出期限についても延長を認めないこととして、関係当事者が期限内の適正監査を行うことを強く担保すべきであると考える。


  • 6 監査役会の監査報告書
    監査役が2の規定により一の書類に係る連結の範囲に含まれる子会社等に対し営業の報告を求め、又はその子会社等の業務及び財産の状況を調査したときは、その方法及び結果(会計に関する部分以外の部分に限る。)を監査報告書の記載事項とするものとする。

<意見>

賛成。


  • 7 監査役会の監査報告書の提出時期
    監査役会は、商法特例法第十四条第二項の規定にかかわらず、取締役の同意を得て、監査報告書の提出の期限を延長することができるものとする。

注9 大会社における計算書類及び監査報告書の提出時期に関し、法律で特段の定めを設けることは不要であるとする意見があるが、どうか。


<意見>

反対。既述したところと同様の理由による。


  • 三 本店及び支店における備置き
    •  大会社は、本店及び支店において、一の書類を備え置かなければならないものとする。
    •  株主及び会社の債権者は、一に掲げる書類の閲覧又は会社の定めた費用を支払ってその謄本若しくは抄本の交付を求めることができるものとする。
    •  親会社の株主は、その権利を行使するために必要があるときは、裁判所の許可を得て子会社の一の書類の閲覧又は会社の定めた費用を支払ってその謄本若しくは抄本の交付を求めることができるものとする。
  • 四 株主に対する送付
    定時総会の招集の通知には、一の書類の謄本を添付しなければならないものとする。
  • 五 株主総会における取扱い
    取締役は、一の書類を定時総会に提出してその内容を報告しなければならないものとする。
  • 六 公告
    取締役は、五の報告のほか、第二百八十三条第一項の承認を得、又は商法特例法第十六条第一項後段の報告をしたときは、遅滞なく一に掲げる書類又はその要旨を公告しなければならないものとする。

<意見及び理由>

連結計算書類の備置については、それ自体に反対するものではないが、制度趣旨は閲覧謄写権等の確保であると考えられるところ、現行の備置制度は必ずしも十分にこれに貢献しているとは考えられない。利害関係者がより容易にアクセスできるような制度が望まれるところであり、例えば法務局へ提出させるなどして、情報の作成者及び情報の開示を受ける者以外の第三者機関のもとに確実に備え置かれるような実効性のある制度とすべきものと考える。この場合、事務手続の負担等を考えると、提出すべき法務局は本店所在地に限定することもやむを得ないものと考える。


その余の点については賛成。


第二十二 貸借対照表等の公開

  •  株式会社にあっては、定時総会終了後、所定の期間内に、法務省令で定めるところにより、貸借対照表及び損益計算書並びに監査報告書を提供しなければならないものとする。
  •  何人でも、一の規定により提供された貸借対照表及び損益計算書並びに監査報告書につき、その提供後五年内は、法務省令で定めるところにより、閲覧等を請求することができるものとする。
  •  資本の額が五億円未満で、最終の貸借対照表の負債の部に計上した金額の合計が二百億円未満の会社にあっては、取締役は第二百八十三条第三項の規定による公告を省略することができるものとする。

注1 貸借対照表等の提供及び閲覧の方法については、インターネットを利用した方法を含むものとするが、その具体的な方法(例えば、特定のホームページへの掲載等)については、なお検討する。


注2 資本及び負債の額が一定の金額以下の会社にあっては、当分の間、貸借対照表のみを提供の対象とすべきとの見解があるが、どうか。


注3 資本及び負債の額が一定の金額以下の会社にあっては、一による提供、官報若しくは日刊新聞紙による公告、特定のホームページへの掲載又はこれとリンクした自社ホームページへの掲載等の選択を可能とするかについては、なお検討する。


注4 第二百六十六条ノ三第二項の規定を改正する必要はないと考えるが、どうか。


<意見及び理由>

計算書類の提供の方法については、情報の適正な開示及びそれを担保するための提供場所・方法等がより実効性のあるものとされるべきである。この見地からは、もちろんインターネットの活用も効果的なものと考える。


