エネルギー政策の転換を求める決議

1999年9月、東海村JCOにおいて臨界事故が発生し、作業員2名が死亡したほか多数の作業員と住民が被曝した。これは、高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故、動燃東海再処理工場の火災・爆発事故に引き続いての重大事故であり、このような事故の続発は、世界に大きな衝撃を与え、市民の原子力エネルギーへの信頼は大きく揺らいでいる。


チェルノブイリ、アメリカ・イギリス・フランスの核施設周辺では、放射能によるガン・白血病などの健康被害の事実が明らかになり、安全性、環境保護の面で原子力利用の問題点は明確になってきている。また、廃棄物処分費用を含めたコストでも、他のエネルギー源に比べて高価となっている。ドイツ・スウェーデンは原子力発電所を段階的に廃止していく方針を確定している。1997年にはフランスにおいても、高速増殖炉計画が中止された。一方、現在わが国には52基の原発があり、発電量で34. 6%を占めているが、政府は2010年までに原発13基程度を新増設し、発電量を45%にまで高める計画を進めている。


わが国の原子力安全規制行政は、主として通産省など原子力の推進のための官庁内部におかれ、総理府に置かれる原子力安全委員会は単なる諮問機関に過ぎず、その機能を十分果たしていない。このことが重大事故の続発を防げない原因の一つである。


原子力発電の推進に伴って発生する使用済燃料は年々増えていき、今や膨大な量となっているが、わが国ではすべて再処理してプルトニウムを取り出すという方針をとっている。再処理技術は危険性が大きいため、ほとんどの国では放棄されているが、わが国では2兆円以上の費用を投じて青森県六ケ所村の再処理工場の建設が進められている。また、再処理により出てくる高レベル放射性廃棄物について、ガラス固化し、深い地下に埋設する深地層処分の方針をとっているが、数万年にわたる安全性の保障は、人類の経験にない難問であり、科学的にも不確実な点が多く、諸外国においても未だ具体的な処分の目途は立っていない。にもかかわらず、わが国は処分地選定の基準も明確にしないまま、危険な処分方法を実施しようとしている。そのため、北海道幌延町、岡山県など各地で自らの地域が処分地にされてしまうのではないかとの不安が生じている。超深地層研究所が建設されようとしている岐阜県は、日本最大の内陸地震・濃尾地震を経験したところであり、断層・岩盤の性状や地下水などの条件からみても問題が大きいので、とりわけその不安は深刻である。


世界の趨勢は、今や脱原発に進み、再生可能エネルギーの促進に努めている。わが国では、エネルギーに関する基本計画について、市民・NGOの参加や国会の承認など民主的な意思決定方法がとられず、依然として国のエネルギー研究開発予算の9割以上を原子力関連に投ずる原子力偏重のエネルギー政策をとり続けている。まさに世界から孤立していると言わざるを得ない。そこで、当連合会はエネルギー政策の根本的転換を求めて、国に対して、次の提言を行うものである。


  1. 原発の新増設を停止し、既存の原発については段階的に廃止する。
  2. エネルギー消費削減に積極的に取り組み、再生可能エネルギーの研究・開発のために、公的助成と電力買取義務の制度化を内容とする自然エネルギー促進法を制定する。
  3. 原子力安全規制行政は、アメリカの原子力規制委員会にならって独立行政委員会に一元化するなど、推進官庁からの独立を確保する。
  4. 使用済燃料の再処理を中止し、直接処分のための研究と法制度の整備を行う。
  5. 高レベル放射性廃棄物の地層処分政策を凍結し、処分場に直結しかねない東濃超深地層研究所の建設を直ちに中止するとともに、「特定放射性廃棄物の最 終処分に関する法律」を抜本的に見直し、安全な処分方法及び地層処分以外の多様な選択肢のための研究を推進する。

