統一的・総合的な消費者信用法の立法措置を求める決議

今日、個人破産申立件数が年間12万件を突破し、経済的理由による自殺者が年間6000人を超えることなどに見られるように、多重債務問題は深刻さを極めている。また、販売信用取引の分野では、ココ山岡事件や集団名義借り事件などクレジットを利用した悪質販売業者による大規模被害が相変わらず多発している。


消費者信用取引は、本来、消費者が将来の可処分所得を現在において利用可能とし、多様な消費生活を営むための補助的手段として提供されるべきものである。しかし、わが国の現状は、異常な高金利、過剰与信、保証契約の濫用及び販売信用取引における提携販売業者の管理責任・共同責任の欠如など、与信業者の営利追求一辺倒の営業体質のもとで、消費者信用取引を利用することが、逆に消費者に不利益や生活破綻をもたらす大きな原因となっている。


これまでのわが国の消費者信用法制は、貸金業規制法によって消費者金融を、割賦販売法によって販売信用取引をそれぞれ規制するという業種業態別の縦割り立法形式であり、主務官庁の行政規制権限を中心とした規制手法を主に用いており、その内容は産業育成に過度に傾いた規制内容であったため、被害の防止と救済には決定的に不十分である。


消費者信用取引が氾濫する現代社会においては、消費者の権利として、安全かつ公正な消費者信用取引の制度が保障されなければならない。そのためには、行政権限による事業者規制だけに頼るのではなく、消費者金融と販売信用等の信用供与取引全般に共通する、次のような実効性ある統一的・総合的な消費者信用法の立法措置が必要である。


  1. 現行法の金利規制水準を大幅に引き下げるとともに、市場の公正な金利動向を踏まえつつ、消費者の生活破壊を招かない適正な金利水準を確保するために、民事効果と刑事罰により実効的な金利規制を行うこと。
  2. 消費者の支払能力を超える過剰与信を、具体的な基準を設けて規制し、その違反に対しては、請求権の減免という民事効果を付与すること。
  3. 個人保証の濫用を制限する民事的規制を設けること。
  4. 指定商品制を廃止して販売信用取引を包括的・統一的に規制し、与信業者の提携販売業者に対する管理責任及び共同責任を認めること。

よって当連合会は、消費者契約法、金融商品販売法の制定に続いて、最も被害が深刻な消費者信用取引の分野についても、早急に立法措置を講ずることを求めるものである。


以上のとおり決議する。


2000年(平成12年)10月6日
日本弁護士連合会


提案理由

1. 深刻な消費者信用取引被害

(1) 多重債務者の激増と構造的背景

わが国の消費者信用取引[消費者向けクレジットローン(住宅ローンを除く。)]は、年間の信用供与額が国家予算並の約76兆円(1998年新規信用供与額)に達しているなど、長引く経済不況にもかかわらず、拡大傾向が続いている。その一方で、個人の破産申立件数が、1990年に1万件台であったものが、1999年には12万件を突破した。経済生活上の理由による自殺者は年間6000人を超えている。


潜在的な多重債務者の総数は、150万人に達するものと見られており、破産等の法的債務整理手続に至らない多重債務者の中には、失業や夜逃げなどの生活崩壊に追い込まれた者も少なくない。


こうした深刻な被害の背景には、異常な高金利営業の容認、過剰与信体質と不当取り立て行為の放任、個人保証の濫用など、消費者不在の消費者信用産業の営業体質とそれを許容する法制度の不備が指摘できる。


まず、銀行等の市場貸出金利が2~3%の低金利で推移しているのに、サラ金や商工ローンの実質金利は、利息制限法の上限金利を超える高金利が常態化しており、出資法の刑罰金利をも超える暴利金融業者も横行している。


また、高金利と不当取り立てが容認されている現状においては、顧客の支払い能力を無視した過剰与信を繰り返しても十分に営業利益が確保されるため、過剰与信は防止しがたい。


さらに、個人保証・根保証を要求することにより、貸し倒れリスクを保証人に転嫁することができることも、過剰与信体質を支える重要な要因である。保証人は、連帯保証や根保証の責任内容について十分な理解も説明もないままに、主債務者から懇願され断り切れずに保証契約を承諾し、主債務者の取引状況について情報もないまま経過して、ある日突然一括請求を受ける劣悪な立場に置かれる。


他方で、消費者を取り巻く環境を見ると、カードによる与信システムや自動契約機の増加など、極めて簡易な信用供与システムが氾濫しているのに、その危険性を見極め賢明に使いこなすだけの消費者教育は、極めて不十分なまま社会に投げ出されている。何よりも、支払能力に余裕がない消費者ほど、低金利の冷静な選択や返済能力に見合った利用額の管理を期待することは、現実には困難である。


したがって、多重債務被害は、現代の経済・社会構造の中で発生する人権問題として捉えるべきである。


(2) 悪質販売業者による販売信用被害の発生構造

ココ山岡事件やモニター商法など破綻必至の悪質商法は、クレジットを利用することにより高額・大規模被害を多発させている。集団名義貸し事件など、クレジット契約自体を不正利用して消費者に被害を及ぼす事件も、長年にわたり相変わらず繰り返されている。