しかし、これのみによる場合には情報格差の問題を完全に解消し得るのか多分に疑問が残る。したがって、広く全国に法務局が設置されている環境に着目して、会社の規模を問わず、計算書類を法務局に提出せしめることにより、公平なアクセス権を確保するべきと考える。また、現状の公告制度の実効性に多分に疑問があることからすれば、かかる法務局への提出のような公平な第三者のもとに提出させる制度を導入する場合には、会社の規模を問わず公告を不要とするなどのように、公告に代わる確実な情報公開手段という見地からの検討がなされるべきと考える。


なお、注3に列挙されている公開手段のうち、自社ホームページへの掲載は、情報作成者と管理者とが一致することにより、情報改竄のおそれがあるので賛成できない。


また、想定される法務省令の概要や、「電子的な方法による提供及び閲覧に対応した新しいシステム」の概要が早期に明らかにされるべきであり、さらにこのシステム構築にあたっては、外部からの情報の書き換えができないようなものとするべきである。


大会社以外について第283条第3項の規定による公告を省略することができるとの点については賛成。


その他

第二十三 現物出資、財産引受及び事後設立の目的たる財産の価格の証明

  • 一 設立時における現物出資及び財産引受の目的物たる財産の価格の証明
    • 1 発起設立の場合
      • (一) 取締役は、その選任後、遅滞なく、第百六十八条第一項に掲げる事項が相当であることについて、弁護士、公認会計士又は監査法人(以下「弁護士等」という。)の証明を受けなければならないものとする。
      • (二) 次に掲げる者は、(一)の規定による証明を行うことができないものとする。
        • (1) 会社の取締役、監査役若しくは支配人その他の使用人である者又はその配偶者
        • (2) 業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者
        • (3) 監査法人でその社員のうちに(1)又は(2)に掲げる者があるもの
      • (三) (一)の証明を行った弁護士等がその任務を怠ったことにより会社に損害を生じさせたときは、その弁護士等は、会社に対し連帯して損害賠償の責めに任ずるものとする。
      • (四) (一)の弁護士等の証明に誤りがあったことにより第三者に損害を生じさせた場合には、その弁護士等は、その第三者に対し連帯して損害賠償の責めに任ずるものとする。ただし、その任務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでないものとする。
      • (五) 取締役及び監査役は、(一)の弁護士等の証明書及び左(下記)の事項を調査しなければならないものとする。
        • (1) 第百七十三条第二項に定める場合における同項の財産につき、定款に定めた価格が相当であるか否か
        • (2) 会社の設立に際して発行する株式の総数の引受けがあったか否か
        • (3) (2)の株式につき、払込み及び現物出資の給付があったか否か
    • 2 募集設立の場合
      • (一) 定款をもって、第百六十八条第一項に掲げる事項を定めたときは、発起人は、これが相当であることについて、弁護士等の証明を受けなければならないものとする。
      • (二) 1の(二)、(三)及び(四)の規定は、(一)の場合に準用するものとする。
      • (三) (一)の弁護士等の証明書は、これを創立総会に提出しなければならないものとする。
    • 3 発起人、取締役及び証明を行った弁護士等の財産価格てん補責任
      第百六十八条第一項第五号又は第六号の財産の会社成立当時における実価が定款に定めた価格に著しく不足するときは、発起人、会社成立当時の取締役及び1の(一又は2の(一)の証明を行った弁護士等は、会社に対し連帯してその不足額を支払う義務を負うものとする。ただし、当該弁護士等については、その証明をした当時における実価が定款に定めた価格に著しく不足するものでなかったことを証明したときは、この限りでないものとする。
    • 4 弁護士等の会社に対する責任についての株主代表訴訟
      第二百六十六条第五項及び第二百六十七条から第二百六十八条ノ三の規定は、1の(一)又は2の(一)の証明を行った弁護士等の責任に準用するものとする。
  • 二 事後設立の目的たる財産の価格の証明
    •  取締役は、第二百四十六条第一項の契約が相当であることについて、弁護士等の証明を受けなければならないものとする。
    •  第百七十三条第二項の規定は1の場合に、第百八十一条第三項及び第百八十四条第二項の規定は1の弁護士等の証明書に、一の1の(三)、(四)及び4の規定は1の証明を行った弁護士等に準用するものとする。
  • 三 新株の発行時における現物出資の目的たる財産の価格の証明
    •  現物出資をする者がある場合においては、取締役は、第二百八十条ノ二第一項第三号に掲げる事項が相当であることについて、弁護士等の証明を受けなければならないものとする。ただし、現物出資をする者に対して与える株式の総数が発行済株式の総数の十分の一を超えず、かつ、新たに発行する株式の数の五分の一を超えないとき又は現物出資の目的たる財産の価格の総額が五百万円を超えないときは、この限りでないものとする。
    •  第百七十三条第二項後段、一の1の(三)、(四)及び4の規定は、1の本文の場合に準用するものとする。

