女性2000年会議のための「北京行動綱領実施状況に関する質問状への日本政府回答」に関する日本弁護士連合会の報告

2000(平成12)年2月18日
日本弁護士連合会


本報告について

要旨

はじめに本報告は、上記の政府回答に関し、「北京行動綱領の実施についてわが国が直面した障害及びその克服」及び「更なる行動及びイニシアテイブ」を中心に、日本のNGOである当連合会の調査・研究・活動を踏まえて報告をするオルタ-ナテイブレポートである。本報告は、可能な限り(障害と問題点)(課題と戦略)にわけて記述する。


2000年女性会議の審議に参考になることを期待する。


1. 「1 女性と貧困」

児童扶養手当ての支給条件が厳しくなり、母子家庭の経済的基盤を脅かしている。児童扶養手当の充実、離婚後の別居親からの子どもの養育費の支払い確保のための法整備が必要である。


2. 「2 女性の教育と訓練」

初等中等教育では、ジエンダーの視点での具体的施策の取組みが不十分である。高等教育では、四年制大学への進学率・専攻領域の男女のアンバラス、女性教官が少ないこと等が、固定的性別役割分担意識や職業での性別分離を生じさせている。ジェンダーの視点に立った教育改革の取り組みが必要である。


3. 「4 女性に対する暴力」
(1) 女性の暴力の根絶に向けての総合的な対策の検討

政府は実態調査にすら着手していない。早期に調査に着手するとともに、他の対策についても検討を開始すべきである。


(2) 買売春

「買春許容社会」の解消に取り組む。少女買春については、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」が実効あるような運用をはかる。


(3) 家庭内暴力

家庭内暴力(禁止)法を検討し、公的シエルター等を整備し、民間シエルターに対する公的補助をはかるべきである。


(4) セクシュアル・ハラスメント

改正均等法が定めるセクシュアル・ハラスメントに対する使用者の配慮義務を、さらに禁止規定に改正する。


(5) 被害女性に対する相談・保護・救済対策の充実

警察のより積極的な対応、公判段階での被害者のプライバシー保護をさらに充実させるための法改正がなされるべきである。強姦罪等については、法定刑の引上げ、告訴期間制限の撤廃、児童への性的虐待に関する非親告罪化等の法改正等が行われるべきである。


(6) 女性に対する暴力事案における被害者からの事情聴取、訴追、相談、救済等に携わる職員の養成・訓練等

被害者の人権・プライバシーに対する配慮を徹底するよう、教育指導を強化する。


(7) いわゆる従軍慰安婦問題

政府は、被害実態の把握と責任の所在の明確化などの真相の究明を徹底して行い、政府として法的責任を明確にした上、被害者に謝罪し、適正な被害回復のための立法解決を早急に検討すべきである。


4. 「6 女性と経済」
(1) 改正雇用機会均等法
A. 雇用機会均等法

さらに間接差別の禁止を明記し、差別救済を実効あるものとするために、差別是正命令等を出すことができる独立行政委員会を設置する。女性少年室については、資料提出命令等権限強化をはかり、職員の増加など充実をはかるべきである。


ポジテイヴアクションについては事業主の報告の義務化等をはかる。


B. 労働基準法の改正

女子保護規定の廃止は、女性の働く権利と家庭の両立に障害になる危険があり、時間外労働については,1日2時間、1年120(当面150)時間の制限、深夜業については健康の確保のためにも、業務の性質上必要不可欠の業務に限り、ILOの夜業に関する条約及び同勧告に則した規制が必要である。育児・介護休業法が定める深夜業の免除請求権は、行使できる者の範囲を拡げるべきである。


(2) ILO156 号条約の批准

批准した条約、及び勧告の内容に添うように、男女共に家族的責任と職業上の責任を両立しうる勤務体制を確立すること。


(3) 育児・介護を行う労働者の雇用の継続を図るための環境整備

さらにニーズに応えられるように法律の改正も含めて拡充すべきである。


(4) 多様なライフコースに対応した子育て支援対策の充実

多様な選択が可能なように、保育所・学童保育の量的、質的整備をはかる。


(5) パートタイム労働対策の推進

現行パート法は不十分であり、不安定な身分、劣悪な差別的労働条件の改善のために、労働時間の相違にもとづく合理的な理由の場合以外、賃金等労働条件における差別を禁止すべきである。


(6) 派遣労働等非正規労働者の問題

ILO181号条約の基準を踏まえ、派遣労働者が不合理な差別や待遇を受けるこ とがないように、国内法を整備すべきである。


(7) 女性起業家に対する支援

政府が積極的に取り組むべきである。


5. 「7 権力及び意思決定における女性」

女性の参画がきわめて遅れた分野であり、クオーター制の導入やポジテイヴアクションの活用など積極的な差別是正策を取ること、女性参画の障害となっている女性の過重な家族的責任を軽減し、社会と男女が家族的責任を共に担っていく社会のシステムづくりが必要である。


6. 「8 女性の地位向上のための制度的仕組み」
(1) 総合的な推進体制の整備・強化

男女共同参画社会基本法の制定は意義がある。しかし、政府回答に述べる国内本部機構の組織・機能強化も含めて、ジエンダ-の視点に立って、「結果の平等」(実質的な平等)を実現するための法整備等、具体的な施策が必要である。


(2) 個人のライフスタイルの選択に中立的な社会制度の検討の必要性

選択的夫婦別氏制度及び非嫡出子の相続分差別是正の法案を成立させるべきである。


税制・社会保障については、世帯単位から個人単位へ切り換えていく必要があるが、その検討にあたっては単なる増税目的からではなく、税金の課税単位のあり方や、各種の社会保障制度、控除制度のあり方等との均衡等を考え、何がライフスタイルの選択に中立であるのかについて幅広く検討すべきである。


7. 「10 女性とメデイア」

メデイアにおいて性差別的表現が氾濫し、これについてのマスメデイアの自主規制も不十分である。改正均等法を活用しこの分野への女性の進出をすすめるとともに、メデイアの政策方針決定の上でジェンダーの視点を徹底する。


8. 「11 女性と環境」

政府は、原子力に偏重したエネルギー政策を改め、国の環境行政の統合化をはかり、女性スタッフをふやすなどして、ジェンダーの視点を環境問題に取り入れる。


9. 「12 女児」

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」は抽象的規定が多く、実効あらしめるための具体的な施策・システムの整備と実行が必要である。



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