持続可能な都市をめざして都市法制の抜本的な改革を求める決議

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わが国では、長年にわたって、経済活動を最優先させ、環境や住民意思に配慮しない都市開発が進められた結果、都市が無秩序に膨張する一方、農地や里山を含む貴重な緑地、まちの個性や整ったまちなみが破壊され、地域コミュニティも衰退した。当連合会は、1993年10月の第36回人権擁護大会で、人の暮らしを大切にするという理念とその実効的制度づくりを目指して、土地利用への公共的コントロールを強化すること、地方自治体にまちづくりの権限・財源を保障すること、十分な情報を公開し、住民参加の権利を保障することなどを内容とする提言を行った。


しかし、その後も、むしろ「規制緩和」がさらに拡大し、地方自治体への権限委譲やまちづくりへの住民参加も不十分なまま、全国各地で無秩序な都市開発が一層推し進められた。加えて、大都市においては、超高層ビルの乱立やヒートアイランド現象、地方都市においても、スプロール化や商業施設の郊外化等による中心市街地の空洞化、くるま依存社会の進行・公共交通の衰退等の新たな問題を引き起こした。そして、このような都市の有り様は、とりわけ、子ども・高齢者・障がいのある人などにとって住みにくいものとなり、また、地球温暖化をより加速させた。


私たちは、憲法13条、25条によって保障された環境権の一側面を具体化するものとして、だれもが良好な環境のもと、快適で心豊かに住み続ける権利を有することを確認する。また、環境資源を破壊・浪費することなく、快適で心豊かに住み続けられる都市として後世に引き継ぐ責務を負っている。そのためには、今こそ、地球環境に配慮し、子どもや高齢者・障がいのある人などを含む住民が快適で心豊かに住み続けられる、「サスティナブルシティ」(持続可能な都市)への転換が強く求められている。


よって、当連合会は、国に対し、現行都市計画・建築法制を抜本的に改め、土地利用、建築、都市交通、景観などについて、以下のような内容をもつ、統合的な都市法制の整備を求めるものである。


  1. 持続可能な都市の形成及び維持と快適で心豊かに住み続ける権利の保障を目的にし、土地利用、建築、都市交通、景観など都市に関連するすべての事項を対象とし、それらについて統合的に対処するものとすること。
  2. 地球環境保全、景観保護、緑地保全、くるま依存社会からの転換、子ども・高齢者・障がいのある人などへの配慮、地域経済及び地域コミュニティの活性化等を基本理念として明記し、都市計画・規制基準の策定、開発・建築審査はこれに沿って行われるとすること。
  3. 都市計画及び規制基準の内容・手続並びに個別の建築・開発の審査手続は市町村が独自に決定できるよう、地方分権を拡充すること。
  4. 都市計画及び規制基準の内容の決定並びに個別の開発・建築の審査手続への早期かつ主体的な住民参加を住民の権利として保障し、快適で心豊かに住み続ける権利を保障するように、行政不服審査及び司法審査の各手続を抜本的に改正すること。


以上のとおり決議する。


2007年(平成19年)11月2日
日本弁護士連合会


提案理由

1.都市の危機と第36回人権擁護大会決議

良好な環境のもと、快適で心豊かに住み続ける権利は、だれもが有する、憲法13条、25条によって保障された人権である。


ところがわが国では、これまで人口の増加を前提とし、経済活動を最優先し、無秩序な開発を行ってきた。この結果、里山・農地などの緑地や水辺空間は減少し、まちなみは破壊され、まちの個性は失われ、都市の無秩序な拡大、自動車交通への過度の依存、コミュニティの衰退といった、 都市ⅰの危機を招いてきた。