注1 弁護士に関しては、本年の通常国会に「弁護士法の一部を改正する法律」の法案が提出されているので、その成立後は、「弁護士等」に弁護士法人を加えるものとする。


注2 欠格事由については、なお検討する。


注3 現行の第百七十三条第二項は存置し、同条第三項(第百八十一条第二項、第二百四十六条第三項及び第二百八十条ノ八第二項で準用する場合を含む。)は、削除する。


注4 弁護士等の責任に関し、一の3との関係において、一の1の(三)の規定を設ける必要があるかどうかについては、なお検討する。


注5 現行の検査役調査制度を存置し、選択的に利用できることとすべきかどうかについては、なお検討する。


<意見及び理由>

1. 証明を行った弁護士等の財産価格てん補責任について

反対。


証明を行う弁護士等と会社との関係は準委任関係に立つものであり、かかる法律関係においては過失責任の原則が支配すると解される。にもかかわらず、それを超えて本中間試案のような無過失責任が規定されるべき合理的根拠は全く見出せない。


また、そもそも、弁護士等による証明の制度は、検査役制度による調査に時間を要していたという状況に鑑みて、一定のものについては簡易迅速な処理を許容する目的で創設されたものである。しかし、本中間試案のような無過失責任が法定されれば、その責任の過大さに起因して、必要以上に証明に時間をかけることとなり、あるいは、そもそも証明を引き受けること自体に必要以上に躊躇を覚え、証明を引き受ける者が不足するなどの現象が発生し得る。このように、無過失責任という過大な責任を法定することは、本制度の「簡易迅速性」という趣旨そのものにも逆行することとなる。


2. 証明を行った弁護士等に対する株主代表訴訟について

賛成する見解と反対する見解とが存在した。


賛成の見解は、株主代表訴訟の制度趣旨が、責任追及を受ける者と責任追及を行う者との間に共通の利害関係がある状況のもとで、責任追及が実効的になされない場合に、最終的・究極的な利害関係者である株主に責任追及を行わしめる点にある点に着目し、証明を行う弁護士等と当該証明を依頼する会社(取締役)との間の利害関係は、本制度が予定する構造と共通することを根拠とする。


他方、反対する見解は、株主総会の選任により会社の業務に関する意思決定・業務執行全般を善管注意義務・忠実義務のもとに行うこととなる取締役や会社全般の会計監査を行うこととなる会計監査人などの立場と比較して、個々の財産の価格の証明を行うに過ぎない弁護士等の立場はこれらと根本的に異なるということ、現実問題としても会社の機関でもなく、また株主総会による選任もなされていない弁護士等に対して、かかる株主代表訴訟制度を導入してまで株主に責任追及を認めるべき必要性が真にあるのか疑問であること、あるいは、「証明を行う弁護士等と当該証明を依頼する会社との間の利害関係」が本質的に一致するとまでは必ずしもいえないことなどを根拠とする。


3. 現行の検査役制度を存置し、選択的に利用できることとすべきか否かについて

現行の検査役制度を存置して、選択的利用を認めるべきである。


現行検査役制度においても、都市部においては調査終了まで概ね2、3か月程度で終了し、一定の効果を上げているのであり、本制度を廃止すべきとするほどの合理的根拠は見出せない。また、仮に、本中間試案のような証明を行った弁護士等の責任を加重する場合には、弁護士等において証明を行うことに相当の歯止めがかかることが想定され、現実問題として現物出資等における価格の相当性を担保する手段が存在しない結果となるおそれもある。


