警察官の暴行による弁護権活動妨害の件(決議)

捜査段階における弁護人の職務遂行にあたり、近時、警察官の暴行による弁護活動妨害の事例尠なしとしない。


かかる事態は、弁護権の重大な侵害であって黙視できない。


よって、警察当局に対し、この種行為の絶滅を期するよう警告する。


昭和40年9月25日
於秋田市、第8回人権擁護大会


理由

最近、捜査段階における弁護人の職務遂行に対し、警察官の暴行による妨害事件が東京・大阪において引続いて発生したが、かかる警察官の行為は国民の弁護人を依頼する権利を侵害するにとどまらず、弁護士に対する直接の人権侵害行為であって、法治国にあるまじき所為である。


よって警察当局の猛省を促し、二度とかかる行為が行われないよう厳重に抗議するものである。事例次のとおりである。


  1. 昭和40年7月4日、山根晃弁護士は板橋警察署に依頼者との接見を求めたところ、警察官5、6人により署外に突き倒おされた。
  2. 目下大阪弁護士会で調査中であるが次のような事例もある。
    昭和40年4月25日、杉山彬弁護士(大阪)は威力業務妨害罪で逮捕された被疑者につき布施署において接見を求めたところ、応対に出たT巡査部長は同弁護士に対し、「接見指定書を持ってこない限り面会させない」と接見を拒否し「弁護士だといって大きな顔をするな」等と暴言をはきながら両手で同弁護士の肩や胸を十数回突いて押し返し、同弁護士の左手背に通院加療4日間を要する挫創を与えた。これに抗議するため同署の2階に上がった同弁護士の前にT巡査部長は再び立ちふさがり「こいつ訳のわからん奴だ、何べん言うたらわかるんや」とさけぶなり、同弁護士の胸を突いて階段まで押し返えし、なおも体を突いて階段のおどり場まで押し倒した。
  3. 昭和40年4月18日「ベトナム侵略反対」等をスローガンとしたデモ行進が行われたが、岡田啓資弁護士(東弁)は同日午後、証拠保全の必要から国会付近においてデモ隊列に対し不当に規制している警官及びこれの指揮にあたっている私服警官らしい男1名を認め、約20メートル位の距離からその男を撮影した。するとこれに気付いたその男は同弁護士のところへ走り寄り「写真を撮ったな、写真機を出せ、フィルムをよこせ」とさけびながら同弁護士の右腕をつかんだ、同時に付近にいた制服警官4、5名が周りを囲んだ。警官らは写真機を奪おうと両腕をつかんだが、そのうちの1人は岡田弁護士の眼鏡を路上に飛ばし、レンズを砕いた。彼等は「デモ隊が来ないうちに……」といって付近の装甲車のかげに同弁護士を連行し、そこで両肩や胸を強く押したり突いたりした。さらに弁護士バッジをとりはずして裏の番号をメモし、結局写真機を同弁護士から奪い取り、フィルムを抜き出して感光させた。