精神病の診察には誠実慎重を期待するの件(決議)

世上、財産の争奪、地位の追放、名誉の失墜等をくわだて、敢えて精神病に名を藉り強制入院の手段に訴えんとする例、必ずしも少しとしない。


都道府県知事並びに精神病院の長、又は精神衛生鑑定医は、その取扱いに当り、深甚なる注意と誠実なる診察を行い、いやしくもこれがため国民の基本的人権の侵犯せらるることなきよう要望する。


1958年(昭和33年)4月12日
於甲府市、人権委員会春季総会


理由

都道府県知事は、精神衛生鑑定医の診察により精神障害者にして、自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたるときは、強制入院をせしむる権能を有するものであり、精神病院の長は保護義務者の同意がある時は、強制入院をせしむることができるものであるが、右鑑定医の誤診、過診等がある場合又は精神障害の程度の認定を誤りたる場合においては入院者の基本的人権は不当に侵害せられるのである。


世上、財産の争奪、地位の追放、名誉の失墜を企てるために右強制入院制度を悪用する場合絶無とは言い難いのみならず、日本弁護士連合会人権擁護委員会に対し精神病院に入院せる者より、その入院処置の不当を訴え、救済を求め来たる者近来頻々たる有様であり、調査事件の中にはその措置に疑わしい事案もないとしない。


若し誤って精神病院に監置せられる場合においては、恰も無実にして刑務所に繋がれし者と何等選ぶ事なき人権侵害を蒙る事になるから、当局者の深甚なる注意を喚起する所以である。