第二十四 会社関係書類の電子化

  •  商法、担保附社債信託法、有限会社法及び商法特例法の規定により合名会社、合資会社、株式会社及び有限会社が作成すべきものとされる書類は、一定のものを除き電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)の作成をもって当該書類の作成に代えることができるものとする。

注1 一における電磁的記録の作成の認められない書類としては、株券、債券等を規定するものとする。


<意見>

原則賛成。


<理由>

IT化が一層促進されることにより、データの電子化、意思伝達の電子化がより一層進むことは明らかで、これらによって情報の廉価で迅速かつ大量処理のメリットを享受できる。このメリットは会社の書類作成問題にも生かされるべきものであるので、これに賛成する。


しかし、情報格差問題、利用環境、電子化されたデータや意思に対するセキュリティ問題、ハッカー・クラッカー問題、署名問題、さらに、利用者側の対応能力問題などが山積している。


したがって、これらの導入に当たっては発生する可能性のあるこれらの問題について充分に検討されることが賛成の前提である。


  •  一に掲げる法律の規定により会社が保存し、又は備え置くべきものとする書類が最初の記録段階から一貫して電磁的記録により作成され、当該書類の作成に代えられた場合にあっては,当該電磁的記録の保存又は備置きをもって当該書類の保存又は備置きに代えることができるものとする。この場合において,当該書類を保存し,又は備え置くべき義務を有する者は,当該電磁的記録に係る記録が滅失し,又はき損することを防止するために必要な措置を講じなければならないものとする。

<意見>

原則賛成。


電磁的記録のバックアップはもちろん、電磁的記録に対する「き損」防止対策は当然であるが、加えて記録訂正等の経緯を残存させることも不可欠である。


  •  一の場合において、当該書類について閲覧若しくは謄写を求め、又は謄本若しくは抄本の交付を請求することができる者は、当該電磁的記録を保存し、又は備え置くべき義務を有する者に対し、当該電磁的記録を相当の期間内に明確かつ容易に読むことができる書面に出力することを請求することができるものとする。

<意見>

出力請求を保存・備置き場所に限定することは反対。その他は原則賛成。


<理由>

出力請求ができる場所を保存備置き場所に限定することは電磁的記録を認めた意味を半減させる。より多くの請求権者に情報を開示するという観点が生かされるべきものであるので、インターネット等による閲覧等を認めるべきである。また、出力を書面に限定すべきかも疑問である。希望があれば、CD等の媒体でも可能ではないかと思われる。


  •  一及び二の規定に係る電磁的記録に対する商法、破産法、民事再生法及び会社更生法の規定の適用については、当該電磁的記録を当該規定に規定する書面とみなし、又は当該電磁的記録への記録を当該書面への記載とみなして、当該規定を適用するものとする。

<意見>

賛成。


  •  一に掲げる法律の規定により署名すべきものとされている文書について、一の規定により電磁的記録を作成する場合には、電子署名及び認証業務に関する法律第二条第一項の電子署名をもって署名に代えることができるものとする。

注2 電子署名には実用化されていないものを含め多様な方法が存在するため、確認が容易な一定の範囲の方法に限定することとするかについては、なお検討する。


<意見>

原則賛成。


署名の信憑性が担保され、かつ、改ざんの余地の少ない電子署名方法が採用されるべきことは当然であるが、電子署名に関して種々のものがあり、それを限定するかどうかも含めて、さらに検討される必要がある。

第二十五 株式会社の公告の電子化等

  • 一 電磁的方法による公告
    •  株式会社(以下第二十五において「会社」という。)は、第百六十六条第四項の規定にかかわらず、電気通信回線を使用して電磁的記録に記録することができる情報を送信する方法(以下「電磁的方法」という。)によるもので法務省令で定めるものにより公告をすることができるものとする。
    •  会社は、第三百七十四条ノ二十第一項ただし書又は第四百十二条第一項ただし書の規定にかかわらず、同法第三百七十四条ノ二十第一項本文又は第四百十二条第一項本文の公告を官報のほかに公告をする方法として定款に定める電磁的方法によりしたときは、第三百七十四条ノ二十第一項本文又は第四百十二条第一項本文に規定する知れている債権者に対する催告は、することを要しないものとする。

