交通事故による人身殺傷について対策の件(宣言)

交通事故による人身の殺傷は文明への反逆であるが、近時益々これが悪化の傾向を辿り、その事故の型態と被害とは、天災地変若しくは戦争の場合にも劣らず、人権の侵害これより甚だしきはない。殊に自動車事故による悲惨なる被害の激増が、日常生活の一大脅威となっている事実を深く考慮して、われわれは速かに、事故の絶滅を計るとともに被害者の救済についても施策の万全を期す。


昭和37年10月20日
於京都市、第5回人権擁護大会


理由

最近の三河島列車転覆事件、南部線の電車転覆事件その他海陸空におよぶ交通事故は全国到るところに続発し、貴重なる国民の生命を奪い、身体を傷けあるいは建物その他の財産にさえ莫大なる損害を蒙らしめ、われわれは意を安んじて公道を通行し、交通機関を利用できない実情にある。


国民の生命、自由及び幸福の追及について、憲法第13条は最大の尊重を保障しているにも拘らず、叙上の現状は正にその趣旨に反する甚だしきものと言わねばならない。


宜しく当局は、道路駐車場の拡充整備、運転免許制度の強化、歩行者の通行訓練、その他交通規則の改正、罰則の強化等に特段の意を用い、事故発生の防止に最善の努力を尽すと共に、被害者に対しては十分にその損害を賠償するよう、自動車損害責任保険額増加の施策をも改善すべきである。


しかしながら交通事件について徒らに即決を急ぐのあまり、加害者の弁解を聴かず被害者の過失を顧みることなく、検察、裁判をなすことは、これまた時に人権軽視の結果を生むこととなるをもって、検察官裁判官いずれも被告人の希望を聴き、弁護人を附せしめ、裁判の妥当を期せられんことをも併せて望むものである。