これに対し、当連合会は、1993年10月に京都で開催された第36回人権擁護大会「まちづくりの改革を求める決議」において以下の提言をした。


  1. まちづくりの理念を、土地の高度利用を重視し経済効率を優先した考え方から、豊かな生活環境の保全と創造を基本とした考え方に転換し、容積率や高さ規制、町並みに配慮した建築規制など、土地利用に対する公共的コントロールを強化すること。
  2. 地域の特性を生かしたまちづくりを行うために必要な権限と財源を地方自治体に保障すること。
  3. 広く住民に対し、まちづくりの計画や開発に関する十分な情報を公開し、アセスメント手続や決定手続への参加及び争訟の権利を保障すること。
  4. 京都、奈良などに残されている歴史的景観の保全と修復を図るために必要な規制と財政措置をとること。

2.その後の状況と今日の危機~アメニティ(快適さ)から遠ざかっていく、日本の都市の現状~

しかし、1993年から今日までの14年間の状況を鑑みると、わが国においては、規制緩和がさらに拡大し、地方自治体への権限委譲やまちづくりへの住民参加も不十分なまま、高さもデザインもばらばらの無秩序な開発・建築が推し進められ、まちの個性はより一層失われた。スプロール化・郊外への大型商業施設の移転も一層進み、各地のコミュニティもより衰退し、中心市街地は閑散とし、シャッター街=まちの空洞化は、ますます進み、水辺・緑地空間の喪失も続いている。


また、地方都市を中心に、スプロール化等の中で、自動車交通への依存はますます進み、他方、大都市や幹線道路沿いにおける自動車排気ガスによる大気汚染も改善されていない。


さらに大都市では、超高層ビルの乱立、空調のためのエネルギーの多用、地面のコンクリート化及び水辺空間の喪失等によるヒートアイランド現象や都市型水害の頻発といった新たな問題も起き、深刻さを増している。


こうした都市の状況・くるま依存社会の進行は、日本において、運輸・民生部門のCO2排出量を増大させ続け、2005年時点までで、民生部門は40%以上、運輸部門とあわせても30%以上、1990年の基準年から増大となって、地球環境への負荷をますます高めている。


他方、日本社会は世界にも例をみない少子高齢社会が進行しているが、都市の有り様は、子どもたちや高齢者・障がいのある人などにとって住みにくい状況となっている。


こうした状況をみると、第36回人権擁護大会決議以降今日までの14年間は、日本の都市の大半が、快適さからは遠ざかってきたといわなければならない。


3.「サスティナブルシティ」(持続可能な都市)

私たちは、都市を、環境資源を侵害することなく、快適で心豊かに住み続けることのできる都市にして、後世に引き継ぐ責務を負っている。そのためには、地球環境に配慮し、子どもたちや高齢者・障がいのある人などを含む住民が快適に心豊かに住み続けられる都市、「持続可能な都市」への転換が強く求められている。


「持続可能な都市」とは、1992年の地球サミットにおいてキーワードとして使用された「持続可能な発展」の都市版であるが、「持続可能な発展」は、新しい社会のあり方を規定する概念として世界的に定着した概念であり、「未来の世代が自らの必要を充足する能力を損なわないようにしながら、現在の世代の欲求をも同時に充たすことができる発展」などと定義される。つまり、世代内の公平はもとより、世代間の公平・社会的公平・地域的公平・制度的公平・種間の公平をも実現しながら、その範囲内でより良い生活を追求すべきであることを意味すると同時に、すべての人々に健康で快適な生活を営む権利を保障することを意味している。そのためには、現在のいわゆる大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済構造、それを導く諸政策やこれに依存する私たちの生活を根本的に転換することが求められているのである。


わが国においても、1993年制定の環境基本法第3条において、「環境の保全は、(中略)現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。」と定め、第4条において「環境の保全は、(中略)環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会が構築されることを旨とし、(中略)行われなければならない。」と定め、持続可能な社会構造ヘの転換が図られてきた。


持続可能な都市施策は、1980年代後半から成長抑制型の経済を目指す中で、社会・経済・環境の3つの側面を統合して「持続可能な都市」を創造していくための施策として唱えられたものである。


