米軍人軍属による犯罪の捜査権と裁判権に関する件(第一決議)

沖縄の日本復帰を目前にひかえ、米軍人軍属による凶悪犯罪が多発し、沖縄県民に恐怖と怒りをまきおこしている。われわれは、米国政府に対し、この種犯罪を防止するための適切な措置をとるとともに、基地外における米軍人軍属の犯罪についての捜査権と裁判権を早急に琉球政府に移譲することを要請する。


右決議する。


1970年(昭和45年)9月22日
第13回人権擁護大会、於新潟市


理由

沖縄における米軍人軍属らの犯罪は、25年前の米軍占領の当初より沖縄における日常的典型的な人権侵害の内容をなしてきたものであるが、県民の声をよそにこの犯罪はいぜんとして減少しないばかりか、最近では激増の一途をたどり、犯行の質においても凶悪化、多様化の様相を呈しつつある。今年5月30日沖縄中部具志川市で白昼発生した女子高校生に対する米兵の凶悪な刺傷事件をはじめ、米軍人らによるピストル強盗、タクシー強盗、無暴、酩酊運転による交通事件とひき逃げ、バー街などにおける傷害、婦女暴行、麻薬銃砲不法所持、軍刑務所からの集団脱獄など、この種事件はほとんど連日のように発生しており、沖縄県民に大きな不安と恐怖をあたえている。事件数の増加にくわえて、ピストル、ナイフなど凶器を使用した犯行がふえ、傷害事件が目立ってきたことは深刻である。


このような度かさなる異常な米人犯罪に対しては、沖縄県民の側には捜査権も裁判権みなく、琉球政府はこれらの事件を抑制防止する権限がない。(「琉球列島の管理に関する大統領行政命令」・「琉球民警察官の逮捕権<布令87号>」参照)。ために県民の不満と怒りは日ましに激しさをくわえており、異民族支配に支えられる治外法権的取扱に対する県民の屈辱間はもはや堪えられないところまできている。県民の抗議と世論の高まりのなかで、米軍側は軍民捜査共助協定の改訂に同意し一定の譲歩を示したが、これは琉球民警察に逮捕権ないし捜査権を移管するものではもちろんなく、問題の終局的解決は望みえないものである。


沖縄県民は、2年前、大統領行政命令そのものの改正にもとづく琉球政府行政主席の公選制を獲得した経験をもっており、施政権返還前においても、行政命令ないし布令の改廃によって米軍の施政権に抵触することなく、沖縄側へ、捜査権、裁判権を移管することは可能であって、一日も早く県民の希望が実現し、制度そのものから発生する人権侵犯がこれ以上横行しないよう、日米両国政府に強く要請する必要がある。


日本弁護士連合会は、さきに沖縄問題特別委員会の数回にわたる現地調査をもとにして報告書(「沖縄白書」)を公にし、沖縄県民の基本的権利の侵害の実態を明らかにして、その権利回復を世に訴えた。また、本年7月には沖縄における米軍反差異に対する裁判権の帰属についての意見を発表した。72年返還がきまったという現段階において、かつ、長年の県民の要求であった国政参加が現実のものとなった今日において、なおいぜんとして、沖縄県民の基本的人権が、米軍の基地占領制度のため、危険にさらされ、現に侵害されている事態を、われわれは黙視することができない。周知のように、アメリカ合衆国の占領支配によって過去四半世紀にわたり、沖縄県民は、日本国憲法の適用外におかれ、その生命、身体、自由、財産等の基本権の法的保障のない無権利状況を余儀なくされてきた。そして米軍の核基地とベトナム戦争遂行のため、非常な不安と恐怖のなかに生活してきた。B52爆撃機は今なお毎日のようにインドシナ戦線へ出撃をつづけており、沖縄基地に貯蔵配備されている毒ガス兵器は米国移送先の拒否によって撤去は無期限に遅延しており、人道上許されない危険な状況は、少しも改められていない。


沖縄の人権問題について、常に重大な関心をもって対処してきた日本弁護士連合会は、本大会の名において、沖縄県民の基本的人権がこれ以上侵害されることなく、核兵器、毒ガス兵器、B52など戦争の恐怖から一日も早く解き放たれるよう念頭し、そのために最大の努力をすることを誓い、米国政府に対し米軍犯罪についての捜査権と裁判権を早急に琉球政府に移管移委譲し、この種犯罪防止するため適切な措置をとるよう強く要請するとともに、日本政府に対して、この問題について強力に推進し、本土政府としての責務を果たすよう求めるものである。


注(1) 提案会
東京弁護士会


注(2) 要望先
法務大臣、駐日アメリカ大使、琉球高等弁務官