注1 法務省令で定める公告の具体的方法としていかなる限定を加えるかについては、なお検討する。


注2 電磁的方法による公告を加えることを検討する際における情報格差の問題への配慮については、なお検討する。


<意見>

原則賛成。


<理由>

インターネットを利用した公告は廉価かつ迅速に情報公開できるという点で賛成である。


しかし、日刊新聞や官報と違って、ネットに公開された公告情報はハッカーやクラッカーらによる改ざんや虚偽情報掲載などの危険性を孕んでいるので、導入に当たっては一定の防止対策を義務化するなどの処置が必要である。


また、情報格差問題については、ある場所(例えば法務局等)へ行けば閲覧できる等の方法を講じるべきであろう。


  • 二 会社から株主又は端株主に対してする通知又は催告の電子化
    •  商法又は商法特例法の規定により会社から株主又は端株主に対してする通知又は催告は、株主又は端株主の同意を得た場合には、電磁的方法によってすることができるものとする。
    •  1の株主又は端株主の同意を得た会社についての第二百四条ノ二、第二百六条第二百十条ノ二、第二百二十三条、第二百二十四条、第二百二十四条ノ二、第二百三十条ノ二、第二百三十二条、第二百三十二条ノ二、第二百四十五条、第二百八十条ノ二、第二百八十三条、第三百四十二条、第三百五十三条、第三百七十四条、第三百七十四条ノ十七、第三百七十五条及び第四百八条並びに商法特例法第二十一条の二及び第二十一条の三の規定の適用について所要の読替えを行うものとする。

注3 会社から株主又は端株主に対してする通知について電磁的方法によることをも採用することとした場合に、これをいかなる方法で株主又は端株主に周知せしめるかについては、なお検討する。


注4 定時総会の招集通知には計算書類や監査報告書の謄本を添付することを要することとされているところ、会社から株主に対してする通知又は催告について電磁的方法を採用することとした場合に、添付ファイルとして送信するのみでなく、招集通知のメールにこれらの書類が見られるサイトのアドレスを記載するという取扱いを認めることとするかについては、なお検討する。


<意見>

原則賛成。


<理由>

本通知催告は個々の株主等の同意を条件としているので賛成する。


この方法としてE-mail等を予定している(なお、注3では今後の課題とするが)が、この場合、発信のみで足りるか着信まで要するかの問題がある。また、E-mail自体がプロバイダーのサーバーを介しての送受信であるため、そのセキュリティや管理に差があり郵便による通信より確実性や安全性において劣ること、通知に添付する書類ファイルの送信では受け手側に容量が充分にあるか否か問題となること(このために、これらのファイルが見られるサイトのアドレスを表示することも解決の一つである)、また、いわゆる「なりすまし」などが容易に行えること(郵送の場合は少なくとも切手代等の実費を要するため、イタズラによる通知書を大量に発送することは容易にはできないが、E-mailはほとんど費用をかけずに大量の文書を送信できることからイタズラや業務の混乱に利用されるおそれが多分にある)などから、この導入についてもこれらの問題を十分に検討しなければならない。なお、逆に、この方法の利用を撤回することは許されるべきところ、その撤回方法もE-mailによる方法あるいは書面による方法でもよいこととすべきである。


  • 三 株主から取締役又は会社に対してする請求又は通知の電子化
    •  商法又は商法特例法の規定による会社から受ける通知又は催告の方法として電磁的方法によることに同意した株主は、第二百四条ノ二第一項、第二百十条ノ二第九項、第二百三十二条ノ二、第二百三十七条第一項、第二百三十七条ノ三第二項、第二百三十九条ノ二第一項、第二百四十五条ノ二、第二百四十五条ノ五第三項、第二百五十六条ノ三第一項、第二百六十七条第一項、第二百九十三条ノ六第一項、第三百四十九条第一項、第三百五十五条第一項、第三百五十八条第五項、第三百七十四条ノ三第一項、第三百七十四条ノ二十三第五項、第四百八条ノ三第一項及び第四百十三条ノ三第五項の請求又は通知を電磁的方法によってすることができるものとする。
    •  1の株主についての1に掲げる規定(第二百五十六条ノ三第一項及び第二百九十三条ノ六第一項を除く。)並びに第二百四十五条ノ三第一項、第二百四十五条ノ五第四項、第二百五十六条ノ三第二項及び第六項、第二百九十三条ノ六第二項、第三百五十八条第六項、第三百七十四条ノ二十三第六項並びに第四百十三条ノ三第六項の規定の適用について所要の読替えを行うものとする。