以上のとおり決議する。


2000年(平成12年)10月6日
日本弁護士連合会


提案理由

1. 日弁連の基本的立場

当連合会は、基本的人権の擁護と地球環境の保全の立場から、原子力の開発と利用について関心を持ち、原子力施設の安全性について検討を加え、原子力行政及びエネルギー政策のあり方について、次のような提言を行ってきた。稼働中の原子力施設の運転、建設について中止を含む抜本的再検討を行うこと、使用済燃料の再処理を止め、プルトニウムをエネルギー源とする政策を放棄すべきであること、エネルギー政策の立案過程における民主化・透明化を図り、エネルギー政策基本法を制定すべきであることなどである。


2. 転換期を迎えたエネルギー・原子力政策

(1) 事故による深刻な被害

近年わが国では、1991年2月の美浜原発蒸気発生器の細管破断事故、1995年12月もんじゅナトリウム火災事故、1997年3月東海村再処理工場爆発事故、1999年7月日本原電敦賀2号炉再生熱交換器配管からの一次冷却水漏れ、1999年9月東海村JCO臨界事故と重大事故が絶え間なく発生してきた。JCO事故では、急性放射線障害によって作業員2名が死亡し、多数の作業員と住民が被曝した。いまや、原子力施設における事故は、個別の設計や運転操作の誤りによるものと片づけられるものではなく、機械と人を総合した原子力システムに内在する欠陥が露呈しているものと考えざるを得ない。1999年には、イギリスの核燃料公社でMOX燃料データの偽造が発生したが、この事件の経過は、通産省の安全規制機能の欠陥も露呈した。チェルノブイリ事故の例を見るまでもなく、原子力施設の事故は、長期にわたる深刻な生命身体への被害をもたらす。アメリカやイギリス、フランスの核施設周辺でもガン・白血病の増加などが報告されている。


(2) 世界の流れは脱原発

既にアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスでは、プルトニウムを燃料とする高速増殖炉技術が放棄されたばかりでなく、原発の新規建設計画はなくなった。アメリカでは1979年以降新しい原発の発注はない。1998年の電力シェアは約19%である。


1997年6月には、これまで再処理計画を推進してきたフランスにおいても、高速増殖炉計画を断念する旨発表され、また、1999年に完成した原発を最後に新たな原発の建設・計画はなくなった。フランスの原子力の電力シェアは約78%である(1997年)。


1998年10月に発足した新しいドイツ政権は、再処理の禁止、原発の段階的閉鎖をはっきりと打ち出し、2000年6月には産業界との具体的な脱原発のシナリオを合意した。この中で、原発の総発電量を2. 6兆キロワットと合意し、法定運転期間を32年と合意した。ドイツの原子力のシェアは約32%である(1997年)。


スウェーデンでは、1997年2月に社会民主党、中央党、左翼党の3党が、2001年7月までに2基の原発を閉鎖することに合意し、この政策にしたがって、1999年11月30日バーセベック原発は、スウェーデンの原発廃止方針の具体化として廃止された。スウェーデンの原子力の電力シェアは約46%である(1997年)。


欧米で一気に脱原発の動きが加速されたのは、電力事業の規制緩和が進んだため、各電源のコスト比較が可能となり、廃棄物の処分まで含めた原子力発電のコストが天然ガスなどの化石エネルギーだけでなく、風力などとの比較でもコスト的に対抗できないことが明確となってきたからである。いまや、欧米では、原子力発電に投じられた回収不可能なコストを誰が負担すべきかが真剣に議論されており、原発は不良資産化してしまっている。


(3) 国際的に孤立した日本のエネルギー政策

原子力が持続可能なエネルギーではないことが明確となる中で、わが国においても、芦浜原発の白紙撤回や巻原発の住民投票による凍結などの動きが始まっている。しかし、政府の原発推進の政策は止まらず、設備容量で20. 5%、発電量で34. 6%を占め、現在52基ある原発を、さらに2010年までに13基程度新増設する計画を撤回していない。このようなエネルギー政策は、国際的にも孤立したものと言わざるを得ない。