1996年「欧州持続可能な都市」報告は、持続可能な発展について以下の4つの原則を提示した。


1つ目の原則は「都市管理の原則」で、持続可能な都市管理には、環境、社会、経済にわたる包括的な対策が必要とされる。


2つ目の原則は「包括政策の原則」で、異なる政策が同時に効果をあげるためには、政策相互の補完性と、広い意味での共同責任が必要となる。


3つ目の原則は「エコシステムの原則」で、都市のエコシステムには生態系のみならず社会系のものも重視され、種の多様性を高める、都市と郊外・農村との生態系のリンクを図る、エネルギー、資源、廃棄物の循環を都市で完結させる、都市内の交通アクセスを備えることで都市環境の改善を進めるなどの政策が示されている。


4つ目の原則は「協力と連携の原則」で、持続可能性は、異なる組織や立場の人々が相互に協力と連携をすることによって達成しうるとされる。


また、1998年「欧州共同体における持続可能な都市の発展・行動の枠組み」では、産業政策が地域政策を主導するという発想ではなく、協同と参加によるコミュニティ再生が地域再生の鍵を握ると考えられ、政策形成と実施過程における参加・協同が地域社会の活性化につながり社会の持続可能性に結実するとされている。


4.世界各地における「持続可能な都市」の構築に向けた動き

アメリカ合衆国では、1970年代前半のオレゴン州でのスプロール化防止のための成長限界点を設けてその外部では開発を禁止する等といった取組みにはじまる成長管理政策が各地でとられている。


また、オレゴン州最大の都市ポートランドでは、1970年代の街中の高速道路の撤去とその跡地の公園整備とその後の道路に代わる LRTⅱなど公共交通機関の整備、職住混在型の低所得層用住居を含む中心市街地の開発等が行われている。サンフランシスコにおいても高速道路の撤去が行われ、その跡地が中心市街地の活性化の拠点として整備された。また、全米各地の中心市街地において、歴史的建築物を生かした商業活性化などが進められている。


ドイツ連邦共和国では、まず、古くから都市計画・建築許可の権限は市町村の権利として確立されてきた。次に、建築自体自由でなく、新たな建築は、建物がすでに建ち並ぶ地域で周辺建物と整合すると判断される場合以外は、詳細地区計画(Bプラン)を作って整合性が図られる場合にしか認められないという原則(「計画なければ開発なし」)を基本とした制度となっている。さらに、1986年建設法典によって、都市計画について、早期の草案段階からの住民参加が権利として保障された。歴史的建築物についての高い住民意識と法規制の中で、高層建築物がほとんど存在せず、スプロール化も進展しないまちづくりが進められている。さらに、1990年代以降は、多くの自治体が、地球温暖化対策にも積極的に取り組み、ローカルアジェンダの策定もすすんでいる。


デンマーク王国では、19世紀から、建築物の高さ制限がなされるなどしてきたうえ、都市計画は交通計画・商業施設の許認可等を含んだ総合的なもので、かつ、市町村の権限とされ、さらに、市民の参加が十分に権利として保障されている。景観保護を訴権として、規制に適合しない建物の建築差止め・撤去を求めることも司法上保障されている。また、自転車交通が独自の通行レーンの確保などによって保障され、公共交通機関の整備も進められている。社会的に劣悪な状況となった地域については、古い建物の保存を原則として、低所得者向け住宅の確保をしつつ、快適な居住環境を整備している。


アジアにおいても、「持続可能な都市」をめざした動きが活発になってきている。大韓民国では、ソウル市都心部の交通量を抑制して潤いを回復するために、高架道路を撤去してその下に眠っていた川を復元する「清渓川復元事業」が進められている。
このように、「持続可能な都市」は、今や世界的な都市政策の基本理念となって広く進められている。


5.日本における「持続可能な都市」の構築に向けた自治体の動き

わが国でも、各都市で「持続可能な都市」を模索する動きや景観法の制定を契機とした景観政策の強化などの地方自治体の取組みが行われ始めている。


例えば、青森市は、豪雪対策と中心市街地の活性化という視点から、コンパクトシティへの都市構造転換をめざし、都市構造を明確にインナー、ミッド、アウターの3つに区分するとともに、インナーへの都市機能集中を図りつつある。


