拘禁二法案を廃案とし、国際基準を充足する拘禁法の制定を求める決議

本文

政府は本年4月いわゆる拘禁二法案(刑事施設法案、留置施設法案など)を三たび国会に提出した。同法案は昨年1月に廃案となった昭和62年法案と同一内容であり、目下、継続審議となっているが、政府はおそくとも次期通常国会での成立を期してこれまでにない執念を示している。


われわれは二法案が最初に提出された1982年以来、両法案を監獄法改正の目標とされた国際化・近代化・法律化に背くものとして一貫して反対してきた。


この間、国連被拘禁者人権原則が採択され、国連NGOから代用監獄や被拘禁者の処遇について再々勧告をうけるなど、国際的基準に照らして二法案の不当性は一層明らかとなった。


こうした中で、われわれは、刑事司法改革の一環として、代用監獄を今世紀中に廃止する要綱を提唱し、国際基準に則した新しい拘禁法案の策定を進めている。


政府および国会は、拘禁二法案を直ちに廃案とし、新たな構想のもとに国際基準を充足する監獄法改正作業を再出発させるべきである。


以上のとおり決議する。


1991年(平成3年)11月15日
日本弁護士連合会


理由

昨年の人権擁護大会でわれわれは法案二法案の再々提出に反対する決議を満場一致で採択し、法務大臣、警察庁長官に決議文を提出して、その旨を強く申し入れた。その後も、代用監獄を利用して得られた自白の信用性を否定した無罪判決が相次ぎ、代用監獄の廃止を支持し、拘禁二法案の見直しを求める世論は一層高まった。


また、国際的には、(1)1990年9月に国連犯罪防止会議で日本政府を含む全会一致で弁護人の接見交通権を全面的に保障した「弁護士の役割に関する基本原則」が採択され、(2)本年1月アムネスティー・インターナショナルが「日本の死刑廃止と被拘禁者の人権保障」と題する報告書を発表したが、その中には日本政府に対する勧告として取調当局と拘禁当局との分離すなわち代用監獄の廃止を意味する勧告が含まれている。(3)本年3月には国連人権委員会に恣意的拘禁に関する調査のためのワーキング・グループが設置されて作業を開始している。


さらに、現刑事施設法案の基礎は1980(昭和55)年11月に法制審議会が法務大臣に答申した「監獄法改正の骨子となる要綱」であり、同審議会の審議は1976(昭和51)年に始まっている。現行監獄法の改正法案である拘禁二法案はその作業開始から10余年を経ており、その間、若干の手直しがあったとはいえ、法案自体にすでに見直すべき時期が到来している。


代用監獄については1980年に警察庁は代用監獄に対する批判を回避するため刑事部門の所管であった留置業務を行政管理部門(警察署では警務または総務)に移管した。しかし、この措置によっては代用監獄の弊害を些かも減少できなかったことは、その後の冤罪事件の多発を見れば一目瞭然である。


しかるに、政府は、与党内の消極意見や野党こぞっての反対意見を押し切って、本年4月1日二法案を三たび国会に提出した。その内容は昨年1月に廃案となった昭和62年法案と全く同一であった。同日当連合会が会長名で抗議の声明を発表し、多くの会が同種の決議、声明を当局に送付した。これに対し警察庁は7月に至って日弁連に対し、あくまでも国会での審議と早期成立を図る姿勢を示した官房長名の書簡を送達し、各会にも官房から同旨の書簡を送っている。これは今までになかったことで、同庁の二法案成立にかける執念を示すものである。こうして今国会ないし次期通常国会における二法案成立の危険性は従来を上回るものと予想される。


このような二法案の早期成立を図る政府の態度は、内外の世論に背を向け、国際的動向を無視するものであり、監獄法改正の目標である国際化・近代化・法律化を放棄したものと評するほかない。


われわれは、本年4月に2000年までに代用監獄の廃止を実現すべく廃止までの暫定措置をも取り入れた「代用監獄廃止要綱」を発表した。そして、さらにわが国の刑事司法全般の改革の一環として全面的な新拘禁法案の策定を進め、近く国民の前に提示しうる段階となった。その骨子は、


第1に、未既決ともに私物の取得や新聞・書籍等の閲覧、余暇活動などを原則的に自由とし、食事、健康、医療などの水準を飛躍的に向上させる。


第2に、規律秩序並びに懲罰を大幅に緩和する。


第3に、面会、信書の自由を拡大するとともに、被逮捕者、被勾留者に対する施設管理を理由とする制限、特に執務時間による弁護人との接見制限を認めない。


第4に、受刑者については、その意思を尊重して分類、個別的処遇、作業が選択されるよう保障し、善時的仮釈放(受刑者が一定時間を違反なしに過した場合に一定の善時日数を与え、刑期を短縮する機能をもたせる制度)を導入したり、社会復帰への援助を促進する。


第5に、被収容者の人権と適正な処遇を確保するため、職員の充実を図る一方、外部委員からなる刑務審査会を設置する。


第6に、この新法案を警察留置場にも適用し、留置施設法並びに代用監獄の恒久化につながる法案は一切認めない。


この提案は、日本における現状を配慮しつつ、今日の国際的水準に合致させたものであり、監獄法改正の出発点となった国際化・近代化・法律化の理念に副うものである。


政府および国会は継続中の拘禁二法案を直ちに廃案とし、この提案を重要な立法資料として監獄法改正作業を基本からやり直すべきである。