<意見>

原則賛成。


<理由>

電磁的方法を選択した株主について、会社に対する所定の請求または通知を電磁的方法によることができるとしたことはその意思に合致し、妥当である。電磁的方法を選択しない株主もこれらの請求又は通知について電磁的方法の使用を認めてもよいように思えるが、会社としてはその都度、本人の確認作業をしなければならず、その作業が煩雑となるので認めないことに賛成する。電磁的通知等を採用していない会社に対してこれを認めないことも当然のことで妥当である。ただ、なりすまし等の問題の防止は当然必要なことである。また、これも発信主義か着信主義かにつき、検討を要する。さらに、周知方法は、やはり個別に書面で図ることが望ましい(最初のE-mail等による受付では本人確認が困難ではないかと思われる)。


  • 四 電磁的方法による株主の代理人の代理権の証明
    •  会社は、取締役会の決議をもって、株主が代理権を証する電磁的記録を会社に提供することによって代理人に議決権を行使させることができる旨を定めることができるものとする
    •  1の取締役会の決議がされた会社についての第二百三十九条の規定の適用について所要の読替えを行うものとする。

<意見>

原則賛成。


電磁的方法による通知等の採否とは別に電磁的方法による代理権確認システムを認めることは賛成である。ただ、このシステムの利用についても、本人確認にどの程度のものを求めるか、なりすまし防止等のシステムの構築とあわせて今後検討を要すべき問題がある。


  • 五 株主総会に出席しない株主の電磁的方法による議決権の行使等
    •  会社(商法特例法上の大会社であって議決権を有する株主の数が千人以上の会  社を除く。以下2から5までにおいて同じ。)は、取締役会の決議をもって、株主総会に出席しない株主が、書面又は電磁的記録(以下五において「書面等」という。)によって議決権を行使することができる旨を定めることができるものとする。
    •  1の会社にあっては、株主総会の招集の通知を行うときは、議決権を行使するための書面等及び議決権の行使について参考となるべき事項として法務省令で定めるものを記載し、又は記録した書類又は電磁的記録を法務省令で定める方法により提供しなければならないものとする。
    •  書面等による議決権の行使は、前項の書面等に必要な事項を記載又は記録し、これを株主総会の会日の前日までに1の会社に提供して行うものとする。
    •  書面等によって行使した議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入するものとする。
    •  四の2により読み替えて適用する第二百三十九条第五項及び第六項の規定は、3の規定により提供された書面等について準用するものとする。
    •  1から5までの規定は、商法特例法上の大会社であって議決権を有する株主の数が千人以上の会社に準用するものとする。この場合において、1から5までの規定の適用について所要の読替えを行うものとする。
    •  6の会社であって1の取締役会の決議をしたものは、株主総会の招集の通知を行うときは、会社から受ける通知又は催告の方法として電磁的方法によることに同意した株主に対しては、議決権を行使するための書面を提供することを要しないものとする。

注5 テレビ会議システムを利用した株主総会を認めることとするか等については、なお検討する。


<意見>

原則賛成。


<理由>

より多くの株主の意見を反映させるためにも、株主総会に出席できない株主のために、書面または電磁的方法による議決権行使を広く会社に認めることは賛成である。また、電磁的方法による議決権行使を認めるにあたり、電磁的方法による通知等に関する同意を要件としないこともより多くの株主の意見反映という観点から妥当なものである。


電磁的方法による招集通知の場合、発信人の確認(なりすまし)問題があるので、検討を要すべきことは電磁的方法よる通知等の問題と同様である。


株主本人の確認をどの程度行うかは、なりすまし問題(多数の株主になりすますことも容易にできる)によるトラブル回避のために、その防止策が十分検討されなければならない。そして、株主総会という事の重大性より株主本人確認を署名認証あるいはこれに類する方法による確認を求める観点で検討されるべきものである(ただ、書面における本人確認との整合性も求められよう)。