金沢市は、自動車交通を制限し、歩行者・公共交通優先のまちづくりを進める交通戦略を明確に打ち出し、市民とともに歩行環境及び公共交通の改善を実施している。
富山市は、先駆的に本格的なLRTを導入し、全国の注目を集めている。


福井市は、人間性の原点に立ち返った「ヒューマンスケール都市」を理念に掲げ、自動車依存型の社会から脱却して、「歩く」視点に立った都市づくりを進めており、そのために トランジットモールⅲ等の社会実験を実施している。


京都市が新景観政策を策定して、大幅な高さ制限の引き下げとデザイン規制の強化に踏み切ったことも、景観問題に限定された施策という限界はあるにしろ、全国的に参考にされるべき事例といえる。


6.「持続可能な都市」の構築に向けた国の動き

国においても、社会資本整備審議会は2006年2月1日に「新しい時代の都市計画はいかにあるべきか」(第1次答申)を発表し、この中で、公共公益施設の郊外移転と大規模商業施設の郊外立地が招いた都市機能の拡散と中心市街地の空洞化が現代の都市問題の中心的課題として指摘され、これを解決するための都市構造改革の必要性が指摘され、解決方策として広域的都市機能の適正立地のための都市計画制度と都市機能の集約が必要と指摘している。


また、環境省は「地球温暖化対策とまちづくりに関する検討会」における検討結果を2007年3月30日に報告書として発表した。同報告は地球温暖化対策という視点から都市の問題を検討したものであるが、ここでも都市機能の拡散が都市のCO2排出量増加に繋がることが指摘されている。そして、解決策として自然資本を組み込んだ集約的なまちづくり、公共交通機関の活用が提唱されている。


このように、国レベルにおいても、都市機能の拡散による弊害が様々な方面に及んでおり、もはや放置しがたい事態にあることは十分認識されており、今後の都市政策として集約化された持続可能な都市を構築していくことが不可欠とされているのである。


7.「持続可能な都市」への転換のための、公共性による制約の確認と権利保 障の必要性

地球環境保全、景観保護などが緊急の課題となっている一方、前記1項や前記2項で触れたような問題状況がある中で、「持続可能な都市」への転換にあたって、今までの土地利用のあり方を転換し、開発は詳細な計画がなければできないものとし、土地の利用は公共性により制約があることを基本原則として確立すべきである。ここでいう、公共性とは、「持続可能な都市」への転換をめざすものであり、快適で心豊かに住み続ける権利の保障を目的とするものである。


公共性による土地利用の制約は、欧米諸国において、前記4項で述べた「計画なければ開発なしの原則」として基本的認識となっているところである。土地は有限、不可動、地続きのものであって、土地の利用は必然的に周辺の他者に影響を与えるものであることから、このような公共性により制約を受けるのである。日本国憲法29条の財産権の制約もこのような制限を予定しているのである。


さらに、わが国においても、土地基本法は、1980年代後期のバブル経済期の土地高騰、「地上げ」問題に対処すべく、1989年に制定された。同法では「土地については、公共の福祉を優先させる」(2条)との基本理念のもとに、土地の適正な利用及び計画に従った利用(3条)、投機的取引の抑制(4条)が規定された。


しかし、今まで、日本の都市計画・建築法制には、こうした土地基本法の定めは反映されず、土地の利用について公共性による制約があることが前提とされてこなかった。


8.現行の都市計画・建築法制の根本的問題点

以上のような問題状況は広く認識され、都市計画・建築法制を転換しようとする試みがされてきている。都市計画法は、2000年に、地方自治分権改革とも関連しながら、大幅に地方分権化するとともに、「都道府県や市町村が、地域住民と一体となって、地域特性に応じた個性豊かな都市の整備と次世代に残すべき貴重な環境の保全に、本格的に取り組む」ことが政策の基本(2000年2月都市計画中央審議会答申)とされた。また、2005年6月には、景観法が制定され、地方自治体による景観計画の策定、景観地区の指定を中心とした法的拘束力をもった高さ、デザイン等の規制がより広くできるようになった。「持続可能な都市」や「コンパクトシティ」の実現も国の政策において、広く掲げられている。


