再審制度の運用に関する件(第一決議)

有罪の確定判決に対し、無罪となるべきあきらかな証拠をあらたに発見して、再審の請求をしても、故なく、再審が開始されない事例が多い。


かくては、刑事司法に要請される真実発見の目的に反し、無辜の民を救済する途をたざすことになり、人権擁護の上から到底看過することができない。


よって、裁判官は人権擁護の精神に徹し、検察官は公益の代表者としての使命に省み、謙虚に再審制度の本旨を全うすることに努むべきである。


右決議する。


(昭和42年11月11日、於松山市、第10回人権擁護大会)


理由

再審の法規は被告人の利益のために設けられたものである。従って、再審制度の運用にあたっては、従らに原判決を固執し、再審開始の条件をあまりに厳格に形式的に解釈し、国民に対して事実上再審の道を閉ざすようなことがあってはならない。司法の職にある者は、再審制度の本来の姿が無辜の民を救う愛のかけ橋であって、これを拒む鉄の扉でないことを心に銘じ、あらたに発見された証拠が、確定判決の基礎となった事実の認定に影響を及ぼす可能性が十分ある限り、無罪を主張し再審の請求をする者に対し、消極的あるいは対抗的態度をとって再審の門を閉ざして、これを阻止することがあってはならない。


しかるに、原審証人の自供を基に偽証を理由とする場合には、勢い偽証の告訴、告発が必要となるが、この場合、検察庁は執拗な再調により自供を飜得させ、或は他の罪状を追求処断して自供の信憑力をなくし、不起訴処分に付するなどして、再審請求の途を杜絶えさせる例はしばしばみられ、また、徳本吹喜雄提訴事件においては、確定判決のあった強盗傷人事件につき、別件判決において「徳本被告人が真犯人でないという主張は首肯できる」と認定されているのに、右確定判決に対する再審裁判所は、明白性を局部的に解し、これを棄却している。その他検察官、裁判官が概して再審開始に冷淡な態度を示し形式的に処理している実例は枚挙に遑がないほどである。


斯様に冤罪を主張する切なる声に耳かさず、確定判決の安定のみを願い、真実の発見をおろそかにし、その救済の途を阻むことは人道上ゆるされないところである。


検察官も裁判官も、謙虚に、愛情をもって無辜の訴を取上げ、真相発見に力を致し、よって国民の信頼に応えられるよう要望して止まない。


注(1) 提案会
第一東京弁護士会


注(2) 要望先
最高裁判所長官、法務大臣、検事総長