わが国の政策が、このようなものとなったのは、政策決定過程が民主的なものとなっていないためである。わが国のエネルギー政策は、総合エネルギー調査会という通産大臣の諮問機関で審議され、これが関係閣僚の会議で決定され、国民の代表たる国会の場で審議されることがない。調査会の委員は、原子力を推進する立場の者によって占められ、政策決定の基礎データの公表も不十分であった。近年調査会と原子力委員会の原子力長期計画策定会議に批判的な立場の専門家やNGO代表が加えられ、公開の場で議論が交わされるようになってきた。このような動きは、若干の前進ではあるが、どのようなエネルギービジョンが導き出されるのか、依然として未知数である。わが国のエネルギー政策を転換するためには、情報公開と政策決定過程への市民参加を推し進め、すくなくとも基本計画を国会の議決事項とすること等を内容とする「エネルギー政策基本法」を制定すべきである。


(4)原発の新増設の停止と既存原発の段階的廃止を

原発をこれ以上新たに新増設していく政策は、安全性・経済性のあらゆる面からもはや正当化できない。新増設の停止と既存原発の段階的廃止は、十分な現実性を持った合理的な提案である。いまこそ、政府は脱原発に踏み出すことを決断すべきである。


3. 持続可能なエネルギー政策を

(1) エネルギー消費の削減こそ基本

脱原発を具体化するエネルギー政策の立案は可能である。日本のエネルギー政策は、右肩上がりのエネルギー需要の伸びを前提とした供給増大シナリオを描くという手法から脱却できず、なお2010年までに13基程度の新増設が計画されている。


しかし、エネルギーの消費削減と効率的利用こそ、持続可能なエネルギーシステムの基礎である。原子力発電ではエネルギーの7割が廃熱として海に捨てられ、また遠隔地からの送電ロスも大きい。夏場のエネルギー利用のピーク時期を除けば、原発がなくても電力設備容量の不足は生じない。


天然ガスなどを利用したコージェネレーション(熱と電気の併給システム)の普及を図ったり、既設のボイラ・タービンのリパワリング(コンバインド・サイクル化)を図り、電気だけでなく熱を効率良く利用すれば、エネルギー利用効率は7割以上に改善できる。このことは、単位燃料あたりで2倍のエネルギーを引き出すことができるということである。


また、エネルギー節約的な電化製品の推奨、エネルギー効率の良い建物の普及などを図る、DSM(需要サイドマネジメント)も有用である。さらに、炭素税、エネルギー税などの経済的手法も、エネルギーの消費を削減し、環境に適合した経済政策として合理的である。そして、実際に消費を削減した者に環境税を還元したり、電力料金を安くしたりするようなインセンティブを検討すべきである。現在、環境庁が環境税の導入を提案していることは注目される動向である。


実際にEU諸国では、このような新しいエネルギー政策の実施が始まっている。たとえば、デンマークは、総エネルギー消費量の削減・再生可能エネルギー利用の促進・CO2排出量の削減を柱とし、具体的な数値目標も取り込んだ政策を1996年に公表している。スウェーデンでは、1999年4月に「持続可能なエネルギー未来」を公表し、そこでは、適切な経済成長を達成しながら、2050年までにエネルギー消費を半減し、その多くを再生可能エネルギーで供給可能とするエネルギー未来像が描かれている。


(2) 再生可能エネルギー普及のために

天然ガスは、利用できる量や価格・効率等を考えれば、原子力の最も有力な代替となりうるが、化石エネルギーとしてCO2の発生は避けられない。地球温暖化を防止し、持続可能な社会の実現を達成するためには、太陽、風力、小規模水力、バイオマス等の再生可能エネルギーの研究・開発・実用化を促進しなければならない。EUでは、1997年に発表した「再生可能エネルギー白書」において、再生可能エネルギーを2010年までに倍増する政策を掲げている。風力発電についてみると、ドイツやアメリカでは、それぞれ200万キロワットを超え、デンマークもこれに迫りつつある。