販売信用取引(クレジット・提携ローン)は、商品購入に伴う代金後払いの利益を消費者に与えるものであるが、三者型契約は、商品販売に伴う信用供与契約を提携販売業者を通じて締結するシステムであり、本来は与信業者が行うべき契約書面の作成手続を提携販売業者に委ねている点に特徴がある。悪質業者は、このシステムを悪用して、契約書面に現れないセールストークや付随特約を利用して消費者を勧誘し、あるいは消費者を欺罔して空売り・名義借り等の不正利用を繰り返すのである。


したがって、提携販売業者が引き起こす販売信用被害については、クレジットシステムを展開し営業利益を得ている与信業者の責任において、その未然防止(提携販売業者の管理等)及び損害負担(既払金の返還を含む共同責任)を行うべきである。


2. 消費者信用取引における消費者の権利の確立を

われわれは、消費者信用取引が氾濫し、その弊害が多数の消費者の不利益や生活破壊にまで及んでいる現代社会においては、消費者信用取引の本来の機能に立ち返って、消費者の権利として、安全かつ公正な消費者信用取引の制度が整備されなければならないと考える。そこで、書面による契約条件の明示、勧誘及び取立行為の適正化に加えて、次のような事項の規制が必要であると考える。


  1. 高金利貸付は、消費者に不当な負担を強いる危険な取引であるから、民事効果と刑事罰則を統一して、厳しく規制されなければならない。そのためには、現行法の金利規制水準を大幅に引き下げるとともに、市場の公正な金利動向を踏まえつつ、消費者の生活破壊を招かない適正な水準で、かつ消費者金融と販売信用を統一した、金利規制を行うことが必要である。
  2. 支払能力を超える過剰与信は、消費者の生活破綻を招く危険性が高いものであるから、貸金業規制法のガイドラインに準じた具体的規制基準を法定し、この違反に対しては、超過部分の請求権の全部または一部の制限という民事効果を付与するなど、実効性ある規制が必要である。
  3. 個人保証の濫用は、保証人を劣悪な立場に追い込む危険が強く、過剰与信体質の原因ともなっていることから、保証責任の内容を説明する義務、主債務者の信用状況を告知する義務、保証人の自署・捺印の要件化、クーリングオフ権の付与、保証能力を超える保証契約の禁止など、個人保証の利用を制限する民事的規制が必要である。なお、根保証人は、リスク管理不能な極めて劣悪な立場に置かれることなどから、根保証制度を禁止し、そもそも個人保証の要求は、消費者個人の支払能力の範囲で与信すべき消費者信用取引のあり方と矛盾するものであるから、消費者信用における個人保証の原則的な禁止も検討すべきである。
  4. 販売信用取引は、三者型契約システムによる不利益を消費者が負担することがないように、安全な契約システムとして規制する必要がある。指定商品制の廃止、与信業者の提携販売業者管理責任及び共同責任は、諸外国の法制と比較しても、必要不可欠な規定である。

3. 縦割り業法から統一的・総合的な消費者信用法へ

(1)

わが国の消費者信用法制は、消費者金融については貸金業規制法、販売信用取引については割賦販売法、金利については利息制限法と出資法が、それぞれ制定されているが、販売信用の割賦手数料には利息制限法の適用がないこと、割賦販売法は政令指定商品について割賦払い契約の場合にのみ適用されることなど、業種業態別の縦割り業法の問題を内包している。


また、貸金業規制法及び割賦販売法は、行政による事業者規制を中心として、過剰与信や違法取立行為に対する民事効果を定めた規定が存在しないことなど、取引の適正化には極めて不十分である。


さらに、諸外国と比較すると、わが国の消費者関係法制は、全般的に産業育成に過度に傾き、金利規制の水準や販売信用業者の共同責任規定などの規制が緩やか過ぎると指摘されている。


(2)

当連合会は、1999年6月, 「統一消費者信用法の制定を求める意見書」を公表した。その要点は、前述の高金利、過剰与信、個人保証、販売信用取引のほかに、適用範囲、取立行為、個人信用情報、カード取引など、消費者信用取引全般にわたる統一的・総合的な立法提言である。その内容は、諸外国の消費者信用法制においても既に制定されているものが多く、わが国の現状に照らせば、いずれも必要かつ適切なものである。


(3)

本年4月28日、消費者契約全般の民事的取引ルールを定めた消費者契約法が制定され、5月23日には、金融商品の販売における説明義務等を定めた金融商品販売法が制定された。その内容には不十分な点もあるが、取引ルールにおける消費者の権利を定めた法律が制定されたことは評価できる。


これに対し、最も広範かつ深刻な被害が発生している消費者信用取引の分野については、出資法の金利の一部引き下げや割賦販売法の指定商品・役務の一部追加など、部分的な手直しが行われているものの、抜本的な見直しは進んでいない。


よって、われわれは、国及び関係機関に対し、今こそ統一的・総合的な消費者信用法の立法措置を講ずることを求めるものである。