  • 六 会社等から債権者に対してする通知又は催告の電子化
    •  商法の規定により会社、社債管理会社又は第三百三十四条第一項の決議を執行する者から債権者に対してする通知又は催告は、債権者の同意を得た場合には、電磁的方法によることができるものとする。
    •  1の債権者の同意を得た会社についての第三百一条、第三百七条及び第三百十七条の規定の適用について所要の読替えを行うものとする。

<意見>

賛成。


  • 七 債権者から会社等に対してする請求の電子化
    会社又は社債管理会社から債権者に対してする通知又は催告の方法として電磁的方法によることに同意した債権者は、第三百二十条第三項の請求を電磁的方法によってすることができるものとする。

注6 会社が債権者に対する通知について、電磁的方法によることをも採用することとした場合に、これをいかなる方法で債権者に周知せしめるかについては、なお検討する。


<意見>

原則賛成。第二十五の三と同じ。


  • 八 電磁的方法による社債権者の議決権の行使
    • 1. 六の1の会社にあっては、社債権者集会に出席しない社債権者は、電磁的方法により議決権を行使することができるものとする。
    • 2. 1の規定により議決権を行使するには、電磁的記録に必要な事項を記録し、これを社債権者集会の会日の前日までにその招集者に提供しなければならないものとする。
    • 3. 1の規定により行使された議決権の数は、出席した社債権者の議決権の数に算入するものとする。

<意見>

原則賛成。第二十五の五と同じ。


第二十六 有限会社の公告の電子化等

  • 一 公告の電子化
    有限会社(以下第二十六において「会社」という。)は、有限会社法第六十三条第三項又は第六十三条ノ九第四項の規定にかかわらず、同法第六十三条第一項において準用する商法第四百十二条第一項又は有限会社法第六十三条ノ九第四項において準用する商法第三百七十四条ノ二十第一項の公告をする方法として電磁的方法によるもので法務省令で定めるものによりする旨の定款の定めを設けたときは、その規定は本店の所在地においては二週間、支店の所在地においては三週間内に登記しなければならないものとする。
  • 二 会社から社員に対してする通知又は催告の電子化
    •  有限会社法の規定により会社から社員に対してする通知又は催告は、社員の同意を得た場合には電磁的方法によってすることができるものとする。
    •  1の社員の同意を得た会社についての有限会社法第二十条、第二十八条、第四十条及び第六十七条の規定の適用について所要の読替えを行うものとする。
  • 三 社員から取締役又は会社に対してする請求又は通知の電子化
    •  会社から受ける通知又は催告の方法として電磁的方法によることに同意した社員は、有限会社法第十九条第三項、第三十一条第一項、第三十七条第一項及び第六十四条ノ二第一項の請求又は通知を、電磁的方法によってすることができるものとする。
    •  1の社員の同意を得た会社についての1に掲げる規定の適用について所要の読替えを行うものとする。
  • 四 電磁的方法による決議
    •  総会の決議をすべき場合において総社員の同意があるときは、有限会社法第四十二条第一項の規定にかかわらず、電磁的記録による決議をすることができるものとする。
    •  決議の目的である事項について総社員が電磁的記録をもって同意したときは、電磁的記録による決議があったものとみなすものとする。
    •  電磁的記録による決議は、総会の決議と同一の効力を有するものとする。
    •  総会に関する規定は、電磁的記録による決議に準用するものとする。
  • 五 電磁的方法による社員の代理人の代理権の証明等
    第二十五の四の1及び第二十五の五の1から4までの規定は、会社について準用するものとする。この場合において、第二十五の四の1及び第二十五の五の1から4までの規定の適用について所要の読替えを行うものとする。
  •  会社等から債権者に対してする通知又は催告の電子化等有限会社法の規定により会社から債権者に対してする通知又は催告は、債権者の同意を得た場合には電磁的方法によることができるものとする。