これに対して日本では、風力発電はわずか8万キロワットで、再生可能エネルギー導入は決定的に立ち遅れている。目標を定め、具体的な取組を開始すべきである。ドイツの電力買取法やアメリカのPURPA法などにならい、再生可能エネルギーによって、発電された電力を電力会社が適正な価格で買い取ることを義務づけることを内容とする自然エネルギー促進法を制定することが必要である。現在国会では、与野党の200名以上の議員からなる自然エネルギー促進議員連盟が結成され、自然エネルギー促進法の制定を目指している。現在検討されている法案は、買取約款を行政の承認事項とするものである。当連合会としては、このような立法の動きを注視し、買取義務を明確に定める、より実効性のある法案の成立を求めるものである。


以上のような政策を総合すれば、エネルギーの消費を減らし、新たな原発の建設は避けて、必要なエネルギー需要を満たすエネルギー計画の策定は可能である。


4. 原子力安全規制行政の独立と強化

(1)相次ぐ重大事故と安全審査体制の問題点

第2に述べたような事故が発生するたびに、政府は徹底した事故調査を行わず、かつ、事故の原因を特殊化して原子力施設全般に通ずる事故原因として教訓化しなかった。政府は、事故のたびに原子力安全規制行政を強化するといってきたが、実際に事故が発生し続けている。このような事実こそが事故究明の不徹底、安全規制行政の機能不全を物語っている。


現在の原子力安全委員会は、1976年7月に設置された。その機能は、通産省・科学技術庁などの行政庁の行う安全審査をダブルチェックするというものであった。安全委員会は、内閣総理大臣が国会の同意を得て任命する委員5名で構成される。必要な調査に従事する委員会独自のスタッフは、本年4月にわずか20人から90人に増強された。また、安全規制の基本方針は決定できるが、実際の安全審査では、必要と認めたときは関係行政機関の長に勧告することができるということにとどまり、安全性が確保されない施設を許可しないという権限が認められていないのである。


通産省や科学技術庁は、原子力安全委員会ほど議論されたり批判されたりしていない。国民が、そもそも通産省や科学技術庁など原子力を開発・利用促進している行政主体に、厳しい安全審査など期待できないとあきらめているのである。他方で、原子力安全委員会の権限は、実は極めて小さいにも拘わらず、これほどまでに批判されるのは、原子力安全規制の最後の砦として信頼したいとする市民の願いの現れである。しかし、その期待を裏切ることがたび重なったために、今日原子力安全委員会への批判が渦巻いているのである。


(2) 欧米の原子力規制システム

原子力の安全に関する条約では、規制機関と原子力の利用促進を担当する機関の任務を「効果的な分離を確保するため適当な措置をとる」ことを国に求めている。日本におけるシステムは、この条約を満たしていない。欧米のシステムを見てみよう。


まず、アメリカでは、エネルギー省から独立している規制当局として、独立行政機関の原子力規制委員会(NRC)が存在し、大統領に任命された委員5名のもとで約2700人のスタッフが働いている。推進と規制の分離、独立性、情報の公開度、専門のスタッフを持つ研究機関を持っていること、職員がNRCから独立して意見を述べる自由を持っていること、NRCの機能自体に対する議会やインスペクター・ジェネラルのコントロールが重層的になされていること、内部告発者の保護のためのシステムが存在していること、NGOの参加の手続が丁寧に保障されていることなどが特徴である。


ドイツでは、連邦経済省から独立して、連邦環境・自然保護・原子力安全省が原子力規制を所管しているが、実際の許認可の権限は州政府に委任されている。しかし、連邦環境省もRSK(原子炉安全委員会)に諮問し、個別原発を審査し、時には州に対する指図権を行使し、ダブルチェックが実質的に機能している。また、RSKには原発反対派の委員も選ばれていること、州の許認可や運転管理では独立した非営利の民間の技術検査協会(TUV)のプロの技術者が実質的に審査していること、約1000人もの人員が安全規制に従事していること、各原発からは各種データがリアルタイムで連邦・州の規制当局に送付され監視されていること、住民への情報開示と意見尊重の手続が確立していること、裁判所が安全規制の監視機能を果たしていることなどが特徴である。


