特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律案に対する意見書

1999(平成11)年10月22日
日本弁護士連合会


 

自民党が本年3月16日に取りまとめ、今秋の臨時国会に提出を予定している標記法律案につき、当連合会は以下のとおり意見を申し述べる。



1. 法律案の概要


支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停手続の特例を定めるべく、民事調停法および民事調停規則の特例を定め、同法等に定められていない事項につき、新しい条項を設けようとするものである。


2. 意見の骨子


(1) バブル経済の崩壊後、金銭債務を負っている者が窮地に立たされたことは、いまさら説明を要しないところであり、本調停は、このような債務者の金銭債務の調整を促進して経済的再生を援助しようとするものであるから、本法律案につき、基本的には賛意を表するものである。


(2) 以下において、本法律案のうち、特に意見のある部分に限り、意見を述べることとする。


A. 第2条(定義)


本条第1項において、特定債務者を定義付けており、破産原因である「支払をなすことあたわざるとき」に該当する債務者については、申立人が特定債務者であると認められないときにあたると解する余地もあるが、破産原因が認められる場合でも、債権者の協力によって特定債務者の経済的再生が図れる場合もあるのであるから、このような場合についても特定調停の対象となることを明確にすべきである。


B. 第7条(民事執行手続の停止)


本条は、執行停止の対象を民事執行に限定しているが、第2条(定義)においては、債務の種類を金銭債務とのみ規定し、租税債務を除いていないのであって、したがって、滞納処分によって調停の成立を著しく困難にすることがありうるのであるから、滞納処分に対しても停止命令の申立を認めるべきである。


C. 破産申立がなされた場合の処置


第7条(目的)および第2条(定義)によれば、破産予防を目的としてるものと思われるが、債権者が破産を申立てた場合の措置が定められていない。


破産原因は、「支払をなすことあたわざるとき」また、「支払を停止したるときは支払をなすことあたわざるものと推定す」と定められており、第2条(定義)第一項の「支払不能に陥るおそれのあるもの」などと表現は異なっているので、解釈上破産原因と特定調停の申立原因とは明確に区別することができるが、現実の運用においては、これら二つの原因を峻別することは著しく困難である。


その上、破産原因が認められる場合でも、債権者の協力によって特定債務者の経済的再生が図れる場合もある。


したがって、特定調停係属中に、債務者の経済的再生が図れるケースであるにも拘わらず破産宣告がなされる可能性を否定することができない


以上の次第で、破産申立がなされた場合には、裁判所が破産申立手続を停止することができるとの規定を設けるべきである。


尚、A(第2条)で論じたように、破産申立が先行している場合にも、本調停が利用できることを明示すべきである。


D. 第11条(特定調停をしない場合)


特定調停をしない場合の「申立人が特定債務者であると認められないとき」であるが、本条と特定債務者を定義付けている第2条とを勘案すると、特定調停申立時に破産原因である「支払をなすことあたわざるとき」に該当する債務者、あるいは、同申立後に破産原因である「支払をなすことあたわざるとき」に該当することになった債務者については、申立人が特定債務者であると認められないときにあたるとして、特定調停をしないことが想定されるが、破産原因が認められる場合でも、債権者の協力を得て、特定調停を成立させることによって特定債務者の経済的再生が図れる場合もあるのであるから、「特定調停の成立が見込めないこと」を追加し、「申立人が特定債務者であると認められず、且つ、特定調停の成立が見込めないこと」に修正すべきである。


E. 第17条(調停委員会が定める調停条項)


第1項において、当事者の共同の申立があるときは、調停委員会は、適当な調停条項を定めることができること、第3項において、共同の申立を書面ですべきことおよび同書面に第1項の調停条項に服することの記載の義務づけを定めている。


本条は、特定債務者と関係権利者との間で調停条項に食い違いを生じており、これを打開する方法として規定され、仲裁を定めたものである。


ところで、本法律案は、調停手続の特例を定めようとするものであるから、仲裁条項を盛り込む場合には、必要にして最小限度にすべきところ、調停委員会は、適当な調停条項を定めることができると規定するだけで、たとえば、債務免除の割合につき、特定債務者が5割、関係権利者が3割を主張して譲らない場合、調停委員会は、各主張の範囲内である5割ないし3割ではなく、6割、あるいは、2割を免除とする調停条項を定めることができることになり、調停委員会の権限が強大になりすきており、また、当事者の意思にそぐわない調停条項が定められるおそれがある。


そこで、「当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で適当な調停事項を定めることができる」等の規定を設けるべきである。


以上