有害一般廃棄物処理に関する決議

本文

最近、廃乾電池や廃螢光管等の水銀含有廃棄物のように、有害物質を含んでいる製品が、多量に一般廃棄物の中に含まれて排出されるようになり、人の健康を守るという観点から大きな不安がなげかけられている。


有害重金属や有害化学物質は、自然界の生態系循環と相容れない物質であって、たとえそれが微量であっても、継続して自然環境に放出されるときは、人間の健康に重大な危険を及ぼすことを、われわれは過去の公害事例で体験した。この体験にかんがみ、有害物質を含む廃棄物の処理にあたっては、その排出による健康被害の発生を未然に防止するため、有害物質を完全に管理しこれを環境中に排出させない体制(クローズドシステム)の確立が何よりも必要である。


かかる観点からすると、現行の廃棄物法制は、内容的にも手続的にも極めて不十分なものである。よって、国・地方自治体及び事業者は、それぞれ次の施策を講ずべきである。


  1. 国は、有害物質を含む製品の製造並びに有害廃棄物の回収・再利用・処理・最終処分までの廃棄物管理システムを確立するための法制度を整備すること。
  2. 地方自治体は、廃棄物の処理にあたって有害物質が排出されることのないよう万全の施策を講じるとともに、住民に対し有害廃棄物に関し必要な啓蒙活動を行うこと。
  3. 国及び地方自治体は、廃棄物最終処分場及びその跡地の土壤や地下水の汚染について調査し、跡地利用の規制を含めてその適正な管理体制を確立すること。
  4. 当面の課題として、事業者は水銀含有製品の製造段階においてその使用量を最小限に抑制するとともに、国・地方自治体・事業者は三者の協力のもとに、水銀含有廃棄物について合理的な回収システムを早急に確立し、事業者においてその処理・処分をすること。

右宣言する。


昭和59年10月20日
日本弁護士連合


理由

1.廃棄物は、人間の生活とその活動にともなって必然的に発生するものであるが、近年における経済の高度成長と科学技術の発展は次々と新しい製品を生み出すとともに、大量生産・大量消費の時代をもたらし、その結果として、廃棄物は量的にも質的にも急激に変化をきたした。とりわけ、これまで自然界にはなかった新しい化学物質や重金属を含有する人工合成物(例えば、プラスチック製品、食品添加物、薬品等)が、人間の生活に有用な製品として大量につくり出されるところとなり、その結果、廃棄物には、通常の方法では有害性や危険性を除去できないものや、自然の受容能力に見合うように変換できないものが著しく増大した。しかも最近問題化している廃乾電池や廃螢光管等の水銀含有廃棄物に見られるように、いままでは主に工場における産業廃棄物中に含まれて発生していた有害化学物質や有害重金属が、市民生活あるいは物質の流通・消費の場から出る一般廃棄物の中に含まれて排出されるようになり、廃棄物の適正処理上きわめて困難な問題となっているのみならず、人の健康を守るという観点から大きな不安がなげかけられている。


2.ところで、われわれは過去に、有機水銀による熊本・新潟の水俣病、カドミウムによるイタイイタイ病、PCBによるカネミ油症、六価クロム鉱滓による被害など、有害物質によって引き起こされた悲惨な被害を体験する中で、人の健康被害が発生してから有害物質の規制や対策を考えるのでは遅きにすぎ、自然界の受容能力と相容れない有害物質については、人の健康被害が発生する以前に規制しておく必要のあることを学んできた。地球上の生物界の生態系は、生産・消費・廃棄・分解還元という循環を維持することによって調和を保っているが、有害化学物質や有害重金属は、自然界のそうした生態系循環と相容れないものであり、たとえ微量であっても継続して自然環境中にかかる物質が排出されることは、単に生態系循環を破壊するというにとどまらず、人間の健康を脅かすものである。排水中の有機水銀が食物連鎖のなかで魚介類に濃縮蓄積され、これを食したことによって発生した水俣病に見られるとおり、現在ただちに人の健康が害されることがないとしても、長年の蓄積とその間の量の増大を考えれば、有害化学物質や有害重金属を含有する廃棄物については、たとえ現在は微量であっても人の健康に危険をもたらすものと考えなくてはならない。したがって、このような危険を避けるためには、有害物質を使用しないことが望ましいが、仮に有害物質の使用が避けられないとしても、有害物質を含む廃棄物を完全に管理し、環境中に出さないための体制、いわゆるクローズドシステムをまず確立すべきである。