(3) 今こそ規制機関の独立を

これらの欧米諸国のように、利用促進の機関と安全規制の機関を分離・独立させ、安全規制を十分に行うために必要な権限及びこれを執行するに十分な能力(スタッフ・設備等)を付与しなければならない。今回の省庁の統廃合により原子力安全規制行政は、内閣府(原子力安全委員会)、教育科学技術省、経済産業省の3省庁に細分化され、主要には経済産業省が所管することとなる。人員的には、若干の増員が計画されているが、このような改革は独立と強化の必要な原子力安全規制行政をむしろ解体・後退させるものであり、到底認めることはできない。よって決議のとおり、原子力安全規制行政を推進機関からNRCのように独立した一元的なものに変えるように提言をする。


5. 高レベル放射性廃棄物処分のあり方について

(1) 核燃料サイクルと高レベル放射性廃棄物

わが国は、原子力エネルギー政策の要として、原発から出てくる使用済燃料を再処理することとしている。そのため、死の灰を大量に含んだ高レベル放射性廃棄物が発生し、その量は年々増加している。これに対し、諸外国では、使用済燃料を再処理せず、そのまま直接処分するという方法が主流となっている。脱原発の方向に向かうべきだとすれば、再処理の結果生み出されるプルトニウムも不要となる。もんじゅ事故により高速増殖炉計画は挫折し、プルトニウムの使途が失われ、再処理のコストの高騰により、プルトニウム利用の必要性に大きな疑問が提起されている。再処理の結果発生する高レベル放射性廃棄物は、数万年以上にもわたり、われわれの環境から隔離しておかねばならないほど放射能が強く、極めて危険な物質である。従って、その管理や処分には非常に慎重な取り扱いが要求されるが、今までどのように管理し処分するか十分に検討することもなく、高レベル放射性廃棄物を発生させ続けてきたのである。再処理政策は直ちに中止すべきである。


(2) 地層処分技術の未確立

わが国の高レベル放射性廃棄物処分政策の基礎となっているのは、原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会が1984(昭和59)年に出した「放射性廃棄物処理処分方策について(中間報告)」(以下「84年報告」という。)である。これによると、高レベル放射性廃棄物は、30年から50年の間一時貯蔵した後、地下数百メートルより深い地層中に埋設処分するという方法が選択されている。


地層処分が選択されたのは、他の管理処分の方法との間で利害得失が十分検討されたわけではなく、「高レベル放射性廃棄物の管理を将来の世代が受け入れる保証がないこと」や「他の処分方法は不可能である」という消極的な理由から選択されているにすぎない。


しかし、地層処分について数々の調査・研究がなされてきたが、未だ絶対的に安全に地層処分できるという科学的な知見は得られていない。政府は、核燃料サイクル開発機構がまとめた技術報告書「地層処分研究開発第2次とりまとめ」(1999年)によって、地層処分に必要な条件を満たす地質環境がわが国には広く存在するとの理解に立っている。しかし、プレート境界に位置し、地震と火山の国であるわが国が、このような楽観的な見方をとっていることについては、内外の研究者から科学的な疑問が提起されている。


もし、高レベル放射性廃棄物が地層処分されてから、放射性物質が地層中に漏出した場合、地下水などを通じて人間環境に多大な悪影響を及ぼすこととなる。従って、安全性も確認されないまま安易に地層処分するということは、将来の世代の人類を重大な危険にさらすものである。そこで、われわれは、地層処分の安全性が確認されていない現状においては、高レベル放射性廃棄物を増やさないようにするために、原発を増やさず、再処理を止め、高レベル放射性廃棄物をこれ以上排出しないようにしなければならない。


(3) 不明確かつ性急な地層処分手続

84年報告では、未固結岩等の明らかに不適なものは別として、岩石の種類を特定することなく、適切な人工バリアを設計すれば安全性を確保できるとした。この報告は、結論部分については見直しはなされておらず、スケジュールに遅れは見られるものの、この報告に従って高レベル放射性廃棄物処分が進められているのが現状である。


