公害の被害者救済制度に関する件(宣言)

公害対策基本法はようやく制定されたが、具体的内容は今後の立法にゆだねられている。したがって、この法律の実施に必要な法制を整備し、その実効をあげることが刻下の急務である。


殊に、被害者の苦痛が放置されつつある現状に鑑み、直ちに被害者救済制度を確立し、適切迅速な被害弁償の実現を図らなければならない。


われわれは、人権擁護の立場より公害問題解決のため、更に一層の努力を強化する。


右決議する。


(昭和42年11月11日、於松山市、第10回人権擁護大会)


理由

  1. 本会は昭和39年名古屋における第7回人権擁護大会で公害災害に対する宣言をし、更に本年5月21日には第55回特別国会において公害対策基本法の成立を見るに至ったので、本会はこの法律の関係法令の整備を図ることがこの際極めて重要であることを認め、公害対策に関する前の宣言、決議と三位一体をなす問題として茲に本宣言を提案した。
  2. 公害対策基本法は国民の健康の保護を目的とすることを第1条に明らかに定めた。この目的のために、この法律は公害問題に関する施策の原則を定むるもので、その内容は宣言的であり、抽象的、観念的であって、実際の効果に直結するものではなく、スタートラインが引かれた出発点が定まったに過ぎない。公害の量的にも質的にも広大な分野を如何にして開拓するかが今後の大きい問題なのである。
  3. 従ってこの法律に関して制定されなければならない関係法令は尠くない。例えば被害者救済制度の確立、国、公共団体、事業者の公害防止、施設の負担法、現在まで放置されていた騒音防止規制法、振動、悪臭、地盤沈下に対する規制法、土地利用規制法、大気汚染に関するばい煙防止法の改正、水質二法の改正、関連する法律としては建築基準法、都市計画法、税務関係の法律等多々ある。
  4. 殊にわれわれとして、感心の最も深いものは救済制度の確立である。これについては、法律上幾多の問題が横たわっており、われわれは非常なる苦心を重ねているが、これらの難問を克服して、救済制度が新たな構想の下に速やかに制定されることを図らなければならない。
  5. 従来の公害に関する法律についてはその施行期日が定められ、詳細な手続規則が制定されて実施されるまでは5年も10年もの期間が費されている。この対策基本法の生死は実にかかって関係法令の速やかな制定とその内容如何によるものである。公害は日の激甚を加え被害者は苦痛に喘いでいる今日斯の如く長い年月の遅延は許されない。
  6. 人権擁護を使命とするわれわれは人命の尊重、国民の健康保護、生活環境の保全を目的として、公害問題の解決に更に一層の努力を尽くし、国民の要望に応えると共に福祉国家の理想に向かって邁進する覚悟を宣言して、国民の生活を擁護せんとするものである。

注(1) 提案会


第二東京弁護士会、福岡県弁護士会、近畿弁護士連合会


注(2) 要望先


内閣総理大臣、法務大臣他関係大臣、内閣法制局長官、衆・参両院法務委員会委員長等関係常任委員会委員長、衆・参両院産業公害対策特別委員会委員長、各党公害対策特別委員会委員長