平和と人命尊重の気風高揚の件(宣言)

米ソその他の核実験再開は、全人類を破滅に導く重大問題である。


一方、国内においても、殺伐なる事件の頻発をみる等、人命軽視の風潮が深刻にあらわれていることは、まことに憂慮に堪えない。


われわれは、平和を愛し、人命尊重の気風を高揚するため、最善の努力を傾注することを誓う。


昭和36年9月23日
於仙台市、第4回人権擁護大会


理由

去る8月30日ソ連政府は核実験の再開を声明すると、9月1日より7回の実験を実施したのに対し、米国もこれに対抗して核実験再開の命令を下し、ネバタの実験所に24個の実験用爆弾を用意していると伝えられている。1958年10月以来ジュネーブで開催されていた米英ソ3国の34ヶ月338回に及ぶ核実験停止会議も9月9日遂に無期延期となり茲に破局的な事態に当面することとなった。


わが日本列島は、東からも西からもこれらの死の灰が吹き溜る谷間となっており、これまでも核爆発の放射能塵が襲来していたことはご承知のとおりである。世界唯一の原爆被災国である日本国民は、恐怖と絶望の体験から平和の宣言を憲法に掲げ、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。


核実験の再開は、核戦争のぼっ発する危険性をも内蔵する。われらは永久平和主義と人権尊重主義の立場から、核実験再開の非人道行為の反省と撤回を関係国に対し強く要望する。


また一方、国内においては、日々の新聞紙上に見ても、暴行傷害、殺人、交通事故等による人命殺傷の記事が後を断たないばかりか漸増の傾向にある。もとより個々の事件について見れば、その各々には特殊な事情はあるであろう。けれどもこの事実は、一般世相に人命軽視の風潮がび漫している大きな現われと見ねばならない。しかも他面映画、テレビの娯楽番組には、殺人をテーマーとするものが多く、更に玩具店頭には銃砲、刀剣等の殺人凶器の玩具が時を得顔に陳列され、この風潮に油を注いでいる状況であり、まことに憂慮に堪えないとともに人命尊重の気風を喚起して止まない。


現下内外の様相に対し、われわれは以上の宣言を提案するものである。