注1 五の規定のほかに四の規定を設ける必要があるかについては、なお検討する。


<意見>

原則として賛成である。


予想される社員数からみて、決議方法として電磁的方法を認めたこと(四)は妥当である。不正アクセス等の問題については株式会社と同様である。


第二十七 資本減少手続の合理化

  • 一 資本減少の決議における株主総会の決議事項を明確にするものとする。
  •  債権者保護の観点から、資本減少の際の公告事項及び通知事項を充実させるものとする。

注1 資本減少の際の金銭の払戻についての規制の要否については、なお検討する。


注2 資本減少の場合を含む商法中の債権者保護手続の全般について合理化を検討すべきであるとの意見があるが、どうか。


<意見>

全体として賛成である。


なお、注2記載の「合理化」については具体的な方法が示されておらず、コメントのしようがない。


第二十八 外国会社

  • 一 外国会社の日本における代表者
    •  外国会社が日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならないものとする。
    •  1に規定する場合においては、外国会社は、日本に成立する同種の会社又は最もこれに類似するものの設立の登記及び公告の規定が定めるところに従い、登記及び公告をしなければならないものとする。
    •  2の登記にあっては、会社設立の準拠法並びに日本における代表者の氏名及び住所をも登記及び公告しなければならないものとする。
    •  外国会社は、最終の貸借対照表若しくはその準拠法において最もこれに類似するもの又はその要旨を公告しなければならないものとする。
    •  第七十八条の規定は、外国会社の代表者に準用するものとする。
    •  第百条の規定は、2の登記の抹消をする場合に準用するものとする。
  • 二 日本における代表者の責任
    •  代表者の責任
      • (一) 日本にある外国会社の財産をもってその債務を完済することができないときは、日本における代表者は、連帯してその弁済の責めに任ずるものとする。
      • (二) 日本にある財産に対する強制執行がその効を奏しないときも、(一)と同様とするものとする。
      • (三) (二)の規定は、日本における代表者が外国会社に弁済の資力があり、かつ、執行の容易であることを証明したときは、適用しないものとする
    •  代表者の抗弁
      • (一) 日本における代表者は、外国会社に属する抗弁をもって、外国会社の債権者に対抗することができるものとする。
      • (二) 外国会社がその債権者に対し相殺権、取消権又は解除権を有する場合においては、日本における代表者は、その者に対し、債務の履行を拒むことができるものとする。
    •  退任した代表者の責任
      • (一) 日本における代表者でなくなった者は、一の3の登記について変更の登記又はその抹消をする前に生じた外国会社の債務につき責任を負うものとする。
      • (二) (一)の責任は、(一)の変更の登記又は抹消の後二年内に請求又は請求の予告をしない外国会社の債権者に対しては、変更の登記又は抹消の後二年を経過した時に消滅するものとする。
  • 三 裁判所による取引中止命令
    裁判所は、左の場合においては、法務大臣又は株主、債権者その他の利害関係人の請求により、外国会社が日本において取引をすることを止めるべきことを命ずることができるものとする。
    •  営業の開始が不法の目的をもってされたとき。
    •  一の2の登記をした後、正当の事由なく、一年内に営業を開始せず、若しくは年以上営業を休止したとき又は支払を停止したとき。
    •  外国会社の代表者その他業務を執行する者が、法務大臣より書面による警告を受けたにもかかわらず、法令に定める会社の権限を踰越し、若しくは濫用する行為又は刑罰法令に違反する行為を継続又は反覆したとき。
  • 四 日本における財産の清算開始命令
    第四百八十五条第一項及び第二項の規定は、外国会社がその営業を止めた場合に準用するものとする

<意見及び理由>

1. 一、三及び四について

賛成。


ただし、外国会社の国内営業所の設置義務の廃止については、その必要性が真に存在するのか疑問であり、むしろ、インターネットの普及に伴い、容易に国境を越えてビジネスができる現在及び将来の環境を考えると、国内営業所の設置義務の必要性は高まるとして反対する意見も相当程度存在した。


2. 外国会社の日本における代表者の責任(二)について

内国民待遇との関係や、憲法第14条との関係などから、内国会社の代表者と同程度の責任とすべきではないかとの意見が強く、さらに慎重な検討を要するものと考える。


以上