沖縄県民の損失補償に関する件(第一決議)

過去27年にわたる異民族による軍事支配は、沖縄において幾多の人権侵害をひきおこし、県民に耐えがたい苦痛を与えてきた。しかるに、沖縄の施政権返還にあたっては、県民の失われた権利の回復と正当な補償がなされず、かえって沖縄協定第4条の請求権放棄は、沖縄県民の請求権の実現をいよいよ困難ならしめた。


沖縄県民の多年の苦痛にかんがみ、復帰の際の通貨切り換え等にともなって生じた諸損失に対する填補をあわせ、その請求権実現のため、立法をふくむ全面的かつ早急な補償措置がなされるべきである。


右決議する。


1972年(昭和47年)11月25日
第15回人権擁護大会、於那覇市


理由

沖縄県民は、米軍の占領統治下において、米軍自体の行為ならびに米軍人・軍属の行為によって幾多の被害を蒙ってきた。被害の内容は、土地接収による損害、土地の原形変更・滅失による損害、漁業・水利入会権の侵害、演習による人身・物件の被害、基地公害による被害、軍人等の犯罪による被害等広汎な分野にわたっている。


これら損害に対して米軍はその都度適正な補償ないし賠償を行ってきたわけでなく、県民の要求により補償がなされてもその額の妥当性については問題を残し、少なからぬ被害項目については、補償を全く拒否してきた。52年講和以前の損害について、県民の要求運動によって、65年になって布令第60号による支払がなされたが、その性格は見舞金であり、また調査の不備をふくめて未補償部分が残されている。講和後においては、軍用地問題についての布告第20号、外国人補償法等によって一応補償がなされてきたが、沖縄県民は米軍の行政的裁定にゆだねられ、その要否ならびに額は不服な査定であっても司法的救済の手段をもたず権利としての補償請求実現の途をとざされてきた。


沖縄県民の請求権は、米国政府との国際法的関係であり、占領およびその後の期間の米軍の施政方針によっては消滅させることはできないものである。施政権の返還にあたっては、国際法の原則と世界人権宣言等現代の人権意識に従った正当な補償がなされるべきであったが、日本政府は沖縄協定第4条によって請求権を放棄した。その第2、第3項によって復帰後に補償されるべきものとされた損害も、復帰前の補償方式に制限し、しかもこれを米国政府の裁定にまかそうとするものである。これによって、沖縄県民の請求権実現が著しく困難になったことはあきらかである。日本政府は、沖縄県民の補償をうけることのできない損害について、法的責任をも有するといわざるをえない。政府は米国政府に対して復元補償をはじめとする補償を促進させ、また自ら速やかに立法その他の方法により県民にその損害を補償すべきものである。


さらにドル切り換えによる沖縄県民の差損についても、政府はこれまで「一切迷惑をかけない」旨公約しており、ドル切り下げにともなう対米輸出企業の差損補填の例に比べても、沖縄県民に対する差損補償は当然である。その他行政事務の切り換え、物価上昇等復帰にともなう負担、損害についても相当な措置が必要であると考える。よって右決議をする次第である。


注(1) 提案会
沖縄弁護士会


注(2) 要望先
総理大臣、総理府総務長官、大蔵大臣、衆・参両院議長、各党党首