国際障害者年に関する宣言

本文

本年は、国際連合が1975年に採択した障害者権利宣言の趣旨に基づく、国際障害者年である。


障害者権利宣言は、障害者が等しく人間としての尊厳を尊重され、平等の権利を有し、社会への完全参加と実質的平等とを確保されるべき旨定めている。


ところが、わが国の現状は、400万人以上にのぼる障害者に対して、社会福祉や権利保障の面で充分な施策が行われているとは言い難く、社会への完全参加を阻む壁が数多く存在している。


われわれは、国及び関係諸機関が、障害者に対する権利の保障、福祉施策の充実と社会への完全参加を強力かつ継続的に推進するよう要望するとともに、われわれ自身も、障害者の人権擁護のため、今後一層の努力を傾ける決意である。


右決議する。


昭和56年9月26日
日本弁護士連合会


理由

  1. 1975年12月国際連合第30回総会が満場一致で採択した「障害者権利宣言」は、世界人権宣言(1948年) 、国際人権規約(1976年発効) 等を通じて、創立当初より基本的人権の国際的実現を希求してきた国際連合により、全世界におよそ4億5,000万人といわれる障害者の権利保障のために人類史上初めて宣せられた画期的なものである。右宣言中には、「全ての障害者が人間としての尊厳を尊重され、その障害の原因、性質、程度のいかんにかかわらず、障害を負っていない同年齢の者と同等の基本的人権を有しているのであり、社会生活の各分野において障害者の能力が最大限に発達するよう援助を受けるべきこと」などが定められている。翌1976年国際連合第31回総会は、右宣言に盛り込まれた基本思想の普及と障害者に対する施策の抜本的改善をめざして、本年を「国際障害者年」と定め、総合テーマである「障害者の社会への完全参加と平等」を実現すべく、各国で集中的な行動を展開することを決定した。
  2. もとより、憲法は、障害者は全て個人として尊重され、幸福追求に対する固有の権利を有しているのであり(第13条) 、国は障害者に対し障害を有しない者と実質的平等に( 第14条) 、その生存権を全うするための社会福祉の施策を増進すべきこと(第25条) を定めており、国際障害者年に際し、われわれは右障害者権利宣言とともに、改めて、憲法の定める障害者に対する福祉及び人権保障の基本精神に思いを致すものである。
    ところで、わが国には現在400 万人以上の障害者がおり、交通事故、労働災害、医療過誤、薬害などの後天的要因により障害者の数はむしろ増加傾向にあると言われているが、これら障害者に対するわが国の施策の現状は、今なお不充分な状態に止っている。
    すなわち、良体障害者福祉法( 昭和24年) 、国民年金法( 昭和34年) 、精神薄弱者福祉法( 昭和35年) 、身体障害者雇用促進法(昭和35年) 、心身障害者対策基本法( 昭和45年) など、法制度面では一定の前進をみてはいるものの、一歩立入って検討してみれば、今なお放置されているに等しい多くの在宅重度障害者の存在、養護学校、特殊学級等における教育の機会均等の困難性、障害者の能力を生かす場としての資格取得及び就業の機会の圧倒的狭さ、重度障害者の所得保障としての障害福祉年金の低水準、リハビリテーション医療体制の未整備と専門職員の不足、そして、今なお広範に存在する障害者に対する社会的偏見と差別等々、障害者の真の自立と社会への完全参加を阻害する幾多の要因が存在している。のみならず、近時、国や地方公共団体は、財政面の困難を理由に、「日本的福祉社会」の実現と称して、障害者自身やその家族に一層負担を強いる方向での「福祉行政の見直し」に着手しようとしており、これらの傾向は、障害者権利宣言の趣旨に逆行するおそれなしとしない。われわれは、国際障害者年に際し、国及び関係諸機関に対し、これらの阻害要因を速やかに除去し、医療(特に発生予防、早期リハビリテーション) 、教育、雇用、所得保障、環境整備等社会生活の全分野に亘り、障害者に対する総合的施策を抜本的に改善するよう要望するものであるが、以下の点については、特に早期実現を強く求める。
    1. 国家試験資格取得に関する障害者に対する制限条項を再検討し、公務員の採用、配置等について、障害者の能力が充分発揮できるよう改善すること
    2. 障害者の社会参加の場としての就業の機会を確保するため、民間企業における障害者雇用の拡大に向けて特別の努力をすること
    3. 障害者が公共建物や交通機関等を利用しやすいように必要な改善を施すこと
  3. 今日、障害者がわが国の裁判の場に、訴訟当事者、関係人、傍聴人などとして登場することが多くなっているが、今後、障害者の社会参加、自立、権利意識が伸長するにつれ、このような機会はいよいよ増大するであろう。障害者権利宣言も「障害者は、その人格および財産の保護のために適切な法的援助を保障されるべきである。障害者に訴訟が提起された場合には、その法的手続きは、障害者の身体的、精神的状態を充分配慮して行われるべきである。」(同宣言第11項)と定めている。
    ところが、わが国の裁判手続の現状は、障害者が訴訟関係人として不自由なく行動する上で充分な配慮が尽されているとは言い難い。司法の一翼を担うわれわれとしては、今後、「司法における障害者の完全参加」をめざして一層の努力を傾ける所存であるが、裁判所、法務省に対し、以下の点を強く要望する。
    1. 民事、刑事を問わず、障害者が訴訟などの当事者である場合には、障害者の具体的な障害の性質、程度等を充分配慮して、捜査、審理を行うよう特段の方策を講じること
    2. 障害者が傍聴人である場合、裁判の公開が実質的に保障されるよう特別の措置を講ずること 障害者が裁判所等の施設を利用しやすいよう改善すること
  4. われわれは、これまで、ややもすれば障害者にとって法律や裁判が必ずしも身近なものではなかったことを反省し、国際障害者年を契機に、障害者の基本的人権の擁護、司法への完全参加をめざして今後一層努力する決意である。特に以下の点について早急に検討し実現することを誓う。
    1. わが国の障害者をめぐる法律制度、特に、訴訟手続等につき調査、研究をすすめ、その改善を図ること
    2. 障害者に対する法律相談等の窓口を広く設けること