しかし、それにもかかわらず、日本の都市の大半がますます快適さと心豊かさを喪失してきているのは、そもそも、現行都市計画・建築法制が「持続可能な都市」を目指すものでなく、逆に、建築自由が原則となっていることから、開発や建築についての審査は最小限に限定され、総合的考慮を欠くものとなっており、他方、住民の権利保障がほとんどないことから、まちづくりの問題について、裁判上、争うことがきわめて限定されていることなどによる。具体的には、現行の都市計画・建築法制における根本的な法制度上の問題点は次の通りである。


  1. 現行の都市計画法・建築基準法は、持続可能な都市の形成及び維持を目的としていない。
  2. 現行の建築基準法は、建築自由が原則とされ、したがって、建築基準法6条の「建築確認」制度は警察行政としての必要最小限の基準適合性判断にとどまり、住民の意見などを反映させる余地がない。
  3. 現行の都市計画法は、そもそも、土地利用規制と公共施設の整備のみを対象とし、都市計画と関連が深い交通計画、中心市街地活性化計画、環境管理計画など、市町村の他の計画との統合・調整もない。
    また、現行の都市計画は、指定された地域にしか策定されず、わが国全土に及んでいない。
  4. 現行の都市計画法・建築基準法は、快適で心豊かに住み続ける権利の保障を目的とせず、また、地球環境保全、景観保護、緑地保全、くるま依存社会からの転換、子ども・高齢者・障がいのある人者などへの配慮、地域経済及び地域コミュニティの活性化を基本理念として保障せず、したがって、それらの基本理念への考慮の欠落が都市計画の違法、開発・建築の違法とならず、また、その点についての住民の訴権が保障されない。
    逆に、市町村がそうした点を考慮した独自の規制をするとそれが違法とされることすらあった。
  5. 市町村(特別区を含む)(以下「市町村」は特別区を含むものとする。)の権限が大幅に制約されている。

  6. 都市計画法の諸計画決定・開発行為の許可、建築基準法の建築確認と許可等の各手続において、住民参加が権利として保障されておらず、一部住民参加手続を定める都市計画法17条の手続もきわめて不十分なものである。
    その結果、住民参加手続の不備が都市計画等の違法事由とならない。
  7. 都市計画決定に処分性が認められておらず、計画決定の段階で、司法審査ができない。
    また、それに加えて、国は、地階や共用廊下・階段などの容積対象からの除外、天空率による斜線制限の緩和、都市再生特別措置法による大幅な規制緩和、建築確認の民間開放などの「規制緩和」の措置を繰り返し、より問題を拡大した。

9.交通計画その他の行政計画を都市計画中に統合することの必要性

また、快適で心豊かに住み続けられる都市を形成、維持するためには、交通計画その他の行政計画が都市計画と統合的に行われることが不可欠である。


交通計画は、地球温暖化の防止・大気汚染の防止という点から見たときに、自動車交通の需要管理が重要な課題であるが、そのためには、 ロードプライシングⅳや自動車流入規制などの自動車交通に対する規制・誘導策とならんで、公共交通の充実、自転車通行の促進のための専用通行帯等の整備や駐輪場の整備などの公共設備の整備や歩いて生活できるまちの実現といった土地利用規制等が重要である。


実際、郊外への商業施設の展開や住宅地のスプロール化が高齢者の生活に重大な影響を及ぼしつつある現実をみると、交通計画は土地利用計画その他の計画と一体的に行われるべきことは一目瞭然である。このような一体性の欠如がコミュニティの破壊をもたらし、子どもたちをまちから排除していった。


また、中心市街地の衰退、商業用地への高層マンションの建築や車依存社会の進行、緑地・水辺の喪失が、相互に関連していることを考えると、中心市街地の活性化のための計画や環境管理計画、緑地保全計画なども、都市計画と統合されるべきである。