欧米諸国では、高レベル放射性廃棄物の発熱が弱まる100年後まで地上で管理する、地層に埋めるとしても、後に取り出し可能とするなどのオプションが真剣に検討されている。現時点での地層処分計画を凍結し、他の処分方法も含め、安全な処分方法の研究を推進すべきである。この場合、研究と処分を分離し、研究施設を受け入れた自治体には処分施設を建設しないことを法制度上明確にすべきである。


(4) 東濃地域は処分場として不適地である

岐阜県東濃地域では、核燃料サイクル開発機構により、将来の処分場を想定したかのような状況の下で地層処分研究が進められ、その地下の状態について詳細な研究がなされている。さらに、地下1000メートルにも及ぶ超深地層研究所計画も進んでいる。地下の地質の状態は各地域毎に異なっていることを考えると、東濃地域で詳細なデータが集積されることにより、将来、高レベル放射性廃棄物の処分場にされるのではないかという危惧が広がっている。


そもそも岐阜県は、内陸型地震として世界最大規模であるマグニチュード8. 0の濃尾大地震が発生した所であり、根尾谷断層、阿寺断層、跡津川断層など日本で最も活動度の高い活断層が密集している地域である。また、この地域の花崗岩は、立方体状の割れ目が多く、地下まで割れ目が入り、深層での岩盤の状況はよくない。さらに東濃地域は、地下水が流れており、地層処分研究地周辺の地下水は、土岐川に流入している。土岐川は瑞浪、土岐、多治見の市街地を流れ、庄内川となって名古屋市を貫いて伊勢湾に流れ出ている。放射性物質が地下水に溶け出した場合、岐阜県のみならず名古屋市など伊勢湾周辺に至るまでの住民の生命や健康に非常な危険を及ぼすおそれが大きい。これらの点を考えると、岐阜県東濃地域は、高レベル放射性廃棄物処分場の対象地として不適地であると言うべきである。


(5) 他の候補地について

核燃料サイクル開発機構は、北海道幌延町や岡山県県北部、県西部でも深地層研究のための施設の建設を予定しており、これらの地域でも処分予定地とされる可能性が危惧されている。北海道幌延町において1998年2月26日、核燃料サイクル開発機構が「深地層研究所」計画を北海道に申し入れた。高レベル放射性廃棄物「貯蔵工学センター計画」について、当連合会が1991年に「高レベル放射性廃棄物問題調査報告書」において詳細な検討と批判を展開し、幌延町が放射性廃棄物処分場として不適地であることはもとより、かかる地域における深地層研究を含んだ「貯蔵工学センター」計画に反対する旨の見解を表明している。また、岡山県においても、核燃料サイクル開発機構が同県を最終処分場の候補地として調査していた疑いがあることが2000年になって明るみになった。


(6) 「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」について

2000年5月、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定された。この法律によって、処分実施主体とその手順は示されたが、安全基準は全く示されず、調査の終了後に策定することとなっている。全ての使用済燃料を再処理した上で、高レベル放射性廃棄物をガラス固化して処分することを大前提としている。また、地層処分の安全性や他の処分方法などについて十分な議論もないまま制定されたのである。


さらに、処分地選定に当たっては、その所在地の知事・市町村長の意見を聞き、尊重しなければならない旨の規定がなされた。しかし、周辺市町村や議会・住民の同意が必要とされておらず、真に民主的な意思決定がなされるか問題である。研究対象とされた場所を処分対象地から除外するとの規定もない。従って、研究対象とされた地域も首長の意見次第で処分対象地になりうることとなる。この法律は、抜本的に見直し、広く市民の間に全ての情報を開示して、前述したような深地層処分以外の選択肢も多角的に検討し、高レベル放射性廃棄物の管理処分政策を公開の場で決定すべきである。


よって決議のとおり提言する。