3.以上の観点からすると、現行の廃棄物法則は、内容的にも手続的にも極めて不十分なものであり、前記の如き廃棄物の量的増大と質的変化にまったく対処できない。


現行の廃棄物処理法は、廃棄物を産業廃棄物と一般廃棄物とに大別し、産業廃棄物については事業者の自己処理責任を規定し、産業廃棄物中の有害廃棄物の保管・運搬・処分については他の産業廃棄物と区別された基準を定めているものの、一般廃棄物についてはその処理責任者を地方自治体とし、その処分についてもきわめて抽象的な基準を規定するにすぎない。現在社会問題となっている廃乾電池や廃螢光管等の水銀含有廃棄物のように、明らかに有害重金属や有害化学物質を含んでいることがわかっている製品でも、現行の廃棄物処理法では消費者の手から一般廃棄物の中に含まれて排出されると、その処理責任は地方自治体が負わなければならないことになり、その処分も一般廃棄物として埋立又は焼却されてしまうのである。現行の廃棄物処理法は、特に有害物質を含有する一般廃棄物の無害化という観点からすると、ほとんど機能していない。


4.当連合会公害対策委員会では、有害化学物質や有害重金属を含有する一般廃棄物の問題、わけても昨年来大きな社会問題となっている廃乾電池や廃螢光管等の水銀含有廃棄物の問題を中心としてとりあげ、全国651市に対するアンケート調査や、国・地方自治体・関係機関の実態調査を行い、シンポジウムを開いてその有する問題点について検討した。


右の成果にたって、有害物質を含む一般廃棄物の問題に関して以下の提言をする。


(1)国は、第一に有害物質を含む製品の製造段階における製造内容を把握するとともに、有害物質の使用抑制に関する具体的な基準を策定し、第二に廃棄物となった有害物質含有製品をいわゆる「汚染者負担の原則(ppp)」にしたがって事業者の責任と費用負担において回収させるとともに、回収した有害物質含有廃棄物の再利用・処理・最終処分に至る全過程を把握する総合的な管理システムを確立するための法制度を整備すべきである。


(2)地方自治体は、第一に仮に有害物質含有廃棄物の処理がなされるとしても、一般廃棄物中に有害物質含有廃棄物が混入することは避けられないものであるから、一般廃棄物の処理にあたって有害物質の除去設備を設けるなどして、有害物質が環境中に排出されることのないよう万全の措置を講ずべきであり、第二に、消費者をして有害物質含有廃棄物とそうでない廃棄物とに分別させたうえで回収し、有害物質含有廃棄物については定められた方法によって消費者が排出することを徹底させるべきである。


(3)現行の廃棄物処理法制によれば、廃棄物の最終処分は埋立処分を原則とし、例外的に海洋投入処分を認めることになっているが、一般廃棄物の埋立処分の基準については、PCBを除けばごく抽象的、一般的な定めがあるにすぎず、又、一般廃棄物の最終処分場の構造基準として汚水が地下に浸透しない構造が求められていない。更に、最終処分場における土壤及び地下水への影響等についての維持管理基準に関しては、一応の基準があるものの、その内容はきわめて不十分なものであり、特に、閉鎖後の最終処分場についてはまったく基準もなく、その跡地利用についても何ら規制されていない。したがって、国及び地方自治体は、閉鎖後のものも含めて廃棄物最終処分場の土壤や地下水の汚染状況について絶えず調査・管理するとともに、その跡地利用についても規制する管理体制を確立すべきである。


(4)昨年来廃乾電池や廃螢光管等による水銀含有廃棄物の問題が、社会的に大きくクローズアップされた。無機水銀は、それ自身としても毒性をもつものであるが、水俣病を引き起こした有機水銀にも変化しうる危険な物質であるだけに、乾電池の使用量が、ここ10年近くの間に非常な勢いで増加し、現在も大幅に増え続けていることからすれば、現在の状況をこのまま放置することはできず、廃乾電池や廃螢光管等の水銀含有廃棄物についての当面の回収システムの確立は、緊急の課題である。したがって、まず事業者は、水銀含有製品の製造段階において可能な限り水銀の使用を抑制するとともに、国・地方自治体・事業者は、その三者の協力のもとに、水銀含有廃棄物について、デポジット制度をはじめとしたいろいろの回収方法を検討したうえで、最も合理的な回収システムを早急に確立し、更に回収された水銀含有廃棄物については「汚染者負担の原則」にのっとり、当面、事業者においてその処理・処分をすべきである。