10.市町村の地方自治の重要性

公共性による制約を具体化し、かつ、他の計画との統合を図っていくためには、住民と近い関係にあり、地域特性に応じた具体的施策を実施することが可能な基礎自治体、すなわち、市町村に、統合的な都市計画策定、開発・建築審査の権限を与えるべきである。


わが国では、幹線道路計画など主な公共施設の整備は、国や都道府県の権限とされ、市区町村はその計画を変更・廃止することはできない。


また、都市計画全体の中心となる用途地域は、用途地域の種類・用途地域ごとの容積率の定めなどが法律によって限定され(その結果、低層の商業地域の指定ができないなどの問題があり)、かつ、3大都市圏においては都府県が指定することとされており、その結果、市町村の都市計画の前提とされる部分についての策定権限がない。都市計画法18条の2の市町村の策定するマスタープランは、法的な効果をもつものとなっていない。さらに、独自の条例による規制についても、法律の制限が厳しく、現時点では相当限られている。


他方、ドイツ連邦共和国・デンマーク王国などでは、都市計画策定・開発や建築の審査の権限は、市町村が有しており、国や州が行う道路事業などでも、市町村の計画との整合性が求められる。アメリカ合衆国においても、本来的な権限は州にあるとされるが、市町村がマスタープランを作成し、あるいは、具体的な計画決定をしている場合は、州の開発事業(道路計画)などでも、市町村の計画に反しての実施はできないとされる。


さらに、欧米各地では、市町村よりも小さい単位の自治組織が、開発や建築について事前審査をし、その同意が許可の前提となっているところも多い。
こうした状況が、欧米における「持続可能な都市」の取組みの制度的保障となっている。


日本においても、合併によって市町村規模が大きくなっている状況を考えると、住民自治を実質的に保障するために、都市計画や建築・開発審査について一定の権限を有する、市町村よりも小さい規模の自治組織を設けることを可能とするべきである。


11.住民参加の必要性・コミュニティの活性化の必要性

さらに、前記3項において述べたように、「持続可能な都市」においては、参加と協同によるコミュニティ再生が地域再生の鍵を握ると考えられ、政策形成と実施過程における参加・協同が地域社会の活性化につながり、社会の持続可能性に結実するとされる。


住民参加は、(1)政策決定の質を高めるための情報提供、(2)政策決定による利益侵害を防ぐための権利防衛、(3)民主政治の具体化としての民主的参加の3側面をもつとされるが、それに加えて、地域開発においては、住民が地域における課題を認識し、その解決方法を自ら探し出し、地域の主体としての力をつけていくという、住民の啓発・自己発展((4))が重要な意味をもつ。「持続可能な都市」は、環境的・社会的・経済的に持続可能でなければならず、そのためには、その主体としての地域住民の活性化は不可欠なのである。


また、今日、「持続可能な都市」を効果的に構築していくためには、民間の自主的取組みの推進が不可欠であり、まちづくりにおける官民協働も重要な課題である。中心市街地活性化法の2006年改正が協議会の設置を必須としたのはこの点から評価できる。


さらに、前記住民参加の(4)の機能に関連し、地域コミュニティの再生は、「持続可能な都市」に不可欠な課題である。すなわち、従来、地域コミュニティは、犯罪の防止、高齢者・失業者ヘの相互扶助、地域固有の文化伝承の点で欠かせないものであった。しかし、それが、高度経済成長以後、都市部を中心に失われ、都市における乱開発はそれをより加速化してきた。


これからのまちづくり構想に対しては、当該施策について、地域コミュニティの保全・再生に寄与するものであるかという視点からも吟味する必要がある。それと同時に、行政は、地域コミュニティの活性化や再生に資する直接的・間接的な施策ないし組織に対し、積極的に財政支出をし、あるいは援助をする必要がある。


