司法制度改革審議会中間報告(未決及び矯正処遇関係)に対する意見書概要について

2001年(平成13)年2月2日
日本弁護士連合会


本意見書について

1. 代用監獄の廃止をはじめとする未決手続の抜本改革

代用監獄が我が国の刑事司法を歪めている元凶の一つであることは、今日には疑いようのない事実である。死刑再審4事件の例が雄弁にそれを物語っている。繰り返し、国際的批判や勧告も受け続けてきた。しかるに、何らの制度改革もされないのは何故であろうか。代用監獄の廃止は、今次司法改革で達成されるべき、目標の一つでなければならない。


自白偏重の捜査、弁護人や外部からの監視を排除した取調べも、抜本的に改革される必要がある。その改革の方向は、取調べの可視化、すなわち、弁護人の立会いか少なくとも取調過程がテープやビデオに記録された後、弁護人側にも開示される制度の実現である。保釈が形骸化し、長期に身柄の拘束を強いられて裁判を受ける被告人の姿は誠にいびつである。運用の改善さらには制度の見直しも考慮されるべきである。


上記諸点は、規約人権委員会の勧告等も改革と改善を求めているところである。


2. 国際化

日本の矯正処遇は人口あたりの被拘禁者数が世界最低の水準で推移していること、刑務所暴動などが長期にわたって発生していないことなどは評価できる。他方で、厳しすぎる刑務所の規則や懲罰が公正に審理されていないことや非常に長期間独居拘禁の対象とされているものがいること、刑務所と外部との交流が厳しく制約されていることなどは規約人権委員会等の国際機関やアムネスティ・インターナショナルなどの国際的人権団体からの批判にさらされてきた。


評論家の犬養智子氏は「月刊自由民主」2000年12月号紙上で、「民主化と透明化が最も必要なのは、この分野である。…私は重罪には相応の刑期が必要だと思うが、かといって受刑者に刑務所内で苦痛を与えるのはおかしい。刑期が刑罰なのであって、受刑者が人間的な暮らしをし、社会復帰の準備をするのは、民主社会の原則だ。」と述べておられる。


「司法制度改革は国際的視点を抜きに論ずることはできない」(中間報告32~33頁)。「人権保障に関する国際的動向も踏まえつつ」(58頁)、まず第一に規約人権委員会の日本政府報告書に対する審査に基づく最終見解が参照されるべきである。


3. 個人の尊重と社会復帰の理念

受刑者処遇の基本的観点は、社会復帰の理念であり、そのためには、自立的、自覚的な人間にどう教育していくかが問われている。凶悪犯罪に対して厳罰化を求める声があるのは事実であるが、被害者が真に望んでいることは加害者の心からの反省であるという理解も深まってきている。被害者の視点を踏まえた、個人の尊重と自立に基礎を置いた教育こそが社会復帰のための処遇の要とならなければならない。


釈放時にお金がなければ、再犯を食い止めることは至難である。ヨーロッパ諸国では刑務作業は労働であり、それにふさわしい対価としての賃金が支払わなければならないという考え方である。日本では刑務作業に対して平均月額3000円程度の賞与金が支払われているにすぎない。このような低額では出所後の社会復帰の役に立たず、大幅に増額する必要がある。我が国でも明治時代には労働した受刑者に賃金が支払われていたこと、戦後司法省内からも賃金制採用が提案されていたこと、諸外国でもオーストリア等賃金制を採用する国が出始め、刑務作業に対して一般社会の賃金に近い労働報酬を支払う方向が強まっていること等を考えると、日本でも「賃金制」採用を検討すべきである。労災補償、雇用保険等の社会保険も、受刑者の労働者性を認めれば適用可能となる。


わが国の面会室には依然として仕切りプラスティックがあり、電話は全く導入されていない。欧米では電話は、常識である。電話は一切できず、面会も仕切板越しにわずかの時間しか許されないでは、家族が崩壊し、釈放されても、帰るところがなくなってしまう。釈放後の住まいと職を確保することが再犯を防ぐための根本だ。


4. 職員の待遇改善と増強

刑務所職員の数を世界と比べると、極めて少ない職員数で一定レベルの処遇を維持していることは評価すべきところであるが、職員の超過勤務が常態化し、休暇取得もままならない実状は根本的に反省しなければならない。新しい積極的な処遇の試みは、職員の勤務状況に一定の余裕があることが前提である。イギリスにおいても、1990年代に行刑改革を進める際に、真っ先に人員の増強と待遇の改善に取り組んだ。刑務所職員が受刑者の社会復帰の仕事に携わる専門職として社会的にも正当に評価され、社会的な尊敬を受けるためには、人員の飛躍的な増大と給与条件の大幅な引き上げが必要である。


5. 社会に開かれた行刑を

日本にはヨーロッパ諸国に見られるような、施設から独立した訪問者委員会、オンブズマン、刑務所査察官等の制度はない。矯正局内部の巡閲官、法務大臣への情願などの制度は存在するが、制度の公開性がなく、その効果を検証できない。2000年10月の日弁連人権擁護大会では公権力による人権侵害をも対象とする国内人権救済機関の設立が提案された。法務省の人権擁護推進審議会も人権機関の構想をまとめる段階にさしかかっている。検討中の案では、刑務所内の虐待事件などは取り扱うとされている。このような一般的な人権機関に監獄内部の人権侵害を取り扱うことも考慮すべきである。


しかし、あらゆる人権問題を扱う機関の実効性には疑問が残る。行刑当局から組織的に独立し、効果的な調査の権限を持ち、行刑機関に特化した第三者的な権利救済機関の設立が不可欠である。


さらに、受刑後の就職や住居の保障などベーシックな生活のサポートについて、矯正行政と保護行政が有機的に連携して、出所者が住むところも仕事もないままに、街頭に放り出されているような、到底社会復帰の困難な状況を作り出さないようにすることが急務である。まず、矯正と保護の人的な交流から始めて、日常的な協力関係の構築が必要である。


また、外部からのスタッフが契約により刑務所の中で常勤的に働くことを奨励したい。このことで、外の風が自然に入ってくる。刑務所の中で何か問題が起これば、密閉されないで明るみに出る可能性が出てくるからである。