ところが、現在、日本の都市計画・建築法制においては、そもそも、地域コミュニティの保全・再生という視点がないのみならず、それに関する具体的な定めもない。


また、住民参加の手続についても、権利としての保障はほとんど存在しない。ドイツ連邦共和国の建設法典3条では、(1)早期段階(草案段階)での参加権の保障、(2)複数案検討の義務づけ、(3)公告縦覧・意見提出期間の1ヶ月間保障、(4)住民が提出した意見への応答義務といった住民参加手続保障がされている。しかし、わが国の、都市計画法16条以下の規定では、前記ドイツ連邦共和国の建設法典3条の①、②、④が欠けており、また、③も2週間と短い(都市計画法17条によれば、住民は2週間のうちに計画案を閲覧し、意見書を提出しなければならないことになっている)。しかも、事前手続としての説明会などにおいて、都市計画案の内容を住民たちが理解できるような形で説明がされていない。その実態は、住民参加が実質的に保障されているとは到底言い難い状況であり、かつ、判例も現行制度が、住民参加の権利を保障したものと解していない。


他方、ドイツ連邦共和国においては、司法上も、建設法典3条の定める住民参加手続違反が計画の違法の最大の理由として広く認められており、住民参加手続の不備を理由として計画を取り消した事例も多く存在する。


12.司法審査等の改革

また、日本においては、司法審査に関し、行政訴訟においては、原告適格・実体的違法性と処分性、民事訴訟においては、自然環境保全、景観や歴史的建築物保全等についての実体的権利の問題がある。


行政訴訟における原告適格・実体的違法性と民事訴訟における実体的権利については、都市計画・建築に関する法制度が、地球環境保全、景観・緑地保全(歴史的建築物保全含む)、くるま依存社会からの転換、子ども・高齢者・障がいのある人などへの配慮、地域経済と地域コミュニティの活性化等を基本理念とし、それが住民の快適で心豊かに住み続ける権利の内容として、住民の実体的権利として保障されるべきことを明示することによって、法的に保護された利益の範囲が大幅に広がり、原告適格だけでなく違法事由も拡大することになる。


また、前記11項において述べたように、住民参加についての手続を権利として保障していくことにより、手続的統制も広がる。


処分性や審理方式に関しては、都市計画に関連する紛争は、計画が段階的に進められること、多数の利害関係者が生じること、事後的な回復措置が困難であることなどの特殊性があり、計画についての現在の狭い処分性を拡大することが必要であり、さらに、都市計画の特性をふまえた計画の各段階に応じた適切かつ迅速な救済を可能とする、司法審査体制・行政争訟制度の抜本的な見直し・検討が必要である。


開発許可や建築確認について審査請求前置主義がとられている行政不服審査制度もまた、上記と同様に申立適格や処分性に厳しい制限があるほか、(1)不服申立期間60日間と短すぎること、(2)建築確認関係書類が公開されないこと、(3)執行不停止であるために既成事実が形成されること等の改善の必要性が高い。


以上の理由により、本決議を提案する。


以上


  • ⅰ【都市】
    都市計画法上の都市計画区域は、市だけでなく、一定の町村も対象としており(都市  計画法施行令2条)、都市には地域性や自然的・社会的条件に応じ様々な規模のものがある。
  • ⅱ【LRT】
    軽量軌道輸送(機関)(Light Rail Transit) 。ライトレール。「次世代路面電車」とも 訳される。
  • ⅲ【トランジットモール】
    バス、路面電車、LRT等の公共交通機関に開放されている歩行者専用道路(歩行者ゾーン)。自動車交通を締め出す一方で、公共交通の利便性を高め、中心市街地を活性化させるために設けられる。欧米各国で実施されている事例が多い(例えばドイツのフライブルク市等)。
  • ⅳ【ロードプライシング】
    広義には道路の使用に対して料金を徴収する行為全般を意味するが、1990年代以降は、大都市中心部への過剰な自動車の乗り入れによる交通渋滞、大気汚染などを緩和する対策として、都心の一定範囲内に限り自動車の公道利用を有料化して流入する交通量を制限する政策措置を指すようになった。